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竜の墓標が朽ちるまで  作者: よしゆき
第三章 滅び望むモノたち
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第百三十五話 帰る理由

 王都から出発し、長いこと外からの侵略者と俺たちは戦った。

 竜を引き連れてきた侵略者たちに対抗するため、竜殺しである俺もかなり奮闘したのだ。

 そして、ガルヴァン王国全体での対応が実を結び、今では侵略者たちもかなり倒され、もはや残党狩りと呼ばれるほどの数になった。


 俺たちが戦った剣の竜ダインレイス、そしてミューラン王国の生き残り。

 何でも彼らが南地域で暴れていた大盗賊の首領ガンドルと手を組んで、東地域にあるガウス砦と呼ばれる前の戦争で放棄された要塞に集まっているらしい。


 剣の竜ダインレイス。

 ミューラン王国の残党。

 大盗賊団の首領ガンドル。


 ガルヴァン王国はガウス砦に存在するこの三つの要素を潰すことで、今回の騒動の集結することを決めたらしい。


 ついに終わりが見えてきた。

 俺たちの努力が実を結んだ結果だ。

 そして、俺たちの最後の戦いが、なんと、驚くことに――始まらずに終わろうとしていた。


「王都より残党勢力の掃討を任されたイデア・ウェローです。東地域を守護するナルダ騎士団、その団長であるオーロン・ウェローの代理として今回の作戦の指揮を取ることになりました。王都からやってこられた皆様、今までありがとうございました。ここからは私たちが引き継ぎます」


 東地域に所属するナルダ騎士団。

 その団長代理である十六歳のイデア・ウェロー君はその昔、生活保護の申請に行った時の職員を彷彿とさせる公務員的な対応を俺たちに見せつけた。


「南地域で編成された部隊の指揮を任されているロズウェルだ。うちの地域で散々好き勝手やってくれた大盗賊団のデブを殺しに来た。あれはうちの獲物だ。王都からやって来たぽっと出の新人指揮官を連れてさっさと帰るんだな。帰還命令が出てるんだろう? 後は俺たちがウェロー家のガキの面倒を見ながら片付ける。まあ、さっさと帰れってことだ」


 大盗賊団の首領ガンドルを追いかけてやってきた南地域の混成部隊。

 その指揮官であるロズウェルという男は明らかに俺たちを邪魔者扱いしていた。

 いや、ぶっちゃけロズウェルに限らず、駐屯地内での俺たちは完全によそ者扱いされていた。


 つまり、どういうことか?

 ラッパの音が聞こえたからこれからミーティングだと思ってたら、王都から来た俺たちは部外者だから入ってくるなって言われたよ?

 先に集まっていた騎士や兵士たちの視線の冷え方凄かったよ。

 うん、普通にのけ者にされたんだが?


「これ、俺たち用済みってこと?」


 俺は駐屯地内の一番端に追い遣られているテントの中で思わず聞いた。

 するとさっきからずっと機嫌の悪いリチュオンが別に俺が悪いわけじゃないのに、俺に向けて声を荒げる。


「ケイゴさん! なんでそんな冷静なんですか? あいつら私たちがこの周辺の盗賊を散々減らしてたのに、最後の最後で良いところ取りですよ! 悔しくないんですか! 獲物を横取りされたんですよ!」


「そんなこと俺に言われても――」


 リチュオンは最初納得いなかいと、イデアといかいう若い団長代理とロズウェルという南地域の指揮官に食って掛かろうとしたのだが、ファリスと俺が(なだ)められ強引にここへ連れてきたのだ。


 しかも去り際、リチュオンは両陣営の数人から小娘扱いされたのが相当ムカついたらしい。

 だから今もずっと怒ってる。

 まあ、リチュオン自体は若いし、女だし、奴らも実力を知らないから、仕方ないと言えば仕方ないのかも知れない。


 うちの部隊の指揮官であるレバンがいればきっとファリスも素直に言うことを聞いただろうが、あのおっさんは近くの町で一時的な療養に入っているとのことだ。

 重傷は負っていないものの軽く盗賊たちに痛めつけられたようだし、何より長期の作戦でかなりレバンは疲弊していたようだ。

 怪我を負っていなかったとしても、限界近かったのかも知れない。


「ファリスさんはどうなんですか? 私たちかなりこの地域に貢献してきたのに、こんな扱いはあんまりじゃないですか?」


「そう、ですね――」


 リチュオンに聞かれ、ファリスは少し考える姿を見せた。

 そして魔術師は自分の考えが(まと)まると言語化してみせる。


「私としては敵を倒して功績を挙げるのが目的で無く、この国の治安維持のための目的であったので――特に問題はないですね。相応の報酬さえ貰えれば、仕事の引き継ぎ自体は構いません。リチュオン、あなたはまだ体力が有り余っているようですが、全員があなたのように元気な訳じゃないですからね。ここで無理をして命を失いたくはないでしょう」


