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竜の墓標が朽ちるまで  作者: よしゆき
第二章 最強再来
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第四十九話 最強と呼ばれる竜

「ケガ人の救護と状況把握を優先しろ! 動ける奴は周辺の警戒を怠るなよ! 目玉の化け物がいつ湧き出てくるとも限らんからな――」


「いつでも撤退できるように準備だけはさせておけ、次来たら持つかわからん。はぁ、目玉が動いた? 適当に槍でもぶっさしておけ!」


「右翼の負傷者が多いらしい? 余裕がある者あっちに行ってくれ? あ? こっちはこっちで手一杯なんだよ!」


 約三百程度の目玉の化け物たちとの交戦が一段落したらしたものの、混乱した部隊を整えようと多くの兵士たちが未だ忙しなく動いていた。

 動いていないのは重傷者と死人、そして化け物の死体ぐらいだ。


 辺りは飛び散った血や肉、無惨に転がる様々な死体でかなり汚い光景が広がる。

 戦闘自体は短時間で終わったようだが、その激しさは相当なものだったのが窺える。


「ふう、死ぬかと思った」


 そんな部隊全体の指揮を任されていたレバンは額と右肩から血を流しながらも先ほどまで回りに指示を出していた。

 ようやく一段落したのか地面に腰を下ろし、手に握っていたナイフを乱雑に地面へ刺す。

 

 地面が血で濡れていたのか彼の尻に嫌な感触が発生するが、精神と肉体の疲労が凄まじいのかもはや動き直す気力もなくなっていた。


 そんな彼の元に、また新たに兵士がやって来て報告を始める。


「報告いたします。正確な数字ではないでしょうが、こちらで確認が出来ただけでも三百人程度は死亡したと思われます。他の被害も考えますと、全体で千は超えるのではないでしょうか?」


「今で千か――なら最終的には千三百ぐらいにはなるな。この短時間で恐ろしい死者の数だ。人間同士の殺し合いならここまで一気に減らないだろうに――」


 当初、レバンの予想では目玉の化け物たちは自分たちをある程度無視して、瞳の竜の元へと向かう物かと思っていた。


 だが、想定していたよりも残った数が多い上に、目玉の化け物たちもただ能の無い獣のように暴れるだけでなく、連携するように動いていたため予想以上の脅威となった。


 正直なところレバンは、途中から死者が三千ほどに膨れあがるのではないかと覚悟していたぐらいだ。


「本当に恐ろしいです。戦闘が更に長引いていたらと思うと、ぞっとします」


「ああ、被害はこんなもんじゃ済まなかっただろう。あの急に起こった光のおかげで助かったな」


「はい。あの後、何故か目玉たちが一斉にここから動き出して向こうへ行ってしまいましたからね」


 うんうん、と頷く兵士を見ながらレバンは先ほど起こった謎の白い閃光について考えていた。

 あの閃光は明らかに、瞳の竜と戦っているケイゴたちの戦場で起こったもので間違いない。

 ただ、今の彼にわかることはあちらで再び戦闘が始まり、ここにいた大量の目玉の化け物たちが急いでそこに向かい始めたことぐらいだ。


「一体何が起こった? ――なんだと思う?」


「えーちょっと待って、私もうくたくたー」


 すると、目玉の化け物の残骸の上でヘトヘトに疲れている妖精のリリスが、なんとかレバンに返事しようと顔を上げた。

 レバンはうっかりしていたという顔をして、すこしばかり緩くなった顔で彼女にお礼の言葉を述べる。


「そういえば言い忘れていた――ありがとう。戦闘中に陰ながら魔術か何かで僕のことを助けてくれていたようだね。本当に感謝するよ。やはり若い頃の感覚でいけると思ったら駄目だな――君がいなかったら死んでいた」


「本当に感謝しなさいよー。私、魔術使いすぎてもう頭痛いー。っていうか、四騎士の子に護衛なんていらないなんて大口叩いてたんだから死んじゃ駄目でしょ。っていうか大将が潰されるなんてこと自体が駄目でしょう。あなた、もっと自覚持った方がいいわよ」


「面目ないね。それは昔からよく言われている」


 そう言ってレバンが多少なりとも申し訳なさそうな顔をしていると、リリスが浮遊し近づいてきた。

 そして、再び激しくなりつつある竜の暴れる戦場を見ながら言った。


「あの光が起こってから目玉の化け物たちが動き出したことを考えると、あれによって瞳の竜の身に何かしら起こったと考えて良いと思うの」


「同感だな。でなければ奴らが急ぐ理由も無い。つまりあの白い爆発はパープリーアテント以外の竜の仕業か?」


「わからない。ケイゴや黒騎士化け物ババアはまず違うし。レブナとグランティーはどうだろう? 私も彼らの手の内を全て知っている訳じゃないから。でも、知る限りじゃあの二体があの規模の爆発を起こした話は聞いたことがないわ」


