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叙任式(42話)

 叙任式の朝が来た。

 俺達はチェフネリさんに仕立てて貰ったスーツを来て城へ向かった。


 あの後味の悪い異人同士の報告会から後は、平穏な毎日だった。


 結局、ナバール卿一派からのアプローチは、大道だいどう達からの1回だけだった。

 執事さんには、すぐ報告したので国王さんからも特に何も言われなかった。


 俺はひたすら剣の訓練と新魔法の開発に時間を費やした。

 国王さんから貰ったイチロー・タナカの本は、なかなか参考になった。


 城に着くと執務室で時間を潰す事にした。

 かえでとリナは先に会場入りなので、部屋には俺一人だ。

 緊張する。


 事前の打ち合わせをしたのだけれど、随分簡単な式典みたいだ。

 難しい事は何もなくて、国王さんに、「忠誠を誓います!」 と言えばOK。


 儀式と言うよりも、単なるお披露目の様だ。


「お時間です! 謁見の間にご案内いたします!」


 迎えが来た!

 いつもは兵士が呼びに来るのに、今日は赤い服を着た侍従が迎えに来た。


 執務室を出るとあっちゃんにも迎えが来てた。

 あっちゃんも俺と揃いのスーツ姿だ。

 緊張をほぐす為に、あっちゃんと少し話ながら歩こう。


「よう! あっちゃん!」


颯真そうまさん、ついに来てしまいましたね。」


「ホントにね。これからもよろしくね。」


「了解です。こちらこそ!」


 謁見の間の手前で大道だいどう、ヒロユキ、井ノ口さんが、待っていた。

 三人は、俺とあっちゃんの揃いのスーツを見て驚いている。

 大道だいどう達は例のカボチャ・アンド・タイツスタイルだ。


 ざまあ!


 謁見の間のドアが今日は閉まっている。

 侍従の声が響き渡った。


「本日はー! 偉大なるー、エクスピア王国ー、騎士ー叙任のー儀であーる!」


 やばい、心臓がバクバクして来た。

 こちらの気持ちにお構いなしに侍従が続ける。


「新たにー! 叙任さるはー、異世界よりー、我がエクスピア王国を訪ねたるー、五名の異人であーる!」


 俺達は横一列に、左から大道だいどう、ヒロユキ、井ノ口さん、あっちゃん、俺の順番に並んだ。

 さあ、いよいよだ!


「異人殿ー! 御入来ごにゅうらいー!」


 左右の侍従が謁見の間のドアを開けた。

 いつも空っぽの謁見室に今日はギチギチに人が入っている。


 一歩一歩、打ち合わせた通り、ゆっくりと前へ進む。

 拍手の音が凄い。頭に響く。


 謁見の間正面に国王さんが椅子に座って待っている。

 左右の国王さんに近い位置に貴族が並び、ドアに近い位置に城で働く平民や兵士が並んでいる。


 右側手前の前列に、執事さん、かえで、リナ、シュレさんを見つけた。

 喜んでくれている様で、四人とも笑顔だ。


 俺とあっちゃんのスーツ姿が珍しいらしく、左右の貴族から声があがる。


「あの異人殿の格好は?」

「うむ、異人の国の服であろうな。」

「ほれ、あちらの前列の三人も揃いですぞ。」


 そうそう、かえで、リナ、シュレさんも揃いのスーツだからね。

 お金をかけた甲斐がある。


 俺達は国王さんの手前で止まり、片膝立ちになった。

 拍手が止み、静寂が訪れた。


 国王さんが立ち上がり、低い声でゆっくりと話し始めた。


「今日、この勇敢なる五人を騎士に任ずる。颯真そうま・松田は、銀騎士シルバーナイトに任ずる。新たに騎士になる五人に問う。エクスピア国王たる余に忠誠を誓うか?」


 俺達は一斉に答えた。


「国王陛下に忠誠を誓います!」

「国王陛下に忠誠を誓います!」

「国王陛下に忠誠を誓います!」

「国王陛下に忠誠を誓います!」

「国王陛下に忠誠を誓います!」


 大道だいどうがこちらをチラッと見た。

 俺がシルバーナイトになる事を知らなかったのかな?


