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異世界召喚 魔法と剣の国エクスピア  作者: 武蔵野純平
北部遠征(第四章)
56/75

颯真伯爵と脳筋武闘派集団(55話)

 バートリー子爵は、エクスピア北部の美しい山並みを眼下に見ていた。

 上機嫌で自分のまたがるワイバーンに声を掛けた。


「カトリーヌ! 今日は天気が良くて絶好の飛翔日和ひしょうびよりだね!」


 カトリーヌと呼ばれたワイバーンは、機嫌良さげに一声鳴いた。

 その鳴き声に、ワイバーンの翼下の森に住む動物達は怖れおののいた。


「そうか、カトリーヌ。お前も機嫌が良いのだね。ヨシヨシ」


 バートリーは、ワイバーンの首を撫でた。

 ワイバーンはゴロゴロと猫の様に喉を鳴らした。


 ワイバーンは、ドラゴンの亜種と言われる飛翔する魔物だ。

 大きな翼と大きな尾を持ち、鋭いカギ爪のついた足を持つ。


 尾には強力な毒があり、人間が刺されれば一時間と経たずに死亡する。

 その様な危険なワイバーンをバートリーは飼い慣らしていた。

 馬のくらあぶみ手綱たづなをワイバーンの首元に付けて、馬に乗る様にワイバーンに跨っていた。


「カトリーヌ、そろそろおやつの時間だね。その人間を食べて良いよ」


 ワイバーンカトリーヌの左足には、一人の男がつかまれていた。

 爪が脇腹に食い込み、服には薄っすらと血がにじんでいた。


 ワイバーンカトリーヌは、飛翔したまま左足につかんでいた男を丸呑みした。

 ワイバーンカトリーヌの足につかまれた時に、気を失っていた事が男にとっては幸運だった。ワイバーンに食べられる瞬間の恐怖を、感じずに済んだのだから。


「さて、そろそろ南に下ってみよう」


 バートリーは、ワイバーンカトリーヌの首を足で蹴り旋回する方向を伝えた。

 夏とは言えワイバーンの飛行する高度では、気温が低く、風が冷たい。

 着込んだ毛皮のコートのえりを立てて、バートリーは南の方、颯真そうま達が向かうブルグンド地方へ、ワイバーンカトリーヌを飛翔させた。


 ********


「リナ、それで何が原因でケンカになったんだ?」


「あいつらが悪いの!」


「どう悪かったんだ?」


「お尻に噛みつけって言ったの!」


 颯真そうまは宿場町の宿屋の大きな部屋でリナから乱闘事件の事情聴取をしていた。

 一応、遠征団の団長として、昨日の大乱闘のケジメを付けなくてはと颯真そうまは考えていた。


 昼間移動中にあちこちに話を聞いたら、最初はリナ達とボリス隊がモメたと証言があった。

 すぐに、ボリス隊の面々から事情を聴いた。

 彼らによると、ボリス隊とリナで口論になりリナ側が先に手を出したらしい。


 そして夕方宿場町に着き宿屋に入ると、リナから事情を聴く事にした。

 部屋には、颯真そうまあつし、リナ、かえで、ロザリー、家令アフレッドとかえでとリナの部下四人がいた。


「つまり、からかわれたんだな?」


「あのおじさん達嫌い!」


 リナの尻尾はピンと立ち、尻尾の毛が逆立っていた。

 リナの部下の一人猫系の獣人の尻尾も同じ様に毛が逆立っている。


「少しからかわれた位で……」


「違うのー! ボルテ! 説明して!」


 リナはプイッっと横を向いてしまった。

 ボルテと呼ばれた狼族の娘が口を開いた。


颯真そうま伯爵様、よろしいでしょうか?」


「ああ、構わない。俺の側室をボリス隊が、からかったのは良くないと思うが、何でそこまでお前達は怒るのだ?」


みつけ、と言うのが良くないのです」


「?」


「私達は獣人であって、けものではありません。みつけと言うのは……」


「あー、そうか。動物扱いする事になるから、ひどい悪口なのだな」


「左様でございます。伯爵様。私達獣人は、祖先が精霊と契約を結んで人化したとうとい種族です。けもの扱いは我慢なりません!」


