第七話 竜殺し、傭兵に謝る
アムバスの町に竜討伐のために集められた傭兵と騎士たち、そいつらに俺は正面から喧嘩を売った。
いや、正確には世間知らずな奴らに真実を伝えたのだ。
お前等ではお話にならない。役立たずだから出て行けと一方的に言い放った。
「な、なんだ君は!」
俺の発言があまりに衝撃的だったのだろう。
背後では、壇上で傭兵と騎士たちに竜討伐の説明をしていたマッゼスの落ち着かない声が聞こえる。
後ろを振り向かなくても動揺している姿が容易に想像出来る。
また扉の前ではレバンが頭痛を起こしたのかこめかみを抑え、リチュオンに至っては状況が掴めていないのかポカンとした間抜けな顔をしながら――何故か静かに刀を抜いていた。
何あの子? 混乱すると、とりあえず抜刀する習性でもあるの?
「上等だてめぇ! どこの誰だか知らねぇが、ぶっ殺されてぇようだな!」
「何だ、貴様! それは我々のことを知っての発言か! 愚弄するなら――」
気の荒い傭兵と騎士たちが立ち上がり、得物を抜く。
殺気だった数人の視線と罵声が俺に集中する。
一色即発上等!
ここまでは予定通り。後は簡単に蹴散らしてやるだけだ。
俺は向かってくる奴を残らず叩き潰そうと、構えようとした――その時だった。
「おい、待ておめぇら。狂犬じゃあるまいし、吠えるなっての」
「剣を収めろ。我々はルファナ騎士団の代表で来ている。みっともない真似はよせ」
傭兵たちの頭領ガイン、そして騎士たちの中でも団長候補と言われるルーラス・ラフェードの二人は椅子に座ったまま――静かに、威圧感を込めた言葉を発する。
すると、あれだけ頭に血が上っていた荒くれたちが、まるで躾のされた犬のように制止した。
「へぇ、あの二人――挑発に乗らないのか」
俺はガインとルーラスに感心し、二人の評価を少しばかり上げた。
「ケイゴ、と言ったかな――」
ルーラスは冷静に俺を見つめている。
どうやら俺を品定めしているようだ。
「まず言っておきますが、我々ルファナ騎士団は隣にいる傭兵さんたちとは違い、お金目当てで来ている訳ではありません。あくまで我々の目的はこの町の困っている人々を助けるために派遣されただけ。つまりは竜さえ倒すことが出来れば、それで困った人々を救えるのならそれでいい。君が一人で竜を倒せるならば我々はそれで結構です」
ルーラスは穏やかな顔をしていた。
だが、内心は何を思っているのやら――。
「竜殺し、ケイゴ。その名は噂で確かに聞いたことがあります。それにまあ――」
そう言いながらルーラスは横目でチラッと、奥にいるレバンを確認する。
「――レバンさんが連れてきたというのならきっと、本物なのでしょう。期待させてもらうとします」
「おう、期待して貰ってもいいぜ。おまえらの出番は与えないから」
俺がそう答えると、ルーラスは更に穏やかな顔を強調する。
「はい、お手並み拝見させて頂きます。我々の出番が来ないことを願っていますよ」
こうしてルーラスのいる騎士団とは平和的に話がついた。
あの金髪騎士は随分人当たりが良さそうだったが、恐らく内心は――単身で竜を倒せるのなら、やれるものならやってみろ! と言ったところだろう。
まあ、奴が何を考えていようが俺の知ったことではない。
「おーい。騎士様、話は終わったか? 次はこの金にがめつい傭兵が発言してもよろしいだろうか?」
すると今度は傭兵であるガインが発言権を主張する。
「はい、どうぞ」
ルーラスがニッコリと笑い、ガインの発言を許可した。
ガインはルーラスの笑顔を見ると、特に何か言うわけでも態度をかえることもしない。
表情を変えぬまま目線を動かし、マッゼスに問いかけた。
「ちょっと聞きたいんだが。もし、そこのケイゴとか言う奴が、一人で竜を倒したら俺たちの報酬はどうなる? 何もやっていないんだ、勿論なしか?」
「それは、だな――」
急に報酬の話をされて、マッゼスはうろたえる。
まあ、俺が無理矢理しゃしゃり出てきた想定外の状況なので、聞かれたマッゼスも即返答とはいかないのだろう。
代わりに俺が勝手に答えることにした。
「俺は金に関してはある程度もらえれば問題無い。そうだな――もし、俺が単身で竜を倒しても報償は全体の一割程度で十分だ。残りの九割はそちらで好き勝手にして構わない」
するとガインは俺の言葉に気を良くしたのか、顔を緩ませる。
