初めて知った担任の生い立ち
水曜日の六限目のロングホームルームの時間、担任の山上哲平はクラスの生徒に一枚の用紙を五列ある席の一番前に座っている生徒に渡す。それを前の生徒は一枚ずつ取り、順に後ろへ回していく。
哲平の高校では、ついこの間、学園祭が終わったばかりだ。あと一週間もすれば中間テストが始まる。学園祭が終わったばかりなのに、中間テストの勉強をしないといけないという気だるい空気が校内に広がっていた。
哲平が話そうとしている事は、自分が受け持っている学年だけ行われる課外活動だ。一クラス単位で、一日その活動をしているところに見学に行き、色んな体験をし、レポートを提出するというものだ。どこを課外活動をするのかはクラスで第三希望まで話し合い、担任がアポを取り、日程を決めていく。これは哲平の高校では、二十年前から毎年行われている。
哲平は全員に用紙が配られたのを見届けると、どういう意図でこの用紙を配ったのかを話す事にした。
「全員、用紙が渡ったな。二週間後にクラス単位で課外活動が行われる。今日はどこで課外活動をしたいのか決めたいと思ってるんだ」
用紙を見ている生徒に哲平は話す。
「課外活動ってどこでやるんだよ?」
生徒の一人である原口仁が用紙から目を離して哲平に聞く。
「どこかの保育園や幼稚園でもいいし、工芸品などの体験学習でもいい。とにかくどこかに課外活動をしないといけないんだ」
「その課外活動って何日もやるのか?」
引き続き、仁が聞く。
「何日もやるものではなくて一日だけの課外活動だ。それを各自レポートを書いてもらう」
哲平はレポートがあることを生徒に伝える。
「えー、レポート?」
「レポートなんて書きたくないなー」
レポートと聞いた途端、口々に書きたくないという声が聞こえてくる。
自分の反応通りだな、と哲平は思う。
哲平も高校や大学時代、レポートを書くのが苦痛で仕方ないくらいだった。生徒達の反応もわかると思ったのだ。
「レポートといっても堅苦しくなくていい。作文みたいな感じでいいんだ。課外活動が終わってから、原稿用紙を何枚か渡すから書いてくれ」
哲平は簡単なものでいいと生徒達に伝える。
「絶対に参加しないといけねーのかよ?」
クラスのヤンキーの増田義隆が面倒臭そうにして哲平に聞く。
「なるべく参加するようにな。…ていうか、増田はサボる気なんだろ? バレバレだぞ」
哲平は義隆の魂胆は見え見えだと言う。
自分の思惑がバレてしまった義隆は鬱陶しそうにチェッと舌打ちをする。
「そんな顔するなよ。学校の行事としてやるんだから…」
「授業と違って寝る事が出来ないじゃねーかよ」
ボソッと呟く義隆。
「普段の授業は増田が寝るためにあるんじゃない」
哲平は授業で寝る事に感心しないなというふうに言う。
「では、どこに課外活動をしたいのか、誰か案はないか? 第三希望まで出さないといけないんだ。みんなが参加したいと思えるような課外活動がいいんじゃないかな」
本題から逸れてしまったと思った哲平は、課外活動に話を戻す。
だが、なかなか意見が出ない。
「さっきも行ったけど、どこでもいいんだぞ。堅苦しい感じではないし、どこに課外活動に行ったってみんなの貴重な体験が出来ると思う」
哲平はどこで課外活動しようと経験が広がるのではないかと話す。
「先生、老人ホームでお年寄りと交流を持つのはどうですか?」
どこで課外活動をしたいのか案が出ない中、生徒の一人の高田悠美が意見を出した。
「それはいいな。普段、なかなかお年寄りと交流が持つ事が少ないからな。みんな、どうだ?」
哲平は良い案だと頷いて言う。
「それでいいんじゃねーか? ヤマテツ、必ず第三希望まで出さないといけねーのか?」
仁は第三希望まで決めるには面倒だなと思いながら聞く。
