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異世界召喚 魔法と剣の国エクスピア  作者: 武蔵野純平
北部遠征(第四章)
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家宝はマジックアイテム(71話)

 辺境地ベルガエでのモンスター討伐は終了した。


 ワイバーン討伐後、颯真そうま達は城壁の外の森へ向かった。

 延焼する森を水魔法で消火し、ヴァン・ダイク辺境伯の兵達と残党狩りを行い、ベルガエ周辺の安全を二日で確保した。


「いやー! ホントにありがとうな!」


 城の執務室で、ヴァン・ダイク辺境伯は颯真そうま達に頭を下げた。

 執務室には、颯真そうまあつし、家令のアルフレッド、執事が招かれ、大きなテーブルに座っていた。


 戦後処理の打ち合わせである。


「それでだな……。頼みが三つあるんだが良いか?」


 颯真そうまは、魔力も回復して体調は悪くなかった。

 ヴァン・ダイク辺境伯に笑顔を返した。


「伺いましょう」


「まず、捕らえたバートリー子爵の身柄をもらい受けたい」


「王都に連れ帰ろうと思ったのですが……」


 颯真そうまは、この一連の魔物騒動の主犯であるバートリー子爵を王都に連れ帰り、きちんと取り調べて裁きを受けさせるつもりでいた。


颯真そうま伯爵の立場は分かる。だが、ここの地元住民の気持ちも考えてくれ。森に魔物が大量にあふれた為に、家族や友人が殺されたんだ」


「……ここベルガエで犯人のバートリー子爵を処刑すると?」


「ああ、そうしなきゃ、収まらねえよ……」


 颯真そうまはバートリー子爵を捕まえ、城に連れて来た時の事を思い出した。

 怒り興奮した地元兵士が殺到し、暴動寸前になった。


 魔法使いのクリスチーナが、水魔法で兵士達に大量の水をかけ、ヴァン・ダイク辺境伯が直接兵士を説得して、なんとか暴動にならずに済んだ。

 王都にバートリー子爵を連れて行くと知れたら、また大騒ぎになる事は目に見えていた。


「わかりました。俺は構いませんが。王国側としては?」


 颯真そうまは執事に確認した。

 執事は顎を手でさすり、少し考えてから答えた。


「そうですね……。生き証人としての価値もありますが……。王都にバートリー子爵を連れて帰るのは、ベルガエの住民が許さないでしょう」


「良いのですか?」


「止むを得ないでしょう。私も無事に王都に帰りたいです。暴徒となったベルガエの住民と戦うのはごめんです。それに、一連の騒動ではベルガエの被害が一番多いですし」


「そうですね。それでは、バートリー子爵の身柄はお渡しいたします」


「そうか! ありがてえ! これで区切りが付けられる」


 ヴァン・ダイク辺境伯は、パッと明るい笑顔になった。

 ベルガエ住民の恨みは深い。


 それをわかっているヴァン・ダイク辺境伯は、かなりプレッシャーを感じていた。

 バートリー子爵を公開処刑すれば住民も和らぐ。


「それで二つ目は?」


「二つ目なんだが、魔物の素材だ」


「魔物の素材?」


「ああ、ここでは魔物の毛皮や爪なんかを利用するんだ」


「コートとか、武器とかですか?」


「そうだ。地元の職人や商人が売ってくれって言っててな。そこで、魔物の素材を売った金を山分けにしてもらえないか?」


「ワイバーンもですか? あれはバラして国王陛下に献上しようと思ってるんですが……」


「あれが一番値が付くんだよ! ワイバーンの素材何てなかなか出回らないからな。エルフの里にも輸出出来る!」


「アルフレッド、どう思う?」


「売ってしまえ、あるじよ。我らも遠征の費用捻出で懐具合が悪い。ヴァン・ダイク辺境伯も色々と物入りであろうし……」


 颯真そうまは、森を燃やしてしまった事を申し訳なく思っていた。

 魔物を討伐する為、仕方のない事ではあったが、かなりの広範囲で燃やしてしまった。森は木材になる経済資源だ。

 その事があったので、この件も譲る事にした。


「わかりました。魔物素材の売り上げを半々にするという事で良いです」


「お! そうか! 助かるよ!」


「それで三つめは?」


 ヴァン・ダイク辺境伯は、言いずらそうにしていた。


「う、うん……。そのー、お礼の事なんだが、金がなくてな……。金は出せないんだ」


 颯真そうまは腕を組んで考えた。

 颯真そうま自身としては、国から命じられた仕事をしただけなので、ヴァン・ダイク辺境伯から金を貰わなくてもかまわない。


 しかし、遠征団の費用を立て替えたりしているので、颯真そうま伯爵家の懐具合はかなり厳しいらしい。