「そう、か――」


 そう言ってレバンは竜たちが暴れる霧の向こうの戦場を眺めつつも――数秒後には頭を切り替え立ちあがった。


「なんにせよ。もう我々に出来ることはないだろう。一応まだ様子見はするが、撤退も時間の問題だな。リリス、君が言うにはレブナグリアというあの青い竜が撤退したらそこが潮時らしいな」


「ええ、レブナグリアの状況判断能力は私が保証するわ。あの竜が引いたとなると、それはもう勝てる戦いじゃない。一見勝てそうだと思ったとしても、一緒に逃げた方がいいわ」


「まあ、元より竜ありきの戦闘だ。レブナグリアとグランティーラレンツ、どちらか片方でも欠けたならば撤退するようにマリアには言ってある――大丈夫、だといいがな」


 レバンとリリスは二人とも険しい目でおぼろげな戦場を見る。

 一旦静まり返っていたあの場所は、再び強者たちによって荒れ狂う場と変貌していた。


 ***


 まばゆい光が入り込み、俺の視界は一瞬奪われた。

 だが、それまでの経緯は確かに見た。


 光壁の竜グランティーラレンツは自分の周りに張っていた光の壁を爆発させて周辺を一気に吹き飛ばしたようだ。


 俺も知らないグランティーの能力だ。

 あんな強烈な攻撃方法があの竜にあったとは思いも寄らなかった。

 たぶん、口から発射する光弾でも倒せない敵に使う奴の奥の手か何かだろう。


 その威力はかなりの物で回りにいた目玉の化け物たちを一瞬で消し飛ばす程だ。

 それにより、あれだけうじゃうじゃしていた目玉どもはその大半を失った。


 だが――。

 それでも――。


「奴は――健在か」


 それでも、瞳の竜パープリーアテントはグランティーラレンツの正面で仁王立ちしていた。

 瞳の竜は体の大部分に焼け焦げた跡が見えるものの、それだけだった。


 あのグランティーの強烈な攻撃を至近距離から受けたのだ。

 本来ならば、いくら瞳の竜が強力とはいえでも無事では済まないだろう。


「あの野郎――あの一瞬で防ぎやがった」


 だが、俺は見た。

 グランティーが光壁を爆発させる直前に、パープリーアテントが自身の魔力障壁で全身を包んだのだ。

 グランティーが円形の光壁で全身を覆うに対し、パープリーアテントは板状の魔力障壁を何枚もつなぎ合わせ全身を覆っていた。


 恐らく、体中の目玉を総動員して行ったフルガード。

 張ったはずの魔力障壁が無いこと、そしてパープリーアテントが無傷でないことから完全に防ぎきれなかったようではあるが軽傷で済ましている。


 しかし、それよりも驚くべきは――奴の判断力だ。


 戦ったことのある俺でさえ、グランティーが光壁を爆発させるとは思わなかった。

 レブナと同じように危険察知の技能を使用したとしても難しいはず。

 明らかに手の内を知らない攻撃に、あの竜は対応したのだ。


 瞳の竜、やはり単に能力が強いだけじゃない。

 伊達に最強と呼ばれている訳じゃないということか――。


「グオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 今ので瞳の竜を仕留められなかったのを即座に判断したグランティーは直ぐに攻撃を再開――口から光弾を放ちつつも、後方へ飛び距離を開ける。


