第五十七話 続・続・癖が強い奴らの作戦会議
「そういうことで瞳の竜が本当に人間と契約しているのか知らないが、王都での無用な混乱を野放しにしておく訳にもいかない。だから僕は一度、ウェイレム、そしてギレウスを連れて王都に戻ることにする」
俺たちの反応を物ともしない鋼の精神をお持ちのレバンは、何事も無いかのように話しを進める。
だが、レバンを嫌うこの人は当然ながら不服の意を漏らす。
「おい、そもそもだ――なんで勝手に俺が王都へ行くことになってんだ。そんな話今まで一度も聞いてねえぞ。俺は絶対に行かねぇからな!」
ギレウスが断固拒否だと訴える。
恐らく彼からすればあの二人と一緒に行動など、罰ゲーム以外の何物でもないのだろう。
しかし、ギレウスの意見を容易く受け入れるレバンではないだろうと、もうここにいる誰もが知っていた。
「ギレウス――君がもしここで断ったら反逆罪な」
「なっ!」
そして、レバンは躊躇なく権力を振りかざす。
忘れていたがレバンは今、この国の軍のナンバー2という立場なのだ。
恐らくやろうと思えば横暴なことは結構できるのだろう。
そして、あまりに容赦のない一言に、思わずギレウスも口を大きく開いていた
「ほらほら、ギレウス君。今はこの国の一大事なんだからそんなワガママが通るはずないだろう? まあ、もし仮にレバンが許したとしても、私が許さないけど」
そして、その上から更に釘を刺してくるウェイレム。
この人も明確な立場はよくわからないが、偉さで言うと上から数えた方が早い人間ではあるのだ。
つまり、ギレウスに拒否権というのは一切存在しなかった。
「嘘だろ――なんで俺なんだよ」
明らかに顔色を悪くするギレウス。
可哀想に、ついには頭まで抱えだした。
「理由? 簡単だ。それは君が僕を嫌っている、直属でもなんでもない北地域の所属だということ。一緒に瞳の竜と戦っていて、そこそこの役職についている。適切に状況を見極める能力があり、愚痴は多そうだが私情には走らない――と、いったところか」
「要するに、馴れ合っている人間だと証人にならないから俺を連れて行きたいと?」
「そうだ。更に言うと上の立場の人間に物怖じしない性格と、相手の指摘や上げ足取りなどにも対応できる頭を持っているのはたぶん君ぐらいなものだからな。君以外に適任者がいないんだよ」
そこまでレバンに言われて、ギレウスは黙ってしまった。
どう答えたものかと、難しい顔をしている。
「ギレウスさん。レバンさんは優秀だから連れて行きたいって言ってるんだし、いいんじゃないですか?」
ウェルバーがそこでフォローを入れていた。
確かに、そこまで能力を買ってくれているのだから、同行してもいいのでは?
と、俺も思う。
だが、やはりギレウスは納得しないのかレバンを見た後に、ウェイレムを見た。
「別に――俺がいなくても、そこのウェイレムとかいう男がいればいいんじゃないのか? 俺なんかより役職が全然上なんだろう? 俺が弁護するよりいいはずだろう?」
「いやいやー。僕もレバンほどじゃないが、周りから嫌われているからね。何か言っても信じて貰えないかも知れないし。それどころか下手をすると、僕が竜と契約している裏切り者扱いされる可能性もあるからねー。僕じゃちょっと厳しいね。はっはっはっ――」
そうして、自分の証言力のなさをウェイレムは説明した。
何故レバンといいウェイレムといい、この国の上の連中はこんなにも信用のない奴ばかりなのだろうか?
