えっ?明日戦うんですか? 8話
主人公視点に戻ります。
俺は訓練場の椅子に座って休んでいる。
水を飲みながら、真っ黒に焼け焦げた地面を眺めている。
今日はこの世界に来て3日目だが、なにか今日は雰囲気が違う。
今朝は昨日と同じ様に起き、同じ様に朝食を食べ、同じ様に兵士に案内をされて訓練場に来た。
昨日と同じ様にあっちゃん達とは別メニューだ。
執事が落ち着かない様子で、今日マスターして欲しい魔法を見せるので、後は一人で訓練して欲しい、と告げて来た。
さくっと魔法を見せてどこかへ行ってしまった。
新魔法はフラッシュオーバー、火炎系の上級魔法だそうだ。
広い範囲に火炎を発生させて、一定範囲の敵を焼き殺す魔法だ。
新魔法フラッシュオーバーの練習をしては、休んでを繰り返しているとお昼になった。
昼食は兵士がサンドイッチを運んできてくれたので、訓練場で済ませた。
適当に休んで午後も新魔法フラッシュオーバーの練習をして、そして今また小休止している。
執事が全然顔を出さないのもおかしいし、ギャラリーもほとんどいない。
新魔法フラッシュオーバーは問題なく使える様になった。
最初は足ふきマット位の広さから初めて、だんだん燃焼範囲を広げていった。
次に遠い位置を燃焼させ、そして遠い位置で広い範囲を燃焼できる様になった。
問題としては、フラッシュオーバーは魔力を結構使うみたいで、数回この魔法を使うと軽い疲労を感じてしまう。
なので、今日は魔力切れに気を付けながら、ちょこちょこ休みながら練習をしていた。
「ソウマ様、いかがですか?」
やっと執事がやってきた。
大きい盾を持った兵士を連れている。
「新魔法の方はバッチリですよ」
「それは何よりです!」
なんか執事の声が硬い。何かあったのだろうか?
「ただ、フラッシュオーバーは魔力を沢山使うみたいで、疲れやすいですね。休み休み練習してました」
執事はフムフムとうなずいた。
「ソウマ様、この者はクロードと申します。明日の戦いでソウマ様の盾役を務めます」
えっ!? 明日の戦い?
「明日戦うんですか? 城外の包囲している敵と ?南の国と?」
「そうです」
「どうしたんですか? 急ですね」
「はい。急遽戦う事となりました」
ちょっと混乱した。
「食料がなくなったのですか?」
「いえ、食料はまだあります」
「では、援軍が着いたとか?」
「……」
「援軍が来たんですね?」
「そこは、なんとも……」
ん? どういう事なんだ?
執事は話しづらそうな顔をしている。
「執事さん、明日は命がけで俺も戦う事になりますよね。ですから、可能な範囲で構わないので、事情を教えていただけませんか?」
「わかりました。他の方には、話さないでください。ソウマ様、こちらへ」
執事と少し歩いて、兵士クロードから離れた。
「実は一万の軍勢が近くにおります」
「一万! あ! 北東に騎馬団討伐へ向かった軍が引き返して来たんですね」
「そうです。ここから一日の距離にいます」
「良かったじゃないですか! これで城の内外から挟み撃ち出来ますね」
執事が眉根を寄せた。
「ところが、その一万の遠征軍が動かないのです」
「?」
「野営をして動く気配がないのです」
なんでだ?
城外の包囲軍は、5000人。
こちらは一万人の遠征軍と3500人の城内兵。
挟み撃ちにすれば、勝てそうなもんだ。
倍以上の兵力差があるのだし。
「実は遠征軍総指揮官のナバール卿が問題なのです」
「というと?」
「今、エクスピア王国では、国王派とナバール卿派で対立がございます」
「でも、王都がピンチの今は、派閥争いは関係ないですよね?」
「いえ。今回の状況もナバール卿の仕掛けと考えれば合点がいきます。ナバール卿は南の国と奴隷貿易を行っていて強い影響力を持っています」
「すると、ナバール卿がそそのかして南の国の軍が攻めてきたと?」
「それどころか、手引をしたのでしょう」
執事はとんでもない事を言い出した。
それって裏切り行為だよね?