 侍従が大きな声で告げた。


「これにてー! 騎士ー、叙任の儀をー、終了するー!」


 大道だいどうが一人立ち上がって、大声で話し始めた。


「国王陛下にお願いがあります!」


 えっ?! こんなのは、段取りになかったけど……。


 周りもざわついている。

 式進行の侍従もどうして良いかわからなくてキョロキョロしている。


 国王さんが手を上げた。

 会場が徐々に静かになる。


 国王さんが静かに大道だいどうに告げた。


「騎士大道だいどう、申してみよ。」


「新たに西域騎士団を結成する事をお許し下さい!」


「なんじゃと?!」


 大道だいどうの一言で会場は、またざわつき始めた。

 西域騎士団って……、大道だいどうは新しい騎士団を作る気らしい。


 そんな勝手な事が許させるのか?


 国王さんも、相当驚いてる様だ。

 大道だいどうに質問する声が上ずってる。


「騎士大道だいどうよ、どういうことだ?」


「エクスピアの西側は、治安が悪いと聞きます。そこで、私、ヒロユキ、井ノ口の三人の異人を中心に、新たな騎士団を結成し、西域の治安維持につとめます。」


「勝手な事を申すな!」


 会場がさらにザワつく。

 これ、どうなるんだ?


 左側から一人の貴族が歩み出て来た。

 会場がシンと静まる。


 その貴族は、大道だいどうの隣まで歩いて来て、地の底から響く様な声で話し出した。


「国王陛下、西域騎士団はこのナバールと西部に領地を持つ貴族の願いでもございます。」


 こいつか!

 こいつがナバール卿らしい。


 黒いフード付きの服、陰気そうな青白い顔、不気味だ。

 貴族より妖怪と言われた方がしっくりくる。

 ナバール卿が続けて話した。


「この度、エクスピアに大きな力を持つ五人の異人が降りてきて下さった。そこで、異人の大道だいどう殿に我らに合力ごうりきをお願いした次第です。どうか西域騎士団の結成をお許しください。」


 ナバール卿は、話し終わると大道だいどう、ヒロユキ、井ノ口さんを連れて、左側の貴族の列に引き上げてしまった。

 どうも左側にナバール卿派の貴族が、右側に国王派の貴族が並んでいるらしい。


 会場が一気にヒートアップした!

 右側から、罵声が聞こえる。


「勝手な事を申すな!」

「国王陛下にご裁可さいかを強要するとは、無礼であろう!」

「これはナバール卿による勝手な引き抜きだ!」


 左側からも声が上がる。


「西部には新たな騎士団が必要なのだ!」

「これは我ら西部の貴族の総意ですぞ!」

「左様左様、引き抜きなどと言いがかりですぞ!」


 困った。

 左右の貴族が言い合いに挟まれて、俺とあっちゃんは動けないでいる。

 片膝立ちのまま、様子を見ている。


 この状況で考えてみると、西域騎士団はナバール卿一派の騎士団だろう。

 しかし、私兵ではなく、国軍になる訳だ。


 国軍なら、色々な行動に大義名分が付けやすくなりそうだ。

 うーん、西域騎士団を認めるのはまずいんじゃないか?


 騒ぎは一向に収まらない。

 ナバール卿が大きな声で国王さんに呼びかけた。


「陛下。西域騎士団にかかる費用は、西部の貴族で負担する様にいたします。ご裁可さいかを、ぜひ!」

 

 国王さんが下を向いて考え込んでいる。

 急に俺の方を向いた。

 えっ? ここで俺?


颯真そうま殿、先日余と面会した時の言葉を覚えているか?」


 先日の面会の言葉?