 ボルテは腕を組んで、眉根を寄せた。

 美しい黒い瞳に殺気がこもっている。


 颯真そうまは、三人の獣人の怒りに思わずたじろいだ。


「……、そうか、それはヒドイな。うん」


 あつしが口を開いた。


「リナちゃん達が可哀そうですね。問題があったのは、からかった兵士の方では?」


「うーん。あっちゃん、でも手を出したのはこっちの方が先らしい」


「え? そうなんですか?」


 あつしはリナの方を見た。

 リナが首をブンブン左右に振って答えた。


「違う~! リナじゃない!」


 かえでの部下が手を上げた。


颯真そうま様。私が柄頭つかがしらで、こうして兵士のみぞおち突きましたところ、悶絶もんぜつして倒れました」


「……」

「……」


 颯真そうまあつしは無言でかえでの部下を見た。

 スラっと背が高く美しい外見とは裏腹な行動に言葉が出てこなかった。


「リナ様は、颯真そうま様のご内室でございます。私はかえで様にお仕えしておりますが、同じ颯真そうま伯爵家の人間として、先の兵士の言動は許せませんでした」


 家令アルフレッドが、ニヤリと笑いながら告げた。


「良くやった! 颯真そうま伯爵家にナメた事を言うのは許さん。首を落さなかったのは慈悲と言うものだな」


「さすが家令アルフレッド様。ご家令のおっしゃる通りで、お優しいかえで様なら首までは取るまいと、そこは自重いたしました」


「うむ。今回は怪我人は出たが死人は出ていない。旅先でのレクリエーションという事で、良いだろう。なあ、あるじ?」


 何がレクリエーションだ! 脳筋どもめ! と思いながらも、そんな事を言っても通用しないとあきらめた。

 颯真そうまは、ため息と一緒に答えた。


「そうだな」


 あつしは目頭を揉みながら、ため息交じりの声を出した。


颯真そうまさん、ちょっと二人で話せますかね?」


 颯真そうまあつしは、奥にある小部屋に移った。

 小部屋は三畳ほどの小さな机のある、ちょっとした書斎の様なスペースだった。

 二人は壁に寄りかかって立ったまま話し始めた。


颯真そうまさん、新メンバーが増えたのは良いのですが……、あれは……?」


 あつしかえでとリナにお付きが増えた事は気が付いていたが、普通の侍女だと思い込んでいた。

 あんな大乱闘を意にも介さない武闘派とは、想像もしていなかった。


「えーと、かえでの方は東の武士団からの派遣。獣人はロザリーから冒険者ギルド経由だね」


「僕の所……、シュレさんにも二人部下が……」


「あれもロザリー経由、アルフレッドから聞いてない?」


 あつしは、ちょっと怖い笑顔で答えた。


「いえ、いつの間にかいたので……」


「悪い! 経緯を話すわ」


 颯真そうまは机に腰をのせ、あつしに説明する内容を思い浮かべた。

 少しの間、考えてから順番にあつしに説明を始めた。


「まず、かえでの部下だけど、諏訪すわさんって覚えてる?」


 あつしは王都で日本人に似た外見の男に会ったのを思い出した。


「えーと、東の武士団の大使で、王都で挨拶に来た人ですよね?」


「そうそう、その人がかえでの警護役兼侍女で派遣して来たのが、あの二人」


「まだ若いですよね?」


「えーと、さっき首を落すとか物騒な事を言ってたのが、美月みづきさん十八才、もう一人が陽菜ひなさん十七才」


「強さ的にはどの位?」


かえでが手合わせしたけど、自分と互角だと言ってた」


「それ……、相当強いですね」


「うん、怒らせちゃだめだよ。セクハラとか絶対ダメ」


 あつしかえでの部下二人を思い返した。

 美月みづきは長い黒髪が美しいクールビューティー系、陽菜ひなは丸顔の可愛らしい顔立ち、あの可憐な二人がかえで級の強さと言うのは、ちょっと信じられない思いだった。


 東の武士団は、超武闘派集団なんじゃないか?

