闘気での高速移動(36話)
俺とあっちゃんは、闘気を使った高速移動を繰り返した。
確かに見える!
あっちゃんの速い動きが見える!
あっちゃんに、背後を取られそうになると、俺が横移動し、振り返りながら、あっちゃんの背後を取りに行く。
すると、あっちゃんは高速で前方に移動して、振り返りながら円を描く様に、俺の背後に回り込もうとする。
そんな動きを、繰り返した。
なんか、すごい楽しい!
子供の頃、ローラースケートで自由に動き回れる様になった時、こんな気分だった。
あっちゃんも、笑顔だ。
俺達は追いかけっこをする子供の様に、闘気を使った高速移動を続けた。
「痛い!ストップ!颯真さん、ストップ!」
あっちゃんが急停止して、倒れ込んだ。
「どうした!あっちゃん!」
俺はあっちゃんの側に駆け寄った。
ロザリーもあわてて駆けて来た。
あっちゃんの右の足首が、あり得ない方向へ曲がっていた。
「ちょ・・・。回復役!早く!回復役!」
ロザリーが連れて来た回復役を大声で呼んだ。
回復役が大急ぎで駆け付けて来た。
あっちゃんは右足を抱えて、ウンウン唸っている。
「颯真!手伝え!敦の体を抑えろ!」
ロザリーに指示されて、俺はあっちゃんの上半身を後ろから抑えた。
ロザリーはふくらはぎの辺りを抑えて、回復役が足首を持った。
ゴリ!
回復役があっちゃんの足首を、元の形に手で戻すと、嫌な音がした。
足首の関節が外れていたのを、元に戻した様だ。
あっちゃんは脂汗を浮かべている。
呼吸も荒い。
回復役は、回復魔法をかけだした。
徐々にあっちゃんの呼吸が落ち着いた。
あっちゃんは、大きく息を吸うと吐き出した。
「うおおおお、痛かったですよおおおおお。」
そりゃそうだ。
足首があさっての方を向いていた。
ロザリーが何が起こったか説明してくれた。
「高速移動に敦の右足が耐えられなくなったんだね。長時間、闘気を使った高速移動を繰り返したので、まあ、足首をひねったワケさ。」
あっちゃんが驚いて、ロザリーに聞き返した。
「ひねって、あんな大事になるんですか?」
「そりゃ、闘気で強化されてるって言ったて、足首にかかる負担は普段の何十倍だからね。ちょっとしたコントロールミスで大怪我だよ。」
俺とあっちゃんは、顔を見合わせて青い顔をした。
そうか。闘気が使えるからって、良い事ばかりじゃないんだ。
「まー、初日でここまで出来れば上等よ。じゃ、二人は休憩!終わったら、素振りね。」
ロザリーは、何事もなかった様に、大道達の方へ指導をしに行った。
俺とあっちゃんは、地面に座り込んでボーっとしていた。
何かあまり物が考えられないと言うか。
体はそれ程疲れてないのだけれど、頭が疲れた様な感覚だ。
どの位二人で座り込んでいたのかわからない。
あっちゃんが、水を飲みに行こう、と言った。
俺達は立ち上がって、訓練場の端の折り畳みテーブルの上のグラスで水を飲んだ。
すぐに飲み干した。
水差しであっちゃんが、俺の空いたグラスに水を注いでくれた。
「颯真さん、何か頭がボーっとしませんか?」
「するね。何だろうね、この感覚。」
「僕の想像なのですけど・・・。脳が高速移動の情報処理に、疲れてしまったんじゃないですかね?」
ああ!なるほど!
それはありそうだ。
「そうかもね。闘気で早く動くのは、長時間は無理っぽいね。」
「ええ。体より、脳がやられちゃいそうです。」
俺達は、ふーっ、と息を大きく吐き出した。
あっちゃんは、大分回復して来たみたいで、顔色も良いし、目付きもしっかりしている。
「これで午後は魔法の訓練ですか・・・。結構ハードですね。」
確かにな。
俺達、闘気がある組の訓練もキツイけど、大道達もかなりシゴかれてる。
「まあ、残りの時間は、素振りして、休んでして、軽めにしようや。」
「そうですね。これ以上、怪我をしない様にしましょう。」
俺は、ジャグラールの腕輪から昨日買った刀を取り出すと、地面に座って素振りを始めた。
あっちゃんは、兵士から木剣を受け取って、俺の横に来て同じように素振りを始めた。
今日は、日差しが強い。
空の青さも美しい。
季節は初夏なんだろう。
俺達は、暑い日差しに何か予感めいた物を感じた。
今話で今日1/1の更新は終わりです。
お読みいただいてありがとうございました!
これから実家に行ってお雑煮を食べます☆彡
29話から今話まで、話数の番号を振り間違えていた為、訂正しました。