「お、気前がいいな、悪くない。何も手を出さないでそれだけ貰えるなら十分だ。どうやら隣にいる騎士様たちは、育ちの悪い俺たちと違ってお金を必要としていないようだしな。お前が一人で竜を倒してくれれば、それだけで報酬の九割は俺たちに入る。いいな、それでいこう」
こうして俺とガインの間でも交渉は終了した。
しかし、まだ俺の後ろに納得していない眼鏡が一人。
「いや、勝手に話を進めてもらっては――」
この場を仕切っているマッゼスとしては、自分を無視して話を進められても困るのだろう。
それにある程度大きな金が動くのだ。
そんな簡単に、はいそうですか――と、決めることは出来ない。
そう、本来なら――。
だが、どうやら一番のお偉いさんか許可を出したらしい。
扉の前にいるレバンがマッゼスに強い視線を送った上で、首を静かに縦に振るのが見えた。
レバンはマッゼスに仕草で伝えたのだろう。
そのまま話を通せ――と。
「――何でもない。いいだろう。とりあえずは、概ねその通りで話を進めていく」
レバンの了承を得て、マッゼスは話を続ける。
「もっとも、騎士団の方々に全く報酬を出さない訳にもいかない。細かい内訳などは後々決めていく物とする。それでお二方、よろしいかな?」
「私は構いません。お任せします」
「俺もいいぜ」
こうして傭兵と騎士団の親玉両名に俺のワガママを快く了承して貰い、とりあえずこの場は丸く収まった。
***
傭兵と騎士の連中が部屋から出て行き、竜殺しである俺とリチュオン、レバン、そして先ほどまで場を仕切っていたマッゼスの四人がここに残っている。
「レバン。この男のことを、これまでの経緯を詳しく説明してもらいましょうか?」
そしてマッゼスは失礼なことにこの竜殺しを指差しながら、物凄く怖い顔でレバンに迫っていた。
好き勝手に場を荒らされて、怒り心頭なのだろう。
レバンもマッゼスに対して悪いと思っているのか、申し訳なさそうに苦笑いしていた。
「いやぁ、申し訳ない。でも、ケイゴ君の行動は僕も予想外で――」
「そんな言い訳は要りません! なんですか、貴方は? ここの最高責任者でありながら、竜殺しに交渉してくる――と言って突然いなくなる! 帰ってきたと思ったら、訳のわからない男を連れてくる! 対応に追われるこちらの身にもなってください!」
「ははは、マッゼスは優秀だから僕も気兼ねなく好き勝手出来る。本当に助かるよ」
「何を笑っているんです? こっちは笑いごとじゃない!」
額に青筋を立てたマッゼスが、物凄い剣幕でレバンに迫っていた。
上に立つ人間っていうのは苦労が絶えないのだろう。抱えるストレスも多そうだ。
俺はそんな大変そうな光景を横目で見ていると、リチュオンが寄ってきた。
「お怒り状態のマッゼスさんは説教が長いですからね。レバンさんしばらく解放されないかも知れません」
「まあ、それは初対面の俺でも何となくわかる。いかにも頭固そうなタイプに見えるし」
恐ろしい顔で怒鳴っているマッゼスを俺は見ながら答えた。
「そういえばリチュオン。お前、俺が傭兵と騎士に喧嘩売ってたとき、何でさっき刀抜いてたいんだ? もしかして、無意識に刀を抜く癖でもあるのか?」
俺は先ほどリチュオンが、何故刀を抜いていたのか気になった。
「何ですか。そんな、私を危ない人みたいに言わないでください――」
リチュオンが心外だ、と怒った顔を見せる。
「もし乱闘状態になった場合、ケイゴさんに加勢して手っ取り早く場を治めようとしていただけです」
「お前十分危ねー奴だな。というかレバンの下にいるおまえが奴らに手を出したらまずいだろ。呼んだ側なのに」
「レバン、貴方が連れてくる奴は本当にロクな奴がいない。まともなのはいないのか?」
俺に続いて、突然説教を止めたマッゼスがこちらの話に入ってきた。
なんだ、意外に話終わるの早かったじゃないか。
「――まあいい、自己紹介が遅れた。私の名はマッゼス、お前が噂の竜殺しだな」
マッゼスが自然に握手を求めてきたので、俺はとりあえず手を握った。
「ああ、俺が竜殺しと呼ばれている男――ケイゴだ。よろしく」
握手を終えると、マッゼス眼鏡の真ん中を持ち上げ位置を直す。そしてレバンの方に向き直った。
「――ところでこの男、どの程度強いんだ?」
「おい、早速俺の強さを疑ってんの?」
なんでどいつもこいつも俺の強さを疑うのか?
