鍛練
「よし、魔法だ!」
俺がそう言ったのは、朝に異常なくらいバッチリと良い目覚めを迎えてから、2人に布団の事で謝り倒した後の朝食にペレンアを1つを食べたしばらくの事だった。
「どうしたの? 急に」
そう問いかけてくれたのは、美しい金髪の寝癖が可愛いルアだ。
白い服に金髪は映えるね。
そして、そのスラリとした太ももも黒いニーソとの相性が最高である。
しばらく見惚れていると、
「や、やめて……」
「申し訳ない」
顔をゆでダコの如く赤くした。
心読で覗かれたようだ。
いや、本当、申し訳ない。
「……それで、何が言いたいの?」
次に平坦で声をだしたのは、相変わらずの眠たそうな紅い眼でこちらを見るソウだった。
ワンピースのような白いローブを着ていて少々、味気ない感じはするが銀髪が綺麗で顔もかなり整っていてルアと負けず劣らずの神がかった美少女だ。
「俺が言いたいのは魔法を撃ちまくってスキルレベルを上げたいんだよ!」
「じゃあ、やる?」
「魔力が尽きるまでやるってこと?」
ふっふっふっ、ルアくん、俺は魔力が尽きさせずにスキルレベルと魔力量を上げるつもりなのだよ。
「魔力は無尽蔵にある!」
「ずっと神聖水に浸かってるってこと?」
「そう!」
「えぇ、それはちょっと……」
「なんでだよ」
「……私もいや」
「まじか……」
どうやら皆さん乗り気ではない様子。
まあ、浸かるのが嫌がっているみたいだけど。
「なんでいやなんだ?」
「服が濡れるから」
「出た時に生活魔法のドライですぐ乾かせるだろ?」
「あたし達、白い服だから透けるでしょ!?」
はっ!? そうか。たしかにそれは考えてなかったな。
「……むぅ。それは盲点だった……でも……」
「なんか言った?」
「いや……服が張り付いて集中できなくなるから」
「なるほど」
さて、どうしようか。
俺1人でやってきても良いんだけどそれはなんか避けたい。多分、途中で心細くて心が折れる。
だったら、2人の嫌な所を無くすしかないんだけど……。
問題点は透けると張り付く……か。
服が邪魔なら取っ払えばいいじゃない!
「あ、あんたねぇ!」
「それはちょっと心の準備が……ま、だっ!?」
ソウがなんか言おうとしたところでルアに殴られた。
ソウまで聞こえてたって事は心の声が漏れていたようだ。
「……ルア、痛い」
「あたしは悪くないはず」
「むぅ……」
「まあまあまあ」
「リューキが一番悪いでしょ!?」
それは否定しないけどさ。
「それはごめんって。俺が言いたかったのは水着はどうだろうかって話」
「……それなら良いけど」
「賛成」
「という事はリューキが作るんでしょ? サイズは言わないよ?」
そこに、抜かりはないよ。
何せ俺には鑑定という力が……すみません嘘ですそもそも見れないので……。
ルアが冷やかな目線でこちらを見始めたので、さすがに自重してっと。
「サイズを勝手に合わせてくれるやつを作るよ」
「それなら良いよ」
「ん」
だったら、早速作るかね。
でも、その前に確認しておこう。
「2人はどんな水着がいい?」
「パレオで」
「……黒いビキニ」
「わかった」
なるほどなるほど。こっちの世界に普通に水着がある事に少し驚いたけどそれは今は置いておこう。
とりあえず今は、俺の探究心の深さをとくと見せようじゃないか。
それから、1時間後。
「2人とも着たか?」
「ん、着た。着心地抜群」
「それは良かった。……ルアは?」
「うん。着たけど……どう?」
ルアがそう言って2人は物陰から俺が与えた水着を着て出てきた。
どうしよう。自分で作っておきながら言葉が出ない……。
ルアの水着は、ハイビスカスの花を柄にした赤と白のパレオだ。
ルアは、真っ白な肌をしていて水着と相まって、とても美しいと思った。
胸も昨日、感じた通り大き過ぎず小さ過ぎずな胸を水着が包んでいる。
とても煽情的でつい目を奪われてしまう。
対してソウだが、これもまた、とても似合っている。
上は、フリンジで装飾をしてあって下は、シンプルな黒いビキニだ。フリンジは中心に近づくごとに長めになってくるデザインだ。
この水着を着たソウは、とてもセクシーだった。その白い肌と黒い水着が見事なコントラストを描いていてとても良い。
2人ともしっかりとしたくびれができていて手足も綺麗だ。なんだこの最強美少女の水着天国は……。
「……2人とも、最っ高に似合ってるよ……」
「あ、ありがとう。ってなんで泣いてるの!? いや、気持ちは嬉しいけど、祈らないで! 自分で作ったんでしょ!」
「ふふふ、もっと拝めるの……!」
「ソウはそんなキャラじゃないでしょ!?」
「はっ!? ごめん、正気を失ってた……」
まあ、そんなこんなあって湖に入って魔法を撃ちまくることになった。
俺は雷魔法を、ルアは氷魔法、ソウが火魔法をそれぞれやることになった。
ソウの火魔法はもうすぐレベル10になる。
魔法がレベル10になると魔法はいろいろな派生魔法に分かれる。それは工夫次第だけど。
少し時間が経って、そのソウのレベルが上がったみたいだ。
「……ファイアアロー! ……レベル上がった」
火の矢を20本ぐらい出現させた後、壁にボウッと音を轟かせた後、ソウはそう言った。
「おお! おめでとう!」
「おめでとう!」
「ん、炎獄魔法が派生した。ユニークスキル」
