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異世界召喚 魔法と剣の国エクスピア  作者: 武蔵野純平
王都包囲戦(1章)
2/75

魔力と闘気 2話

 俺が馬にしがみ付いて移動した先は城の中だった。

 石造りのゴツゴツとした感じの城で、城門から堀の上に橋がかけられていた。

 かなり大きな城の様で、見張り塔や白壁にオレンジ屋根の大きな建物が見えた。


 馬にしがみ付く俺を、城内の兵士たちが物珍しそうに見ている。

 全裸だからだろうか。


 兵士は皆、ヨーロッパ人に見える。


 橋を渡って城の内門を通った所で、馬から降ろされた。


「ご無事で何よりでした! さ、こちらに!」


 背の高い年配の男が、笑顔で話しかけてきた。

 スーツの様な黒い服をきちんと着込んで、物腰柔らかな印象だ。

 執事って感じだ。


 あっ、なんか優しそうな人がいてよかった。

 ほっとした。


 毛布をもらって体に巻き付けて、執事風の男の後をついて歩いた。

 執事風の男は、どんどん城内を歩いて行く。


 俺は、はぐれない様に後を追いかける。

 石畳の廊下は、昼なのに薄暗い。

 裸足の足裏に固く冷たい石の感触が伝わり、これが現実であると嫌でもわからせられた。


「どうぞ。こちらです」


 案内されたのは、広い部屋だった。

 中央にがっしりとした造りの木のテーブルとイスがあり、4人の男が座っていた。


 全員日本人に見える。

 20代前半くらいかな?


 用意してあった服を着て、靴を履き、俺も椅子に座った。

 俺が座った所で執事風の男が話し始めた。


「みなさま、ようこそお越し下さいました」


 いや、望んで来たつもりはないんだけど。

 気が付いたら、ここにいたんだが。


 見回すと他の4人も、それぞれも微妙な表情をしている。

 憮然、怯え、好奇心、落ち着きなくキョロキョロ。


 俺はどんな顔をしているんだろう?

 服を着たことで、さっきよりは気持ちが落ち着いたが、まだ動揺している。


「みなさま、今の状況に驚かれ混乱されているでしょう。一つ一つお話しいたします」


 執事風の男が続けた。


「この国は、エクスピア王国でございます」


 聞いたこともない国名……。

 エクスピアなんて国があったか?


「みなさまが、聞いたことのない国だと、いぶかしがるのも無理はございません。ここはみなさまが、いらっしゃった世界とは別の世界です」


「ちょっといいかな?」


 憮然とした表情で話を聞いていた男が、手を挙げて話し始めた。


「何かの冗談なら止めて欲しい。仕事があるから帰らせてもらいたい」


 口をとがらせて強い口調で男が抗議する。


「申し訳ございませんが、これは冗談ではございません。本当にここは違う世界でございます」


 執事風の男は憮然男に頭を下げながら、はっきりとした口調で答えた。

 俺も質問してみることにしよう。


「えーと、すると、魔法か何かで、僕らはこの国に呼ばれたんですかね?」


「はい。その通りでございます。さすが良くおわかりでございますね!」


 嬉しそうに執事風の男が答えた。

 正解……かよ、冗談のつもりだったのに……。

 魔法……、なのか……。


「昨晩は、2つの月が重なる夜でございました。神殿で7人の魔法使いが召喚の儀式を行いましたところ、みなさまが、いらして下さいました」


 月が2つとか7人の魔法使いとか頭が混乱してきた。


 そういえば、30才まで童貞の男性は魔法使いになると言う。

 30×7は210、MP210!それは相当の魔力であろう……。


 いやいやいやいやいや!

 混乱して現実逃避に思考が傾いている。


「別に好きで来たわけじゃないんだが!」


 憮然男が強い口調で、また抗議した。


「家族がいるんだけどね」


 キョロキョロしていた落ち着きのない男が、ボソッと呟いた。

 若く見えるけど結婚してるんだ。


「申し訳ございません。みなさまにもご事情がおありでしょう。それは良くわかります。しかし、召喚の儀式で異世界からこの世界に召喚されますと、元の世界に戻す手立てがございません」


 さっきから言葉の上では謝っているけれど、執事風の男の口調はどことなく嬉しそうな感じだ。


「あの~、なんか嬉しそうですよね? さっきから。どうしてですか?」


 好奇心の強そうな男が質問した。


「それはもう! 嬉しゅうございます! 英雄がこうして5人もいらっしゃったのですから!」


 そうか、俺は英雄になったのか。

 おめでとう! 俺!


 その後、執事風の男からの説明が続いた。

 俺は、説明を聞けば聞くほど頭が痛くなった。


「みなさまのように異世界からいらした人々を、わたくしたちは、異人、とお呼びしております」


「異人はこちらの世界の人間を上回る力を持っている、と言われています」


「このエクスピア王国も千年前に異人がお造りになった国です」


「その異人は英雄として、今も皆に尊敬されています」


「今日いらっしゃった異人のみなさまも、お力を発揮なされて、きっと英雄になられるでしょう」


 頭が痛い。

 俺は平凡なサラリーマンだ。

 発揮する様な力もないし、英雄になるなんて、ひどい買い被りだ。


 皆、頭を抱えて沈黙している。

 この状況がどうやら現実なのはわかる、わかるけれど受け入れられない。


 思考がループしている。

 そうだ、話題を変えよう。


「えーと、すいません。ところで、あなたは?」


「わたくしは、異人のみなさまをお世話させていただく執事でございます。何なりとお申し付けください」


 そうか、執事で正解だったか、じゃあ、次の質問は……。

 えーと、次に何を質問すればいいんだ?


