ヒーローになる時 9話
兵士の案内で会議室に着くと、もうみんな揃っていた。
俺が席に着くと執事が話し始めた。
「では、始めます。みなさまにお話しした通り、明日早朝、我が軍は包囲している敵に攻勢をかけます。こちらをご覧ください」
執事はテーブルの上を指した。
テーブルの上には石がいくつかのっかっていた。
「ここが城門、内門ですね。堀の上に橋があってここが外門です。敵軍は外門の前に主力部隊3000人を配置しています。残り2000人で城をグルッと囲んでいます」
みんな真剣な顔で聞いている。
あっちゃんの表情がかなり硬い、頬がピクピクと動いている。
ダイドウが口を開いた。
「戦力比は? 執事!」
「わが方3500。敵5000強、力の強い獣人も含まれています」
「こちらが不利だな!」
「数の上では不利でございます」
「うーむ」
なんだ?
まさかダイドウ、自分が大将って勘違いしてないか?
やーまずいな、流れを変えよう。
「こちらが有利な点はないですか?」
「2点ございます、ソウマ様。高い城壁の上から攻撃出来る事と魔法使いです」
「高い城壁はわかりますが、魔法使いと言うのは?」
「南の国は、魔法使いが少ない地域です」
「では、こちらの方が魔法使いの数が多い訳ですか?」
「おそらく。それとこちらには、広範囲を攻撃出来る魔法フラッシュオーバーが使える上級魔法使いが3人おります」
「質でも上回ると?」
「はい、ソウマ様」
急にダイドウが立ち上がった。
「よーし! 勝ったな!」
「……」
「……」
「……」
「し、執事さん、その辺はどうなんでしょう?」
「そ、そうでございますね。勝機は多いにあるかと」
「よし! 作戦を説明しろ!」
もう、ダイドウはいいや。
ほっとこう。
「流れはこうです。
1 相手の魔法使いを魔力切れにする。
2 敵兵を囮で引付け、挟み撃ちにする。
3 騎馬隊で分断する
4 フラッシュオーバーで殲滅する。
以上です」
簡単に言うな……。
そんなにうまく行くのか?
「魔法使いは、ファイヤーボール隊、ファイヤー隊、フラッシュオーバー隊の3隊に分けます」
あっちゃんが質問する。
声が硬い。
「使える魔法で分ける感じですか?」
「はい。全員がフラッシュオーバーやファイヤーボールを使えるわけではございませんので」
「わかりました」
執事は左右を見回して、質問がない事を確認してから話を進めた。
「まず第一段階。外門左右に展開する敵部隊に、城壁上から堀越えでファイヤーボールを撃ちます。このファイヤーボール隊にはアツシ様に入っていただきます」
あっちゃんはファイヤーボール隊か、城壁の上なら安全とまではいかなくても、最前線ほど危険はないだろう。
あっちゃんもその辺がわかったみたいで、少し落ち着いた表情になった。
「おそらく敵の魔法使いが魔法で防御するでしょう。敵に防御されても気にせずファイヤーボールを、撃ち続けてください。敵の魔法使いの魔力を防御で使い果たさせるのです」
なるほど。
この前、俺との組手で執事さんがやった様に、敵さんはこちらのファイヤーボールを水系の魔法で防御する訳だ。
でも、あえて防御させて、あちらの魔法使いの魔力切れを狙うと。
「第二段階。内門を開いて、ファイヤー部隊が橋の上に出ます。外門は閉じたままです。この部隊は橋の上から、城門左右に展開する敵部隊に、ファイヤーで攻撃します。この部隊には、ダイドウ様、ヒロユキ様、イノグチ様に入っていただきます」
井ノ口さんはファイヤーボールをマスター出来なかったのか。
ここは敵との距離が近くなるから危険度が増す。
「ファイヤー部隊は囮です。敵は橋上にいる距離が近いファイヤー部隊に、弓隊で攻撃をするでしょう。獣人が飛び込んでくる可能性もあります」
ダイドウとヒロユキは、真っ青な顔をしている。
無理ないな。
「この部隊は危険度が高いですので、盾役にはベテランの兵士を配置しました。また攻撃力の高い精鋭歩兵を入れましたので、獣人が飛び込んで来たら、精鋭歩兵が対応します」
ダイドウが珍しく気弱な声を出した。
「このファイヤー部隊はいらないんじゃないか?」
執事が冷静に答える。
「城壁からの単純な攻撃では、敵は安全な距離をとって包囲を続けてしまいます。敵を引き付けるために橋上の囮が必要なのです」
執事と目が合った井ノ口さんが、コクリとうなずいた。
井ノ口さん気合が入ってる。
「そして挟み撃ち。橋の上にファイヤー部隊が出たら、城壁上のファイヤーボール隊は、外門左右の敵にファイヤーボールを打ち込み、ファイヤー部隊と挟み撃ちにします」
なるほど、攻撃がクロスする様にするのか。
