午前の魔法訓練ファイヤ 5話
俺の異世界2日目は魔法の練習だ。
俺は、あっちゃんと井ノ口さんとは、別メニューになった。
執事さんがマンツーマンで教えてくれるらしい。
寝泊まりしている建物から少し歩いて、テニスコートくらいの広さのある場所に来た。
左手に建物、右手と奥は城壁なので、魔法で多少やらかしても迷惑にはならなそうだ。
「では、はじめましょう。最初は火の初級魔法ファイヤからです」
「はい、よろしくお願いします」
「では、お手本です」
執事は人差し指を立てて、腕を真っ直ぐ伸ばした。
すると、指先に火が付いた。
火傷しないんだろうか?
よく見ると火と指先の間に、少し空間があるる様だ。
「まずは、ここまでやってみましょう。自分の魔力を指先に流し込む様にイメージをして、流し込んだ魔力に火をつける。火が燃え続ける様に、指先に魔力を送り続ける。さあ、どうぞ」
なるほど。まずやってみるか。
俺は執事がやったように、人差し指を立てて、腕を真っ直ぐ伸ばした。
何も起こらない。
当たり前か。
目をつぶって意識を指先に集中する。
ん?
なんだろう?
なんとなくなんだけど、全身から指先に何か流れ込んでいく感覚が……。
なんだ?
これが魔力?
これに火をつければ合格。
火をつける、火をつける、火をつける。
うーん、どうやるんだ?
あ、ライターで火をつける感じかな。
カチッっと。
ライターで指先に火をつけるイメージをしたら、ボッと音が聞こえた。
恐る恐る目を開けてみると、指先に火がともっていた。
「おおお!」
「さすがソウマ様! 一発で出来ましたね!」
なかなかいい気分だ。
自分の指先に火がついているのは、なんとも不思議だ。
俺は肘をまげて、指先の火を顔に近づけてみた。
顔に熱さを感じるので本物の火だ。
見た目は、ライターの火よりも大きい。
もっと火を大きく出来ないかな?
俺はガスのコックを操作して送り込むガスの量を増やすイメージをしてみた。
みるみるうちに火が大きくなった。
逆に小さくしてみよう。
さっきとは逆に、ガスのコックを絞るイメージをしてみた。
火が徐々に小さくなって、ライター位の大きさになった。
コックを閉じるイメージをすると、火が消えた。
「火力の調整も出来ますか。なかなか優秀ですよ! では、次のステップに進みましょう」
「はい! よろしくお願いします!」
「次は、ファイヤの応用です。指先の火を前方に放出して辺りを焼き払います。手本をお見せしますね」
執事は城壁の方へ腕を伸ばし人差し指の先に火をつけた。
人差し指の先の火が、火炎放射器の様に前方に伸びて城壁を焼いた。
城壁の一部が黒くなった。
「ポイントは、指先に流れ込んだ魔力を前方に飛ばす……、と言うか、炎を前方に伸ばすイメージですね。ま、とにかくやってみましょう」
なんとなく出来そうだ。
俺は城壁の方へ腕を伸ばし人差し指の先に火をつけた。
ここまでは順調だ。
ここから火を、火炎放射器みたいに伸ばすわけだが、うーんと。
俺は火の先を見ながら、そこから火が伸びていくイメージを強く持ってみた。
出来た!
火炎放射器の様に、炎が城壁の壁を焼く。
俺は腕を左へ右へと振ってみた。
腕の動きに合わせて、炎が左右へ動く。
「おおお! これなかなか強そうな魔法ですね!」
「そうですね、火力を強くすれば近距離の敵を焼き払う事が出来ます」
「火力を上げてみますね!」
俺はガスの量を増やすイメージをして火力を上げた。
火力が上がった。もう火炎と言っていいレベルの強い炎だ。
「OKです。そこまで!」
執事が手を叩いた。
俺がガス栓をキュッと閉めるイメージをすると、火炎は消えた。
「ファイヤは、火炎系の魔法の基本です。攻撃魔法としては、近距離用です」
俺は少し考えた。
「執事さん。近距離って魔法使いは苦手な間合いじゃないですか?」
「その通りです。近距離は、戦士や剣士が得意な間合いです」
「相手を炎で焼く前に、こちらが剣で切られてしまいますよね?」
「試してみましょうか」
ニコッっと笑って、執事が後ろに飛びのいた。
「さあ、ソウマ様。ファイヤでわたくしを攻撃してみてください」
執事の声のトーンが一段階低くなって、目付きが厳しくなった。
空気が変わった。
「わたくしの服に火が付けば、ソウマ様の勝ち。炎をかわして、間合いを詰めたらわたくしの勝ちです」
執事から、何か物凄い威圧感が飛んできた。
武道の有段者と向かい合うとこんな感じなのか?
