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竜の墓標が朽ちるまで  作者: よしゆき
第一章 潜む竜
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第一話 竜殺し、客人に有能さを見せつける

 俺の名はケイゴ。

 人類最強と言っても過言ではない存在だ。

 そして数少ない、竜と正攻法で戦える人間でもある。


 そんな俺の活動拠点はベリファールの村にある宿屋だ。

 この宿屋はエレナという少々気の強い母親気質の姉と、ミリアという物静かで優しい妹の二人が経営している。

 美人姉妹ということで、町の外でも中々有名らしい。

 そして俺はこの宿屋に住まわせて貰っている代わりに、彼女らの用心棒をしているのだ。

 美人姉妹との同棲、これは前の俺では考えられない生活だ。


 しかし、この宿屋にはもう一人俺と同じ用心棒が、しかも女性がいた。

 彼女の名はファリス。

 職業は魔術師だ。

 しかも、当然のように可愛い。

 つまり俺はこの宿屋では三人の女性と一緒に暮らしており、ちょっとしたハーレムという奴に近い状況だと思っている。

 

 まあ、俺は人類最強の竜殺しだ。このぐらいの生活は当然だろう。


***


「んんーっ。よく寝た」

 

 朝の日差しと鳥たちの鳴き声を聞いて、俺は眠りから覚めた。

 直射日光が俺の全身を温めており、実に心地よい。


 俺は動かない頭でぼんやりしていると、直ぐ隣の扉が開き少女が一人出てきた。

 俺と同じ宿屋の用心棒魔術師のファリスだ。

 青い髪に、短いショートへア。

 そしてお世辞にも高いとは言えない身長。

 幼そうな童顔と相まって、この宿屋では一番の年下に見える可愛らしい女性だ。

 ただ、下手に身長の事を言うと雷が飛んでくるので、注意が必要である。


 彼女はいつもの眠たそうな目で俺に気づくと、丁寧な口調で俺に尋ねた。


「――あなたは、こんなところにそんな格好で何をしているんですか?」


 ファリスはどうやら俺に興味があるらしい。

 何故この俺が『私はケダモノの変態です』と書かれた木板を首からぶら下げた状態で、宿屋の外で正座をしているのか、気になるらしい。


 俺は自分の魅力に恐ろしさを感じた。

 同時に最強の竜殺しなので仕方ないと思った。


「話すと長くなるかもしれないが――俺は昨日の夜に、三日ぶりにこの宿屋に帰ってきたんだ。久しぶりの我が家、嬉しかったね」


「はい、それで」


 ファリスが無表情のまま、相づちをうつ。


「帰ってきたら、まず何をするべきか? そりゃあ、ここの家主に挨拶しに行くのが礼儀ってもんですよ」


「私はしないけど」


「それでこの宿屋の長でもあるエレナの部屋に俺は行ったわけだ。そしたら間の悪いこと、彼女は着替え中だったわけで――」


「要するにエレナの着替えを覗いてしまって、彼女から罰を受けていただけですね」


 その通りだ、と俺は頷いた。


「悪気はなかったと、事故なんだと俺は言ったんだが、彼女の怒りは収まらなくてな。昨日の夜から今日の朝まで、ずっとここで大人しく正座してた」


 俺が自慢げに今までの経緯を話すと、ファリス視線が少しばかり険しくなっている気がした。


「あなた大丈夫ですか、色々と」


「問題無い。まだ意外に夜が寒かったり、近くを通りかかった人に変な目で見られたりはしたが大丈夫だ。俺は最強の竜殺し、この程度いくらでも耐えられる」


「まあ、あなたが満足しているなら別にいいですが」


 む、ファリスは何か意味深な事を言っていたようだった。 

 彼女が何を言いたかったのか俺は聞こうとしたのだが――。

 俺の行動を遮るように客人が来た。


「失礼するよ。竜殺しの男がいるという宿屋は、こちらで合っているかな?」


 二人組の客人だった。

 一人は髭を生やした笑顔のおっさんだ。

 漂う雰囲気と質の良さそうな服を着ているから、たぶんどこかの役人だろう。

 ただ、足の運びと、使い込まれた手のゴツさを考えると、元は兵士か何かしていたかもしれない。


 もう一人はフード付きのローブを着ていて、顔や体付きなどはわからない。

 しかし、地面近くに見える足は細く、華奢である。女か? そのたたずまいは現役で、荒事をやっている気配がした。

 しかも、フードの中に何か隠してるようだ。


「竜殺しの男――『これ』がそうです」


 そう言ってファリスは俺を指さした。

 というか『これ』って、『これ』扱いは酷くないだろうか?

