異世界で、それ関係ないですよね?(41話)
俺が、執務室に戻ると、大道、ヒロユキ、井ノ口さん、あっちゃんが、応接ソファーに座って、俺を待っていた。
留守番を頼んでいた楓が報告した。
「ご主人様がお帰りになるまで、お待ちになるとの事でしたので、お通しいたしました。」
「わかった。ありがとう。」
国王さんから、あんな話を聞いた後だから警戒してしまう。
四人の様子を見ると、あっちゃんはリラックスした表情で井ノ口さんと話している。
井ノ口さんは、ちょっと表情が硬いかな?
ヒロユキは相変わらず無表情で、大道はデレデレした顔でリナに話しかけてる。
リナは、大道が嫌みたいだな・・・。
尻尾がピンと立っている。
俺はイチロー・タナカの本を、ジャグラールの腕輪にしまうと席に着いた。
早速、大道が話し始めた。
「颯真君!近況報告会をしようと思ってね。」
「報告会?」
「そうだよ!私達は、異人だからね。エクスピアには知人も頼る人もいないだろ?だから何かあった時の為に、お互いの近況は知っておいた方が良いと思ってね。良いだろ?」
大道の言っている事はもっともだけど・・・。
大道、ヒロユキ、井ノ口さんの三人は、ナバール卿の派閥入りをしてる・・・。
この近況報告会と言うのはあくまでも口実で、俺とあっちゃんをナバール卿の派閥に誘いに来たのだろう。
とは言え、近況報告と言われると断りずらい。
「わかった。良いよ。」
俺は大道の提案を受け入れた。
俺はみんなに話して良い事と、隠しておく事を急いで頭の中で整理した。
異人同士の近況報告会が始まった。
最初はあっちゃんからになった。
家を借りた事、シュレさんを従者に雇った事、シュレさんがメチャクチャ強い人だった事、だいたい俺が知っている事だった。
驚いたのは、水系統の魔法はマスターしてしまい、もう回復魔法の訓練に入っているそうだ。
回復役に向けて、がんばると宣言した。
次は俺の番で、当たり障りない事を報告し、楓とリナを紹介して終わりにした。
もちろん、国王さんとの会談やイチロー・タナカの本を貰った事は伏せておいた。
その後は、井ノ口さん、ヒロユキ、大道の順で話した。
ヒロユキは、なぜか話さないので代わりに大道が話した。
内容は三人とも自慢話だった。
広い家と豪勢な食事、美味いワイン、そして綺麗な女奴隷との夜・・・。
大道とヒロユキは、女奴隷をもう一人追加して、夜は二人体制でがんばると宣言した。
楓とリナが側で聞いているのに、よくそんな話が出来るな。
まあ、俺も夜は二人交代制か・・・。
大道の事はあまり非難できん。
そんな事を考えていたら、大道が切り出してきた。
「颯真君、敦君。君たちも私達の派閥に入らないか?」
「・・・。」
「・・・。」
俺は、しばらく無言を貫く事にした。
どうせ大道があれやこれやと演説するだろう。
あっちゃんは、面食らった様だ。
混乱した顔をしている。
大道は、俺達に構わず話し続けた。
「私達三人は、ナバール卿にスカウトされて派閥入りした訳だけどね!待遇がすごく良いんだ!」
「・・・。」
「・・・。」
「さっき話した屋敷や食事、女奴隷の話は、全部ナバール卿の派閥からのプレゼントなんだよ!」
「・・・。」
「・・・。」
「これからはね!騎士の報酬以外にも、ナバール卿からお金を貰えるそうだよ!」
「・・・。」
「・・・。」
困ったな。こうもストレートに誘ってくるとは思わなかった。
どう返事するか考えていると、あっちゃんが話し出した。
「ちょ!ちょっと!待ってください。僕は、ちゃんとした家を借りてますし、彼女がいるから女奴隷とかいらないですよ。」
あっちゃんは、大分迷惑そうだ。
だが、大道はあっちゃんの気持ちを無視して反論した。
「彼女がいるって言っても、前の世界には戻れない。こっちで好きにやるしかないでしょ!」
「そんな簡単に割り切れるものじゃないですよ!ほっといてください!」
あっちゃんは臍を曲げてしまった。
大道が今度は俺に話しかけて来た。
「颯真君はどうなの?さっきから黙ってるけど。」
俺は腕を組んでずっと考えていた。
この話には乗らない、それは決定している。
とはいえ、異人同士であまり対立するのもなんだよな・・・。
ぼんやりそんな事を考えていたら、大道が傲慢な態度で告げて来た。
「じゃあ、私の決定に従うんだな!」
「はあ?何でそうなんるんだ?私の決定?従う?お前にはそんな権限はないだろう?」
「いや!ある!私は異人の代表だからね!私が決定する。」
「ちょっと待て。俺達の代表なんて決めてないだろう。」
あっちゃんが堪らず俺と大道の話に割って入って来た。
「そうですよ!大道さん、僕らは平等、横並びの関係ですよね!」
大道はあっちゃんの勢いにひるまず言い返した。
「いや!違う!集団にはリーダーが必要だよ!君達より私の方が優秀だからね、私がリーダーをやるのは当然だよ。」
俺も大道の態度、言う事に我慢できなくなって来た。
俺も大道に言い返す。
「それって、俺達がバカだって言ってるのか?」
