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竜の墓標が朽ちるまで  作者: よしゆき
第三章 滅び望むモノたち
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第百五話 邪教集団の精鋭たち

 邪教信者の一人がデュラムに訝しげな眼差しを向けつつ右手を振る。

 すると、どこからか片手で取り回し出来るぐらいの小さめな戦鎚(せんつい)が取り出されていた。

 その得物は片方が鳥のくちばしのように尖っており、血がこびり付いている。

 馴染み具合からかなり愛用している武器であることが窺えた。


「なんだ、このジジイは? どこから現れた?」


「知らん。だが、まぁ――お前殴りに行ってみろよ」


 仲間に言われ戦鎚持ちの男はズカズカと歩きながら、デュラムに近付いてゆく。

 その背後ではもう一人の男が垂直に跳躍したかと思うとそのまま体勢を反転させ、まるで虫の様に天上へと張り付いた。


 ――くちばしみたいな戦鎚持ち。

 ――天上に張り付く奴。

 デュラムは敵の邪教信者たちの特徴を観察する。


「そうです。亡きグローラン様の意志が今は大事であり、邪魔は何人たりとも許されません」


 更にもう一人の男はその手に木製の杭を持っている。

 絶対にただの杭ではないだろう、とデュラムは踏んだ。


 ――これは三人とも、戦い方は正統派ではないだろうな。


 刃を交える前から、デュラムはもう予想できてしまった。

 絶対に戦いづらい相手だと否応なしにわかってしまう。

 そんなことを思いながらデュラムは殺した信者の背中から剣を引き抜き、邪魔だとばかりに払いのけた。


 交戦まであと数秒――。


「淀みがそ■にあった。私は知らな■と言った。それなら誰が知りえると言った」


 戦鎚を携えた信者は魔術の詠唱を開始しながら、更に間合いを詰めてくる。

 詠唱に雑音が混じっているのに気づき、デュラムも一層警戒する。


「閉じた口を開かせて、抜いた舌を貼り付けて――」


 信者の男は詠唱を続けながら、戦鎚を振り上げデュラムに襲い掛かる。

 それに応戦するかのように、デュラムも前に進み剣を構え直す。


 そして、殺し合い。

 薄暗い宝物庫の中で、王様と黒ずくめの男が戦うという異様な光景が始まった。


 剣が振られ、戦鎚が振り下ろされる。

 互いに殺しにくる相手の武器を避け、相手を殺す瞬間を狙う。


 年老いても未だ衰えないデュラムの剣撃。

 舐めて掛かっていたならば、簡単にその肉体を断ち斬られてしまうだろう。

 だが、相手が老人だからと侮らず、信者の男も最初から本気だ。


「震える手は指を折り、折れた指で喉を潰す――」


 戦鎚持ちの信者は激しい攻防をデュラムと繰り返しながらも、落ち着いた声で魔術の詠唱を続けている。

 デュラムの連続で繰り出される剣に後退させられながらも、更に一撃食らい胸辺りを負傷もしたが、それでも信者は声色を変えない。


 その頃合いで――天上に張り付いていた信者の男が迫り来る。


『デュラム、もう一人が天上から迫っています。気を付けてください』


 宝物庫の中央に置かれている竜殺しの剣セント・ダルシア。

 その剣がもう一つの目となり、周囲の状況をデュラムに伝える。

 竜殺しの武器は人間向け使うことが出来ないため、セント・ダルシアはこういった細かい手助けを行うしかない。


『来ます』


 セント・ダルシアが注意喚起したときには、もう天上にいた脅威が降ってきた。

 天上を這っていた男の手にはナイフが握られており、頭上からデュラムに襲い掛かる。


「なっ? ばれ――だっ!」


 だが、相棒の剣から予め攻撃が来ることを伝えられていたデュラムは、その降りてきた信者を空中で叩き落とした。

 奇襲をしかけた信者も自分が絶対的有利を取れていたと慢心していたからか、デュラムの剣をまともに受け、驚愕の声と共にそのまま床を転がる。


 しかし、戦う王様の眉間にしわが寄る。

 ――感触がおかしい、仕留められなかった?