この竜殺し、見た目も十分風格はあるはずだと――思うのだが?
不満そうな目で睨んでいると、マッゼスは俺の心情を理解したのか真面目な態度で答える。
「勘違いするな。レバンが連れてきたんだ。強いことは疑わない。だが、どの程度の強さを持っているのか、大まかな情報を知るくらいバチは当たらんだろう?」
するとリチュオンが声を大きくして、謎アピールを始める。
「はい、私惨敗しました! 私が一方的にやられるぐらいケイゴさんは強いです!」
「そんなの当たり前の話だ。竜と戦うんだ。おまえ程度に勝てないようじゃ仕方ないだろう。違うか?」
「――はい、そうです」
マッゼスのキツい言葉に心を一刀両断されたのか、リチュオンは固まったまま動かなくなった。
マッゼスの言うことは正しいのだが、言い方が直球過ぎる。
もし俺が今のリチュオンの立場だったら、二日間は部屋から出てこないだろう。
「そうだねとりあえず、ケイゴ君の強さを表すなら――」
レバンは少し考える。そしておもむろに口を開く。
「たぶん、ここに招集された者たちと、リチュオン、そして僕が手を組んで挑んで――二分程度戦いが続けば良い方じゃないかな?」
「それは、人間の強さじゃない。化け物だぞ、そんなの」
マッゼスは何とも言えない表情で、半笑いしていた。
うーむ。これは化け物扱いされて怒るべきか、化け物並の強さをもっていると評価され喜ぶべきか?
***
竜討伐の大まかな話も終わりレバン、マッゼスとは館の前で別れた。
そして俺はリチュオンに今晩泊まる宿屋まで案内してもらうことになった。
来たばかりでこのアムバスの町中など、もちろん右も左もわからない。
しかも視界の悪い夜なら尚更である。
リチュオンとはぐれてしまったら最後、俺が迷子になるのは確実だ。
「でも、意外です」
俺は突然話し掛けられ、前を先導しているリチュオンを見た。
「てっきり明日、そのまま竜と決着をつけるものかと思っていたのですが――最短で恐らく四日、長引けば二十日間程度必要でしたっけ?」
「それもおおよその期間だがな。一分一秒が惜しいほど切羽詰まってる状況ならともかく、敵の詳しい情報も無いまま戦闘なんてしない。敵の情報が多ければ多いほどこっちの生存率が上がるのに、無理に最初から戦う必要はないだろう」
俺が最初に竜討伐のための期間を四日から二十日程度と提示したところ、リチュオン、レバン、マッゼスの三人は目を丸くしていた。
四日間はともかく、二十日間はさすがに長いと三人は感じたらしい。
特にマッゼスに至っては、不満爆発でそれはもうトマトのように顔を赤くした。
だが俺は竜を相手にする場合、この方針を曲げるつもりはない。
まあ、幸いなことにお偉いさんであるレバンとマッゼスは内容を詳しく説明したところ納得はしてくれたようなので、俺はいつもの通りに竜殺しをやっていくだけだ。
「それは確かにそうなんですが、ケイゴさんならもっと大胆な行動をするかと思っていたので――」
「いやいや、竜相手に大胆なことやってならとっくの昔に死んでるから。さっきも言っただろう? 竜と戦う時は最低でも身体能力、特殊能力、戦術ぐらいは知っておきたいし。更に欲を言えば性格、知能レベル、動きの癖とかがわかれば尚良い――といか普通この辺りまで調べる。でなきゃ無理」
俺は言い切った。
そしてリチュオンに対して説明を続ける。
「だから敵の力量しだいじゃ長期間はあたりまえだ。最初の一、二回は遠くから観察。その後、軽くちょっかいを出していき敵の戦闘能力とか、俺自身がどの程度まで戦えそうか見極める。そして軽く戦った情報を元に、作戦を立てたり、必要な物があったら準備したり――竜一匹を確実に倒すのはそれなりの時間と労力が必要になるんだよ」
俺が長々と説明するとリチュオンは目を細め、何やら難しそうな顔をしていた。
「むむっ、もっとケイゴさんは力で無理矢理解決するものかと思っていたんですが、意外に色々考えているんですよね。私、勘違いしていました――」
「おまえ、人を勝手に脳筋扱いするな。俺はなあ――」
そう言ってリチュオンに説教の一つでもしてやろうかと思った矢先だ。
「金の問題じゃねぇ! もし、あいつが一人で竜を倒しちまったらどうするんだ!」
薄暗い路地裏で男の怒鳴り声を聞いた。
俺はもちろん、リチュオンも歩くのを止め、声の出所を探る。
「何でしょうか、喧嘩ですかね?」
「んーでも、今なんか竜がどうたらとか聞こえなかったか?」
俺とリチュオンが顔を見合わせいると、路地裏から怒鳴り声が近づいてくるのがわかった。
