4 寝坊助の王妃様
「王妃様、王妃様!」
メイドさんは遠慮がちに声を出して、ベッドで寝ているクイン王妃を起こそうとしていた。彼女、爆睡。起きへん。まったく反応せえへん。勘弁してや。
まあ、あたしには別に関係ないんだけど、メイドさんがマイ米知らないって言うから。あたしだってそんな詳しくは知らへんから、聞かれたって困る。そういうときは、教わった人に聞くものやん?
「ん~……なぁに? ルサ、そんなに呼ばなくても起きてるわよ」
起きてるんだったら起きているとわかるような態度をしてほしい。まったく動かへんかったら、そらきづかへんわな。
というか、このメイドさんルサっていうんだ。これからはルサって呼べばええんやな。
「コノコ様が、マイ米というものを知っているらしいのですが、王妃様は知っておられますか?」
ルサはそう言って王妃を見つめた。そんなことで起こされた彼女の気持ちは、何となく分かった。顔に出てる。
明らかに、眠そうで嫌そうで、そして面倒くさそうにしていた。そんな顔せーへんでもええやん。あからさますぎるやろ。
「マイマイ?」
「違います王妃様。マイマイではなくマイ米というお米のことでございます」
マイマイって、カタツムリのことやんな。知ってる。
クイン王妃は「ああ」と間延びした声で頷いた。
「知ってるわよ」
知らないと言われたら困る。あたしが見た光景は何やったんや、と尋問しなければ気が済まない。
そんなことにならないでよかったと思いながら、あたしは母親である王妃を見つめた。キレーな顔してはんなあ……。
ま、あたしやお姉さまお兄様みたいな美景が生まれんのやから、そら、美人やろうな。
ちなみに、あたしのお兄様お姉様は上から兄・姉・姉・兄という名前である。そのまま、というか、最後の方はとんでもない名前や。
なんやねん、コイツって。だから、呼ぶときはコイツお兄様やで? 言うのも気が引けるわ!
そんなアバウトな王家。末っ子。コノコ・トアルです。
元の世界(地球の日本の大阪)では土田彩絵。異世界ではコノコ・トアル。
不安なことしかないこの異世界で何とかやってるようなやってないようなやってないような……うん、なんもやってへんな。
「そうだ。コノコ、あなたに仕事を与えるわ」
「仕事?」
そう、この異世界ではいわゆる『働かざるもの食うべからず』が一般常識となっている。口分田が6歳以上の男女に配られたように、仕事も配られるのである。
あたしはまだ5歳だけど、王家の人は将来この国を背負わないとあかんから、働かなあかんらしい。でも、あたし3女やし、多分王家継がへんで?
「コノコの仕事は、バナナの皮拾いよ」
「バナナ?」
の、皮……拾い?
ようわからんけど、仕事らしいです。なんやねん、それ。