6 サル……って、いやいやどこがやねん
「どこがサルやねん!」
目の前の毛むくじゃらを殴って、あたしは叫んだ。どこがサルやねん。何度でも言ったるわ。
目の前におったんは、どー見てもサルやなかった。みんなサルやサルや言っとったけど、どこがやねん。オオカミやん。
いや、オオカミ、か……? うーん、ちょいちゃうかな。
顔はオオカミ、毛の色ピンク、体つきはサル、というよりゴリラちゃうか……?
しかも、結構でかい。こんなんが大量におったら、そら足の踏み場なくなるほどバナナ消費するわ。なるほどな、納得いった。
って、そうじゃない!
「これ、ほんまなに!?」
「サルよ」
クイン王妃、平然と答える。彼女に向かってサル(?)たちが攻撃を仕掛けようとしてんねんけど、王妃による首チョップでバンバン気絶しとる。お母さん……。
それにしてもこの生き物、ほんまなんなん? 怪しげすぎへん? 異世界、怖すぎやろ。
つか、毛の色ピンクって、気色悪いわ。キモい通り越して、キショいな。
「大丈夫よ、コノコ。サルは簡単にやっつけられるから、あなたでも大丈夫。さあ行きなさい!」
「ちょぉぉぉおお!?」
気付けばあたしの周りには、6匹のサル(?)が。え、え、この状況なに?
しばらく考えて、やっと状況を理解した。その時の感想。
――――王妃、どんだけバイオレンスやねーん(笑)
今、あたしを放り投げたで? それも、異世界住人曰くサルの群れの中に。かわいい子には旅をさせろ? いやいや、ちょっと、いやちょっとどころではなくあかんのちゃう? さすがに。
これ、児童虐待にならへんの? あたし、一応5歳なんですけど?
5歳の少女(姫)を凶暴な動物の群れに放り込んだ王妃、裁かれへんの? 王妃やからって、やっていいことと悪いことがあると思うで? あん?
そう思ったあたしやけど、その前にこいつらを処理せなあかんらしい。それもこれもクイン王妃のせい。
人使いの荒い王妃やな。あたし嫌やでこんなお母さん! フライパンで我が子の頭を叩いて殺すお母さんもどうかと思うけどな!! あたしのお母さん、二人おるけどどっちもろくでもないな!
奇声を上げてあたしに飛びかかってくるサル。とりあえず前世でちょっとやってた空手もどきを駆使して蹴っ飛ばす。飛んでいく。あ、ちょっと飛ばしすぎたな。
ってか、おい王妃。拍手してへんと手伝えや。
使えない王妃はほっといて、次のサルの顔面にアッパーをくらわせる。空高く飛んでいく。あれ、5歳のあたし、力強ない? 地球より重力が軽いっていうの? そういうやつ?
ま、知らんけど。(大阪人)
というか、まだサル残ってたわ。
「サルなんか消えてまえ~~~~っ!」
叫びながら、後ろから飛びかかってこようとするサル2匹をまとめて蹴散らす。ふー終わった終わった。
手をパンパンはたいてほこりを落として、クイン王妃の近くに走って行く。王妃は「よくやったわね!」と言ってあたしの頭を撫で、抱きかかえた。うわっ、王妃力持ち!
すると彼女は、人差し指を唇に当て(つまりあたしを片手で抱いている)「でも~」と語尾を伸ばしながら言った。な、なんやねん。文句か?
「口調が荒かったから、姫失格ね。平民から努力を積み重ねて、ランクアップして姫の地位を勝ち取りなさい。うちに姫は二人もいるのよ」
王妃は怪しげな笑みを浮かべてあたしを見つめる。ま、待って。意味が分からへんのやけど。
平民? どういうこと?
「2525番地のニコル、今日からあなたが親としてこの子を育ててね。名前はコノコよ」
「承知いたしました、王妃様」
いやいやいや……いやいやいやいや! 待って! 待って待って!
いや、待ちやがれこの野郎! なんやねんそれ!? 親だよねあんた!?
「というわけだからコノコ、今日からニコルと暮らしてね♪」
「お、お母様……?」
不敵に笑うクイン王妃。ちょっと、王妃? 親権放棄っすか? んなことできんの?
つか、それ王妃の独断じゃ……。
あたし、コノコ・トアル。前世での名前は土田彩絵。
姫として産まれてきたはずが、なぜか平民になった。