そして何故か条件反射で俺とリチュオンは思わず物陰に隠れてしまった。
「なんで俺たち隠れたの、別にやましいこと何もしてないよな」
「ケイゴさんに釣られて私まで隠れてしまった」
「いや、人の所為にするなよ」
俺たちは小声で責任の擦り付け合いをしていると、路地裏から声の主と思われる人物たちが現れた。
頬に傷のある男と、長身短髪の厳つい男だ。
その二人の顔には見覚えがあった。つい先ほど見た覚えがあった。
「あいつらは――」
「傭兵団のお二人ですね。頭領のガインさんに、もう一人はガインさんの補佐的な立場にいるレイバンさんです」
リチュオンはご丁寧にも説明してくれた。
俺はレイバンとかいう熊みたいな男を眺めながら、リチュオンに確認する。
「要するにあのレイバンとかいう男は、マッゼスポジションか?」
「はい。傭兵集団の二番目に偉い人ですね」
「はあ、そうか――その割りに随分と仲が悪そうだな」
ガインは落ち着いているようだが、レイバンはいかにも機嫌が悪そうに大声を出している。
マッゼスといい、副官ポジはみんな怒りやすいのか?
俺がそんな疑問を浮かべていると、ガインがなだめるようにレイグに話掛ける。
「大丈夫だ。噂によれば竜っていうのは相当手強い。人間一人が挑んだところで返り討ちに遭うのは目に見えている。ここは大人しく傍観して、竜がどの程度の強さなのかを奴を使って計ればいい」
「だが、あいつは竜殺しって呼ばれているそうじゃねぇか。もし、本物だったらどうする? あの普段威張り腐っているクソ生意気な騎士どもが素直にあの場を引いたんだぞ? 普通ならあり得えないだろう。あの竜殺しって奴は本物かも知れない――」
「落ち着けレイバン。騎士の奴らも別にケイゴとかいう男を認めている訳じゃない。きっと俺と同じ考えだ。安全に相手の戦力を知りたいだけだ」
「落ち着いて、待てだ? 冗談じゃ無い! ようやく俺たちも名前が広まってきたところなんだ。もし、竜を怖がって戦いを拒否した腰抜け集団だと思われたらどうする? 今までの苦労が、これまでの評価が一気になくなっちまうかも知れねぇぞ!」
話を聞いていてなんとなく喧嘩の内容がわかってきた。
というか、喧嘩の原因は俺だ。
どうやらレイバンは俺に活躍されるのが気にくわないらしい。
しかし、ガインも柔らかい物腰のまま――レイバンの意思を受け付けない。
「いいじゃねぇか、命あっての物種だ。金もプライドも命に比べれば安いもんだ」
「俺たちは金がいるんだ! アイルの奴も言ってたぞ。もうすぐ嫁さんが子供を産むから、まとまった金が欲しいってな」
「何言ってんだ。そんなら尚更危ない橋は渡れない」
「それにアイル以外にも金を必要としている奴はごまんといる! 報酬の九割なんて温いこと言わずに、俺たちだけで竜を倒して全額頂くぐらいの気概がねぇと――」
すると、ガインは話の途中にもかかわらず疲れたと言わんばかりに大きく溜息をつく。
そして、目に前の巨体を睨み付ける。
「おい、いい加減にしろよ、レイバン――」
疲れたというよりは――このまま話してわからないなら仕方がない、と思ったのだろう。
「――なんなら、竜と戦う前に俺がおまえの相手をしてやってもいいんだぞ」
竜相手ならともかく、人間相手なら大抵の男を怯ませられるであろうガインの本物の怒気。
荒くれ者たちを纏める男の凄みが、確かにそこには存在した。
「チィ、クソが!」
幸いなことに互いに手が出るまでには発展しなかったようだ。
レイバンは悪態をつくとそのままどこかへ行ってしまった。
「あー」
その後ろ姿を、ガインが面倒くさそうに後頭部を掻きながら見送る。
そして、レイバンの姿が見えなくなったのを確認して言った。
「見苦しいところを見せて悪かったな、出てきていいぞ」
明らかに俺とリチュオンに対して言っていた。
「一体どこからバレてたんだ?」
「すみません。盗み聞きするつもりは無かったんですが――」
俺とリチュオンは物陰から姿を現す。
ガインは俺たちの姿を見ながら、首を鳴らす。
「ああん? 同じ場所に二人も隠れてればさすがにわかるだろう? まあ、レイバンの奴は頭に血が上りすぎて、おまえらに気づいてなかったようだがな」
「えー、あー、なんか俺のせいで喧嘩してたみたいで――すみません」
なんか俺が原因でいざこざが起きていたようだし、悪いと思い謝った。
すると、ガインは何を言われたのかわからないといった感じで口を開け、隣にいたリチュオンも驚いているようだった。
はて? 俺は何か変なことをいっただろうか?
