10 姫でいるのは難しい
「とにかく、仕事がしたいなら私に言って? 私、いい仕事場所を紹介してくれる人を知っているの」
「お、おう……」
それとひとつ、言わせていただきたいことがある。
標準語、うさんくさくしか聞こえへーん。ま、異世界に大阪弁があるわけないよな。多分、転生したアレやコレやで異世界語分かるようにされてんねんやろうから。
だからまあ、わがまま言ったらあかんってのは分かるんやけど、分かるんやけどな?
「知っているのって! なんやねん、うさんくさい!」
「え、なに? コノコちゃん、どうしたの?」
どうしたのと言われても困る。どうもしてへん。どうかしてんのはニコルの方や。
「ええ仕事場所紹介してくれる人知ってんねん、の方がよっぽどしっくりくるわ!」
「ん? コノコちゃん、なにそれ? なまり?」
ニコルに言ったって通じないのは分かってる。でも、でも。なんか違和感を感じる。とにかくうさんくさい。
わざとらしいねん。わかる? この気持ち。
いや、分からへんかったらそれでええねんで? 別に、理解してくれと思うようなもんでもない。でもな、でもな!
――――なんか、気持ち悪いねんって。
「そっかー、コノコちゃん、なまりがあるのか。だから、姫やめさせられたんだね」
「は?」
それ、関係あんの?
気がつけば、あたしはニコルに姫をやめさせるときの決まりを教えてもらっていた。無理やり。
「……あーっ、頭痛い!」
あたしは頭を抱えながら叫んだ。ニコルの言うこと、ようわからん!
「つまり? 口の悪いやつ、往生際の悪いやつ、失礼極まりない発言を他人にするやつ、親に反抗するやつ、それからえーと、食べ物を粗末にするやつ、バナナの皮ひろいを嫌がるやつ、暴れるやつ、頭悪いやつ、病気を抱えてるやつ、目が悪いやつ、素直じゃないやつ、なまりがあるやつ、顔がかわいくないやつ、ドレスが似合わないやつ、ドレスを着ることを嫌うやつ、髪が黒いやつ、目が緑のやつ、生まれたときの体重が3500を超したやつ、爪を噛む癖があるやつ、太ってるやつ、甘いものが嫌いなやつ、面倒くさがり屋なやつ、仕事をきちんとこなさないやつ、城から逃げ出すやつ、育てるのが面倒なやつは姫をやめさせられるってことなん?」
とにかく、条件が多い! ということは、あたしのお姉さまたちはこれをクリアした素晴らしいお方やったってことやねんな……。
それにしても、目が緑とか髪が黒とか、ひどない? ま、あたしは両方茶色やからセーフやけど。
「ま、そういうことみたいよ? 昔からの決まりなの。だから、姫をやめさせられた子って多いのよ。今回仕事を紹介してくれる人も、元姫を預かってるの。その人ももちろん、再び姫になることを望んでいるのよ」
「え!」
ということは、その子はあたしのお姉さま、もしくはお母様かお父様の姉または妹……!?
「会いたい! 会いたい会いたい! 会わせてニコル!」
「えぇ~? でも、随分気難しい人だって聞いたけれど」
気難しい人か。そりゃあ、めんどくさそうやな。やから姫をやめさせられたんとちゃうか?
それにしても、姫をやめさせられる条件がそんなにあったとは思わなかった。そりゃ、あたしが姫でい続けられるわけないよな……。
「まあ、そんなにコノコちゃんが会いたいのなら、どうせ仕事も探さなきゃだし、今から行ってみようか!」
「おー!」
コノコ・ニコニコ。元姫に会いに行きます!