敵は、正面からファイヤーボール、斜め前から橋からのファイヤー、両方の攻撃を受ける事になる。
「敵も橋上の囮を攻撃する為に、外門の左右に兵力を振り向けるでしょう。すると外門前の敵が薄くなります。そこで第三段階。外門を開けて、城内から騎馬を中心とした部隊が、外門の敵兵部隊の薄くなった中央に突撃して左右に分断します」
なるほど。
「第四段階。左側の部隊は突撃部隊が背後に回り込み反包囲します。右の分断した敵部隊を、フラッシュオーバーで攻撃します。右が終われば左です。フラッシュオーバー部隊には、ソウマ様に入っていただきます」
ここで俺か。
分断された敵右部隊をフラッシュオーバーで面攻撃だな。
「ソウマ様はフラッシュオーバーを撃つまで力を貯めておいてください。フラッシュオーバーを撃つ時は、躊躇なく、最大範囲を最大火力でお願いします」
躊躇なく、か。
あっちゃんのファイヤーボール隊は牽制の意味合いが大きい。
だから敵を殺さなくても、天幕を焼くとかでも効果がある。
けど、俺のフラッシュオーバーは、決めの一手だから外せない。
フラッシュオーバーが外れたら、外に出た突撃部隊や橋の上のファイヤー部隊が全滅しかねない。
一撃必殺のつもりで、ほんとに躊躇なく、フラッシュオーバーを撃たなきゃならない。
「フラッシュオーバー隊は3人しかおりませんので、声を掛け合いながら延焼範囲が、かぶらない様にします。正面の敵は3000人、フラッシュオーバーを何発も撃つ必要があります」
執事が目で問いかけてきた。
(出来ますか?)
つまり、敵を殺せますか? と、目で聞いてきた。
ブルッっと身震いした。
俺はコクリとうなずいた。
「では、明日、異人のみなさまのご活躍を期待いたします」
執事の言葉で、会議は終了した。
その後、武器庫に向かい、革鎧など防具を受け取って、部屋に戻った。
晩御飯の支度が出来ていた。
晩御飯は、倍の量のステーキとパンと野菜スープだった。
ワインもあったが、俺は飲む気になれなかった。
三人ともなかなか話さない。
あっちゃんが口を開いた。
「ソウマさん、フラッシュオーバーって、どんな魔法何ですか?」
「フラッシュオーバーは、面攻撃の火炎魔法だよ。一定の範囲に火炎を発生させて、敵を焼き殺す」
俺は覚悟を決める為に、あえて、殺す、という言葉を使った。
「それってどの位の広さを燃やせるんですか?」
「今日の練習では10メートル四方は出来たよ。フルパワーならテニスコート1面分くらいはいけると思う」
俺は少し話を盛って答えた。
さすがにテニスコート1面はキツイと思う。
けど、これを聞いて少しでも2人が安心してくれれば良い。
「そんなに広い範囲ですか!」
「うん、まあ、やれると思う」
「さすがヒーロー研究会ですね!」
「このタイミングでそれ言う?」
俺とあっちゃんは、笑った。
少し気持ちがほぐれた。
井ノ口さんが、つぶやいた。
「明日は私がヒーローになるよ」
俺とあっちゃんは、目を見合わせた。
ちょっと心配だな。気合入り過ぎじゃ?
「井ノ口さん、ファイヤー部隊はリスク高そうだから、気を付けてください。俺とあっちゃんは、城壁の上だけど、井ノ口さんは敵に近い橋の上ですから」
腹に響く様な声で、井ノ口さんが答えた。
「望むところだよ」
「マジで大丈夫ですか?」
「大丈夫。前にアツシ君には話したんだけどね。私は前の世界じゃ、あまり目立たない人間だったんだよ。けど、こっちの世界に来て変わった。期待されてるんだ!」
「……」
「明日活躍すれば、貴族とか、大臣とか、なれるかもしれない。お金も沢山もらえるだろうし、家族も新しく作れる。どうせもう戻れないんだ。精一杯やるよ」
「……そうですね。みんなでヒーローになりましょう」
「ああ、勝って若い嫁さんもらうよ」
井ノ口さんのらしくない冗談に三人で笑った。
「今日は一人づつ風呂沸かしますよ。少し時間食ってもいいでしょ?」
明日は初陣だ。
新しい湯で身を清めたい。
水を張るのに時間がかかるだろけど、それでも三人とも新しい湯に入れる様にしたい。
「ソウマ君いいの? 魔力使っちゃうでしょ?」
「大丈夫ですよ。寝たら回復しますよ」
「そっか、それじゃお言葉に甘えるとするよ」
「ソウマさんありがとうございます。僕もお言葉に甘えます」
「おう! 明日はあっちゃんが、攻撃の一発目だね」
「いやー、プレッシャーかけないでください」
「大丈夫、きっとうまく行きますよ。アツシ君、今日の練習でもうまく行ったじゃないですか」
俺は風呂場に向かった。
2018/6/14 字下げ句点等を修正しました。
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