「突然どうしたんです、ケイゴさん?」
「いやね、俺が原因で喧嘩になってるみたいだし」
「確かに喧嘩の原因はケイゴさんだと思いますが、それはそうなんですが――」
リチュオンは何か歯切れ悪く、納得していないようだった。
加えて、俺に謝られたガインも納得していないらしく、呆れたような顔をした。
「いや、そこの嬢ちゃんが戸惑うのも当然だろ。レイバンの奴と喧嘩した俺が馬鹿みたいじゃねーか」
「え、何故に?」
「おまえ、わかってないな。謝るぐらいなら最初っから言うなってことだ」
「ああ、なるほど。なんとなくわかった――」
もし俺が逆の立場だったら、ガインと同じ言葉が出るかも知れない。
確かにあれだけのことを言っておいて、今更何を言っているんだという感じではある。
しかし俺は、俺の視点で話していたので、気づかなかったのだ。
「――ただ、まあ、あれだ。俺の心情を詳しく言うと――悪いとは思っているけど、反省はしていないというか。つーか、優しく言って俺の言うこと聞いてくれるなら、最初からそうしてる。状況的にああ言いのが一番的確かなというか、なんと言って表現したらいいか――」
俺が説明に困っていると、リチュオンが何か気がついたのか目を見開いた。
「わかりました! つまり、皆さんの前で言ったあの喧嘩を売るような発言は不本意だったと――」
「いや、本意も本意。大本意なんだけど、足手まといだとも言ったのも本心だし。しかし別に悪意があって言ったわけじゃ、えーっと」
そこで俺がまた言葉が出ずに悩んでいると、ガインが痺れを切らしたのか声を上げた。
「ああ、もういい。わかった、わかった。おまえの話聞いていると頭が痛くなりそうだ」
ガインが本気で俺のことを鬱陶しいと思っているようだったので、話を切り上げる。
しかし、謝るつもりが余計に気を悪くさせてしまったか?
昔から、頭が動かなくなると口も上手く回らなくなるからなぁ、俺は。
うー、昔の自分を思い出す。口べたで失敗したときの記憶が――。
「それにおまえ明日は竜と戦うんだろう? 早く帰って、体を休ませたほうがいいんじゃないのか。それとも竜殺しならそんな体の調子ぐらいは考えなくても簡単に勝てるか?」
昔のトラウマが蘇りそうだった俺の頭は、ガインの言葉によって切り替えられた。
竜殺しなら――竜相手でも簡単に勝てる。
もしかしたら、単に嫌みで言われただけかもしれない。
ただ、俺は端的に思ったことを返答した。
「実際のところ勝てるかどうかは、戦ってみないとわからない――」
ガインは意外そうな顔で俺を見る。
まあ、あれだけ大口叩いておきながら言う言葉では無いとは思う。
当然、ガインは俺が予想した通りの思いを口にする。
「なんだ? 竜殺しとか名乗ってる癖に、勝つ自信はないのか?」
「まさか――」
俺は鼻で笑った。
「実は俺、竜と戦う時は毎回ひー、ひー、言ってんだ。だから死なないように精一杯やるだけだ。あ、これ他の奴らには内緒で頼む」