 ファリスの言葉を聞いて、俺には強く当たるリチュオンも口を閉ざした。

 ただ、他の人の意見も気になるのか、リチュオンは同じく王都から同行していた兵士の一人に視線を向ける。


 え、俺か? と明らかに兵士は困惑した表情を見せながらも、やはり一兵士の彼も思うことがあったのだろう。


「あ、悪いな。少しばかり悔しくはあるが、正直なところようやく帰れるってのが本音だ。おい、そんな目で睨むなよ。あんたが凄い頑張ってたのは俺たちも知ってる。レバン指令も助けてたしな。だがなぁ、本当ならうちら大消耗してるんで帰りますって、王都に伝令まで出してるんだぞ。それを盗賊が出たからって帰らずに、ずっとこの周辺に留まってるんだ。そして更に人員が消耗――そりゃ王都からもいい加減帰って来いって怒られる。なんなら後任の部隊が来たのなら、ここに留まる正当性はそれこそ無くなる。住民の安全はそいつらに任せればいいからな。あんたには言いづらいが、第三者目線からしても正しい事言ってるのはあいつら側だと思うぜ?」


 なんか俺もよく知らない兵士さんはファリス以上にずばずばと発言した。

 あー、俺も聞けば聞くほど分が悪いと思えてきた。

 それでもファリスは何か納得いかないようだ。

 反抗期の娘のように険しい顔を続けていた。


「そもそも、よそ者っていうなら――あの南地域の人たちもそうじゃないですか! 騎士団の人はともかく、あのロズウェルとかいう人たちは大盗賊団を追って来てここにいるだけで、本来は管轄外って聞きました。あの人たちが許されるなら、私たちも許されるんじゃないですか?」


「まあ、東地域と南地域は仲良いいから。逆に中央地域の連中はいけ好かないって、基本嫌われてるから」


 兵士がそれは仕方ないと、やはりリチュオンの怒りを鎮めようとする。

 まあ、あのロズウェルとか言う男は大盗賊団の首領であるガンドルという男を追っているらしく、心情的には今のリチュオンと同じように獲物を横取りされたくないのだろう。


「はぁ、どうするかなぁ――」


 息を吐き、頭の中の迷いも吐き出したいところだったがそうもいかない。

 俺は普通に迷っていた。


 ――これは、さすがに帰ることになるか?

 ――リチュオンはまだ残りたいようだけど、周りに反応からして無理だろう。


 ――俺も竜殺しとして、剣の竜が残っているのは気にはなる。

 ――ただ、後任の者たちが代わりに竜を殺してくれるなら俺としては構わない。


 ――と、言いたいとこではあったんだ。


「だけど、違和感というか、気になることがあるんだよなぁ」


 誰にも聞こえないように一人言を呟く。

 俺たちは、敵の残党に関して――まだ理解していないことがありそうなんだ。


 ミューラン王国の生き残り、そのうちの一人が持っていた竜殺しの剣グリミナ。

 そして、剣の竜ダインレイス。


 どうも戦った感じで違和感が否めない。

 いや、勘違いのようにも思えるがおかしいのだ。


 本来、竜殺しの武器というのは人間相手には使えない。

 もしくは人間に使う場合はその力が制限されるのだ。

 だが、グリミナは――あれはどうなんだ?


 竜殺しの盾を持つガルティも言っていた。

 竜殺しの武器を持つ者としてグリミナを止めなければならないと。


 ガルティがラテスを安全な近くの町に送り届けなければならなかったので、深くは聞けなかったが――どうも聞いておかなければいけない気がしていた。


「それに、竜の剣ダインレイス――」


 あの竜も違和感があった。

 竜使いの杖によってミューラン王国の残党に洗脳されているはずの竜。


 妙に動きが良い気がしたんだ。

 なんか戦っておかしい気がした。


「最悪、帰る素振りだけして俺だけここに残ってもいいか。別に俺は国の正規兵って訳じゃないから、帰還命令に従う義務もないし」


 ただ、そうなるとリチュオンも一緒に残りそうなのが悩みだった。

 なんなら、俺とリチュオンが残るとなるとファリスも気を使って残りそうだ。


 リチュオンはともかく、ファリスはだいぶ疲労が溜まっているだろうし、俺としても普通に帰って休んで欲しくはあるんだ。


 うーん、悩みどこである。


「どう、するかねぇ」


 俺はそんなことを言いながら、未だ愚痴っているリチュオンを見つめていた。

 だが、その直後だ。


 そんなリチュオンも一瞬黙る、意外な訪問者が俺たちの前に現れた。

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