「な、なんか強そうね……」
「単純に強力になったのかもね」
「ん、たいした違いはないかも。火力が大幅アップ」
「結構な違いだと思うんだけど……」
「うっし! 俺も雷魔法を派生させてやる!」
「あたしも頑張る!」
その後もみんなで魔法を撃って、途中から撃っては防ぐを互いに繰り返した。
これがまた、スキルの伸びが速くなるのだ。
ちなみに、水着の防御力はそれなりに高いから危険性はあまり無い。もっとも湖に浸かってる時点で怪我したとしてもすぐ治るんだけどね。
昼食の時間は、湖で釣りをしてそこで獲った魚を食べることになる。
ソウは釣りが初めてだったようでかなり興奮していた。楽しそうでなによりだよ。
魚は特に他の素材とかと違って至って普通の魚だった。……いや、かなりの美味さだったけどね。
効果は特に何も無かったという意味で普通だった。 ちなみに、俺が元々持っていた2本の刀はフライパンと包丁に物理操作で変えて料理を作った。
自分の刀は新しく浸魔金で作り替えようとは思っているが、それはここから出る時に作ろうと思う。
それまでは神聖樹で作った木刀を使う。
それはさて置き、昼食後は再び魔法合戦に興じた。
ここでふと気がづいたことがあるのだが、神聖水に浸かりながらやると疲れないのは勿論の事、魔法をずっと撃っていても余り飽きないのだ。
飽きにくいってことだと思うけど、おそらく新しい感覚を覚えてくるのが判ってくることに原因があるんじゃないかと俺は睨んでいる。
まあ、真相はわからずじまいだけど。
それからも魔力操作や魔力回復速度上昇のスキルレベルが上がり、魔力の最大量も少しずつではあるけど増えていていいこと尽くめだった。
夕飯も昼食と同じようにしてペレンアを物理操作で少しいじったら塩味の部分(幻覚症状の原因)や、酸っぱい部分(麻痺毒)といろいろなアレンジができてさらに美味しくいただくことができた。これが、焼き魚に意外とあったりする。
これには2人も喜んでくれた。
まあ、ペレンアに毒がない部分は無いのかって少し複雑ではあったんだけどね。
お陰で、結構早い段階で無効化スキルが手に入りそうではあるからいいけど。
そろそろ、寝る時間が近づいてきたので湖から切り上げることになった。
「今日はなかなか充実したねぇ」
「ん、結構楽しかった。特にルアの魔法をやすやすと溶かす瞬間は特に……」
「覚えてなさいよ。絶対負けないぐらいに上達してやるんだから」
「負ける気はさらさらない」
「うぐぐぐっ……」
「ふっ」
最初は乗り気じゃなかった2人が楽しめたようでよかったよ。
さて、俺はまだやることがあるからな。
「2人は先に寝て良いよ。俺はまだやりたいことがあるから」
「あー、リューキ待って」
「どうした?」
「素振りとかやるんだよね?」
「まあ、そうだけど」
「……わたし達もやりたい」
「リューキが良ければ、教えてくれない?」
これは予想外の申し出だ。
正直かなり嬉しい。
1人だとどうも限界というか、経験値的に厳しい気がしてた。
「おう、わかった。でも先ずは体術から教えることになるけどいいか?」
「いいよ!」
「……一緒に強くなる」
「おう!」
一緒に強くなる。その言葉を聞いた時、なんだか少し引っかかった。なんというかソウの本気度というかそんな感じのものを感じた気がした。
気のせいかなと頭を振る。
早速、練習に入ったのだが……練習を始めてしばらく経つと。
「はっ!」
「ふっ!」
2人が俺に向けて拳を突き出すが俺はそれを平手で簡単にいなす。
「2人とも踏み込みが甘いよ。ルアはもう少し速く。ソウはちょっと弱いかな」
「はあ、はあ、結構……難しいね」
「はあ、はあ、今まで……はあ、ゴロゴロしていた、弊害が……」
ルアが手を膝につけて息をしていて、ソウに関しては、四つん這いで倒れている。
2人は体力がとてつもなくない。先ずは体力作りからかもなぁ。とりあえず今日はこのままの方針で行こうとは思うけど。
「ま、筋はいいから上達は速いかもね。どうする? 今日はもう休む?」
「あたしを舐めないで……!」
「……わたしもまだまだ」
おお! 負けん気の強い子は先生好きだぞ。
しかし、2人ともアレだな。
「意外と負けず嫌い?」
「そうよ、悪い?」
「わたしは天才だからルアには負けられないの」
少し口調が変わってるのは気のせいだろうか。気のせいだな。
「なによ、その言い方、魔法で勝ったからって」
「……ルアには負けない」
「体力ないくせに。だから今のところあたしが一歩リードね!」
「魔法で勝ってるからわたしが上」
「魔法は今は関係ないでしょ!」
「そんなことはない」
「ぐぬぬ……」
「むぅ……」
2人は互いに睨みを利かせ。
「「ふん!」」
同時にそっぽを向く。
2人は仲が良いなぁ。そんなことを言ったらどこがって言われるような状況だけどね。
多分、共に高め合える関係になれると思う。そのうち俺もその中に入るわけだけど。
「じゃあ、再開しようか」
「はい!」
「ん!」
これが終わった後は、みんなそれぞれの布団で寝ることになった。
次の日、布団のお陰で筋肉痛に悩まされることは無かったようで布団の有り難みに感謝していた。
そうして毎日、基本的にはこのような日課を俺たちはこなしていくことになる。
なかなかの充実ぶりだな。