表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界召喚 魔法と剣の国エクスピア  作者: 武蔵野純平
北部遠征(第四章)
61/75

ボリス対颯真(60話)

 ルル・ヴェルジー郊外の川にかかる橋の近くで、颯真そうまはコボルド残党の索敵隊の帰りを待っていた。

 コボルド集団の討伐後、遠征団は三日をかけて向こう岸の索敵を行った。


 その間、あつしはルル・ヴェルジーの街で無償の医療活動を行い、颯真そうまは川に魔法で橋をかけた。

 基礎工事がわりに魔法で作ったコンクリートの塊を川底に落とし、その上に橋脚をのせ、コンクリートの板を橋脚の上に乗せた。


 颯真そうまはシモン男爵に、重さで川底に橋が沈みこんでしまう可能性があるので、あくまでも仮設の橋と説明をしたが、シモン男爵は喜んだ。


 時間は三時を回った頃であろうか、続々と索敵隊が戻って来た。

 颯真そうまが橋を架けた事で、索敵隊は馬で広範囲の索敵を行える様になった。

 ルル・ヴェルジーからコボルドは一掃された様だ。


 颯真そうまにボリス隊が報告を行った。


「じゃあ、ボリス隊の担当エリアは問題なしだな?」


「ええ、伯爵様。住民にも聞き込みしましたが、コボルドは見ていません」


「うん。一安心だな。みんなご苦労様、ありが……」


 颯真そうまが礼を言い終わらないうちに、ボリス隊隊長のボリスが颯真そうまを斬りつけた。

 ボリスは腰の剣を抜いて、上から斬り下ろした。

 剣を抜いてから斬りつけるまでのアクションが長かったので、颯真そうまはボリスの一撃を後ろにステップバックして回避した。


 ボリス隊の隊員が颯真そうまとボリスの周りで両手を広げ他の隊員を下がらせながら大声を出し、その場を整理しだした。


「伯爵様とボリス隊長の試合だ!」

「みんな場所を空けろ! 試合だ!」


 颯真そうまは、周りの様子をうかがいながら、注意深くボリスに目を移した。

 ボリスは、左手に長さのある盾、右手に短か目の剣を装備している。

 腰を落とし、足を前後に開き、剣は真っ直ぐ颯真そうまに向かって構えられている。

 颯真そうまは一つゆっくりと呼吸をするとボリスに問いただした。


「……ボリス、これはどういうことだ?」


 颯真そうまはいきなりの一撃にかなりムッとしていた。

 ボリスは颯真そうまの気持ちなど、どこ吹く風と平然と答えた。


「伯爵様の力が見たいんですよ」


「この前、魔法を見せただろう?」


「魔法が凄いのは分かりました。剣の方はどうなんですか?」


 ボリスの目は真剣だった。

 颯真そうまはボリスの目を見て、どうやらこれがボリス流のコミュニケーションなのだな、と理解した。

 颯真そうまは刀を抜くと正眼に構えた。


「力のないリーダーは嫌って訳か?」


「命を預けますからね。ヘボの下はお断りです」


 颯真そうまとボリスはにらみ合った。


 そんな二人の様子を遠征団の面々が周りから見ていた。

 アルフレッドは腕を組んで目を見開き、かえでとリナは落ち着いた様子で、執事はニヤリと口元だけ笑っていた。

 アルフレッドが執事に話しかけた。


「どう思う?」


「うむ。颯真そうま様は魔法に目を奪われがちだが、闘気の量もなかなか……。それに剣の筋も良い」


「毎朝、奥方たちと訓練しておるしな」


 アルフレッドは、毎朝、かえでとリナにボコボコにされている颯真そうまを思い出していた。

