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竜の墓標が朽ちるまで  作者: よしゆき
第二章 最強再来
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第百十一話 凡人の奮闘

 俺は今、だだっ広い平原にポツンと立っている。


 夜明けが近くなってきている感覚があった。

 少し空が薄くなってきている気がする。

 ただ、俺の今付いている目玉が正常に働いているのか、よくわからない。

 どうも両目が霞んでいるような気もするのだ。


 だから、これは勘だった。

 そう、そんな気がするだけなのだ。

 今の俺では正しい判断がつかない。

 そもそも現状だと頭の中もまともなのか疑わしい。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ――がっ、っ。ああああああっ――」


 立っているのもキツい。

 呼吸が落ち着かない。

 吐きそうになる。

 無駄に体が熱い。

 索敵の為に感知する竜ベルサーシュを連続で使用しているので、頭への負担も大きい。

 竜殺しの力が未だに容赦なく俺を強化する――体が痛い。

 再生する竜ヴァルファローナを使用していないから、体が壊れてゆく。

 だが、パープリーアテントが瞬間移動を連発して、高速で接近してきている。


 ああ、これ以上は無理だ。

 俺は血反吐を吐きそうな感覚に陥り、急いで索敵を中止。

 能力を切り替え――ヴァルファローナによる体の修復を開始する。


 痙攣し始めていた俺の体が収まってゆく。

 それでも頭痛がする。

 気持ち悪い。

 どちらにせよ竜の能力を使用し続けているというのはかわらない。

 精神負担は常に付き纏う。

 つらい、つらい、つらい、つらい、つらい――。


 かなり、つらいが――奴がきた。

 恐らく、左前方五百メートルは離れていると思われる。

 そこから奴はすぐにまた移動、今度は俺の右横三百メートルほどに場所を移す。


 ――口の中の黒い瞳が赤く光っているのが見えた。

 ――瞳の竜パープリーアテントは主砲を口に含んでいる。

 ――あれは、来る。


 その二秒後、奴はそのまま後方へ二百メートルは後退。

 そのまま三秒間ほど静止。


 そして――竜が動いた。


 直後、前方の視界を遮ように巨大な生き物が姿を現す。

 瞳の竜は一瞬にして俺の眼前に現れた。

 俺の目の前には、赤く光る――黒い瞳。


「ぐがああああああああああああああああああああああああああっ!」


 俺は意味不明な声で叫んだ。

 今まで使用していたヴァルファローナを止め、即座に能力をオズラフェルに切り替える。


 奴の主砲は既に発射寸前。

 黒い瞳から強力な魔力閃光が放たれるのは目に見えている。


 避ける暇は無い――死ね!


「がああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」


 まるで即座に体中の血液を沸騰させるかのように、俺の体が更に熱くなる。

 異常な速度で俺の体が反応し、右腕が上がる。

 右手を大きく開き前に突き出すと、触れぬ竜オズラフェルのサイコキネシスを俺は発動させた。


 俺はパープリーアテントの口を――見えない力で強引に閉じようとする。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