 そんな事をあつしは考えた。


「リナさんの獣人の方は?」


「あれはロザリーが連れて来た。獣人を側室した貴族がいるから、仕えたいと自分から売り込んで来たらしい」


「リナさんのひょう族じゃないですよね?」


「狼族と山猫やまねこ族だって」


「やる気があるのは良いですが、強さは?」


「ロザリーいわく、相当ヤル、と」


「それなら、間違いなく強いですね」


「それに、狼族ってのは、鼻が良いらしいんだ」


「鼻? 臭いですか?」


「そう。だから敵の追跡とかが得意らしい。あと知能が高いらしい」


「あー、さっきの話しぶりは頭良さそうでしたよね。名前は?」


「ボルテさん、二十はたちだね。それで、狼族は集団行動が基本なんだと、だから、ロザリーとしては、リナにボルテさんを付ければバランスが取れるだろうって」


「リナちゃん、感覚派で気ままですもんね」


「そそ、だからお目付け役だね」


 二人はリナを想像して笑った。

 リナの子供の様なストレートな言動を、二人は結構楽しんでいた。

 そこにお目付け役が付いたら、また楽しい事になりそうな気がした。


 あつしはもう一人の獣人について聞いた。


山猫やまねこの方は?」


「名前はユイラ、十七才だって。シュレさんの近くの出身らしいよ」


「へー、じゃあ東の山岳地方ですね」


「そうそう。虎族やひょう族ほど身体能力は高くないらしいんだけど、跳躍力がずば抜けて凄いらしい」


「どの位ジャンプするんですかね?」


「なんでも王都の城壁を飛び越えるとか……」


「え? 城壁って三階……、とか、いや、もっと高さがありますよ」


「でもべると……」


「……」


 あつしはリナの超人的なスピードを見ている。

 獣人が人間の常識の枠外にある事は理解しているが、それでも城壁を飛び越える程の跳躍力と言うのは信じられなかった。


「夜目も効くし、耳も良いから忍者枠かな?」


「くのいちですか……。なんか颯真そうまさんの所、武闘派ぞろいですよね」


「いやいや、ロザリーの推薦の弁によると、あっちゃんの所も相当らしいよ」


「ええっ?!」


 あつしは困惑した。

 あつしの所に来た新人二人はシュレと見た目が似ていたので、シュレの同郷の後輩が細々(こまごま)手伝っている位に考えていた。


「新人の一人はシュレさんと同じゴル族、バンさんの方だね。あの人元傭兵らしいんだけど、一人で敵から砦を守り抜いたらしい」


「それってあり得ないですよね……」


 あつしはバンの顔を思い出していた。

 若くして子供が一人いて、近所のスーパーで働いていそうな、実に親しみやすい印象の男だった。


 その好印象男が砦を一人で守る。

 迫りくる敵をちぎっては投げ、ちぎっては投げしている所を想像して、顔とのギャップに吹き出しそうになってしまった。


「ゴル族に俺達の常識は通用しない」


「あの人、そんなに強いんだ。見た目、普通のお兄ちゃんですよ」


「ゴル族だからね~」


「わかりました。もう一人のロルパの方は?」


「ロルパさんの方が怒るとやばいらしい」


「えっ?! ヤな事言わないでください」


「何でも、マガ族ってシュレさんの隣の民族出身らしいんだけど、とにかく気が荒いらしい」


「……短気なんですかね? そう言えば、目付きがきついかな……。ハンサムだけど」


 ロルパは痩身で黒髪のハンサムな男だった。


「新人だけど強いと」


「ロザリーが言ってたんですか?」


「ああ、相当ヤルとは言ってなかったけど。結構ヤルと言ってた」


「……格付け的には、シュレさん達の下ですかね。それでも新人でその評価って伸びしろ凄そうですね」


「そうだね。みんな結構ギャラが高いらしい」


 颯真そうまは苦笑した。


「それじゃあ、なんで雇ったんですか?」


「アルフレッドが、強い奴大歓迎! 雇えと。金は何とでもなると」


「……アルフレッドさんも、たいがいですね。僕はお金出してないから良いですけど」


「ああ、費用負担は一門持ちらしいから気にしないで。俺はお金に関しては、アルフレッドに丸投げしたよ。昔から家計簿とかつけない性格だし」


 颯真は率直に自分の金銭管理能力のなさを認めた。

 あつしは肩をすくめながら、仕方ないという風に答えた。


「まあ、確かにアルフレッドさん頭良いですもんね。任せた方が利口そうですね」


「そう言う事。まーとにかく! 戦力アップしたと言う事で、多少のモメ事は今後も大目に見ようかと思う」


「そうですね。これから魔物相手ですからね……。戦力は多い方が良いし、説教してすねられても困りますね。あーでも、リナさん達にひどい事言ったヤツは要注意ですね」


「うーん、素行が悪い連中らしいけど、強いらしいんだよ」


「強さ絶対主義の脳筋軍団ですか?」


「一応、俺もあっちゃんも騎士だから、武闘派に属するんだよ」


「元の世界じゃあり得ないですね。平和主義属性のはずが、武闘派属性ですか」


 二人は笑いながらドアを開けて、元いた大きな部屋に戻った。

 部屋では宴会が始まっていた。


 この遠征では毎晩の様に宴会を行っている。

 アルフレッド、ロザリー、かえで、リナが酒好きな為だ。


 遠征団は毎晩宿屋の酒を飲み干してしまっているらしいが、支払いについて颯真そうまは考えない様にしていた。


 部屋には、執事と魔法使いのクリスチーナも来ていて楽しそうに飲んでいた。

 ロザリーが颯真そうまあつしに向かって大声を出した。


「おーい、颯真そうま! あつし! 話しなげーよ。さ、あつし! こっち座れ、飲もう、飲もう!」


 颯真そうま達北方遠征団は、最初の訪問地ルル・ヴェルジーの街から魔物相手に戦う事になる。

 普段はあまり酒を飲まない颯真そうまあつしも、毎晩の宴会に付き合う様にしていた。


 誰かが死ねば、もう二度と酒を酌み交わすことは出来ない。

 その事を二人はわかっていた。


モンスターよりも魔物の方が雰囲気が出るので、「魔物」に記載を改めました。

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