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竜の墓標が朽ちるまで  作者: よしゆき
第一章 潜む竜
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第三十四話 狙撃する竜オルトロッド

 身体能力を極限まで強化し全速力で森を抜けた俺は、そのまま一気に山岳部を目指す。

 太陽光が容赦なく降り注ぐ中、足を酷使し駆け上がる。

 脇に差したショートソードと背負っている盾を邪魔くさいと思いながらも賢明に足を動かし続ける。

 そして、ようやく視力を強化しなくても確認出来る距離にまで近づいた。


 大きさは動物でいうと虎ぐらいの大きさだろう。

 ただ、その姿は地を這うトカゲのような姿をしているので、姿勢は低い。

 鎧のような鱗に細身の鋭いフォルムは、まさに異世界の化け物だ。

 ――狙撃する竜オルトロッド。


 奴も俺に気づいたのか、視線が交わる。

 俺はやっと出会えた嬉しさで――心が滾る。


 ――ああ、竜だ。


 奴には随分と苦汁を飲まされたのだ。

 遠くから随分と、好き勝手やってくれた。

 こいつに何人も殺された。

 だが、ここまでだ。


 ――ようやく殺せる。


「ピュゥウギィ――」


 しかし、奴は一声鳴いたかと思うと、体を反転させ一目散に逃げ始めた。

 オルトロッドの体は一瞬にして山の頂上を越えると、俺の視界から消える。

 山の反対側に降りるつもりだろう。下にはまた森が広がっているはず、そこに逃げられたら面倒だ。オルトロッドを逃がす訳にはいかない。

 竜殺しと呼ばれる俺だが、それほど奇抜な能力などがある訳でもないのだ。

 出来ることは限られる。それも割と単純なことばかりになる。


 超一流の身体強化。


 三流レベル程度になる武器や盾の強化。


 そこそこ強力な自己治癒魔術。


 使える者も割と少ない爆発的な瞬間魔力強化による特殊高速移動術。


 そして、チートレベルに強力だが、あまりにリスクが大きすぎて、これから使うことがあるのかもわからない。最高で最低、超くそったれで圧倒的、使いどころが難しすぎる――俺だけの竜殺し固有能力。

 リチュオンの言うような――切り札のような存在。


 俺自身が使える手札といえば、大体この五つ。

 あと戦えば戦うほど身体能力が向上してゆくという、竜殺しの特性がある。

 ただこの特性は、当然ながら竜を相手にする時しか効果が無いし、対象となる竜を倒したり一定期間遭遇しなかったりすると元に戻ってしまう。

 しかも、今回のビガラオやオルトロッドのような身体能力が高いのではなく、特殊な能力を駆使して戦うような、搦め手で攻めてくる竜にはあまり意味が無い。


 あくまでこの竜殺しの特性は――強すぎる竜ともある程度まともに戦えるようになるという物なので、普段の状態でも問題のない今回の戦いでは作用したとしても微々たるものなのだ。


「森の中へは逃がさねぇ――」


 そして、俺の手札の一つである魔術による高速移動は障害物の多い入り組んだ場所では使えない。

 一瞬にして距離を詰めることのできるこの能力だが、制御が難しい。

 障害物を見誤れば物凄い速度で激突するし、足場が悪いと簡単に転び吹っ飛ぶ。

 とてもじゃないが、森の中では使うことは出来ない。


「――ここで仕留める」


 俺は走りながらベルトを外すと背負っていた楕円形の盾を左手に持ちいつでも使えるように準備する。

 続けて、魔力を解放――高速移動術を開始。

 体に負担が掛かる。内蔵が圧迫される。

 だが、それだけの効果がある。

 山岳部の頂上に向けて一気に間合いを詰めた。


 ――奴はどこだ?

 俺はすぐに山の頂上を越え、オルトロッドの姿を探す。

 そして物凄い勢いで下山する巨大なトカゲの後ろ姿を確認した。


 逃がすかよ!

 俺もすぐに山を下り、奴を追いかける。

 竜の背中を追いかけながらも、その間の路面を確認する。

 辺りは砂利や岩だらけだが、進行方向には障害物となるような物は見当たらない。

 大丈夫だ。高速移動術でこのまま一気に間合いを詰められる。 


 そう思って俺は追いかけていたオルトロッドの後ろ姿を見ると、奴の背中から何か――生えた。

 少しばかり遠いから、何が出たのかはっきりと肉眼では確認出来ない。


 何だ? 白くて、少し太いロープのような?


 そして、次の瞬間俺の目は――飛来する紫の液体を捉えた。

 オルトロッドから飛んできた。

 俺は咄嗟に左腕に持っていた盾を構える。

 僅かだが盾を構えるのが遅れたのか、紫の液体はほんの数滴だけ盾を抜け、俺の顔に付着する。

 顔に焼けるような痛みが、肌に強い刺激が加わった。


「この痛み――酸か!」


 強酸と言う程ではないだろうが、こんなもの顔面に喰らっていたらただじゃ済まない。

 目に入っていたら失明していた可能性もある。

 牽制目的? どこから出した?


「舐めた真似をして――っ! しまっ!」


 そうしてオルトロッドの酸による攻撃に意識を取られた瞬間、砂利に足を取られ、下り坂で姿勢も安定せず、走る速度が乗っていたこともあり――俺は無様にすっ転んだ。

 盾は思わず手から放してしまい後方へ流れて行く。

 俺は柔らかいとは言えない傾斜を転がる。

 勢いのまま体は山の傾斜で二、三回転する。

 そうすればさすがに速度は少し落ちる。


 転がる勢いで素早く上半身だけを起こすと、同時に脇のショートソードを抜く。

 魔力を注入――剣を強化。

 魔力を集中――腕力を強化。

 俺は剣を投擲する。


 まだ確認出来るオルトロッドの背中に向けて、投げたショートソードが回転しながら飛んで行く。

 竜殺しの無茶苦茶な筋力が無ければ、この距離と速度は無理だろう。

 そして、後方を全く気にする様子も見せず走り続けていたオルトロッドは、ほんの一瞬で背後に迫ったその剣を――いとも簡単に避けた。


 横に跳躍し、俺の投げた剣を避けたオルトロッドは一時的に速度を落としたもののそのまま森の中に突入し、俺の視界から消えた。


「――どういう仕掛けだ?」


 既に起き上がりオルトロッドの追跡を再開していた俺は、走りながらも今の奴の行動に疑問を持った。

 あまりに回避が綺麗すぎる。

 あれは見えていたとしか思えない避け方だ。


「あの野郎――背中に目ん玉でも付いてんのか」


 俺は半ば愚痴を零すように呟くと、山の傾斜から森の中に飛び込んだ。

 まだ、間に合う。逃がしはしない。

 ここからが本番だ。

 狙撃する竜オルトロッドとの――壮絶な追いかけっこの開始だ。

 もちろん鬼役は俺になる。

 奴は捕まえて必ず――殺す。

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