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異世界召喚 魔法と剣の国エクスピア  作者: 武蔵野純平
北部遠征(第四章)
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家令アルフレッドの仕事振り(51話)

あるじよ! かえでとリナの二人をどうしたいのだ?」


 家令かれいになったアルフレッドに聞かれて颯真そうまは返答に詰まってしまった。


 アルフレッドを雇って四日が過ぎた。

 アルフレッドは、さすがに執事が推薦しただけあって仕事は早かった。


 まず、初日にアルフレッドは四人の文官経験者を連れて来た。


あるじよ! 俺が颯真そうま伯爵一門の家令かれいを引き受けてやろう。この四人は俺の部下だ。雇え!」


 アルフレッドは颯真そうまに有無を言わさず家令かれいの地位に付き、四人の部下を颯真そうまは雇い入れる事になった。

 四人の部下は颯真そうまあつしの両家に来た贈答品の送り主にテキパキと礼状を書き送り三日と経たずにリストを整理をしてしまった。


 見合いの希望者には、アルフレッドが手土産を持って訪問し、まだ結婚は時期尚早であると丁寧に説明して回った。

 これには颯真そうまあつしは大助かりで、アルフレッドと部下の事務能力に感心した。


あるじよ! 金が足りん! 払わせてくる!」


 次にアルフレッドは、王宮の出納役すいとうやくに交渉を行った。

 颯真そうまの銀騎士とあつしの騎士の報酬を遠征期間の分だけ前払いさせ、北部遠征の準備金を支払わせた。


 王宮の出納役すいとうやくに交渉を行ったと颯真そうまはアルフレッドから報告を受け、大量の金貨を受けとった。

 アルフレッドが相手では、さぞ、恐ろしい交渉であったろうと、颯真そうまはアルフレッドの交渉相手に同情をした。


 そして今日、アルフレッドは颯真そうまかえでとリナの関係に斬りこんで来た。

 颯真そうまは執務室の机で頭を抱えた。


あるじよ! 聞こえておるのだろう? かえでとリナをどうするのだ? ん?」


 先程アルフレッドはかえでとリナをわざわざ城外に使いに出した。様子がおかしいと颯真そうまは思っていたが、まさかこうも直球の質問をしてくるとは予想外だった。


「アルフレッド、俺はお前の主人なんだから、もう少しそういう話はだな……」


あるじよ!! そういう話だからこそキチンとせねばならん。俺は颯真そうま伯爵家の家令かれいである! 家内の秩序を守らねばならん!」


 秩序と言う言葉ほどアルフレッドに不似合いな言葉もないのだが、アルフレッド自身は真剣であった。ここ数日、アルフレッドは、颯真そうまかえで・リナの付き合い方が気になっていた。


あるじよ。二人は従者だ。二人と寝るのは構わんが、あるじ達の態度は主人と従者の関係を著しく逸脱している様に見えるぞ。」


 アルフレッドは、机の前に立ち颯真そうまあつを加え続けていた。アルフレッドとしては颯真そうまに貴族家の当主としての自覚とケジメをうながしたかった。


「アルフレッド、俺にとって二人は彼女なんだ」


「彼女? 彼女とはどういう意味だ?」


「恋人だ」


 アルフレッドは颯真そうまの言葉に面食らった。

 颯真そうまと二人の関係は、たまたま雇った従者が颯真そうまの好みでお手付きをした。そんな風なエクスピアの貴族ではありがちな事、そういう事なのだろうとアルフレッドは考えていたのだ。


