銀騎士の給料はおいくらですか?(37話)
「我が刃となり、我が敵を切り裂け!ウォーターカッター!」
俺は気分を出す為に、呪文らしき事を口に出して、水魔法を発動した。
本当は呪文なんか唱えなくても、魔法は発動するんだけど、ヒマなので・・・。
俺の指先から高圧で放たれた細い水流が、目の前の木の枝を切り落とした。
「ヒマだ・・・。」
どうしてこんなヒマなのかと言うと、俺は魔法訓練を、初日の1時間で卒業させられてしまった。
魔法の先生は、エルフだった。
先生の名前は、クリスチーナ・ラーソン。
ラーソン先生は、震えが来る程の美人だったが、どうせ実年齢は100才越えなんだろう。
俺はエルフが長寿である事を知っていたのだが、大道なんかは一生懸命ラーソン先生に独身アピールしていた。
俺は、大道の夢は壊さないでおこうと心に誓った。
訓練が始まって知ったのだが、エクスピアの魔法はあまりバリエーションがない。
火炎系の魔法は、ファイヤー、ファイヤーボール(単発)、複数攻撃のフラッシュオーバー、これしかない
ヘルファイヤがあるにはあるけれど、イチロー・タナカが使ったと本に書いてあるだけで、使い手は俺で歴史上二人目だそうだ。
俺は火炎系の魔法は全部使えるから、今日は水系の魔法を教わる事になった。
ところが、水系の魔法は二しかない。
水の盾を作るウォーターシールドと水の壁を作るウォーターウォール、これで終わり。
なんでも水系魔法は、火炎系魔法への防御魔法として開発された為、バリエーションが少ないらしい。
俺はこの二つをあっさり覚えてしまい、ラーソン先生から卒業を言い渡されてしまった。
そこで、城外北側の軍の演習場で、大規模魔法でもなんでも好きに自習してくれ、という事になった。
ちなみに回復魔法は、ラーソン先生に回復役でなければ、覚え無くて良いと言われた。
魔法使いの間でも、縄張りとか役割分担があるのかね?
まあ、その内誰かに教われば良いや。
木の上で見張りをしているリナが大きな声で伝えて来た。
「ねーそうまぁー。人が二人来るよぉー。執事さんだぁ~。」
楓とリナは、午前中で部屋の片付けを終えていたので、護衛として付いて来てもらった。
リナは豹族らしく、スルスルと木に登って行って周囲の見張りに、楓は少し離れた場所で控えていた。
しばらく待っていると、ラーソン先生と執事がやって来た。
「いや~颯真様!さすがでございますな!既に水魔法もマスターされたと伺いました。」
執事はニコニコと嬉しそうだ。
「はい。今は新魔法の開発をやってます。」
「ほう・・・。拝見しても?」
俺は手近な木にウォーターカッターを発射した。
木の枝に水流が激突して、枝を切り落とした。
「おお!水の攻撃魔法を開発されましたか!」
「はい。ウォーターカッターって言います。自習みたいだから、魔法のバリエーションを増やしておこうかと・・・。」
本当はヒマなだけなんだけどね。
まあでも、雨が降れば火炎魔法の威力は落ちるだろうし、ヘルファイヤも莫大な魔力を使うから連発出来ない。
攻撃魔法のバリエーションが増えるのは、悪い事じゃない。
それに、風魔法とか土魔法はエクスピアにはないみたいだけど、開発してみようと思ってる。
「なるほど。大変結構でございます。ところで叙任式ですが、七日後と決定いたしました。」
ついに来たか!
いよいよ役職付き、部長就任って感じですかね。
「わかりました。」
「颯真様は銀騎士に叙任されます。銀騎士は、月に金貨10枚が支給されます。」
はい?!
「えーと、月に金貨2枚じゃないですか?」
「それは騎士でございます。颯真様はそれよりも上位の銀騎士なので、月に金貨10枚です。」
「・・・。」
予想外だ。
まあ、沢山お金を頂けるのはありがたいけど、あんまり高い地位を頂くのは正直ビビル。
「銀騎士は、現在近衛騎士団長お一人だけでございます。つまり、剣士・戦士のトップが近衛騎士団長、魔法使いのトップが颯真様と言うのが、今後エクスピアの軍体制です。」
いやいや、聞いてないから。
軍の魔法使い部門のトップとか、待って欲しい。
「俺みたいなのが、魔法使いのトップで良いのですか?」
「ヘルファイヤを使えるのは、颯真様ただお一人ですよ?颯真様がトップでなくて、誰がトップでございましょう。」
「いや、どんな魔法が使えるか、と言う意味ではなくてですね。会議とか、人をまとめるとか、そう言うのは苦手でして・・・。」
「ご心配には及びません。戦闘になったら作戦会議はございますが、普段は特にございません。軍をまとめるのは、騎士団全体でやります。」
「じゃあ、俺は看板と言うか・・・。」
「颯真様は、王国一の魔法使いとして、大きく構えていらっしゃれば、よろしいかと。雑事は他の者にお任せください。」
「・・・わかりました。」
正直、断りたいとも思ったけれど、今更無理だろうな。
よし!基本はこれだ!
良きに計らえ!
面倒くさいのは、ごめんだからな。
執事の言う通り、細々した事は人任せで良いだろう。
「それと、国王陛下から、エクスピア北部地域のモンスター討伐を依頼したい、とお言葉を預かっております。」
「モンスター討伐?」
「はい。実は二月前から、北部地域でモンスターがあちこちで出現しておりまして、地方領主から討伐の相談を受けておりました。既に被害が出ております。」
「誰か殺された、とかですか?」
「はい。領民や兵士がモンスターに殺害されております。」
なるほどな!
それは可哀そうだ。
これ銀騎士としては、引き受けなきゃならないんだろうな・・・。
「そのモンスターは強いのですか?」
「いえ、颯真様の相手ではございません。」
うーん。本当か?
どうしたもんかね。
「颯真ぁ~!旅行に行くのぉ~、リナも連れて行ってぇ~!」
リナが木の枝に足だけでぶら下がりながら、アピールしてきた。
パンツが丸見えですよ・・・。
それに旅行ではないのだけどな。
と考えていたら、執事が勝手に話を進めだした。
「リナさーん。リナさんも楓さんも一緒ですよ~。颯真様をお手伝いしてくださーい。」
「やったぁ~!旅行楽しみぃ!モンスターは、リナがやっつけるぅ!」
ちょっと!あなた達は!
勝手に話を進めないで!
「ご主人様、北部地域は私も初めてです。楽しみです。」
楓も乗り気だね・・・。
うーん。
「まあ、颯真様、そう深くお考えにならずとも大丈夫です。準備は私の方でいたします。それに、これから夏になりますと暑うございますので、避暑のつもりでお引き受け下さい。」
・・・避暑か。
まあ、それはありだよね。
楓もリナも行きたがってるし、モンスターも大して強くないみたいだし、まあ月に10枚も金貨を貰う訳だから給料分働きますか!
「わかりました。では、楓とリナも連れて、討伐に行きましょう。あっちゃん達は、一緒ですか?」
「敦様は、回復役がご希望との事でしたので、王都に残って回復役の訓練を受けていただきます。私と姉が同行させていただきます。」
「姉?」
と聞き返したところで、ラーソン先生が執事に抱き着いた。
「ふふふ・・・。坊やと旅行なんて嬉しいわぁ~!」
「・・・姉上、子供扱いはやめて下さい。」
はぁ!姉上?
じゃあ執事はエルフなワケ??
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