 二人に打ちえられてはいるが、颯真そうまが急速に力を付けて来ている事を感じていた。

 アルフレッドはかえでとリナに話を向けた。


「奥方二人はどう思うのだ?」


 かえで颯真そうまとボリスから目をそらさず、前を向いたまま答えた。


颯真そうまに足りないのは、人と斬り合う経験です。基本的な型は持ってます」


「ほお、あるじはどこでそんな物を覚えたんだ?」


「前の世界らしいですね」


 リナがかえでの言葉を引き継いだ。


「なんとか研究会で訓練してたんだってぇ。颯真はぁ、スピードも付いて来たよぉ」


「ふむ、なら心配はいらぬか」


颯真そうまなら、大丈夫です」

「大丈夫だよぉ」


 アルフレッドは、じっと睨み合う颯真そうまとボリスに目を戻した。


 颯真そうまはボリスを観察していた。

 剣を交える前に可能なだけ戦う相手の情報を集める。かえでに朝稽古で教わった事を実践していた。


 ボリスは左手に長い盾を持ち、半身に構えている。

 颯真そうまから見るとボリスの盾が近くにあり、ボリスの体が遠く感じる。


 ボリスの右手に握られた剣は、やや短い。

 間合いは短いが、剣の小回りが効き、手数を多くする武器の選択と読み取れた。


(意外と堅実なんだよな……)


 颯真そうまはボリスを観察しながら、そんな事を考えた。

 ボリス隊の普段のラフな振舞いと今観察したボリスから読み取った情報のギャップに、颯真そうまは驚いていた。


 一方のボリスは、左手に盾を構えながらジリジリと颯真そうまとの間合いを詰めていた。

 颯真そうまの構えから、圧を感じていた。


(こりゃ単なる魔法使いじゃねえな……、油断出来ねえ……)



 ボリスが颯真そうまの間合に入った。


 颯真そうまは右にスライドする様に踏み込むと、ボリスの盾を持つ腕を斬り落としにかかった。

 ボリスは颯真そうまの方へ素早く体を向けると、盾を地面に置いて颯真そうまの斬撃に備えた。


 ボリスの行動で自分の斬り落としが、盾にはばまれる事を颯真そうまは一瞬で理解した。

 颯真そうまは、左足を前に踏み出しながら、振り上げた刀を軽く上に引き、今度はボリスの額に向けてもう一度刀を振り下ろした。


 腕から頭部へ上段からの連続技だ。


 ボリスは、地面に置いた長い盾にしゃがみ込む様に隠れて、颯真そうまの真上からの斬撃を防御した。


 攻撃の失敗を知った颯真は、踏み込んだ左足にグンと力を入れて踏ん張り、振り下ろした刀を手元に引いた。

 刀を引かなければ、ボリスがしゃがみ込んで消えた空間に刀を打ち下ろす事になり、颯真の体は隙だらけになってしまうからだ。


 攻撃の為踏み込んでいた颯真そうまの左ひざがボリスの盾に当たった。

 その瞬間ボリスが盾を地面から斜め上に振り上げた。


 アッパーカットの要領で振り上げられた盾の角が、間合いを詰めていた颯真そうまの顔面に迫った。

 颯真そうまは刀を体に引きつけ、後ろ足になった右足を横にずらしながら、体をボリスに対して真横にして盾の一撃を避けた。


(まったく、シュレと言い、ベテランは何でこうも盾の使い方が上手いかね……)


 ボリスの盾によるアッパーカットをギリギリでかわしながら、颯真そうまはボリスの盾の使い方を内心で称賛した。

 ボリスはボリスで颯真そうまの動きに感心していた。


(踏み込みが早いし、対応力もある。何より動きに迷いがねえ。いいじゃねえか!)