 今度は竜が叫ぶ番だった。

 奴は瞬間移動で一気に間合いを詰め、至近距離からの魔力閃光で俺を殺そうとしたのだろう。


 だが、今の俺はパワーがかつて無いほどまでに上がっている。

 それこそオズラフェルで竜の口を強引に閉じることが出来るぐらいには強力だ。


「その、無駄な、口を閉じて――死ねええええっ!」


 パープリーアテントの口を閉じる――を通り越して、俺はそのまま奴の頭を潰そうとする。

 突きだした右手に力を込める。

 しかし、すぐに感触がなくなった。

 パープリーアテントの姿も消えた。


「ちぃ!」


 俺は即座に高速移動術を発動させる。

 同時に俺の赤い閃光が迫り来る。


 パープリーアテントはオズラフェルの力から逃れるために瞬間移動能力で即離脱――そして場所を移動した直後、黒い瞳に溜めていた魔力を俺に向けて解き放ったのだ。


 ――俺は高速移動術で数百メートルを一気に移動。

 ――瞳の竜の魔力閃光が地面を抉りながら、遠くの方まで伸びてゆく。


「ああああああああああああああああああああああっ!」


 魔力閃光の直撃はなんとか避けた俺だったが、強引な移動を行った為に転倒した。

 しかし、速度が速度だ。

 今の最大限にまで魔力で強化されている高速移動術。

 これを使った際の転倒は想像以上に酷く――たぶんどこか折れたり、内蔵が破裂したかもしれない。


「ぐうっ、があああっ、あああああああああああああああああっ!」


 死に損ないの虫のように、地面の上で俺はもがき、叫んだ。

 痛いのか、痛くないのか、よくわからないのに声だけは漏れる。

 そもそも魔力閃光は直撃を回避しただけで、余波はもろに受けている。

 俺の左半身がだいぶ焼けただれているように思える。

 髪が頭皮から溶けているような感覚。

 目が熱でやられたのか、元から悪くなっているのかわからない。


「あああああああああああああああああああ――ヴァル、ファ、ローナ」


 再生する竜ヴァルファローナの能力で俺は瞬時に、体を元に戻す。

 体は元に戻っても、来ている服はだいぶボロボロになっていた。

 上半身はほとんど肌を出しているようなものだ。


「がああっ、あああああああああああああ――」


 体を正常な状態に戻した俺は、飛び跳ねるように起き上がると移動を開始。

 瞳の竜の魔力閃光が容赦なく飛んできて、周りの地面を破壊してゆく。


「はあ、っ。高速――発、ど」


 俺は何度も高速移動術を発動し、パープリーアテントの補足から逃れようとする。

 だが、奴の全身にある目玉が常に俺を狙い続ける。


 恐らく、今現在の俺が高速移動術を発動した場合、加速時に限り奴は俺の姿が見えていない。


 しかし、常に加速状態を維持することは不可能で、どうしても俺はどこかで姿を現さなくてはならなくなる。


 瞳の竜はその俺が姿を現した瞬間、機械のように正確な索敵能力で俺を見つけ出し、こちらに別の行動をさせる暇を与えない。


 ――ああああっ。

 ――何か奴の、不意を突く。

 ――何か、を


 その間にもパープリーアテントは体中の目玉から魔力閃光を放ちつつ、瞬間移動で間合いを詰めてきている。


 俺も高速移動術を連発する。

 奴を撹乱しようと、目に見えない速度での移動を繰り返す。

 体が軋む感覚、血反吐を吐きそうな状態を、ヴァルファローナで押さえつける。


 俺は高速移動術で撹乱する。

 竜は瞬間移動で動き回る

 互いに高度な移動を繰り返し、間合いを見て、動きを見定めようとする。


 俺は高速移動術を連発。

 何度も、何度も使用する。


 何度も、何度も、使用し――その度にパープリーアテントの視界から消える。


 消えて移動、消えて移動を繰り返す。

 俺が高速移動術を連発して、瞳の竜の視界に、頭に焼き付けて――。


アッド(付加)――グーリ・ミニッド(姿消す竜)


 俺は本当に姿を消した。

 姿消す竜グーリ・ミ二ッドの能力は自らの姿を透明にすることができる。


 ――今までは移動していたから、その場所からいなくなっていた。


 ――今回は姿を消しただけなので、その場所から移動していない。


 俺の本能が告げている。

 感触があった。


 奴は今――俺が高速移動術で移動したことにより消えたと思っている。


 瞳の竜パープリーアテントは確かに体中に目玉を持ち、全周囲に対して視界があると言っていいだろう。


 だが、それでも――。

 例え視界に入っていても、意識していなければ見えないということもあるのだ。


 と言っても、奴にとっては本当に些細な誤差。

 きっとパープリーアテントはすぐに俺を見つけるだろう。


 精々、俺の発見が一秒程度遅れるか――。


 もしかしたら、その半分程度か――。


 しかし、それでも隙は隙だ。


 この隙を何もせず逃すわけにもいかない。


 パープリーアテントは――ほぼ、正面。


 距離は二百メートル程度か?


 少し身体が逸れているが、イケる。


 まだ、殺すのは無理だ。


 諦めろ。


 相手の戦力を削げ。


 上げた右腕に力を込めろ。


 ありったけの魔力を込めろ。


 オズラフェルに力を込めろ。


「――オズラフェル(触れぬ竜)


 グーリ・ミ二ッド解除と同時に――オズラフェルの使用を開始。

 俺の姿が視認出来るように浮かび上がる。

 きっとパープリーアテントも俺の姿を認識しただろう。


 だが既に、サイコキネシスとも言える見えない力が竜に働こうとする。


 感覚はピーラー。

 野菜の皮を剥く、皮むき器。

 それで体表を削り取る感覚。


 削れ。

 奴の体表を。

 ――削り取れ!