「いや、必ず第三希望まで出さないといけないってわけではないんだ。万が一っていうこともあるからな。一応、老人ホームで決まりだな。何軒か老人ホームに電話してみるよ。色んな老人ホームがあるから、第三希望まで決める必要がないかもしれないな。でも、どこもダメならもう一度決める必要がある」
哲平は課外活動が終わるまでさらに忙しくなるなと思いながら言う。
そんな中、哲平の生徒である赤谷夏希は窓の外を見ながらぼんやりと聞いていた。
その日の放課後、夏希はクラスで仲の良い仁と今竹美夕と一緒に渋谷に出掛ける事になっている。
前から約束をしていたのだが、夏希がどうしても遊びにいくという気分になれなかった。だが、ようやく三人で遊びにいく決心をしたのだ。
「夏希、行こうぜ!」
仁がいつもの笑顔で夏希に言う。
「赤谷、ちょっと・・・」
哲平が夏希に声をかける。
「なんだよ?」
「話があるんだ」
「今から? 明日にしてくれよー」
夏希は今から遊びに行くのに・・・という思いが声に出ていた。
「少しだけだよ。そんなに時間は取らせない」
神妙な面持ちで言った哲平は、まっすぐ夏希を見て言った。
「わかったよ。ホントに少しだけだよ」
哲平の気持ちに根負けしてしまった夏希は仕方ないという表情をする。
「仁、美夕、すぐ終わるから待っててくれ」
夏希は二人に待つようにお願いする。
「オレ達が先約なんだけどな」
美夕は勝手に割り込んでくるなよと言わんばかりに哲平に文句を言う。
「わかってるよ」
哲平は苦笑いしながら言う。
そして、二人は職員室の片隅にある個室に入った。
何の話か見当がつかない夏希は、なんだろうと思っていた。
「赤谷の母親が亡くなって一ヶ月経ったが、どうだ?」
哲平は柔らかい口調で聞く。
「どうって・・・普段と変わらないけど・・・」
夏希は哲平の質問の意図がわからないというふうに答える。
「普段と変わらないのはわかっているが、最近、ぼんやりとしてる事が多いからな。といっても、ホームルームの時だけで、授業は体育で男子しか見てないからわからないけど・・・」
夏希がぼんやりとしている事に気付いていた哲平は、夏希の母親が亡くなった事が関係しているのではないかと思ったのだ。
一ヶ月前、夏希の母親、富栄は同居していた男性に殺害されてしまったのだ。その犯人を夏希が探し当てたのだ。体育祭の応援団にも選ばれていたため、哲平は夏希の身体を心配していたが、その心配をよそに夏希は独自に捜査したのだった。
事件を解決する前に警官と共に同居男性に会いにいった。見た目は大人しそうだがカッとなる性格だと聞いていた。それを一番に実感したのは事件の話をした時で、お前なんかいなければ富栄に暴力を振るわなかった、と言われてしまい、カッとなった夏希は犯人が落とした銃を持って殺そうとした。だが、それは警官によって阻止された。
夏希は今でも銃を持った感覚が忘れられないでいた。初めて持つ銃は、自分でも人を殺してしまえそうな気がした。
だが、そんなことをしてしまえば、自分の人生がどうなるかは夏希にだってわかっていた。高校生で人生が終わったといっても過言はない。自分には夢がある。まだやりたい事がある。人を殺して、少年院に送致されてしまうのだけは嫌だった。
しかし、あの時はどうしても犯人である同居男性に復讐をしないとやっていられなかった。その思いだけが夏希に銃を手にさせた。
その時の情景が今でも鮮明に思い起こさせた。
「まだ母親が亡くなって一ヶ月だから立ち直れというほうが無理な話なんだけどな」
何も話さない夏希に、たった一ヶ月で立ち直れというほうがおかしいと話す。
「ぼんやりしてること、気付いてたのかよ」
やっと口を開いた言葉はこれだった。
「心配してるんだぞ。父親の居場所はわからないんだろ?」
「わからねーよ。わかってたら施設になんていねーよ。まぁ、わかってても父親の元には行きたくないし、行く気もない。探す気もねーよ」
夏希は富栄が離婚してからの父親の居場所を知らないと答える。
