生き残りの後始末(48話)
ここから4章です。
その日の朝、ロングビル子爵は朝食の最中にある貴族からの呼び出しを受けた。
ある貴族と言うのは、颯真の襲撃を主導したナバール卿陣営の貴族である。
ロングビルは不機嫌に使者に応対した。
「朝食が終わるまで待てんのか?」
「申し訳ございません。何分にも主人から至急ロングビル様をお連れする様にと、きつく命じられまして……」
使者は恐縮し頭を下げたが、ロングビルの不機嫌は治らなかった。
不機嫌の原因は、朝食を邪魔された事ではない。
颯真への襲撃が不首尾に終わった事を、ロングビルは察していたからだ。襲撃が成功すれば、使者は成功したとだけ伝言を持ってくるだろう。
しかし、至急にロングビルが動かなくてはならないという事は、尻拭いが必要だからだ。
「面倒な……」
ロングビルは朝食を途中で切り上げ、馬に乗り目立たぬ様に使者と二人だけで館を出た。
呼び出された貴族の館に着いた時には、すっかり日が昇っていた。
「おお! ロングビル殿!」
颯真襲撃を主導した貴族は、ロングビルが着くと走って外まで迎えに来た。
ロングビルは馬から降りると事実確認をした。
「不首尾でござったか?」
「いかにも……。面目ない……」
二人は足早に館に入り、廊下の突き当りの目立たない部屋に入った。
そこには黒ずくめの服を着た若い男が一人、椅子に座り震えていた。
ロングビルは何が起こったのか、その男を見て理解した。王都包囲戦から逃げて来た時の獣人虎族のヴェラと同じなのだ。自分の理解の範疇を越える力を見せられた人間の反応だ。
ロングビルは思考を切り替える事にした。今は失敗を責めるよりも、多くの情報を得る事、この後の処理を迅速に行う事が大事だ。
深く息を吐くとロングビルは、貴族に問うた。
「この者は?」
「襲撃をした中で、唯一生き残り戻って来た者です」
「襲撃は何人で?」
「三十五人……。うち五人は相当の手練れ、残りの三十人も冒険者ギルドでシルバー以上、ゴールドの者が指揮をとってもおりました」
「ふむ。手抜かりはなかったようですね。それで一人しか戻らぬとは……」
ロングビルは内心でこの貴族の手並みに感嘆していた。
相手は魔法使い一人と従者が二人、普通なら十人程度で待ち伏せれば成功する。しかし、この貴族は相手が手強いと認識したので、相場の三倍以上の戦力で待ち伏せた。
準備段階での手落ちはない、とロングビルは判断した。
ならば、現場で何が起きたのか?
ロングビルは震えている男に質問をした。
「おい! 貴様! 何があった? 話してみろ」
「……」
男は震えるばかりで返事はなかった。
ロングビルは高圧的に話すのを止め、話を聞き出す為に男を落ち着かせる事にした。
「この者に温かい食事を……、そう温かいスープやワインをお持ちください」
ロングビルは、貴族に依頼した。
すぐに館の召使が用意をしてきたが、部屋には入れずロングビル自身が男に料理を運んだ。
テーブルに料理を置くとロングビルは、ゆっくりと、優しい声で震える男に話しかけた。
「安心しろ。ここは安全だ」
「……」
「奴らはここまで追って来られない」
「……」
「逃がしてやる。西の港から船で南の国へ逃げろ。南の国には、話を通してやる。そこでゆっくり過ごせ」
男がロングビルの顔を見上げた。
その反応を見てロングビルは、男に食事をすすめた。
「さあ、スープを飲め。温かいぞ」
男はゆっくりとスープをスプーンで一口飲んだ。スープの温かさが震える男に、通常の感覚を呼び覚ました。スープを飲むと、男は深く息を吸った。続けてスープを飲み始め、徐々にパンや肉を食べだした。
「ワインもあるぞ。落ち着くから少し飲め」
ロングビルは辛抱強く男が落ち着くのを待った。
男はグラスのワインを一息いあおると語り始めた。
「俺は後ろから、異人颯真を襲う部隊にいたんです……」
ロングビルは、男の表情を確認した。男は落ちつきを取り戻し、目にも光が戻っていた。
これなら情報を引き出せる、ロングビルはゆっくりと男に質問をした。
「後ろから襲う部隊は何人いた?」