「そうか……、ならば愛妾あいしょうとして屋敷を買って住まわせろ」


「いや。愛妾あいしょうと言うのは、俺のいた世界では良い事ではないんだ」


「むう……、愛妾あいしょうでは嫌なのか?」


「今の関係性をあまり変えたくない」


 アルフレッドは困惑した。

 颯真そうまが異世界人である事は、もちろんアルフレッドも知っているが、颯真そうまの現代人的な感覚を理解する事はアルフレッドには難しかった。

 アルフレッドは、仕方なく、颯真そうまに苦情を訴える説得方法に変更した。


「しかし、今のままではこれから会う貴族や周りの者がやりずらいぞ。あの二人を従者として扱うのか、颯真そうま伯爵の大切な想い人として扱うのか、周りが困るではないか」


「それはわかるが……」


 颯真そうまは腕を組んで沈黙した。

 颯真そうまとしてもアルフレッドの言う事は理解できた。エクスピア王国で高い地位についてしまいこれからは他の貴族との付き合いも増える。

 北部遠征では他の貴族領に行くので、かえでとリナの処遇をはっきりしないと二人が苦労する事になるかもしれないと心配していた。

 しかし、颯真そうまは、どうすれば良いのか思いつかなかった。


 アルフレッドは、長考する颯真そうまを上から眺めていた。

 颯真そうまがどうしたいのか? アルフレッドはまったくわからなかったので、一つの提案をする事にした。


「……わかった。では、二人を側室にしろ」


 颯真そうまは驚き顔を上げ、アルフレッドを見つめた。

 側室と言う現代人には聞きなれない言葉に、颯真そうまは意表を突かれたのだ。


「はい?」


かえでとリナを側室にしろ。本妻はダメだ。二人は平民だからな。」


「えっと……アルフレッド……なぜそうなるの……」


 アルフレッドは、両腕を組んでゆっくりと颯真そうまに説明をした。


「うむ。なぜなら側室ならあるじの好きな様に接しても誰も文句を言わんし、二人も好きに出来る。どうせ二人はドレスなど着やせんだろ?」


「まあ、刀は置かないだろうね」


「そうだろうな。側室としては多少風変わりな感じではあろうが、颯真そうま伯爵家は当主あるじが異人なのだから、他の貴族も納得するだろう。決まりだ。二人はあるじの側室だ。早速、皆に知らせよう」


「ちょ! ちょっと待ってくれ!」


「なんだ?」


「その……急すぎて……」


「二人が嫌いなのか? 遊びか?」


「そうじゃない。俺のいた国では、妻は一人と決まっていて……」


「気にするな。エクスピア王国では、何人妻をめとっても問題ない」


「わかった。俺から二人に話すから、みんなに話すのは一日待ってくれ」


 アルフレッドは、颯真そうまの態度がまったく理解できなかった。

 ただ、どうやら颯真そうまのいた国では、エクスピア王国とは習俗習慣が大きく違う事は理解できた。


 かえでとリナの立場をはっきりさせる事が出来たので、家令かれいとしてこの件について仕事は終わったと考えた。

 アルフレッドは、満足した。


「承知したぞ。あるじよ。」


 颯真そうまは考えた。

 かえでとリナの事は好きで、異世界から来た自分を良く支えてくれている。二人と同時に結婚が出来るなら、それは良い事かもしれない。


 しかし、側室とは言えこの世界で結婚をするという事は、元の世界にはもう戻らないという事になりはしないか。

 そこが颯真そうまの決心を鈍らせていた。


 元の世界には両親も兄弟もいる。友人もいる。殺し合いの無い平和な日常がある。

 エクスピアでは人に期待され、結果を出し、評価をして貰い、多額の報酬や地位を得た。だが、元の世界に未練が全くないのかと問われれば、颯真そうまには即答が難しかった。


 執務室の窓から外を眺めながら、この空は日本にはつながっていないのだなと颯真そうまは何となく考えていた。

 戦う覚悟は決めていたが、この世界で生き抜く覚悟が出来ていない自分の甘さに嫌気がさした。


「ただいま~」

「もどったよぉ~」


 かえでとリナの声を背中に聞きながら、颯真そうまは迷っていた。

※1 家令とは、貴族の元で一家の使用人や財産を管理する役職です。執事バトラーよりも、仕事の範囲が広い様です。


※2 出納役:「すいとうやく」と読みます。お金の入出金を管理する係です。分かりやすく言うと経理です。

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