 だが、瞳の竜は不動のまま体の目玉から魔力障壁を展開し、グランティーの攻撃を確実に防ぐ。

 動く気配は見えないものの、やはり瞳の竜が弱っているようには見えない。

 魔力防壁による高度な防御は機能したままだ。


 けれど、瞳の竜は大丈夫でも、奴の回りは無事では済まなかった。


「いや、目玉どもが消し飛んだ今がチャンスだ。ここは加勢に――」


「小僧、後だ!」


 俺がグランティーの助太刀をしようかと思ったところで、マリアの叫び声が聞こえた。

 彼女の声に反応し振り向くと――沢山の目玉が直ぐそこまで近づいていた。

 不気味な目玉の群れが俺を見つめながらも触手を動かし、一斉に群がってくる。


 俺とマリアはすぐさま応戦し、目玉退治に取り掛かった。

 目玉どもの血を飛ばし、肉を削ぐ。


 マリアと同様に俺も掛かりの悪いエンジンが暖まってきている上に、こいつらの動きには慣れてきている。

 少しばかり多くはあるが、この程度ならなんとかなる。


「ゴキブリかこいつらは? 追加オーダー精々五十ってところか。タチが悪いにも程がある」


「ごちゃごちゃ言ってないでこいつらは私たちだけで仕留めるよ! また瞳の竜に加勢させたら面倒だからね」


「ああ! 一気に殺し尽くしてさっさとレブナたちのところへ――なっ!」


 そこで俺は思わず言葉を失った。

 目玉の化け物どもと戦っている最中だというのに体が固まった。


 ――信じられない光景だった。


 ――瞳の竜パープリーアテントが光壁の竜グランティーラレンツの首元に噛み付き、あまつさえ玩具でも扱うようぶん回していた。


 なんだ、あの光景は?

 だってさっきグランティーは距離を取ろうと動いていた。

 パープリーアテントはそのまま追うこともせず止まっていたはず。

 なのに、あの目玉の竜は今――距離を詰めて噛みついている?


「何だ、あれは? いつの間に? おかしいだろう――」


「小僧! 目の前の奴らに集中しろ!」


「マリア、なんであんなことに? あの野郎何をしやがった?」


「いいから手だけを動かしな、やられたいのかい!」


 俺は叱咤されて何とか目の前に群がる目玉どもに向き合う。

 マリアと共に化け物どもを殺す。

 だが、俺を叱ったはずのマリアもやはり起こった状況に困惑しているのか、動きに乱れが生じていた。


 ――いや、やはりあの光景は俺と同じようにマリアが困惑してもおかしくない。


 パープリーアテントは今までの戦いから基本は魔力閃光を撃って戦う射撃タイプだと思っていたのだが、その竜が接近戦をやっていた。


 いや、それよりも驚くべきは――グランティーの首元に噛みついていることだ。


 パープリーアテントの大きさはグランティーのおよそ二倍。

 その体格差から接近戦に持ち込めることが出来れば、パープリーアテント有利なのは明白だ。


 だが、それをするには勿論近づかなければならないという前提がある。

 先ほどグランティーは百メートル程度距離を取っていたはずなのだ。

 それなのに、いつの間にパープリーアテントはその距離を詰めていた。


 しかも、あの巨体だぞ?

 動いたら普通わかる。

 俺が目を離したほんの一瞬のうちに加速したとでも言うのか?

 いや、それこそあれがそんな速度で動いたのなら絶対にわかるはず。


 そもそも、接近したところで自分より小柄で小回りの利く竜をそう易々と捉えられるものなのか?


 それ以前に、グランティーほどの竜が首元に噛みつかれるなど――普通ならありえない。


「何が起きたんだ――」


 俺はただ目玉どもを殺しながら、竜たちの戦いを見守るしかなかった。


 パープリーアテントが放りだしたのか、グランティーが首から血を流しながら地面に転がる。

 光壁の竜はなんとか立ちあがろうとするが、ダメージが大きいのかふらついている状況だった。


 そこへ瞳の竜は魔方陣を展開する。

 弱っているグランティーに止めを刺そうと、大火力をぶち込もうとする。


「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 その時、隻眼の竜が飛来した。

 グランティーを助ける為か、それとも隙が出来たと飛んできたのか――。


 拘束する竜レブナグリアは叫び、足先を瞳の竜に向けながら急行下する。

 見たところ鋭い足の爪による、顔面狙い。

 そして、恐らくは重量操作により、自身の重量を増加させての強力で重い一撃だろう。


 それならパープリーアテントの顔面を抉ることも可能なはずだ。


 そこでパープリーアテントの体中にある目玉が動いた。

 あれだけ目がある竜が気付かないはずがない。

 叫びながら飛んでくれば気付かれないはずがない。


 瞳の竜は背中にある目玉を光らせ魔力閃光で、レブナを迎撃しようとして――硬直した。

 巨大な竜はピタリと固まる。


 拘束する竜レブナグリアの能力だ。

 奴の右目に見られた者は、例外なく動きが止まる。

 それはほんの一秒にも満たない刹那の時間――。


 だが、それだけの時間があればあの竜には十分だ。

 瞳の竜の拘束が解けた直後に、レブナの姿が迫っているはず。

 それこそ超高速で動けない限り、回避は不可能――。


「ピィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!」


「くそが! 邪魔だ!」


 そこへ目玉の化け物たちが猛攻を仕掛けてくる。

 竜の戦いにばかり気を取られている訳にいかない。

 俺とマリアは次々と迫る攻撃をいなし、回避する。


 そして――竜の叫び声が響いた。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 痛みに叫ぶ竜の咆哮――。

