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竜の墓標が朽ちるまで  作者: よしゆき
第二章 最強再来
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第三話 リリスの帰還、明かされる真実

「ミリアー! 会いたかったよう! うあああああああんっ!」

「師匠! 戻って来て良かったです。私、心配したんですからね――」


 異種族の師弟は、数週間ぶりになる感動の再会を果たしていた。

 リリスはその小さい体をミリアの腕の中――というか胸? の中で抱擁される。

 そして両者共に、それはもうボロボロと泣きまくっていた。


「あっ! ダーリンもいる! ダーリンも無事に竜を倒したのね!」


 リリスが俺に気づいたのか、いつものようにダーリン呼びをする。

 ううっ、この呼ばれ方はいつもながら慣れない。

 そういうのはなんかこう? リア充に使う言葉であって、俺に使うのは御法度というか筋違いだと思うんだ。

 それに俺は性格的に、グイグイと距離を詰めてくるリリスが苦手なのだ。

 正直、いつもなら彼女が来たと聞いた時点で、即座に逃げている。

 しかし、アムバスの町で俺が生き残れたのはリリスがきっかけだったし、無事に帰ってきてくれたのは俺も心から喜ばしい。

 この場を立ち去るなど、そんな失礼なことが出来るはずが無い。


「リリス、この前は本当に助かった。それに帰ってこないって聞いてて心配してたんだが、怪我とか無さそうで良かったよ」


 俺がそう言うとリリスは、顔面を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしながら、更に激しく泣きだした。


「ううっ! ダーリンも生きてて本当良かった! 私この町まで、迷いながらなんとか帰ろうとして。ひもじくて、寂しくて。もう、会えないかと思ったから! 良かった、良かったよう! ううっ、ぐううううううーっ。ヂィーーーーーン」


「うう、本当に。本当に良かったです、師匠。ただ、私の服で鼻をかまないでくださいー」


 胸元を鼻水だらけにされたミリアが言う通り、本当に良かった。

 リリスが戻って来たことは、本当に良いのだが――そろそろ感動の再会に浮かれるのもお終いだ。

 何があったのか、話しを聞かなければならない。

 そして、きっと一緒じゃないんだろう? 彼女は――。


「リリス? 泣いているところ悪いが、そろそろいいか――?」


 俺の口調がえらく真面目だったからだろう。

 今まで騒がしかった部屋の空気が静まり返る。


「――エレナはどうした?」


 それは俺以外のみんなも気にしていたところだろう。

 リリスと一緒に居ない。

 エレナの護衛として付いていったリリスだけが帰ってくるとかおかいいのだ。


 リリスはミリアの元から離れ、部屋の中央で制止すると真剣な表情を見せる。


「そうだ! みんな聞いて、エレナがヤバいの!」


 それから、リリスは語ってくれた。

 一体向こうで何があったのかを――。


 ***


『ここに、なんとか騎士団とかいうふざけた奴らがいるのね』


 ――無事に白薔薇騎士団のいる東地域の町、ベルトンに到着したエレナとリリスは早速彼らがいるという屋敷に出向いた。


 ――リリスは語る。

 ――エレナは敵の本拠地だというのに、全く躊躇せず乗り込んだという。

 ――それは自分に壮大な自信があったのか、何か交渉の秘策でもあったのか。

 ――とにかく、エレナはどんどん敵の懐へ向かっていったのだという。


『ちょっとここになんとか騎士団っているのよね? そこの一番偉い人出して』


『え? もしかして、魔術師様が来られると聞いていたので、その――』


『私、魔術師じゃないけど、代理で来たの――早く呼んで』


『えっ? 魔術師様じゃない? ええっ? ちょっと、ちょっとお待ちください――』


『直ぐ済むから。いいから早く出しなさいよ。こっちは早く終わらせたいんだから』


 ――こうしてエレナは、屋敷で掃除をしていたメイドに早々と白薔薇騎士団の団長との面会を漕ぎ着ける。


 ――しばらくしてエレナが屋敷の中に連れて行かれると、白薔薇騎士団の団長がおり、他の団員たちと思われる騎士たちが並んでいた。


 ――しかし、エレナは動じない。

 ――彼女はずかずかと中に入り込むと、真っ正面に見える金髪で柔和な表情をした騎士団の団長に対面した。


『あなたがなんとか騎士団の一番偉い人?』


『はい、そうです。しかし、おかしいですね? 私たちは魔術師を希望したのですが――聞いた話によると、あなたは違うようだ』


『そんなこと、私にとってはどうでもいいわ。それよりも、あなたたちが帰さない魔術師について話したいんだけど?』


『まあ、いいでしょう。私の目の前にいる可憐な女性の話を何も聞かずに帰すというのは、騎士の礼儀としても、私の流儀としても出来ませんし。まず、お話を聞きましょう――』