 沈黙……。

 沈黙、沈黙、色々と疑問はあるのだけれど、正直、何を聞けばよいのかがわからない。

 他の4人も腕を組んだり、頭を抱えたり、と俺と同じ様な感じだ。


 すると執事の方から質問が来た。


「恐れ入りますが、お一人お一人、お名前を教えていただけますか?」


 憮然としていた男が最初に答えた。


「私はダイドウだ。大きい道と書いてダイドウ」


 しばらくして、ダイドウの隣に座っていた、怯えた顔をした男が答えた。


「ヒロユキです」


 その後は順番に、手短に自己紹介が続いた。


「僕は伊藤敦です。アツシで良いです」


「私は井ノ口です。よろしく」


 そして、俺が最後に。


「俺は、ソウマです。ソウマ・マツダ」


 自己紹介が終わると、執事がどこからか大きなガラスのボールの様な物を持ち出してきた。


「ありがとうございます。ダイドウ様、ヒロユキ様、アツシ様、イノグチ様、ソウマ様ですね。それでは次に、順番にこの水晶玉に手を当ててください」


 ガラスではなく、水晶なのか。

 執事は大きな水晶玉を抱えて、ダイドウの前に立った。


「さ、ダイドウ様からお願いいたします」


「これに手を当てればいいのか?」


「左様でございます」


 ダイドウが水晶玉に手を当てると、水晶玉の色が変化した。

 執事は水晶玉をのぞき込む様にしている。

 俺の席からは見えないけれど、執事からは何か見えるらしい。


「ありがとございます。結構でございます」


 執事は水晶玉から目を離し、笑顔でダイドウに礼を述べた。

 俺はなんとなくだが、執事の笑顔が作り物めいた笑顔に見えた。


 執事は、ヒロユキ、アツシ、イノグチと順番に回った。

 手を触れるたびに、水晶玉の色が変化して、執事は、「ふむ」、とか、「ほう」、とか感想めいたつぶやきを漏らしていた。


 俺の番になった。

 水晶玉に手を伸ばして触れてみた。

 意外なことに水晶玉は暖かかった。

 使い捨てカイロみたいに、人肌よりも暖かい。


 これはなんだ?

 ホントに水晶なのか?

 水晶って鉱物、宝石みたいなもんだよな。

 なんで暖かいんだろう?


 俺は手を水晶玉にのせながら、そんな事をつらつらと考えていた。


「おおおお……、これは……」


 執事が、驚いたように、嬉しそうな声を上げた。

 最初のダイドウの時とはえらい違いだ。


「あの~、執事さん。その水晶玉には、何が映ってるんですか?」


「はい。この水晶玉には、手を触れた方の魔力と闘気が映し出されます」


「魔力? 闘気?」


「魔力は魔法の源となる力です。闘気は肉体を強化し剣で戦う時に使う力です」


「すると、一人一人の魔力と闘気を確認したのですか?」


「左様でございます。みなさま素晴らしい量の魔力をお持ちでございます」


「その、魔力と、トウ、闘気ですか? 詳しく教えてもらえますか?」


「かしこまりました」


 執事が詳しく説明を始めた。


「魔力は魔法を使うのに必要なエネルギーです。例えば、この様に」


 執事がテーブルの中央に手を出し、人差し指を立てると、指先に火がともった。


「えええ?」


 俺たち5人は驚いた。

 何か仕掛けがあるのかと、執事の手の周りを確認してみたが、仕掛けは見つからなかった。

 ロウソク位の大きさの火は、執事の指先で燃え続けた。


「これは初級魔法のファイヤです。この様に魔力は、魔法で火や水などに転換することが出来ます」


「魔法って誰でも使えるものなんですか?」


 アツシが目をキラキラさせて執事に聞いた。

 魔法とか好きなんかね。


「いえ。魔力をお持ちの方だけです。魔力を持つ人間は、千人に一人くらいですね」


「僕はどうですか?」


「アツシ様は魔力をお持ちです。それも我々エクスピアの人間よりも魔力の量が多いです。他の方も魔力をお持ちで、普通よりも量が多いです」


「すると僕らは魔法使いになるのですか?」


「はい。その様にお願いしたいです。もちろん訓練は必要ですが、初級魔法ならスグに使える様になるでしょう」


 アツシは嬉しそうだ。

 ノリノリだな。


「闘気と言うのは?」


 ダイドウが聞いた。


「闘気は、剣で戦う時に使います。闘気を体に流し込むと力が強くなり、剣の威力が増します」


「それも珍しいのか?」


「闘気は百人に一人くらいですね。ただし、闘気は訓練や技である程度補えます」


「ふん。肉体労働だな。それで、その闘気は俺にあるのか?」


「ダイドウ様には、ございませんでした」


 ダイドウがさらに憮然とした表情になった所で、扉がノックされ兵士が一人入ってきた。


「国王陛下がお会いになります」


2018/6/5 句点等を修正しました。

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