 家計を管理している家令のアルフレッドが渋い顔をしている。


「アルフレッド、どうだ?」


「うーん、こういった事をした際に礼をしなくてはならぬ決まりはない。しかし、貴族の礼儀とか付き合いとして、礼を渡す物なのだが……」


「いや、家令殿のおっしゃる通りだ。わかるよ。ただな。ベルガエの経済もメチャクチャなんだよ!」


「辺境伯様、それなら先程の魔物の素材を売った金を、全て当家で受け取れないか?」


「いやー、ウチも厳しいんだよ。この騒動で臨時雇いした兵士の給金、近隣領地から応援に来てくれた兵士への支払い……」


「近隣には支払って、当家には礼をしてくださらぬのか?!」


「いや、そうじゃない。そうじゃないけよ。ウチは金がないんだが、代わりに物で礼をさせて欲しいんだ」


「物?」


 ヴァン・ダイク辺境伯は、立ち上がると執務机に駆け寄った。

 引き出しから30センチ四方の木箱を取り出すと、うやうやしく両手で持ってテーブルに運んで来た。


「これは、四代前の当主、俺のひい爺さんがエルフの王族を助けてな。エルフの王族から贈られた物だ。ウチの家宝だ」


 重々しい声で颯真そうま達に告げると、木箱をテーブルに置いた。

 木箱は妖精をモチーフにした絵が美しく彫り上げられていた。

 木箱を颯真そうま達の方へ寄せ、ゆっくりと蓋を開けた。


「あ!」

「あ!」


 颯真そうまあつしが声を上げた。

 木箱の中はワインレッドのラシャ張りになっていて、三つの銀色のペンダントと六枚の銀色の小さなカードが入っていた。


 王都にあるエルフの道具屋で見た魔力を高めるミスリルのペンダント。

 小さなカードはマジックカードで、ペンダントのスロットに差し込めば、そのカードに書いてある魔法が使える。


 ヴァン・ダイク辺境伯は二人の反応を見てニヤリと小さく笑った。


颯真そうま伯爵は、これが何だか知っているのか?」


「ええ。守護石を入れるペンダントですね。俺はクリスタルの守護石を持ってます」


「ほう! 守護石持ちとはさすがだな! あつし子爵はお持ちかな?」


「ええ、先日僕も枕元にクルスタルがありました。守護石持ちです」


「なら、こいつの価値はわかるだろう?」


 颯真そうまはペンダントをジッと見て考えた。


(確かこのペンダントは、金貨十枚だった。ペンダント三つなら金貨三十枚分。マジックカードに刻印された魔法によっては、それ以上の価値がある……)


 颯真そうまの様子を見てヴァン・ダイク辺境伯は、心の中で勝ち誇った。

 実はヴァン・ダイク辺境伯は、このペンダントが何なのかわかってなかった。


 颯真そうま達に支払う金はない。

 何か代わりになりそうな物はないかと使用人に探させた所、倉庫の奥でホコリをかぶっていたのがこの木箱だ。


 どうやら守護石を入れる物らしいが、辺境のベルガエには守護石持ちなどいない。

 なら、ここで決めなければ! ヴァン・ダイク辺境伯は、芝居気たっぷりの口調で颯真そうまに告げた。


「これは……、我が家に伝わる大切な家宝……。エルフと当家をつなぐ証……。だが! ベルガエを救ってくれた颯真そうま伯爵になら! この家宝を謹んでお譲りいたそう!」


「ありがとうございます。ありがたく頂戴します」


 颯真そうまは一礼してヴァン・ダイク辺境伯の申し出を受けた。

 執事と家令アルフレッドは驚いた。二人もこのペンダントが何なのかわかっていなかった。


あるじ! 家宝にケチをつけるわけではないが、その様な宝飾品では家計の足しにならんぞ!」


「アルフレッド、ウチの家計が厳しいのは知ってるよ。だが、辺境伯も色々物入りとさっき言ってたじゃないか」


「それは……、そうだが」


「なら、この家宝をありがたく頂戴しよう。ウチは歴史のない新興貴族だ。家宝を譲ってもらったとなれば、ハクも付くんじゃないか?」


「うううむ……」


 颯真そうまはわざとこのペンダントが何なのか触れなかった。

 ヴァン・ダイク辺境伯の気が変わらないうちに、このペンダントを貰ってカードが何か確かめたかった。


 一方のヴァン・ダイク辺境伯は、心の中で小躍りしていた。

 出費が一つ減ったし、家宝を譲ったとすれば、貴族としてのメンツも保てる。


「いや、そんなに喜んでもらえると、家宝を譲った甲斐があると言うものだ。颯真そうま伯爵、これからもよしなに」


 颯真そうまとヴァン・ダイク辺境伯は、固い握手を交わした。

 果たしてどちらが得をして、どちらが損をしたのか。


 こうして、ベルガエ戦後処理の話し合いは終わった。

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