 ――こうして交渉が始まった。

 ――しかし、事態は直ぐに急変する。


 ――それは交渉が始まってから、およそ二十秒後。

 ――そう、たった二十秒。

 ――その僅かな時間で、手が出たのだ。

 ――それもかなり理不尽で一方的な暴力が、開始一分も経たないうちに行われた。

 ――それは、紳士に対応しようとした相手をいとも容易く踏みにじる行為。


『男がぐだぐだと――何でもいいから解放しなさい。あと顔がなんかムカつくのよ』


 ――エレナは紳士的に対応しようとしていた団長の顔面を叩いたのだ。

 ――そして、即座に周りにいた騎士たちが動く。

 ――取り押さえられるエレナ。

 ――どうすること出来ず、逃げるリリス。


 ――こうして、交渉は終わった。


 ***


「――っていうことがあって、エレナ――ヤバいでしょ?」


 ああ、ヤバい。ヤバいよ。エレナの頭が本気でヤバい。

 正直、ここまでヤバいとは思わなかった。

 この部屋にいる全員が、完全に度胆を抜かれていた。


「さ、さすが――エレナです。私たちの想像を遙かに超えることをしますね」

「うう、姉さん――」


「いや、ファリス? 確かにエレナ想像以上のことしたけど、それにしても斜めにぶっ飛びすぎてるだろう! 見てみろ、妹がもう不憫な悲しみに耐えられず泣きだしてるぞ!」


 今まで冗談半分で色々言ってたのに、まさかエレナがここまで酷かったとは。

 というか突っ込みどころが多すぎるんだが――。


「なんなの? エレナの頭の中には交渉って文字が入ってないの? 馬鹿なの? あと、開始二十秒で相手に手を出すとか訳わからん! 短すぎるから、あり得ないから、絶対ろくに言葉交えてないから、もうそれ交渉でもなんでも無いから! それに最後の顔が何かムカつく――って完全に私情じゃねーか!」


「ちょっとケイゴさん。姉さんの悪口言うのやめてください! 今の私じゃ否定できないんですから! あと、姉さん――なんでそんな堂々と相手の所行ったんですかー! その自信は一体どこから出てきたんですかー! 私、わからないです!」


 ミリアはもう、姉の考えが読めずにパニックになっていた。

 うん、もしかしたら案外あの人、何も考えてないのかもしれない。

 すると、話しを聞いて半ば放心状態であったフーリアがごもっともな疑問を口にする。


「――私、なんで何事も無く解放されたの?」

「本当にな! 俺が聞きたい!」


 良く生きてたよ、フーリア。

 本当に良く殺されなかったよ、エレナに。

 下手したらエレナのせいで殺されてたよ、この人。

 むしろ、なんでフーリアさん生きてんのって話で。

 あれか、もしかしたらエレナの存在が酷すぎて、白薔薇騎士団もフーリアの存在がもうどうでも良くなったとか、そういう結果なのか?


 あと、なんだろう?

 本来なら無理矢理フーリアを拘束したあちらが悪いはずなのに、今回の話しを聞いていると完全にこちら側に非があるように思えてしまうのだが――何故なのか。


 そうやって俺が心中をモヤモヤとさせていると、マルシュが心配そうに俺に尋ねてくる。


「ええっと、そのエレナさんは無事なんでしょうか?」

「わかりません!」


 っていうか、その先を考えたくないんですが!

 たぶん、みんな考えないようにしてますから!

 すると、今度はリチュオンが俺の元にやって来て、尋ねてくる


「ケイゴさん。やっぱり死体袋いりますか?」

「ちょっ、おま――ちょっと考えさせて」


「いえ、ケイゴ。そこは否定してください。躊躇しないで。あと、リチュオンも死体袋はもういいですから」


 俺は気づかなかったがどうやらリチュオンとの会話が不穏だったらしく、思わずファリスが止めに入った。


「ったく、あああああっ! エレナ、一体おまえ何やってんだよおおおおおおおっ!」


 鬱憤溜まった俺は、夜だというのに近所迷惑を考えずに叫んだ。


 ――こうして、夜が更けてゆく。

 皆を巻き込み疲労させた、騒がしい夜が終わってゆく。


 ただ、この程度の騒がしさなど――。

 今後起こる事に比べれば、本当に微々たるものだったのだ。

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