 それはよく聞き覚えのある竜の声。


 俺は目玉たちの相手をしながらも一瞬だけ見て確認した。


 隻眼の竜が――横から強烈な殴打を喰らって地面に転がる。


 そして、それを行ったのは勿論――瞳の竜パープリーアテントだ。

 奴は自身の長く太い尾を使ってレブナを叩き落としたようだった。


「ありえない」


 それはありえないことだ。

 先ほどのタイミングを見る限り、パープリーアテントにレブナの攻撃を避けるだけの時間は無かったはずなのだ。

 だが、見ると瞳の竜は先ほどよりズレた位置に存在する。

 確実に移動している。


 つまり、あの竜は眼前にまで迫ったレブナの鉤爪を一瞬で回避し、そのまま尻尾で反撃したことになる。


 やはり、何かあの竜には秘密が――。


「ぼさっとしてんじゃ無いよ、小僧!」


「がっ――」


 俺の腹部に横から蹴りが入れられ先ほどのレブナのように吹っ飛んだ。

 容赦なく蹴りを入れたのはマリアだ。


「――ああ、しまった」


 ――やってしまった。

 俺は竜のことに気を取られ、目玉の化け物どもに取り囲まれていた。

 しかし、マリアはそんな俺を蹴り飛ばし遠くへ追いやることで助けたのだ。


 俺の代わりに――マリアが蹂躙される。

 目玉の化け物たちが数の暴力で黒騎士の老婆を襲う。


 彼女の持っていた剣が手元から離れる。

 それどころか、目玉の化け物に覆われてマリアの姿が見えなくなった。

 目玉の化け物で作られた塊だけが、ただブヨブヨと蠢いている。


「すまん、貸し一つだ」


 俺は自分の不甲斐なさに情けなくなりながらも、マリアに謝った。

 そして、目玉の化け物が集まって団子みたいになっている中から――ボッ、と火が付くような音がした。


 熱く、荒々しく――老婆は奥義を叫ぶ。


「――イフリート!」


 団子状に固まっていた目玉の化け物たちの隙間から炎が漏れる。

 そして、次の瞬間――その中心部から一気に爆炎が巻き起こり目玉の化け物たちが一掃された。

 光壁の竜グランティーラレンツが行ったような爆発攻撃には及ばないものの、その灼熱の炎は驚異的と言うしかない。


 辺りには炎が飛び散り、物凄い熱が散乱する。

 目玉の化け物の亡骸が全て地面に落ちている中心で、叫び声が響く。


 化け物揃いとされるデュラム王の四騎士。

 その長とされる高齢の老婆は、年齢にそぐわず怒り狂った鬼のようになっていた。


「ああっ! ほんとに苛つくね! 竜どもは訳わからないし! 小僧は使えないし! 目玉糞雑魚どもは殺しても殺しても湧いてくる!」


 全身黒の鎧を着た老婆は肘を曲げ、手を上げる。

 手の平は真っ直ぐにして、まるでこれから緊急手術でも始めるような恰好をした。


 マリアの装着している鎧の両腕外側部分には、それほど鋭くはないもののトゲの付いた鉄板のような物が何枚か連なり、装飾品として取り付けられている。

 それらは今彼女が行った動作によって上へとスライドし、彼女の手のところで――ガシャリ、と音を立てて止まった。


 魔力が作用しているのかよくわからないが、とんでもギミックである。

 マリアが拳を握ると、手を守るようにトゲの装飾品が覆われているのがわかる。


 完全に殴り殺す前提の――格闘モードのマリアへと移行したようだ。


「まったくどうなってるんだい! どいつもこいつも煩わしい! いい加減、頭に血が上ってはち切れちまいそうだ! くそっ、くそっ、くそっ――!」


 まるで癇癪を起こした老婆――いや、それはそのまんまなんだが。

 とにかくあの切れ具合はそこそこ本気で苛つき始めたようだ。

 そして、切れてからがあの老婆の真骨頂――。

 どういう訳か怒るほど強いようなのだ、あの人は。


「瞳の竜とか、最強だかなんだか知らないが――殴り殺してやる!」


 俺の知る限り最強の人類であろう婆さんが、ついに本気で暴れ出すようだった。

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