浮気をして富栄と自分を裏切った父親と二度と会いたくないというのが夏希の本音だった。
「そうか。じゃあ、天涯孤独っていうことになるのか・・・」
哲平はため息まじりで呟く。
夏希の話を聞くと、自分の境遇はまだ恵まれているなと思ってしまう。
「なんだよ? ヤマテツらしくねーよな。何かあったのかよ?」
いつもの哲平と違う事に気付いた夏希は、何かあったのかを聞く。
「オレも母子家庭でな。中学二年の時に両親が離婚した」
初めて自分の事を生徒に話した哲平は、夏希の気持ちがわかる気がしていた。
中学二年の夏、哲平の両親は離婚した。長年、父親が母親に暴力を振るっていた事からようやく離婚が成立した。
哲平の父親は普段真面目に仕事をしていたが、酒が入ったり機嫌が悪いと母親に大声で怒鳴り散らして殴っていた。哲平は三つ下の弟と押し入れで事が収まるまで隠れていた。
哲平が中学に上がってからは成績が悪いと哲平にまで暴力を振るうようになっていた。顔にアザを作って学校に通う事があり、それが担任の目に止まり、そこから家庭環境が良くないという事で、両親の親族の耳に入った。父親の祖父と祖母からは、本当に済まない。長年、息子の暴力で悩んでいるとは知らなかったと泣きながら謝られた。
そして、両親の離婚が成立した時、父親の祖父から何十万という大金を渡された。だが、母親は一切受け取らなかった。哲平が今まで苦しんできたんだから、お金くらい受け取ってもいいじゃないかと言ったが、母親は受け取った事で暴力をチャラにしたくない。これで父親が反省していると思いたくないと言ったのだった。
それでも哲平は納得しなかった。今でもあの大金を受け取っていれば…と思う事がある。もし、受け取っていれば、その時だけでも家庭が楽になったのではないかと思っていたからだ。
両親が離婚してからは、いつもどおり同じ中学に通ったが、名字が変わったからといって同級生達は普通に接してくれていて、友達には恵まれていた。哲平にとってはそれが一番嬉しかった。
元々、クラス中心にいるような生徒だったが、両親の離婚を見せずにずっと学生生活を送っていた。父親に暴力を振るわれていた時も家の階段でコケたと言っていた。だが、担任にはそれが通じなかった。
もし、あの時、担任が気付いてくれていなかったら、今の自分はいなかったかもしれない。友達や同級生達に偽りの自分を見せて、学生生活を送っていたかもしれない。そう思うと、担任には感謝しかなかった。
哲平の母親は朝からずっと働き詰めで、哲平と弟を大学まで通わせてくれた。離婚後に工場の事務で働き始めた母親は、今でもそこで働いている。
中学と高校ではテニス部に所属していた。きっかけは小学生高学年の時に行った林間学校でテニスをやり楽しかったからだ。高校三年の最後の大会では、ダブルスで出場が出来た。準決勝まで勝ち進んだが、そこでストレート負けをしてしまったが、最後の大会で試合に出る事が出来た喜びは、何事も変える事が出来ないものだった。
大学は奨学金を借りて通い、テニス部には所属しなかったが、役員をしたりボランティア活動をした。三年の夏休みには二週間の短期留学をして、語学や勉強や他の外国留学生に日本の事を教えたりした。大学では普段やることの出来ない貴重な体験を全て経験した。
そんな中、教師を目指そうと思ったのは、四年生に上がる前の春休みだった。それまではどこか就職出来ればそれでいいと思ってきたが、テレビでイジメのニュースを見て、教師になりたいと思い立ったのだ。
教職課程の授業は取った事があったが、その時はピンと来ることはなく、単位を取ったままでいた。
イジメをなくしたい。そんな思いがあったが、現実に難しい事くらい哲平にだってわかっていた。今まで担任を受け持った中で一度だけイジメにあった生徒がいた。その生徒から相談される事はなかったが、辞める時に教えてくれたのだ。