組み手、実戦練習って事か。
「火傷をしても回復魔法で治せますので、わたくしの事は心配しないで大丈夫です」
「……、よろしくお願いします」
「では! 始め!」
執事は掛け声をかけると、右、左、と動き出した。
真っ直ぐ立っているのに、バスケ選手のフェイントみたいに鋭い動き。
やばい、この動きはやばい。
「せーーーーー!」
俺は大声を出して、指先から火炎を射出した。
スピードに乗った火炎が真っ直ぐ執事へ向かった。
当たる! と思った瞬間、執事は右へかわした。
かわした、と言うより、消えたように感じた。
「うおおお、おおおおおお!」
俺は連続して火炎を放射した。
炎が執事を追撃する。
けれども当たらない。
執事は立ったまま、姿勢を崩さずに、俺の火炎放射を綺麗にかわしている。
武道の達人ってこんな感じなんじゃないだろうか。
相手の攻撃を、スッ、スッ、といなす動きだ。
いやいや、執事の動きに見とれてる場合じゃない!
ホースで水をまくイメージで、火炎を放射しているのだけれど、これでは執事に通用しない。
もっと、強力な一発を、なんか違うイメージを……。
そうだ!
こう、ドラゴンが、ガッーーーーと、炎を吐き出す様な感じだ!
もっと、太く、強烈な火炎を一気に叩きつけるんだ!
俺は火炎放射を止めた。
左腕を伸ばしていた右腕の肘にそえ、右拳を握りながら肘を手前に曲げて、拳をグッと上へ向けた。
上へ向けた右拳に全身の魔力を集めるイメージだ。
いいぞ! いいぞ! 右拳に魔力が集まっている感じがする。
右拳を上から前へ!
拳を開いて手のひらを執事の方へ、一気に魔力を放出! 点火!
ゴオオオ! っと物凄い音と共に、右手から大量の火炎が放出された。
いや、もう、これは爆炎ってレベルだろう。
ものすごい量だ!
炎の大きさは、直径3メートル位、熱風がこっちにも返って来る。
「うおおおお!!」
魔力を注ぎ込んで、炎を消さない様にする。
炎が城壁にぶつかった。
炎の勢いが止まらず、城壁を上へ上へとあっという間に登りきり、城壁の上5メートルくらいまで炎が達した。
よっしゃー! どうよ!
と思った瞬間、執事が俺の左下に潜り込んでいた。
「そこまで」
執事は俺の首筋に手刀を当てて、ニヤリと笑った。
「うーん、かわしますか。勝ったと思ったんですけど」
「最後の攻撃はお見事でしたよ、ソウマ様。わたくしもヒヤッとしました」
「しかし、執事さんの動きはすごく早いですね。あんな早い動き見たことがないですよ」
「ありがとうございます。わたくしは、先ほど闘気を使ったんですよ」
「闘気ですか……」
そういえば、魔力と闘気って話が昨日でたな。
「闘気を体に流し込むと、戦う者の能力が向上します。当然、回避スピードも上がります」
「だから、俺の攻撃が当たらなかったのか」
「左様でございます。忘れないでいただきたいのは、優秀な戦士や剣士は、まず間違いなく闘気を使いこなします。魔法使いの魔法攻撃をかわして、魔法使いの懐に飛び込み一瞬で命を奪う攻撃を仕掛けてきます」
「そっか……。魔法使いは近距離戦はやっちゃダメなんですね」
「はい。魔法使いの戦いは、遠距離戦です。敵と距離をとり、城や木や崖、こちらに有利な地形や遮蔽物を利用し、遠い間合いで相手を仕留めるのです」
つまり、鉄砲隊や弓隊みたいな感じか。
「えっ? じゃあ、近距離の守りはどうするんですか?」
「戦士や剣士とパーティーを組めば良いのです。パーティーと言うのは、一緒に戦うグループですね。遠距離は魔法使いが魔法攻撃を行い、敵に間合いを詰められたら、戦士や剣士が盾役になり防ぐ、ないしは接近戦で戦う」
「なるほど、得意分野が違う者同士で、手を組めば良いわけですね」
「左様でございます」
執事がニコッっと笑った。
あたりがザワザワとして、人が集まって来た。
城壁の上から、こちらを心配そうに見ている兵士もいる。
ちょっとした騒ぎになってる。
「人が集まってきましたね」
「おそらく先ほどのソウマ様の大きな火炎を見たのでしょう」
執事が集まってきた兵士の方へ大きな声で告げた。
「心配ない。火炎魔法の訓練だ。持ち場に戻れ!」
兵士たちはバラバラと持ち場に戻って行った。
戻っていく兵士たちの背中を見ながら、自分が何かぼーっとした感じで少し体が重たい事に気が付いた。
「執事さん、すいません。ちょっと休憩して良いですか?」
「あれだけ魔力をお使いになれば、お疲れになったでしょう。少し早いですがお昼休みにしましょう。昼食はお部屋に持って行かせますので、お部屋に戻ってお休みください。遠距離の攻撃魔法は、午後にやるとしましょう」
俺は案内の兵士の後をついて歩いた。
頭がぼーっとして、熱でもある感じで、道順を覚えていない。
部屋につくとベッドに倒れ込み、そのまま寝むってしまった。
2018/6/14 字下げ句点等を修正しました。
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