「俺の部隊は十人、真後ろから襲う段取りでした。他に十人の部隊が二つ、左後ろと、右後ろからです」
ロングビルはテーブルの上に、水を少しこぼして水て絵を描く様にして男に確認をした。
「こうだな? 異人颯真が前へ進む。それに対してお前達が後ろから半包囲する。部隊が三つで、十人づつ」
「はい、そうです。襲う場所は、人気のない小道で、異人颯真の家まで一息の距離です。家の方には五人の剣士が待ち伏せていました」
「お前達が前で待ち伏せる五人の刺客に、異人颯真達を追い込んで行く作戦だな?」
「左様です。」
悪くない作戦だとロングビルはテーブルに水で作戦図を描きながら考えた。
「それで……、何か起こった?」
「まず、相手が六人いたんです。男三人に女三人です」
「ふむ」
「俺達は構わず馬で散開して接近しました。相手の魔法使い、異人颯真だと思いますが……、そいつがファイヤーボールを山ほど撃ってきました」
「何人やられた?」
「十人位やられました。馬もほとんどやられて……。それから男が一人足止め役で残って、異人颯真達は家の方へ逃げました。俺達は足止め役を五人で囲んで、残りは異人颯真を追いました」
ロングビルは考えた。
間違えてはいない。前方に五人の待ち伏せ、これが本命。腕の立つ刺客であろう。後方に追撃隊が十五人程度、逃げる颯真達は男二人女三人、ならば襲撃側が有利だと。
「それから?」
「足止め役の男が強くて、四人やられました。残りは俺一人で……。相手は怪我一つ負ってなかった……。それで、その男は俺を無視して異人颯真達を追って行ったんです。それで、俺も後を追いました」
「その足止め役の男の特徴は?」
「おそらくゴル族でしょう。独特のナイフを持っていましたから」
「ゴル族か……。東の山岳民族だな。それで、その男の後を追ってどうなった?」
「後を追っていくと、異人颯真の家が見えました。追撃した連中がちょうど襲い掛かるところだったんですが、家から飛んでもない火炎が……」
「ドラゴン並みの火炎放射か?」
「そう! そうです! それで追撃した連中は、ほとんどやられました。残ったヤツも家の外にいた女三人にやられました。あいつら強すぎますよ! なんなんですか!」
そう言うと、生き残った男はワインをあおった。
「女三人の戦いぶりは見えたか?」
「遠目ですが……。一人は剣士、もう一人は獣人、この二人は事前に聞いていた異人颯真の従者でしょう。とにかく動きが早くて、とんでもない強さでした」
「残り一人の女は?」
「そいつも強かったです。見た事のない動きでした。棒の様な武器を、こう……、腕を伸ばしてクルクル回して、そこから早く動く……。そいつと戦ったヤツは、棒の先で喉を切り裂かれてました」
「心当たりがある」
ロングビルは、かつて抹殺した王族の姫の護衛に凄腕の女がいた事を思い出していた。変幻自在の杖術で、ロングビルが放った刺客何人かが返り討ちにあった。普段はステッキに見えるが、先端のカバーの中は鋭く尖った金属、スピードに乗ると手に負えないとかつて部下から聞いた。
「ご苦労だった。今のうちに休んでおけ。手配が出来たら西の港まで送らせる」
ロングビルと貴族は、男を匿った部屋を出た。
「ロングビル殿……」
「さらに情報を集めましょう。今日は普段通りに過ごして下さい。下手に動くと国王派に気取られます」
「わかりました。男は?」
「私の方で手配して西の港へ逃がします。海で始末しましょう」
「お任せいたします。後始末をさせて、申し訳ない」
「どうか、お気になさらず。では」
ロングビルは貴族の館を出て、自分の館に戻り急いで男を逃がす手配をした。
ロングビルが手配した護衛四人が男を迎えに行った時は、王都中に国王派の見張りが目を光らせていた。
ロングビルが西の港に逃がした男も、国王派の見張りに見つかり後をつけられた。見張りは何日もかけて西の港まで後を付けたが、そこから船に乗り込まれてしまい尾行を断念した。
こうして、颯真襲撃犯の生き残りは、国王派の目の届かない海上で始末された。