それを聞いた哲平は、なぜ早くに相談してくれなかったのか。学校を辞めずに頑張ってみようと、その生徒に言ったのだが、聞く耳を持たずに学校を辞めてしまった。
自分の力不足だと痛感した哲平は、どうしたら生徒に信頼される教師になれるのか。自分は教師としてダメな教師なのではないかと、悩み葛藤する日々が続いた。
それは今も同じで、いくら自分が頑張ったところで、生徒がSOSを出してくれないと対応が出来ない。今でもその生徒の事が悔しくてたまらないのだ。
哲平はどの教師よりもイジメに関して考えていると自負している。
「・・・そうなんだな。初めて知った」
夏希はいつも元気な哲平にそんな生い立ちがあるとは知らなかったという口調で言った。
「そんなこと今まで話した事なかったからな。話したところで自分の家庭環境は変わらないからな。それより赤谷の気持ちはどうなんだ?」
哲平は夏希がこれから先どう思っているのかを問う。
「ぼんやりしてても学校に来る気はあるんだけどな。ぼんやりする理由は母さんの事だけじゃないんだよな」
夏希はぼんやりする理由は、富栄だけではないと答える。
その答えを聞いた哲平は、どこかピンときたようだ。
「もしかして、性同一性障害の事で悩んでいるのか?」
哲平は直接聞いてみる。
「そうだよ。前より真剣に悩むようになってな。高校卒業したらどうしたらいいのかって思い始めてるんだよ」
夏希はため息まじりで答えた。
これから先、性同一性障害で今のまま過ごしていくのか。それとも性転換手術をして生きていくのか。これからどうしたらいいのか、ずっと悩んでいた。
「赤谷はどうしたい?」
哲平は夏希自身がどうしたいのかを聞く。
出来れば、今のままの夏希でいて欲しいが、本人がどう思っているかわからないため、安易にそのままでいて欲しいなんて言えなかった。
「今はそのままいたいと思ってる。でも、将来的には・・・」
その先が言えないでいる夏希。
言ってしまえば、それを実行しないといけないような気がしていたからだ。
「そうか。まぁ、今すぐ決めろというわけではない。赤谷が手術をしたいと思っているのならそれでいいと思うけどな。ただ、手術をするのなら相当の覚悟がないといけない。赤谷が思っている以上に世間の目が冷たいからな」
哲平は夏希が決めた事ならそれでいいが・・・という前提で話した。
それを聞いた夏希は、事が全て簡単に進むわけではないという事を胸に留めておくことにした。
「わかった。自分の人生、慎重に決めないといけないな」
夏希はどこか感慨深い表情で呟くように言った。
その言葉を聞いた哲平は、改めて難しい問題に直面しているなと実感していた。
哲平との話が終わった夏希は速攻正門に向かった。遅くなった事を詫びると渋谷に行く事にした。
高校から渋谷まではバスと電車を乗り継いで小一時間かかる。渋谷に着いた時には午後五時半前だった。
三人は109で買い物を済ませると、晩ご飯にしようということでファミレスに入って、オーダーを済ませるとホッと一息をついた。
「夏希、ヤマテツの話ってなんだったんだよ?」
仁は水を少し飲んだ後に聞いてきた。
美夕と待っている間、気になっていたのだ。
「ちょっと色々聞かれただけだよ」
「なんだよー? 気になるじゃねーかよ」
仁はえーっという表情をする。
「あまり深く聞くなよ」
夏希の隣に座っている美夕が仁に言う。
「わかってるよ」
美夕にそう言われた仁は口を尖らせる。
「別に大した事じゃねーよ。最近、ぼんやりしてたからどうしたんだって聞かれてただけだよ」
仁の様子にフッと笑いながら、どんな話をしたのかを教える夏希。
「母親が亡くなって一ヶ月か・・・。四十九日までまだもう少し時間あるから、あまり無理するなよ。それでも休まず学校に来てるほうが偉いと思うけどな」