俺が絶句していると、執事が話を続けた。
「南の国から王都まで、どんなに急いでも半月かかります。その間、王都に危急を告げる知らせがなかったのが不自然です。しかし、西海岸を抑えているナバール卿が、海路を使って、西海岸から包囲軍を移動させ王都まで誘導したなら……」
「なるほど、誰にも気が付かれずに王都を奇襲できますね」
「はい。ナバール卿の狙いは、王都を南の国に奇襲させて、国王陛下を亡き者にするつもりだったのでしょう」
ひどいな、ナバール卿。
派閥争いでそこまでやるんだ。
執事は、ため息をついた。
「幸い早くに城門を閉めましたので、それは防げました」
「しかし、ナバール卿は、本当に……、その有罪と言うか、間違いないのですか?」
「間違いないでしょう。だいたい北東地域に向かった遠征軍が、こうも早く引き返して来たのも不自然過ぎます」
そうか、状況証拠だけではあるけれど、クロって事で間違いないか……。
「ナバール卿としては、次は南の国と一緒に王都を攻撃して、正面から国王陛下を殺害するつもりでしょう」
「それはさすがに無理じゃないですか? 遠征軍には国王派の人もいるのでしょう?」
「います。が、このまま王都と南の国がにらみ合いをしている間に、調略されてしまうかもしれません」
調略って、あれだ。
戦国時代に秀吉とか信長とかがやった、敵方を寝返らせるやつだな。
金とかで国王派からナバール卿派に鞍替え、って訳だ。
「時間が経てば経つほど、危険度が増す訳ですね……」
「左様でございます」
確かにな。
そこまでいかなくても、南の国に王都を落させて、ナバール卿が王都を奪還してヒーローになる。なんて筋書きもありそうだよな。
どっちにしろ、俺は殺されてしまうわけか。
「ナバール卿は国王陛下に、敬愛の情とか、愛着とか、そういう気持ちはないんですかね?」
執事が、またため息をつきながら答えた。
「国王陛下は、元々王位継承順位6位だったのです」
「6位? 継承順位低いですよね? 1位から5位の人はどうしたんですか?」
「お亡くなりになられました」
「それってまさか……」
「病死や戦死ですが、不信な点は多々あります」
「暗殺!? そこまでやりますか!」
「はい。なにせ王位継承権7位の姫がナバール卿の甥の婚約者でしたから」
あー、なるほど。
その姫様が王位を継げば、自分の甥が女王様の旦那さん。
そしてその子、ナバール家の血を引く子供が王様になり、ナバール王朝の誕生ってわけだ。
あれ? しかし?
「6位だった国王陛下は良くご無事でしたね」
「暗殺者は全て私が始末いたしました」
執事怖い。
さすが。
「そうか、執事さんは、国王陛下の執事さんだったんですね」
「はい、陛下がご幼少の頃からおそばに仕えさせていただいております。王宮には侍従がおりますので、身の回りのお世話は侍従がしておりまが、今も陛下のご命令でお仕事をさせていただいております」
なるほどな。
そういう事情があったんだ。
今の国王陛下はナバール卿の一族のライバルだったわけね。
「そういった事情がありましたので、ナバール卿を遠征軍の指揮官にして外へ出し、王都に国王陛下が残る体制にしたのですが……。どうやら、裏目に出ました」
うーん。裏目か。
何か逆転の可能性はないのかな?
正面から戦うのでなく、なにか謀略的な……。
「あ! そうだ! そのナバール卿の甥の婚約者、継承権7位の姫様を人質にするってのはどうですか?」
「その策はとれません」
「あー、まー、ダメですよね。王族の、それも女性を人質にするなんて」
「いえ、そうではありません。その姫様は昨年お亡くなりになりました」
「それ……、まさか執事さんが?」
「いえ、違います。さすがに王族に手をかけることは出来ません。ナバール卿の甥のロングビル子爵は素行に問題のある方で、姫様はそれを苦に自殺をなさいました」
「素行ですか?」
「まあ、ちょっと……、口にするのをはばかる様な事です」
「ああ、わかりました」
どうせ女癖が悪いとか、そんな事だろう。
戦う他に手はないのか……。
「そうすると、自力で城外の包囲軍を打ち破り、遠征軍全てがナバール卿に調略される前に、遠征軍を王都に迎え入れる……。という事ですか?」
「左様でございます」
「……わかりました。やりましょう!」
まあ、どうせ戦わなければならない訳だし。
このまま籠城していたら、どうなるにせよ生き残る確率は低そうだ。
それなら国王さんに協力して事態を打開するしかない。
「そこで、今日の残りの時間は、盾役のクロードと実戦での動きの確認をして下さい。その後、異人の皆様に明日の戦いでの配置や作戦のご説明をいたします」
執事は、クロードを呼んで、早足でどこかへ行った
準備で忙しいんだろう。
俺はクロードと打ち合わせた。
クロードはがっしりした体格の男で、実戦経験があって、頼りになりそうだ。
昨日の俺と執事さんの組手も見ていて、俺の事を気に入ってくれたらしい。
体を張って守ると約束してくれた。
頼もしい。
「城外の敵への遠距離攻撃ですから、シンプルな連携で行きましょう」
なるほど、時間もないしクロードの言う通りで良いだろう。
クロードがしゃがんで大盾を持って踏ん張る。
俺はその後ろに隠れて、ひょいと体を出しては魔法を撃つ。
撃ったら大盾とクロードの後ろに隠れる。
何回か繰り返していると兵士が呼びに来た。
「軍議が始まります!」
2018/6/14 字下げ句点等を修正しました。
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