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誰も知らない物語  作者: 雪美姫
1章
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1章(2)

ザッザッザッザッ


二人分の足音が静かな森に響く。


アリシアはレインを送り届けるべく、屋敷へ向かっていた。


お互いがお互い気まずい、というよりは腹が立たしい気持ちで歩いていることだろう。


レインはアリシア、護衛を連れていることに。


アリシアは女王を侮辱するような態度に。


お互いがお互いに腹が立っているため話すこともない。


“どうしてこんなことになったのだろうか“


アリシアはそんなことを思いながらほんの数分前の出来事を思い出していた。


「帽子屋を屋敷まで護衛しなさい」


「「…………はぁ!?

…………はい!?」」


女王はにこやかに微笑みながらアリシアとレインを見つめる。


「女王陛下…お客人の警護はセシルの仕事では?」


セシルがそういうのも無理はない。


性別のせいなのか要人の護衛はセシルが任せられることがほとんどで、要望がない限りアリシアがすることがなかったのだ。


「あら私はあなた達に明確な役割分担は与えていないと思うけど?」


女王はそう言うと何故か悲しげに微笑んで服の裾をつかんだ。


「…?」


「今日は一段と可愛らしいですね」


ゆっくりとした手つきでアリシアの頭を撫でながらそう言うと、裾を引っ張っていた手を離した。


「…えっと…?特には変わらないと思いますけど」


アリシアの言葉に女王は首をかしげるがすぐに笑みを浮かべる。


「…何でもありません。気にしないでください」


“あれは一体何だったんだろうか“


気になるが今それを確かめる術もなく頭の中でモヤモヤとわだかまる。


するとその時大人数の足音が聞こえてきた。


「…」


明らかに好意的には見えない笑みを浮かべながら取り囲む男達に、


“そういうことだったのか“


とアリシアは納得した。


「…帽子屋?」


「…なんだよ」


「これでも一人で大丈夫だったなんて言えるのですか」


アリシアはしたり顔でレインを見るとレインは苦虫をかみ潰したような顔で黙り込んでいた。


「まぁいいです。彼らはあなたのお仲間…」


「なわけねぇだろうが」


「それは良かった。

それより帽子屋そんな口の聞き方していいのですか?手伝いませんよ」


「はいはい、すみませんでしたー」


口先だけは素直なレインに呆れてため息が出る。


「お前が帽子屋、レイン・トゥルースだな」


ボスらしき男はそれはもう見事な悪人面で笑う。


「あれ?あなたって有名人なんですね」


アリシアが皮肉って言うとレインは眉をひそめた。


「別に好きでそうなってるわけじゃねぇんだよ。

つうか、てめぇいちいち喧嘩売るんじゃねぇ」


「あなたに言われたくありません」


レインとアリシアが火花をちらしているとボスらしき男が一歩ちかずいてきた。


「なぁ。嬢ちゃん。

そいつはちと痛い目にあってもらわなきゃなんねぇが、嬢ちゃんは好きなようにしろと言われてんだ」


その男の笑みに不快なものを感じる。


「…それが?」


「にっぶいお嬢ちゃんだな。

そいつとは縁を切って俺たちについてきたほうがいいぜっていってやってんの」


若い男が生意気にそう言ってアリシアの手を掴む。


「それはそれは。光栄ですね」


アリシアの言葉に男は口元を釣り上げる。


「でも、遠慮します」


アリシアはそう言うと男の腕を引き背負い投げて男を見下ろした。


呆然と見上げる男にアリシアは先程の男のように笑いかける。


「生憎、貴方たちのような下衆に興味ありませんので」


男達が呆然とする中、レイン笑い声が響く。


「くくっ。なかなか言うなお前」


その笑い声で男達は我にかえったのか顔を歪めて赤い顔で睨み付けてきた。


「お。女諸共やってしまえ野郎どもっ!!!」


アリシアとレインは黙々と敵を倒ししていく。


「くっそ。話と違うじゃねぇか」


一人の男がそう言って忌まいましげに眉をひそめた。


「…話が違う?」


男の言葉にレインは動きを止めた。


アリシアはそこで今までの仮定が正しいと確信をもった。


女王の悲しげな微笑みと、通常ではあまりない護衛任務…そして敵襲。


「まぁ、お偉いさんの考えそうなことですよね」


おそらくアリスが捕まらないことに嫌気が差した上層部が、レインに情報を吐かせるため、命の危機にさらそうとかんがえたのだろう。


そして山賊を雇いレインを人質とさせアリシアは殺害、もしくは連れ去られたとして要人警護中の不幸な事件となるように仕向け、厄介事を解決しようと考えたのだろうが甘すぎる。


