14 バナナの皮拾い開始
「ここだって! コノコちゃん!」
「ニコルなんでそんなテンション高いねん」
あたしたちがおじさんと元姫のおばあちゃんに案内されたどり着いたのは、殺風景な荒地だった。ただ、大量のバナナの皮が散乱しているだけ。シュールやな。
というか、こんなところのバナナの皮拾ってなんになるんや。
「じゃあ、コノコちゃん頑張ってね」
ニコルはそう言ってあたしに手を振り、元姫たちと一緒に去ろうとする。
え、え、ちょっと待って? まさか、6歳のか弱い少女を置いてけぼりにとかせえへんやんな?
「ばいばーい! 拾い終わったら帰ってきてねー!」
予想的中。
おいおいおい! 帰られへんわ! あたしそんな記憶力よくないわ! つかどっちかっつーと方向音痴やしな!
てゆーか、拾ったとしてそれをどこに入れればええねん! もー、ほんま異世界っていい加減やな……。ツッコミすんのも疲れるわ。
「あ、ごめんなさい入れ物渡すの忘れてた」
元姫さんがそう言いながらあたしに籠を渡してくる。……籠。
ちっさ。ちっっっさ!
「こんなんにこの量のバナナの皮入るわけないやん!」
思わず叫ぶと、元姫さんは微笑んだ。
「工夫よ、工夫」
……足らぬ足らぬは工夫が足らぬ。今あたしに足らへんのは、対応力やわ。この状況をどう切り抜ければいいのかなんてわかりません。無理です。
というわけで、一人になってさっそくバナナの皮拾いを開始した。腰が痛い。姫になる前におばあさんになりそうやわ。
小さい籠にどうやってバナナの皮を入れればいいかわからなかったから、一つの場所にとりあえず集めておくことにした。でも、ほんまいじわるやわ。もうちょっと考えてくれたってええやん。
「疲れた……」
あたしの目の前には、バナナの皮の山がある。あたしよりもずっと高く積まれている。
ん? あたしどうやって積んだんやろ。というか、こんなに集めてへんと思うねんけど?
「誰かおんの?」
自分で言ったくせに、悪寒がしてきた。誰かいるとか。そんなん怖すぎやわ。
いやほんまこっわ! こっわ! 勝手にバナナの皮集めるとか怖すぎやけど!
いや、あたしとしてはありがたいんやけど、でもその正体がわからへんってのはちょっと気持ち悪い。え、え、まじで誰?
すると背後にあった草むらがガサガサと音を立てた。こっわ! こっわ!
やめて! マジやめて! ほんまあたしこういうの無理やから!
「……誰?」
「ぬおおおお!」
みっ、みみ、耳元で声したんやけど! 誰って言われたんやけど! そっちこそ誰!?
軽くパニック状態なあたしの耳元で、また声がする。
「なんでここにいるの?」
「お前は誰やーっ!」
なんでかって!? バナナの皮拾ってんねん! バナナの皮拾うためにいんの!
てゆーか、そうじゃなくて、だから誰ですか? マジで怖いです。いやほんとに。
そしたら、目の前に男の子っぽいのが現れた。うわ、ほんとここ異世界やわ。突然現れるとかほんま異世界すぎるわ。
「君は誰?」
「うおお……あ、あたしは土田……じゃなくて、コノコ。コノコ・ニコニコ」
無理やわ、自分の名前がコノコ・ニコニコって。なんやねんそのネタみたいな名前。『コ』率高すぎやし。
てか、君とか言う人初めて見た気がする。怖っ。
「僕は、アルヒト」
「ある人?」
「アルヒト」
「アルヒト……」
そのまんまやな、ほんまに。ある人でアルヒト? わからんけど、多分そうやろ。
異世界適当すぎてほんまに意味わからんわー。ある人でアルヒトとか意味わからんわー。
そろそろこの名前ネタは慣れてきたから笑わへんけど、異世界の人のセンスどうなってんねんやろ。ちょっと頭ヤバイ人なんかな。
「で、ある人……じゃねーわ、アルヒトは何してんの?」
「バナナの皮拾い」
アルヒト即答。バナナの皮拾い、流行ってんのかな。それとも、こいつも仕事?
「あー、それ、あたしの仕事やから。……手伝ってくれんの?」
「仕事は、手伝ってもらったらいけないと思う」
「あーそうですか」
じゃあなんでバナナの皮拾いしててん。
そう尋ねると、アルヒトは真顔で「楽しいから」と答えた。わーお、ジーザス。そんなら仕事にすればええやん。
そう尋ねると。
「僕は仕事しちゃいけないんだ」
「へー」
なるほど。いや、なにがなるほどかわからんけど。まあ、仕事したらあかんらしいから、無理やりやらせる必要はない。けど、好きなんやったらボランティアでもやったらええのに。絶対喜ばれるで?つーか、あたしのこの仕事も代わりにやってほしいくらいやねんけど。
「なんで仕事したらあかんの?」
「……お母様がだめって言うから」
お母様。そのワードで、こいつ貴族系か、と思った。訊いてみるとその通りだった。
ふむ、貴族か。なら、働くなと言われても仕方ない。いや、待てよ?あたし、姫時代からバナナの皮拾いさせられてましたけど?
ようわからんけど、それは家庭の違いってやつなんやろうと思って気にしないでおいた。それに、今のあたしの身分は姫じゃないわけやから、あんまり貴族のアルヒトに偉そうにしてたら殺されるな。
とりあえず、バナナの皮拾いは手伝ってもらった。