 ボリスが攻勢に転んじた。

 アッパーカット気味に打ち込んだ盾の勢いを利用して、体を前に進め、右手の剣を上から打ち下ろした。


 斬ると言うよりは、叩きつける打ち下ろしだ。

 当たれば骨が砕けて戦闘不能になる体重の乗った一撃が颯真そうまに迫まる。


 しかし、颯真そうまはこの一撃をかわした。


 後ろ足の右足を軸に右方向にクルッと回転しがら、左足を引いて後ろに下がる。

 同時に体をしゃがみ込ませながら、右腕一本で刀を下から上へとぎ払った。


 ボリスは颯真そうまの動きに対応出来なかった。


 颯真そうまの下から上への薙ぎ払いは、ボリスの右腕に食い込んだ。

 とっさにボリスは剣を手離して、腕の動きを止め、ダメージ軽減に努めた。

 ボリスの手放した剣が地面に転がり、ボリスの右腕から血が流れだした。


「そこまで! 勝負あり!」


 執事が宣言し、颯真そうまとボリスの勝負は終わった。

 ワッっとその場が盛り上がった。


 ボリスは右腕を抑えて、激痛に耐えていた。

 執事が手配をし、すぐに回復役が駆け込んだ。

 ボリスが痛みに顔をゆがめながら颯真そうまに話し出した。


「お強いですな。どこであんな技を?」


「前の世界で訓練してたんだ。腕は大丈夫か?」


「三分の一ばかりザックリいきましたが、回復役がいるので大丈夫です」


「そうか。なら良かった」


 颯真そうまはあっさりとした表情でうなずいた。

 だんだんと颯真そうまはエクスピアのこういった乱暴な流儀に慣れて来ていて、剣での勝負をいどまれたり相手に怪我をさせても、動揺しなくなっていた。


 颯真そうまは自分なりにボリスに対して礼を尽くして戦ったつもりで、自分の気持ちが伝わっていると良いと考えていた。

 アルフレッドがその長身から見下ろす様に、颯真そうまに問いかけた。


あるじよ。それでこの始末はどうする?」


「始末とは?」


「勝負は勝負で良いが、あるじは伯爵である。兵士が斬りかかったのであるから、何らかの処分をせねばならんぞ」


「……」


あるじよ! どうする?」


 これもアルフレッドの愛の鞭だなと思い颯真そうまは苦笑いした。

 アルフレッドなりに、颯真そうまに当主としての振舞い方を教え、颯真そうまを鍛えているつもりなのだ。


 辺りはシンとして、颯真そうまの言葉を待っていた。

 颯真そうまはゆっくりと落ち着いて話し出した。


「そうだな……。今夜はシモン男爵が呼んだワイン商人が宿に来ているんだ。ワインの試飲をして、その場で俺が買い上げるんだが、兵士も参加出来る」


 兵士達が嬉しそうにいた。


「罰としてボリス隊は、試飲会の警備……。ってとこでどうだ? アルフレッド?」


 アルフレッドはあごを手でさすりながら、しばらく考えてから答えた。


「まあ、あるじが良いならそれで良かろう」


 兵士長のクロードが大きな声で遠征団員に告げた。


「では、ボリス隊はワインの試飲なし! 今夜は宿の警備だ!」



 ******



 シモン男爵が手配してくれたワイン商人達によるワインの試飲会は、なかなか良い会になっていた。

 宿の食堂のテーブルにワインの瓶や小さな樽が並び、団員たちが次々にワインを試飲していった。


 参加した商人は二十人以上になり、ルル・ヴェルジーだけでなく、ブルグンド地方の様々なワインが楽しめた。

 颯真そうまは白ワインをかえでと二人で試飲していた。


「白も良いね! 夏場は冷やして飲めるからな」


「はい、キリッとしていて良いですね。颯真そうまは白の方が好き?」


「白も赤もどっちも好きだね。これは三樽くらい買っておこう」


 商人が嬉しそうに話しかけて来た。


「ありがとうございます。伯爵様は次はどちらの街へ?」


「次は北西の城塞じょうさい都市ケノワだ」


「あ……」


 城塞じょうさい都市ケノワの名前を聞いた商人が口ごもった。

 厳しい表情に変わった。


「何だ? ケノワに何かあったのか?」


 颯真そうまは商人に問いただした。

 かえでも何事かと怪訝けげんそうな顔で商人をジッと見ている。

 商人は颯真そうまかえでに、とんでもない事を告げた。


城塞じょうさい都市ケノワに、ドラゴンが出たそうです」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

★☆★ランキング参加中です!★☆★

クリック応援よろしくお願いします。

小説家になろう 勝手にランキング

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