 そして髭のおっさんは、俺の姿を見て困惑しているようだった。


 恐らく俺の体から無意識に出るオーラに威圧されたのだろう。

 やはり俺ほどの人間になると、無差別に相手を怖がらしてしまうこともあるらしい。

 仕方がない、ここは俺から話し掛けよう。


「初めまして。俺がこの宿屋で用心棒をしつつ、竜を狩っている男。竜殺しの名で呼ばれているケイゴだ。よろしく――」


 そう言って俺は正座している状態で頭を下げた。

 首から下げている木板が思いのほか、邪魔である。


「あ、ああ始めましてケイゴさん。私の名はレバンと申します。実は竜殺しの名で有名な――有名なんですよね? あなたにお話がありまして、おうかがいしまして――」


 レバンというおっさんは、何故か会いに来た目的であるはずの俺を目の前にして、非常に困惑していた。

 ずいぶんと落ち着かない様子だ。

 もしかしたら、場所が悪いのだろうか?

 ここは俺の気配りを見せることにしよう。


「とりあえず、中の客間でお話しましょう。その方がお互い良いでしょう」


「は、はあ。それではお言葉に甘えて――」


 そう言ってレバンは宿屋の扉に向かおうとするが、俺はある重要なことに気づき彼を止めた。


「あ、ちょっといいですか?」


 正座している俺は下からレバンを見上げた。

 そしてゆっくりと、彼に向かって手を伸ばす。


「手を貸していただけませんか? 実は昨日の夜からずっとここで正座していたので、足が痺れて一人じゃ立てないんです」


***


 客間のテーブルには二人の人物が座っていた。

 一人は竜殺しである俺に会いに来たレバンというおっさん。

 そしてもう一人は、この宿屋の主であるエレナだ。

 彼女はキリッ、とした顔つきに健康的な肌をしており、肩まで届く髪を後ろで結んでいた。


「つまりあなたは、山を一つ越えた南地域の工事担当者なんですね」


 エレナの言葉に、レバンは頷いた。


「はい。本来なら橋の工事に取りかかる予定だったのですが、最近になって竜が現れまして」


「なるほど、それで俺の竜殺しの力を借りに、ここまで来たと――あ、お茶です。どうぞ」


 そう言って俺は入れ立てのお茶をエレナとレバンの前に置いた。

 さてと、二人が話している今のうちに俺は床の雑巾がけをしておかなければ――。

 俺は水に付けた雑巾を固く絞り、床の掃除を開始する。

 そしてレバンは何でか知らないが,やはり困惑しているようだった。


「まあ、今のところは彼のことは気にしなくて結構です。困惑する気持ちもわかります。ただ、彼の実力は本物ですよ。私が保証します」


 そう言ってエレナは俺に少しだけ視線を送る。

 さすがはエレナだ。

 俺の存在価値をわかっている。

 この俺の竜殺しの真価を一番理解しているのは、もしかしたら彼女かも知れない。


 俺の雑巾がけにも力が入る。

 部屋の角は汚れが溜まりやすいからな!

 念入りにごみを取り除かねば!


「ちょっとケイゴ君。さっきから木が床に当たってうるさいんだけど。もうちょっと静かに雑巾がけしてくれない」


 するとエレナから苦情がきた。どうやら俺の首からぶら下げている『私はケダモノの変態です』と書かれた木板が、雑巾がけをする度に音を立ててうるさいらしい。

 ちなみにこの木版の制作者は彼女である。

 俺はエレナに進言する。


「それじゃあ、この板取っていいですか?」


「駄目よ。何の為の罰だと思ってるの? それ付けたまま、音を立てずに雑巾がけをしなさい」


「まあ、そういうことなら仕方がない。まあ、俺は竜殺し――この程度のこと造作もない」


 俺は左手で木版を抑えつつ、右手を使って雑巾がけを再会した。

 この隙のない掃除の動き、さすがは竜殺しと言ったところだろう。

 おっと、思わず自画自賛してしまった。

 俺の素晴らしい雑巾がけの最中、エレナはレバンとの話を再開した。


「とにかく彼は竜殺しとまで呼ばれる人物です。安い男ではないのです。もしお貸しするとなればそれ相応の物をこちらも要求させて頂きます」


「は、はぁ。まあ、竜殺しのお力を借りれるなら。こちらも、ある程度の謝礼は払うつもりで参りましたし、それで依頼を受けていだけるなら――」


 どうやら俺の意思とは関係なく、竜退治の依頼が成立するようだった。

 まあ、拒む理由はない。竜を退治してこその竜殺しだ。

 いいだろう。さくっと竜を退治して――。


「ちょっと待ってください。その話、私は賛成できません」


 すると突然の女性の声が部屋に響いた。

 エレナとレバンが、声のあった宿の出入り口に視線を向ける。

 俺も雑巾がけを止め、声の主を見た。

 外で待機していたはずのローブの人物がそこにはいた。


 フードを取り、彼女は素顔を見せる。

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