美夕も夏希がぼんやりしている事に気付いていて、母親の事だろうなと思っていた。
「学校に来て授業受けないと卒業出来ないからな」
夏希は当たり前のように言う。
「そりゃあ、そうだ」
仁は夏希の言うとおりだというふうに頷く。
「四十九日は休むのかよ?」
美夕が聞く。
「いや、休まない。四十九日は日曜日で休む必要がないからな。施設の人とやる予定だ」
「日曜日なら休む必要がないよな」
仁がそう言った後に最初に美夕がオーダーしていたものが運ばれてきた。
美夕がオーダーしたものは、エビドリアとサラダとドリンクのセットだ。エビドリアを見た瞬間、美味しそうと思った夏希は、自分も同じものにすれば良かったと思っていた。
「四十九日っていってもどこでやるんだよ?」
仁は会場をどうするのか、疑問に思っていた。
「母さんがやってた店でやるんだ。四十九日をやるにはふさわしくないだろうけど、店の客達も来たいだろうし、自分には身内がいないからな」
夏希は富栄が経営していたスナックでやろうと考えていて、それを施設の職員にも話してあるのだ。
「まだ店は引き払ってねーんだな」
美夕はエビドリアを食べながら言う。
とっくに富栄の店を引き払ったと思っていた口調だ。
「うん。四十九日が終わるまでそのままにしておこうと思ってな。店の客に来て欲しいということは、伊藤さんにお願いしてるんだ」
「伊藤さん・・・?」
初めて聞いた名前に首を傾げる美夕。
それは仁も同じだった。
「店の近くに住んでる常連さんだよ。ボクも知ってる人だから頼んでるんだ」
四十九日が終わるまで気が抜けないなと思いながら答えた夏希の元に、夏希と仁がオーダーしたものが運ばれてきた。
四十九日をやると決めた時、客達にも来て欲しいという思いがあったが、連絡先を知らないため、伊藤にお願いしたのだ。夏希の話を聞いた伊藤は快く応じてくれた。
富栄の店で四十九日をやると決めたのは夏希だ。施設の職員と相談して、寺に来てもらう事になっているが、夏希の計画を聞いた寺側はあまり良い顔をしなかった。だが、説得をして来てもらう事になった。
(母さん、自分の店で四十九日をやるってわかって喜んでくれるかな? 今まで好き勝手にやってきたから、これくらいしか出来ねーけど、四十九日だけでも母さんを喜ばせたい)
不謹慎だが、夏希は富栄に心配かけたお詫びで喜ばせたいと思っていた。
「それより課外活動なんてな」
仁は今日のロングホームルームで決めた課外活動の事を思い出した。
「老人ホームなんてめったに行かないから良いんじゃねーか」
美夕は初めて行く老人ホームが嫌ではないという感じだ。
「そうだけど・・・。頭が堅い老人ばっかなんだろうな」
老人ホームに行くのが気が重いという口調の仁は、大きなため息をつく。
「決めつけるなよ。中には優しい老人もいるって・・・」
苦笑しながら言う夏希は、よっぽど老人にいいイメージを持っていないんだろうなと思っていた。
「なんか、増田みてーだな」
美夕は義隆をみているような気がしていた。
「増田と一緒にすんなよ」
仁はゲッという表情をする。
「いやいや・・・サボる気の増田と頭が堅い老人だっていう仁は似てるような気がするけどな」
「だから、やめろって・・・。なんで、増田なんだよ? オレはアイツみたいにサボる気もねーし、授業はちゃんと受けてるよ」
仁は決して義隆と同じではないと言い切る。
そう言い切ってしまう仁に夏希と美夕は思わず笑ってしまう。
「なんだよ?」
「いや、頑固だなって思ってな」
笑いを堪えて言う美夕。
「それは言えてるかもな」
夏希も納得しながら言う。
「夏希まで・・・。頑固なところはオレの良いところだよ」
仁は開き直ってしまう。
「小学生の体育祭からリレーに選ばれてるのと頑固が取り柄ってか?」
意味ありげの表情をしながら美夕は言う。
「そうだよ」
仁はやれやれ・・・という表情をして頷いた。