 ああ、思い出した。


「はい、陛下。私は、国王陛下とエクスピア国に、忠誠をちかいます。」


「では、どうじゃ? 貴族になって余の力になってはくれまいか?」


 一瞬、場が静まり返った。

 すぐに左のナバール卿陣営から文句が出た。


 とはいえ、国王に面と向かって逆らうのも都合が悪いらしい。

 それほど大きな声ではない。


 参った。

 ここで国王派へのスカウトとは……。


 俺を貴族にするとは、予想していなかった。

 返事をする前に、落ち着いて考えよう。


 エクスピアの政治状況は切迫してる。

 ナバール卿陣営が、大道だいどう達三人を引き込んで西域騎士団なんて物まで作ろうとしている。


 この場で断りずらいのもあるが、パワーバランスを考えると俺が国王派入りした方が、バランスが取れる。

 バランスが取れていた方が、平和を維持しやすい気がする。


 執事が前に言っていた様に、そろそろ腹を決める時期なのかもしれない。

 派閥が嫌だ何て言っていられる状況じゃない。


 それに貴族になれば領地が貰える。

 そうすれば、領地経営でかえでやリナを養える。

 俺の個人的な面からも、貴族になるのは悪い事じゃない。


 よし!引き受けよう!


つつしんでお受けいたします。国王陛下に改めて忠誠をお誓いいたします。」


「うむ! では、颯真そうま殿を伯爵に叙する。」


 右側の国王派からは、拍手と賛同の声が、左側のナバール卿派からは文句が聞こえる。

 国王さんは、あっちゃんに目を向けた。


あつし殿。颯真そうま殿一門の貴族にならんか?」


颯真そうまさんのですか?」


 あっちゃんは、驚いた顔をしている。


「うむ。颯真そうま殿は、新たに伯爵となった。しかし一人では何も出来ん。颯真そうま殿の配下になり、颯真そうま殿の力になって欲しいのだ。」


 あっちゃんは、笑顔で即答した。


「はい、お受けいたします。国王陛下に忠誠を誓います。」


「よろしい! あつし殿を、子爵に叙する。颯真そうま伯爵の一門とする。」


 左側にいたナバール卿が声を上げた。


「お待ちください、陛下。これは余りにも……。」


「西域騎士団の設立を認める。」


「は?」


「西域騎士団の委細は、ナバール卿、そちに任せる。ただし、費用は西部の貴族持ちじゃ。」


 国王さんとナバール卿が、にらみ合った。

 しばらくして、ナバール卿が頭を下げ、国王さんに告げた。


「かしこまりました。陛下、ありがたく。」


 左側のナバール卿派の貴族の表情はまちまちだ。

 俺とあっちゃんが貴族になった事が面白くないのか、俺達をにらむ者がいる。

 西域騎士団が認めらたのが嬉しいのか、大道達に笑顔で握手を求める貴族もいる。


 国王さんが侍従に呼びかけた。


「侍従!」


「偉大なるエクスピア国国王ロデール・エクスピア陛下より、爵位が与えられる! 颯真そうま松田まつだ殿は伯爵に叙される。あつし伊藤いとう殿は、子爵に叙される!」


 主に右側の国王派から熱烈な拍手と称賛の声が聞こえる。

 左側のナバール卿派からは、パラパラと拍手の音が聞こえる。


 大道だいどうが面白くなさそうに、俺を見ているが、知った事か。


 国王陛下が手を上げてみんなを制した。


「なお、颯真そうま伯爵の領地は……、切り取り次第、とする。」


 俺の領地が、切り取り次第? どういう事だ?

 左右を見回すと、俺と同じく意味がわからない人間が多いらしい。

 ナバール卿陣営の何人かが、渋い顔をしている。


 ざわつく中で侍従の声が式の終わりを告げた。


「これにてー! 終了するー!」


 えっ?!

 ちょっと待ってください!

 俺の領地は?!

 便宜上、颯真と敦は、「颯真伯爵」の様にファーストネーム+爵位にしています。

 普段、主人公達は、ファーストネーム表記にしているので、「松田伯爵」の様にファミリーネーム+爵位で書くとわかりずらいと思ったので、この表記にしました。

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