そして、この男は何がおかしくて笑っているのだろうか。
「もういい。わかった、わかった、俺が行ってあんたの無実を証言すればいいんだろう? ただ、上手いこと出来るかどうかは知らんぞ」
「そのぐらいの気構えでいいさ。どうせある程度は自分で処理するつもりだ。よろしく頼む」
ギレウスの言葉を聞いて、レバンは微かに笑っているようだった。
「――それじゃあ次だ。先ほど話していた触手の竜エン・ターピアが瞳の竜と戦闘をするまでの話だ。もしもの場合、住民を助けるのだろう?」
そして、このレバンという男は次の話に移行する。
やはり、レバンとウェイレム、マリア以外は驚いているようだった。
住民の避難はギレウスを連れて行くのだから諦めろ――と、いう流れになると思っていたのだが、どういう訳かレバンは住民を避難させる話を始めていた。
「おい。あんた、どういう風の吹き回しだ?」
ギレウスは不可解だ、とレバンを見る。
そして、レバンはその視線に真っ正面から答え、悪そうにこう答える。
「ギレウス――貸し、だぞ」
「っ、それはあんたが俺を連れていか――いや、なんでもねぇ。いい、続けろ」
そうして、ギレウスはもう黙った。
悠々とレバンは話しを進め始める。
「今日までの情報収集で触手の竜の移動進路はいくつか予想できている。あとは、その周辺の村や町に話しをつけて、もしもの時の為に食料を確保しなければならない訳だが――ロイス、君に頼みたい」
「ええっ! 僕ですか!」
今までどこか他人ごとのようにこの場にいたロイスだったが、急に指名され明らかに驚いていた。
「な、何で僕なんですか?」
「何故も何もウェイレムから推薦させられた。この場でこういう仕事が出来るのは僕やウェイレムを除けば後は君だけだとね」
そういえばロイスは普段はおちゃらけた感じの奴だけど、それなりに上の役職についているはずなのだ。
なんせウェイレムの後釜として育てられているぐらいだし。
ほら、ロイスとウェイレムの二人は楽しそうに師弟での会話をしていた。
「ロイス、君なら出来るだろう。ここらでは多少顔も利くはずだし」
「いやぁ、確かに多少なら村長さんとか町長さんに挨拶したことはありますが――全部が全部じゃないんですよねー」
「まさか僕が手塩に育てている君なら、できないなんてことないだろう?」
「うひー、今回なんで一緒に行くことになったのか疑問に思ってたけど、まさかこんなことになるとはー」
「なんだ、不本意なのかい?」
「いいえ、そんな。めっそうもございません。よろこんで、よろこんでやらせて頂きます!」
一発で力関係が見えるやりとりだった。
あのやり取りを見ていると、ロイスもロイスで苦労しているのではないかと思えてくる。
とはいっても、ロイスのことだから俺はどうでもいいけど。
「もー、まったくしょうがないなー」
そう言って頭を搔きながら、ロイスは面倒くさそうに口を開く。
「それじゃあ準備して明日には周辺の村とか町を回り始めようと思うんですが――そこでマリアさん?」
「あん?」
突然、ロイスに名を呼ばれてマリアが不機嫌そうにする。
だが、ロイスはへらへらと笑っていた。
「あのー、周辺を回るときにマリアさんが付いてきてくれないですか? もしくはリプリスさんを貸してもらえればありがたいんですが――」
「はぁ? なんで私やリプリスがそんなことをしなけりゃいけないんだい?」
「いやいや、僕のことを知っている村長さんや町長さんならいいんですが――あの、知らない人だと。僕、まだまだ若造ですし。舐められるじゃないですか。それにレバンさんや、ウェイレムさんほど口も達者じゃないですし。だから、ほら? 威圧感のあるマリアさんか、巨体のリプリスちゃんがいれば相手も舐めてこないでしょう? だから、お願いします! その時だけでいいんで、僕の部下みたいに振る舞ってください!」
「ああっ! あんた、私たちのことをなんだと思ってるんだい! 舐め腐ってんのか!」
割とガチでマリアが怒りだしていた。
そして、ロイスの奴もあんなことを言ったら怒るだろうって予測はできているはずなのに、やっぱりあいつウェイレムの後釜だけあるわ。
俺には真似できねー、すげーわ。
「いやー。でもたぶん、この方法が一番早くて確実なんですよねー。来てくれれば後は僕がどんどん話しを進めていくので。はーどうか、この通り、お願いします! せめてリプリスちゃんだけでもお願いします!」
そう言ってロイスは座ったまま頭を下げ、合わせた両手を上に上げた。
「ふむ、一理あるな。マリア、僕からもお願いするよ。確かにロイスのやり方が現状一番早そうだ」
効率重視のレバンはいい案だと、一緒にマリアにお願いする。
「私からも頼むよ。弟子が考えてのことなら出来る限り協力したいし。何より――君と私の中だろう?」
続けてウェイレムもお願い、なんだろうか?
