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なぜ俺が伯爵に?(43話)

 叙任式が終わった!


 叙任式が終わると、俺とあっちゃんは、会場にいた貴族にもみくちゃにされた。そこから執事が何とか連れ出し、かえで達にガードされ、ようやく俺とあっちゃんは執務室に戻って来た。社交は大事なんだろうけど、こっちは貴族制のない国から来た新人伯爵と新人子爵だからな。ご勘弁を頂きたい。


 俺の執務室の応接ソファーで二人とも動けなくなった。

 緊張していたので、もうクタクタだ。


「あっちゃん、生きてる?」


「あー、なんとか。でも、クタクタですよ。」


 かえでが水を持ってきてくれた。


「ご主人様、あつし様、おめでとうございます! 伯爵様と子爵様ですね!」


「ありがとう。でも、今まで通りに接してくれ。堅苦しいのは苦手だからさ。」


「かしこまりました。ご主人様。」


 水を飲んで息を吐き出す。

 予想外の急展開に、俺の頭がついて行ってない。

 俺は体を起こしてソファーに腰かけ、執事に質問した。


「執事さん、今の叙任式ですが、あれは一体……、どういう事だったのでしょう?」


「まずは、颯真そうま様、あつし様、貴族に列せられ、おめでとうございます。」


 執事が礼儀正しく、頭を下げながら祝いを述べた。


「ありがとう。しかし、俺が伯爵なんかで良いのでしょうか?」


「よろしいと思います。実力から行けば当然ですし、銀騎士シルバーナイトなのですから。」


「しかし、突然でしたよね。国王陛下からいきなり貴族にならないかと言われて……。」


「国王陛下としては、いずれ颯真そうま様を貴族に叙するおつもりでした。」


「そうなんですか?」


「はい。これから北西地域のモンスター討伐遠征が予定されています。遠征が終わったら、その功績をもって貴族に任じるのが、国王陛下の描いていたシナリオでした。」


「それを急に変更した……。なぜですか?」


「ナバール卿から西域騎士団の話が持ち上がったからでございます。」


 俺がわからないと言う顔をしていると、執事が続けて話した。


「ナバール卿一派が持ち出した西域騎士団ですが、これは今日否定しても、後日また蒸し返されて、結局通ってしまう話です。」


「王都西部は、本当に治安が悪いと?」


「まあ、それほどではないと思いますが、理由付けの筋は通ってます。ナバール卿一派の貴族も支持しておりましたし、頭ごなしに否定も難しいです。」


「なるほど。しかし、大道だいどう達三人がナバール卿側について、さらに西域騎士団まで出来たら、ナバール卿の力がかなり大きくなりますよね?」


「左様でございます。そこで陛下としては、颯真そうま様への貴族叙任を前倒しにして、こちら側に入って頂きバランスを取ったのです。ナバール卿としても、西域騎士団を認めて貰うのと引き換えに、颯真そうま様達の爵位を認めた訳です。」


 あっちゃんが質問した。


「僕が子爵になったのは、何故ですか?」


「国王陛下が先程おっしゃっていた通りです。あつし様に颯真そうま様のサポート役を期待されたのでしょう。それと、ナバール卿が伯爵、ナバール卿の甥のロングビル様は子爵です。この二人がナバール卿派閥の中心人物です。この二人に爵位を合わせたのでしょう。」


 なるほどな。

 新興貴族になる俺やあっちゃんが、爵位の面でナバール卿達に劣らない様に配慮した訳か。

 そこまではわかった。


 しかし、領地の切り取り次第って言うのは何だろう?


「執事さん、俺の領地が、切り取り次第、と言うのは?」


 執事はニヤリと笑って答えた。


「戦ってどこの領地を分捕ぶんどっても構わないよ。と言う意味でございます。」


「はい?」


 俺は呆れた。

 というか、そんな物騒なのダメだろう。

 俺の気持ちを察した様で、執事があわてて説明を加えた。


「もちろん、見境なく戦争を仕掛けられては困ります。」


「じゃあ、どこか人のいない土地を見つけて、イチからたがやせと?」


「いえいえ。乱暴な領地経営を行っている貴族や法を犯している貴族の領地を切り取るのです。国王陛下から、これらの貴族への討伐命令が下され、颯真そうま様がこれを討てば、その悪い貴族の領地は颯真そうま様の領地になる、と言う訳です。」


「そういう事ですか……。」


 それで切り取り次第か。

 俺は他の貴族にとって、怖い存在になったんだな。

 執事が続けた。


「新しく土地を見つけて、そこを領地にする方法もありますが、エクスピア王国では空いている土地がございません。他の貴族を潰して、颯真そうま様のご領地にする事になるでしょう。」


「その潰す相手と言うのは?」


「ナバール卿一派の貴族になるでしょう。」


 執事はシレッと話したが、これはナバール卿陣営にとっては、かなり怖い事なんじゃないか?

