8 ちょっと面貸せや的なノリで
それはある暖かな日差しが心地よい春の日のことでした。
昼ご飯を作るニコルを手伝うことなど一切しないで、あたしは日向ぼっこ的なものをしてうとうとしていました。
すると、玄関の戸を強く叩く音が聞こえ、あたしは慌てて戸をあけました。そこまでは覚えています。
……どうしてこうなったんだろうね、ほんと。
「ちょっと面貸せや、あァ?」
ほのぼのと暮らすあたしのもとに現れた、ガラの悪い兄ちゃん。が、数人。
なんていうの、これ。不良? ヤンキー? 頭イカれてるやつ? ってか、なんか睨んでくるし超怖いんですけどー!
「に、に、ニコル、この人たち誰っ!?」
「こ、この人はあのそのえっと、借金の取り立て屋というかなんというか……!」
「あんた借金あんの!?」
こそこそと二人で話していると、あたしたちのすぐ後ろにあった壁が殴りつけられた。ひいぃ穴開いてる! っつか、今火みたいなのでーへんかった? なにこれなにこれ、もしやこれは異世界によくある魔法ってやつ!?
むっちゃ怖いけど、でも楽しそうやん! ってそれどころじゃねえええ!
「お、お金はいつか返しますからああああ!」
悲鳴を上げるニコル。いや、悲鳴じゃない奇声だ。
それにたいしてガラの悪い兄ちゃんたちはというと。
「いつ返すんだよ!」
「今でしょおおぉぉ!!」
後ろの取り巻き盛り上がってんじゃねえよ! 古いネタ使ってんじゃねー! あと声うるさい! 野太い声出すな、頭痛いわ!
だめや、なにこれツッコミ役ってこんな体力使うん? お笑い芸人すごいな! 特にツッコミ役すごいわほんま! もう、盛大な拍手を送りたいわ!
そしてボケるのちょっとやめてくれや異世界の住人ども!
「さっさと金出せよ! こんなチビ育てる金あるんだったら、借金返せるだろうよ!」
「それともこのチビ売るか?」
ガラの悪い兄ちゃんたちは、あたしの服をつかんで持ち上げる。首絞まるからやめろ!
というか、ここでニコルがあたしを売るとか言ったらどうなるねん。……え、この話まさか終わり?
まだ始まって一週間ちょっとしか経ってへんねんで、この話。マジでどうなんの?
「そ、その子は返してください! 王妃様から預かった、元姫様なんです!」
元姫設定効かなかったんちゃうんかい。ニコル、あんた嘘つけないタイプちゃう?
「マジかよ、こいつが噂の追放された姫?」
「どーりで気に食わないガキだと思ったよ」
あたしが元姫だとわかると、用無しになったのかそのまま手を離した。おい、落とすな!
突然落とされたせいで頭打った。めっさ痛いねんけど、慰謝料払ってくれへん? あと治療代。
「帰ってください!」
ニコルは叫んだ。おおぉ、ニコルが音符をつけてへん! あ、でもビックリマークは付けてんな。はいアウトー。
「じゃあ、仕方ねえから今日は帰ってやるよ。また来るからな!」
カッコつけたストーカーみたいな台詞を吐いて、男どもは帰って行った。はいさよーならー二度と来ないでくださいねー。
振り向くと、ニコルが絶望的な顔をして座り込んでいた。え、なに!? そんなにあいつら怖かったん?
「ご、ごめんねコノコちゃん。私、私借金あって。だから、ほんとはあなたを育てるような余裕なんかないの。だ、黙っててごめんね」
ニコルはぼろぼろと涙を零しはじめた。ええええ!
ちょっ、あたし人の泣き顔見るのが一番嫌やねんけど! こういう時、気の利いたことなんも言えへん自分も嫌やし!
「に、ニコル? あたしは別に気にしてへんし、えーよ? だから泣かんといてくれへん? あたしそういうの苦手やねん」
「苦手って」
ニコルはふふっと笑った。なんや、笑えるんかい。てか、あたしなんかおもろいこと言った?
ま、とりあえずニコルが笑えばそれでええか。
「ニコル、昼ご飯はチャーハンやろ。ちゃんと作ってや」
あたしがそう言うと、彼女はまた笑って「はいはい」と言った。
――――あたし、働こう。バナナ拾い……は、やめよう。