言葉の最後の辺りでどこか脅迫じみた雰囲気があった気がしたのだが――。
「――はっ、くそっ。仕方が無いね」
仕方が無い、と黒騎士の老婆は言った。
レバンとウェイレムの二人から頼まれたとなるとさすがに断りづらいのか、マリアは機嫌悪そうに椅子を座り直した。
ロイスは一応承諾を得たと判断したのか、更に深々と頭を下げる。
「はー、ありがとうございます!」
「はん! 師弟揃って本当に性格が悪いね。あんたどうせ、この場だから言えたんだろう? 私と一対一だったら絶対に言わないようなことを口にしやがって」
「当たり前じゃないですか! 一人だったら怖くて絶対にこんなこと言えないですよー。でも、ありがとうございます!」
そうしてロイスは再度、マリアに頭を下げていた。
マリアはそんなロイスを見ながら、舌打ちをする。
そして、予想外のことを老婆は言った。
「――ちっ。面倒くさいが、私がついて行ってやるよ。ありがたく思いな」
「へっ?」
そこで思わずロイスは素っ頓狂な声を出す。
レバンとウェイレムも意外そうな顔をした。
まあ、驚くのも当然だ。
俺も驚いている。
今回のような面倒なことは極力他に回すのがいつものマリアだ。
ロイスもマリアに来て欲しいとも言ったが、実際のところはリプリスに付いてきて貰えれば良いという考えで交渉していたはずなのだ。
「あ、マリアさんが来てくれるんですか? ありがたいですけど、別にリプリスさんでもいいですよ?」
なんでこいつはここで余計なことを言うかな――。
俺は思わず心の中でロイスに突っ込んだが、まあロイスだから仕方がない。
だが、失礼なことを言っているはずのロイスにマリアが怒ることはなかった。
「ああ、リプリスが良かったのかい? 悪いがあの子はレバンたちが王都に行く時の護衛に付けるから貸せないよ」
「そうなのかい? 僕はそんな話初めて聞いた」
レバンは普通に知らない素振りだった。
続いてウェイレムも首を横に振る。
「その話は私も知らないな。ただ、それはどうなんだい? リプリスは若いながらも立派な四騎士の一人で大きな戦力だ。触手の竜や瞳の竜との戦いでは必要不可欠じゃないか?」
「だが、あんたとレバンの二人の方が今のこの国には必要だよ。当然護衛は付けるんだろうが並の奴らじゃ何かあった時に対処できない。せめてリプリスは連れて行きな。私があんたらの頼み事を聞いたんだ。たったら今度はあんたらが私の頼みを聞く番だろう? 違うかい?」
すると、ウェイレムは少し考えているようだったが、レバンはすぐに内容を吟味し終えたようで即答する。
「そうだな。四騎士が一人いるだけでかなり心強い。是非お願いしよう」
ウェイレムもレバンが決めたのならばそれでいいと、特に反対する意思などはないようだった。
「さーて、あとは触手の竜を捜して補足し続ける人が必要な訳で。状況によっては避難誘導なんかもすることになるかもですけど――」
ロイスはいつもの軽い口調に戻ると、辺りの人間を見回した。
今回の作戦は恐らくロイスが主導でやるだろうし、奴も色々と人を見ながら頭の中をフル回転させているのだろう。
「とりあえず、ケイゴさん! いつものよしみでよろしくお願いします!」
「うん、だろうな」
そして予想通りに、早速俺を指名してきた。
俺が普段王都から竜を殺して欲しいと依頼を受ける時は、大抵ロイスの口から内容を聞いている。