 俺の魔力は大きいし、魔法の威力も王都防衛戦で示した通り強力だ。その俺が国王陛下の命令で、自分たちを討伐しに来るかもしれない。ナバール卿は南の国の軍勢を王都まで引き込んだり、王位継承者を暗殺した悪党だ。周りの連中も、後ろ暗い事が多々あるだろう。


「それって、ナバール卿達にとって、相当怖いですよね?」


「左様でございますな。そこが国王陛下の狙いでしょう。今日の叙任式では、ナバール卿に先手を打たれましたから……。」


大道だいどうが持ち出した西域騎士団?」


「そうです。そこで国王陛下は、颯真そうま様、あつし様を貴族とする事にした。これで1対1の同点、ナバール卿も今回は引き分けと油断したのでしょう。」


「そこでナバール卿が油断した所に、最後の最後で、領地切り取り次第ですか?」


「はい。あれで一気に国王陛下が逆転しました。」


 なるほどな。そんな駆け引きと言うか、政治闘争があの叙任式の間にあったのか……。何とも凄まじい。

 俺が感慨深い顔をして考え込んでいると、執事がさらに解説してくれた。


「今日、国王陛下は二つの力をお示しになりました。」


「二つの力?」


「一つは貴族に叙する権限があるのは、国王陛下だけであるという事です。」


「……。」


 なるほどこれは分かる。人事権ってやつだな。今日は鶴の一声で俺とあっちゃんが貴族になった。これはどんなに力のある貴族でも、ナバール卿でも出来ない事だ。


「もう一つは、敵対すれば颯真そうま様が領地を奪いに行くという事です。」


 俺はその筋の人かよ!


「俺は平和主義者なんですが?」


 執事はニッコリ笑って、俺の嫌味を受け流した。


「もちろん国王陛下も颯真そうま様が、穏やかなお人柄である事をご承知です。颯真そうま様の存在が、ナバール卿一派にプレッシャーをかける事になる。それだけでナバール卿一派の動揺、離反が期待できます。」


「なるほど。」


 まあ、本当にあくどい事をしている貴族なら、取り締まらなくちゃまずいんだろうが、なるたけなら荒っぽい事はやりたくないな。これはまだ俺の覚悟が足りないのか? それはモンスター盗伐遠征に行っている間にゆっくり考えよう。



「ところで、本日はどうなさいますか? これから他の貴族や商人達が、挨拶に大挙して来ると思いますが。」


「えっ?」


颯真そうま様とあつし様は、国王陛下から期待を受ける新興の伯爵様と子爵様でいらっしゃいます。親交を結びたい貴族や商人は多いでしょう。」


「……。」


 俺とあっちゃんは、顔を見合わせた。そんな事は考えてなかった。しかし、執事の言う通りだ。執事が楽しそうに話しを続けた。


「さらに若くて独身! となれば、『ぜひ当家の娘を!』と迫ってくる貴族がおおございましょう。」


 いやいやいやいや! 政略結婚とかダメ! 無理!


「あ、えーと、出来ればそれは、面倒ですね。何とかなりませんか?」


「かしこまりました。応援を呼んでおきましたので、私と応援の者で対応いたしましょう。颯真そうま様達は、ご自由にお過ごしください。」


 ありがたい! 執事さんは、俺達が社交が苦手な事を察していてくれたらしい。ここはお言葉に甘えて、俺達は羽を伸ばすことにしよう。


「ありがとうございます! みんな! 急いで着替えて! スーツ脱いで、いつもの革鎧に着替えて。」


 俺達は大慌てでスーツから、いつもの革鎧に着替えた。これなら貴族には見えない。執務室から出て階段を降りると、俺の執務室の方から声が聞こえて来た。


「ぜひ! 我が娘を颯真そうま伯爵殿にめとって貰いたい!」


「男爵様のご息女は、まだ8才ではありませんか、颯真そうま様には直ぐにご懐妊が出来るお年の……。」


「そうじゃぞ!その点ウチの娘は直ぐにでもだ! 執事!」


「子爵様のご息女は、かなりお年が上かと……。」


 何か大変な事になっているらしい。ロリも熟女も勘弁して欲しい。俺とあっちゃんは、娘を売り込む貴族たちの声を背中で聞きながら、ダッシュで城から退散した。


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