まぁ正直なところ上層部もそう簡単にことが運ぶとは思っていなかっただろうが。


アリシアが小さな声でそう呟いたときレインは眉根を寄せてアリシアを見た。


「なんだよ。あんたには全部お見通しってか?いけすかねぇ女」


「まさか。これは私の仮定ですよ。ただ、ほぼ真実であろう仮定ですけど」


「うっぜぇ」


二人はそんな会話をしながら男達を片していく。


結局男達は口ほどにもなくものの数分で片づいた。


決してこの男達が弱かったのではない。


二人が強すぎたのだ。


「で?いい加減教えろ。まぁ多分俺の仮定と同じものだろうけどな」


レインはそう言って使っていた銃を仕舞った。


「…貴方相当恨まれているんではないですか。女王陛下に」


アリシアはそう言って嫌味ったらしく笑う。


「ほんっと人の神経逆撫ですんのが上手い女だなお前」


「そうですか?

そんなことないと思いますけど。

というより、貴方には負けます」


アリシアはそういいながら剣刃を仕舞う。


「あなたがどんなことを思い描いていたかは知りませんが、恐らくその仮定は合っているでしょう。

これは女王陛下のいや…正しくいうなら幹部の差し金でしょうね」


アリシアの言葉にレインは口元を引き上げた。


「そんなこと宰相のあんたが言っていいのかよ。

消されるかもしれないぜ」


「大丈夫ですよ。

私強いですし、そんなこと怖くないので。」


「………」


レインのなにか言いたげな顔にアリシアは気づかないふりをして襟元を整える。


「と言うか他人の心配している場合じゃないですよ帽子屋。

今一番危ないのはあなたではないですか」


アリシアはそういってため息をついた。


「それもそうかもな。

でもこればっかりは俺にはどうにも。

お前らが勝手に疑っているだけだしな」


レインは服を正しそういうと何事もなかったように歩みを進める。


それに合わせるようにアリシアも人一人分ほどの距離を空けて隣を歩く。


「…10年という月日は彼らにとっては短い月日なのでしょうね」


「俺にとっては長い月日だけどな」


レインはどうでも良さそうにそう言って少し歩く速度を速める。


「どうして皆こんなにも“アリス“にこだわるんですかね」


アリシアがそういうとレインはいつもの皮肉げな笑みを浮かべる。


「お前が“あれ“にこだわらないのは記憶がないからだろ」


その言葉を聞いた瞬間アリシアは剣刃に手をかけた。


なぜこの男は一部の重役しか知りえない情報を知っているのだろうか。


「…帽子屋。どうしてあなたがその事を知っているのですか」


「どうして?そんなことを聞くのか?お前馬鹿なんだな」


何度いってもなおすきがない帽子屋の態度に本格的に苛立ちが募る。


「…帽子屋いい加減に…」


「少し考えればわかるだろ。

お前が宰相の就任式を行ったのは1ヶ月前。

どんなに優秀な人間でも宰相どころか兵士になるのに2年かかる。

たしか4年程前に探しびとがいないか張り紙が出ていた時期があった。

その時の特徴欄に、性別が女で藍色の髪に緑の瞳。

年は十五、六歳ほどと書かれていた。

その特徴と、年齢、時期から、お前であることは明白だ。

名前が書かれておらず外見以外の特徴が書かれていないことから記憶喪失の可能性が疑われる。

つまり、お前がその記憶喪失女ってわけだ」


帽子屋はめんどくさそうにそう言ってキャンディーをくちになげこむ。


「…あなた、実は賢いんですね」


「ああ?テメェ喧嘩売ってんのか」


不快そうに細められた瞳と寄せられた眉にアリシアは慌てて訂正する。


「違いますよ。

馬鹿そうには見えませんでしたけどそこまで賢いとは思っていなかったんです。

それに、四年まえの張り紙の事なんて自分に関係あることじゃなかったら普通覚えていませんし」


アリシアはそういってレインを見つめる。


するとレインは驚いたように目を見開いた。


「おまえ、意味わかんねぇ女だな」


アリシアにはレインの言葉の方がよくわからなかったが、問いかけるのも面倒でそのまま流し言葉を紡ぐ。


「そうですか?まぁよく言われますけど」