ロイスの奴とはビジネスパートナーのようなものなのだ。
互いに性格や能力を知っている分、連携を取りやすいし当然の組み合わせだ。
それに俺には定期的に戦わなければいけない理由がある――。
「それ以前に小僧、あんたはしばらく戦わないとまた弱くなるんだ。能力下げないように、適当に竜や目玉の化け物を殺しておきな」
そう、マリアの言う通りだ。
度重なる戦闘に加え、瞳の竜とも一戦交えたことにより俺の魔力はかなり上昇している。
竜殺しの能力が発動し、瞳の竜を殺せるように体が強化されている最中なのだ。
ただ、それでも今のままではとてもじゃないが瞳の竜へと太刀打など出来ない。
それに、このまま怠けて何もしないでいると体がもう戦闘をしないのだと勝手に判断してしまい、強化が解かれ元の強さに戻ってしまうのだ。
だから――せめて強化が解かれないように、俺は瞳の竜を倒すまでは定期的に戦闘を続けばならならなかった。
「さーて、とは言ってもケイゴさん一人だけで避難誘導とか無理ですし、あくまで単なる戦力ですからね――」
そう言ってロイスは考える素振りを見せる。
そうなのだ、俺が単純に出来ることは竜を殺すことぐらい。
だから、村人の避難だったり、竜を誘導する命令を下す別の人間が必要になってくる訳だ。
というか今回の仕事はこちらの人員がメイン、実質俺はサポートだろう。
「うーん。それなりの兵隊を動かす必要がありますし、それを指揮する人が必要。そして、この辺りの土地勘を持っているひとが望ましんですけど――」
そう言いながらロイスが辺りを見回していると――。
機嫌の悪そうなギレウスの隣にいたウェルバーがすんなりと手を上げた。
「あ、じゃあ僕にやらせてください。ここら辺の土地勘はありますし、知ってる顔も多いので役に立てると思います」
「じゃあ、お願いします」
そして、あっさり決まった。
ロイスの奴、即決だったしあのウェルバーって兵士を最初から使いたかったんだろう。
「じゃあ、お願いします。そんじゃケイゴさんに、ウェルバーさん。ここでの話が終わったら場所を移して三人で話し合いましょう――あ、マリアさんも参加します?」
「誰がでるか、あんたらだけでやっときな」
そして、ロイスの誘いを断って、マリアが乱雑に手を振った。
「じゃあ俺は引き続き瞳の竜の監視だな。奴が動き出したらすぐに知らせるようにするわ」
ゴツい兵士はあごをいじりながら言った。
「それじゃあ私は、瞳の竜が地面に作っている謎の魔方陣の解析を再開するよ」
続けて、学者先生と呼ばれている女性がそう言った。
俺は彼女の言葉で思い出したが、そういえば目玉の化け物どもはこの国の地面に大量の魔方陣を作っているらしいのだ。
しかし、魔方陣が発動した形跡は未だになく、どのような効果があるのかも全くわかっていない。
再戦するまでに魔法陣の意味がわかればいいのだが――。
「さてと、皆の今後の方針も決まったところだしここまでにしよう――」
すると、ここで良いと判断したのかレバンがこの会議の締めに入り始める。
「――正直、瞳の竜と契約した裏切り者、ヴァルケローという未知の竜、多く作られている謎の魔方陣など不確定要素が多すぎる。それにこれからまだ新たな問題が浮上するとも思えない。だから、各々――状況を見て、頭使って、上手くやれ。以上だ」
そしてその後、レバンはすぐに王都へ向かいたいのか、早々とこの場からいなくなった。