「があああああああああああああああああああああああああああっ!」


 俺がオズラフェルを行使しながら叫ぶ。


 パープリーアテントは俺の攻撃に反応したのか、あの巨体で有りながら横に跳躍――回避行動をとっていた。


 けれど、どんなに反応が良くても、あの巨体だ。

 俺の攻撃からは逃げられない。


 ――鱗が剥がれる。

 ――その下の肉が削られる。

 ――瞬く間に、竜の左側面部の大部分が血で真っ赤に染まる。

 ――竜の血が大量に垂れ始める。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 最強の竜と呼ばれるパープリーアテントであっても、悲痛な叫びを出すしかない。

 俺が見えない力で無理矢理、奴の皮膚を削り取った。

 それも左側面――奴の首元から後足の付け根辺りまで。

 回避行動を取られたもののその効果は十分だろう。


「っ、いや。いけえええええっ!」


 そこで俺は更に追撃を行おうと、動き出す。

 今のでパープリーアテントの左側にある目玉もだいぶ削れたのだ。

 視界と攻撃を担う大部分を失った。

 今が更なる攻め時だ。


 体表が削れた左側面部に出来るだけ近づくように俺は移動を開始する。

 パープリーアテントは他の生きている目玉で俺に魔力閃光を放ってくるが、明らかに今までより数が少ない。


 これなら、イケる。

 奴を――殺せる!


 そう思った瞬間だった。


「――ぐぼはっ!」


 俺は吐瀉物でも吐き出すように、血を吐いた。


「くそっ、こんな、時に――」


 気がつくと、身体が酷く震えていた。

 特に右腕は揺さぶられているように、ぐらぐらと動く。


 竜殺しの力による過剰な身体強化の代償。

 身体が強化に耐えきれず、自壊を起こしているのがここに来て影響し始める。


「まだ、まだ耐え。ここで奴を――」


 額の血管が破裂した感覚があった。

 身体の全てが熱くて、脳みそがとろけそうだ。

 呼吸が出来ず、酸素が回らない感覚。

 全身を剣で突き刺されるような、拷問みたいな痛み。


「ふっ、ぐうううううううううっ!」


 下唇を噛みきってもいいから、正気を保とうとする。

 酷く痙攣する右腕を、握力の無くなってきている左腕で支える。


 先ほどのグーリ・ミ二ッドからのオズラフェルへの切り替え。

 ヴァルファローナによる身体を治す工程が入っていないため、身体の不具合が顕著に現れている。

 今の俺は身体が勝手に壊れていくというのに、放置し過ぎた代償がここに来た。

 このままだと俺は死ぬ。


 だが、このチャンスを逃すわけには――。


「があああああああああああああああああああああっ!」


 もはや気力だけで動きながら――俺はオズラフェルを使用した。

 しかし、足腰がおぼつかず、倒れながらの攻撃。


 ――当然、見えない力は明後日の方向に働いていた。

 ――それ以前に、瞳の竜は瞬間移動で場所を移動していた。


「ああああああああああああああああああああああああああっ!」


 身体が、痛くて、苦しくて、どうしようもなくて――俺は倒れて尚、叫び続ける。


 腕の皮膚が裂けてきた。

 起き上がれる気がしない。


 呼吸が出来無くて、まるで陸に打ち上げられた魚のようで。

 身体が焼け死ぬんじゃないかと思うぐらい、熱くて、熱くて、死にそうで――。


 ――ヴァルファローナ。

 ――ヴァルファローナ。

 ――ヴァルファローナ。

 ――ヴァルファローナ。

 ――ヴァルファローナ。


 俺はこのまま死ぬんじゃないかと思う瀬戸際で、なんとか身体の再生を開始できた。

 一気に身体が正常に戻っていくのがわかる。


 ――なのに、体中の痛みが収まらない。

 ――頭が痛いのが収まらない。

 ――気持ち悪いのが収まらない。

 ――身体が熱いのが収まらない。

 ――少し呼吸が出来るよう担った程度で、まだ苦しい。


 手足が大方俺の意思通りに動く。

 立ち上がることも出来る。

 それなのに、体中の苦しい感覚が収まらない。


 身体が治っているはずなのに、治っていない。 

 わからない。

 わからない。

 今俺の身体はどうなっている?


 まずい。

 この身体が本当に壊れる前に、あの竜を殺さなければいけない。

 あと、どれくらい持つんだこの身体は?


 アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ――クソがっ!


「まだ――ま、だだ。限界が、来るっ、ああ前に、奴を――」


 駄目だ。

 頭を切り換えろ。

 俺はまだ気迫が足りない。

 根性が足りない。

 まだだ、全力を出せ。


 こんなんじゃ全然奴を殺せない。

 俺はまだ甘えている。

 俺はまだ余裕を残している。

 俺のような凡人が、遥か格上の相手を超えるにはもっと出し尽くさないと。


 もっと、全力で、本気で、限界で、死ぬ気で――奴を殺せ!

 竜を――殺せ!

 自分の命を削ってでも――殺せ!

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