「…なんかムカつく」


またしても何故苛立たれているのかわからないがお互いのために深入りすることは避けた方がいいだろう。


レインはそれっきり黙りきってアリシアの方を見ないまま無言で歩き続けた。


結局レインに“アリスにこだわる理由“を聞くことはできなかったが、アリシアは今でなくてもいいと思い至り、レインの人一人分あいた隣をただ無言で歩いた。


無言の時間が続きただ黙々と歩き続けているとふとアリシアが足を止めた。


どれだけ歩いても変わらない景色のなかで何か猛烈な違和感を感じる。


「…?」


不思議に思い帽子屋が足を止めるとアリシアと目が合い、ようやくそこでレインは猛烈な違和感が何なのかはっきりと分かった。


「真紅の瞳…」


その時“目の前の女“は笑う。


その笑顔はとても無邪気な子供のようで、そんな彼女の笑顔に心臓が高鳴った。


“逃げろ“


レインの頭の中にそんな声が響くが体がいうことを聞かない。


背中に嫌な悪寒が走る。


今まで何度も死線をくぐり抜けてきたがここまでの恐怖を感じたことはなかった。


生きるか死ぬかそんな次元の話ではなく生物的な本能から来る恐れを感じされられた。


“これに近づいてはいけない“


そんなふうに思うほどの威圧感を目の前の女は発している。


「会いたかった」


アリシアはそう言って微笑む。


まるで恋人にでも話しかけるような甘い声はレインにより恐怖を与え嫌な汗が背筋を伝った。


「…次はキミの番」


「俺の…番?」


「あなただけは…私が」


そこまで言うとアリシアはその場にしゃがみこんだ。


それと同時にレインのからだも解放されふらつきながら距離を取る。


「いったたた。…なんで私しゃがみこんで……帽子屋?」


アリシアは立ち上がりレインに一歩近づいて名前を呼ぶ。

だがしかし何度呼びかけても反応がない。

少し腹の立ったアリシアは大きく息を吸って…


「帽子屋!!!レイン・トゥルース」


アリシアが怒鳴りつけるようにそう呼ぶとレインは驚いたように目を見開き肩を震わせた。


「…なん…だよ。そんな大声出さなくても聞こえるっての」


レインは相当驚いたのか言葉をつまらせる。


その言葉にアリシアは少し眉を寄せ反論してレインを睨みつけた。


「聞こえていなかったから大声をだしたんですよ。まったく。しっかりしてください」


アリシアの言葉に困惑を悟られないようにしながらレインは小さく深呼吸をしてから言葉を紡ぐ。


「…わかってるよ。つかてめぇ…」


そこまで言ってレインがアリシアを見ると一瞬真紅の目の女がニヤリと笑っていたように感じた。


「……………っ!」


再び蘇るあの笑顔にレインは反射的に距離をとった。


「………?どうしました?帽子屋様子がおかしいですよ」


アリシアがそう言って近づくとレインは再び後ずさる。


「………?本当にどうしたんです?帽子屋」


そう言って首をかしげるアリシアにレインは、はっとしたような表情を浮かべ眉根を寄せる。


「なんでもねぇよ」


レインはそう言ってアリシアの瞳をじっと見る。


アリシアもどうしてこんなに見られているのだろうと思いながらレインを見つめ返す。


数秒見つめ合うような状態が続いた時ふっとレインは目をそらした。


そんなレインの反応を不思議に思いながらもレインが歩きだしてしまったために、アリシアも後をついていく。


そしてしばらくするとおもむろにレインは口を開いた。


「お前の目…」


「目?」


「…珍しい色してんだな」


「……?ああ。そうですね。この国には緑色の瞳を持つ人はいないですしね」


アリシアはそう言うとじっとレインの目を見る。


「あなたは綺麗な黒ね」


アリシアはどこかうとましげに言って目を逸らす。


「…別にこんな目いらねぇよ」


レインはそっと呟き歩みを早める。


アリシアは最後ぼそりと、彼が呟いたセリフの意味がわからず口を開きかけてから、何も言うことなく再び口を閉じた。

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