「まあ少なくとも優秀ではないだろう。私はね、前の世界では財閥系商社仲島の社員だったんだよ。颯真君は、どこの会社?」
「株式会社スーパーフィ-バー。」
「知らないな~。」
「IT系のベンチャーだ。お前の会社とも取引してたぞ。」
「そう!じゃあ、ウチがお得意さんなり元請けだね!」
大道が勝ち誇った様に俺に告げた。
下請けは黙ってろ!とでも言う様な態度だ。
大道は今度はあっちゃんを攻撃し始めた。
「敦君はどこ?」
「僕は派遣であちこちに。」
「え~!君、派遣なの?そう・・・、可哀そうにね。じゃあ、こっちの世界に来られて良かったね。」
「そういう言い方はないでしょう!」
「まあ、それなら、颯真君や敦君より、私の方が格上でしょ。私の指示に従ってもらうよ。」
これはダメだろう。
あっちゃんは、彼女が前の世界にいて、寂しい思いをしている。
本人が希望してエクスピアに来た訳じゃない。
俺は大道に怒鳴りつけた。
「オマエいい加減にしろよ!前の世界でどこに勤めてたとか関係ないだろう!」
「いや、関係あるよ!優秀さを測る基準になる。」
「魔法では俺やあっちゃんの方が、オマエより優秀だぞ!」
「それは認めるよ。けど頭が良さでは、私の方が上だ。」
俺は思った。
こいつとは、いよいよやっていけない。
今までも接点をあまり持っていなかったけど、もう縁を切りたい。
大道のエリート意識と俺とあっちゃんを見下す態度には、到底我慢が出来ない。
俺は、深呼吸を一つしてから、静かに大道に告げた。
「お前がそう思うのは勝手だが、俺は認めない。自分の事は自分で決める。」
あっちゃんも続いた。
「僕もですよ!大道さんが代表とか、指示とか、勝手な事を言わないで下さい!僕は僕です。」
本当に呆れた。
エクスピアまで来て、前にどこの会社に勤めていたか?そんな事で上下関係を強要する大道はまともじゃない。
俺とあっちゃんが黙っていると、井ノ口さんが、とりなし始めた。
「まあまあ、ちょっと待って。私は、颯真君や敦君に良かれと思って、ナバール卿の派閥入りを勧めに来たんだよ。」
あっちゃんは、完全にブチ切れてしまい、そっぽを向いてしまっているので、俺が井ノ口さんと話す事にした。
「井ノ口さん・・・。あんな事言われりゃ、誰だって怒りますよ。」
「まあ、颯真君、落ち着いて。代表だとか、指示だとか言うのは、私もあまり好きじゃないよ。その事は置いておこう。これからどうするかが大事だよ。」
「と言うと?」
「私達はエクスピアでは余所者でしょ。後ろ盾になってくれる人、支援してくれる人が必要だよ。」
「うーん。それは分かりますけど・・・。」
「この前、颯真君と敦君が言ってたでしょ。家探しや従者探しで苦労したって。私は支援してくれる人が全部用意してくれたので、助かったよ。」
「・・・。」
「これから先、何があるかわからない。だから、ナバール卿の派閥に入っておけば、安心だと思うんだ。」
困ったな。
井ノ口さんの言う事には、反論しづらい。
井ノ口さんは知らないんだ。
ナバール卿が王位継承者を暗殺したり、南の国の軍を引き込んで王都包囲戦の原因を作った事を。
ここでみんなに、この事を話した方が良いんだろうか?
俺が井ノ口さんへの対応に迷っていると、大道がまた話し始めた。
「二人ともさ、いい加減にしようよ。」
黙っていて欲しい。
俺は、大道に言い返した。
「大道!お前がいい加減にしろ!黙ってろ!」
大道は立ち上がって大声で話し始めた。
「いいや!黙らないね。そもそも君達二人は、王都防衛戦の時は後方にいて隠れていただけでしょ?」
「!」
「私はね。最前線にいたんだよ。臆病な君達とは違うんだ!」
「・・・。」
俺は自分の中で殺意が湧き上がるのを感じた。
最前線で戦った大道達の働きは認める。
だが、俺達は、隠れていたわけでもないし、臆病でもない。
魔力切れで倒れそうになるまで戦った。
それを大道に、どうこう言われる筋合いはない。
こいつ、本当に焼き殺すか・・・。
スカポーン!
突然、部屋に間抜けな音が響き渡った。
リナが大道の顎に猫パンチを見舞った。
大道はソファにへたり込んだ。
リナは大道を見下ろしながら、恐ろしく冷たい笑顔で告げた。
「大道はうるさい!バイバイ!」
大道はリナを見上げて、口をパクパクと動かしている。
やっと大道の口から声が出た。
「この!・・・。」
大道はリナに殴りかかろうとしたのだろう。
だが、それは楓に制圧された。
楓が素早く抜刀して、刀を大道の目の前に付きつけた。
「ご主人様を侮辱する事は許しません!お引き取りを!」
楓は大道を殺気のこもった目でにらみつけていた。
執務室の入り口には、騒ぎを聞きつけたシュレさんが立って、こちらもククリナイフに手を掛けていた。
大道とヒロユキは這う様に俺の執務室からを出て行った。
井ノ口さんは、帰り際に俺達に一言だけ告げた。
「ベアトリスが・・・、貰えるんだ・・・。」
俺とあっちゃんは、何も答える事が出来なかった。
こうして異人同士の会談はまとまらず、俺達異人は二派に分かれてしまった。