 確実に殺せるはずの剣を叩き込んだはずのデュラムだったが、硬い物を殴った様な違和感があった上に、何か割れるような奇妙な音が同時に鳴っていた。

 また、デュラムの剣には血がついておらず、斬ったはずの信者は存命している。


「痛って、()()()()()()骨逝ったか? このジジイ、どんだけ馬鹿力なんだよ!」


 斬られた信者は床を転がりながらも、素早く上体を起こしていた。

 ただ、デュラムの攻撃を喰らった腹部が酷く痛むのか、片手で押さえてもいる。


『女が何か魔術を使って、あの男を守ったようですね』


 セント・ダルシアの言葉を受けて、デュラムが一瞬だけ視線を動かす。

 すると男たちからネクロアと呼ばれていた女が、意味ありげに右手を広げ、デュラムに斬られた男に今も視線を向け続ける。


「待って、続けてこのまま治します」


 ――剣が通らなかったのか、あの女の仕業か?

 ――それにあの言葉、治癒魔術まで使うか。

 ――早く始末しないと、埒が明かないな。


 だが、デュラムはネクロアにばかり意識を向けていられない。

 既にくちばしのような戦鎚を持った信者が間合いを詰めてきている。

 即座に迎え撃とうとしたデュラム――だが、その右腕に激痛が生まれた。


「おや?」


 デュラムの右腕に突如として刺された様な痛み、そして出血。

 多少の驚き、しかし取り乱すほどではない。

 それでも剣の保持は出来なくなり、デュラムは剣を床に落とす。


 そして、視界の端には木製の杭を持った男の姿。

 その男はデュラムが怪我した分と同じところに、自分の持っていた杭を刺し、自傷行為に及んだようだった。


「アル・ダシア――これ痛いんですから、ここで仕留めてください」


 杭を持った男は魔術を使い、自らの傷をデュラムへと伝播させたのだろう。

 冷静な口調のまま、腕から血を垂れ流す。

 そして、この勝機を逃すまいと戦鎚を持った信者はデュラムに迫り来る。


「これは、()()()()()()()()


 右腕を負傷したデュラムはさすがに諦めた様子だった。

 一瞬、床に落ちた剣を左手で拾おうか迷ったようだったが、何を思ったのかデュラムは思いっきり蹴飛ばした。

 デュラムに蹴られた剣は宝物庫の床を物凄い勢いで滑ってゆく。


 戦鎚を持つ信者はデュラムの訳の分からない行動に警戒しながらも、その速度を緩めない。

 そのまま臆さずに男はデュラムの頭部に穴を空けようとして――。


「ちぃ」


 しかし、くちばし状の戦鎚は確かに捉えたと思った獲物を逃す。

 攻撃が当たる瞬間に突然デュラムの姿が消えたので、戦鎚を持った男も思わず舌打ちする。


「てめぇ、やっぱりか」


 そして戦鎚を持った信者の男は宝物庫の中央辺り――竜殺しの剣の傍へと移動したデュラムの姿を確認する。

 竜殺しの剣セント・ダルシアは使い手を自分の元へと召喚できる能力を持つ。

 その能力を使い追い詰められていたデュラムを助けたのだ。


「突然現れた時点で察していましたが、やはり空間転移ですかね?」


 木製の杭を持った信者も、思っていた通りという反応だった。

 ネクロアは少し不可解な顔をしているが、他三人の信者たちは特に驚いてはいない。

 やはりデュラムがこの宝物庫に突然姿を現したことから、空間転移かそれに似た事が出来ると予測はしていたのだろう。


『やはり忠告した通り、この人たち強いですね。私がいなかったら殺されていましたよ、デュラム』


 セント・ダルシアは冷静な口調で思ったことを言ってくる。

 歴戦の猛者であるデュラムだとしても、この水準の敵を四人まとめて相手にするは少々無謀だと――どこか言いたげでもあった。 


「そうだな。やはりもう少し君に頼らないと――これは無理だ」


 今の自分の力量ではここまでだと、さすがのデュラムも観念したのだろう。

 王は竜殺しの剣セント・ダルシアの柄に左手を伸ばし、固定してあった鞘から引き抜いた。

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