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竜の墓標が朽ちるまで  作者: よしゆき
第二章 最強再来
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第四十四話 拘束する竜、光壁の竜

「あの竜、とてつもなく強いな」


 その竜の見かけは、竜の代表――正当派と言ってもいいだろう。

 トカゲ頭に鋭い爪を備えた腕、太い足、長い尻尾、空を飛ぶための羽――これぞまさに竜といった姿形をしている。

 ただ、特徴を言うならば濃い青色をした体表をしていること。

 そして、左目には大きな傷がついている隻眼の竜であることぐらいだろう。


 突如として現れた竜と竜殺しケイゴの戦闘を遠くから見守っていたレバンだったが、その圧倒的な力量の差は一目瞭然だった。

 確実にケイゴは負ける――そう判断せざるおえない戦いになっていた。


「なんなんだ、あの竜は? ケイゴ君が全く相手になっていないぞ――」


「何って? 拘束する竜レブナグリアよ? 司令官さん」


 レバンが一人と一体の戦いを見ていると、どこからか妖精がやってきて彼の顔の隣で止まった。

 ケイゴの仲間で竜について多くの知識を持つとされる妖精――特別顧問として同行しているリリスだ。

 レバンはリリスに尋ねる。


「レブナグリア――聞いた名だ。たしか、相当手強い竜だと聞いている」


「そうね。かなり強いわ。それこそダーリンが何度も負けるぐらいには――」


「それ、救援に向かわなくていいのか? 彼、勝てないんだろう? ここままだと死なないか?」


「大丈夫よ。なんで今までダーリンがあの竜相手に生きて帰って来れたと思う? 見逃してもらっていたからよ。ダーリンはいつも本気で挑んでるんだろうけど、レブナグリアはダーリンを遊び相手ぐらいにしか思ってないから」


 レバンとリリスが話している間にも、ケイゴとレブナグリアの戦いは続いていた。

 レブナグリアは空から高速で接近し、噛みつきや尻尾での攻撃をしたかと思うと飛び立ちケイゴを翻弄しているようだった。

 逆にケイゴは相手が地上に降りてきたときを狙って剣を振るっているが、全く当たる様子が無い。


「そういえばあのレブナグリアとかいう竜――炎を吐かないな。もしかして、炎が吐けない竜とかか?」


「そんなことないわよ」


 戦闘を見ていたレバンは疑問を口にすると、リリスはすぐに否定した。


「レブナグリアは竜の三大技能――危険察知、重量操作、魔力火炎、どれも高い水準で習得している竜だから、その気になれば追尾する火球とかも吐けるぐらいよ。まあ、炎を吐かないのは単に手を抜いているからとしか言いようがないわ」


「ほう、そうなのか」


 そう言いながらレバンはケイゴとレブナグリアの戦闘を眺める。

 眺めながらその戦いに違和感を覚えた。

 レバンは何かがおかしいと眉を動かす。


「ケイゴ君の動きがいつもより悪いな。相手の竜の動きも確かに良いが、それ以前にケイゴ君の方に問題がある。だからあれだけ実力差が出ているのか。彼はいつも負けてる竜が相手で動きが固く――いや、そういう動きでもない。なんだ?」


「へぇ、レバン。あんたこの短時間でそこまで見抜くのかい? 正直、感心したよ」


 すると今度は四騎士であるマリアがレバンの隣にやってくる。


「竜殺しの小僧、戦いずらそうにしているだろう? あれはレブナグリアの能力のせいだ」


「確か、拘束する竜と呼ばれていたな。ケイゴ君は動きを封じられないように動いているからあんなぎこちない動きになっていると?」


 すると、レバンの予想と違ったのかマリアは否定する。


「いや、たぶんもう何回も動きは止められているだろう。レブナグリアの能力は――あの右目で見た者を強制的に一瞬だけ止めるものだからね」


「はあああっ、一瞬? 短すぎるだろう。使えるのかそんな時間で?」


「うーん。はじめて聞くと大したことなさそうよねー、あれ」


 近くで聞いていたギレウスが思わず声を出し、リリスが笑っていた。

 そんな二人のことなど気にせず、レバンはマリアに問いかける。


「あの竜、強いが能力はたいしたことないのか。しかし、見る限りだと基礎能力が高く、立ち回りもよい感じだ。能力の使い勝手の悪さを素の強さで補っているという奴か?」


「まあ、そういうことだね――」


 マリアは兜の下でどこか笑っているようだった。


「あの竜は炎の扱いは上手いし、飛行の姿勢制御も随一、おまけに何より頭が回ると――基礎能力が高いのは確かだ。そして奴の相手を一瞬だけ止める能力、確かに奴以外のザコが使う分には使い勝手の悪い能力だ」


「だが、あのレブナグリアという竜が使う分には違うと?」


「そうだね。まずあの能力は連続使用が出来ず、拘束時間が短い代わりにほぼ確実に相手に喰らわせられる。かなり強力な魔力耐性を持っていても問答無用で突破する。そしてレブナグリアほどの竜であればその刹那ほど動きを止められればそれだけでだいぶ違う。強者の戦闘ではほんの一瞬が勝負の分かれ目になるのを考えると、十分だろう?」


「確かに」


「更にレブナグリアの厄介なところは、あの拘束する目を使って相手の心理を揺さぶるとところだ。なんせ一瞬とはいえ視界に捉えられれば確実に効果が発揮される能力だ。間合いを詰めるときに使ってくるのか、攻撃を仕掛ける直前に使ってくるのか、こちらが攻撃を仕掛けるとき使ってくるのか――そういう思考に怯えながら戦わなければならなくなる」


「あ、ケイゴ君捕まったな」


 そうこうしているうちにケイゴは、レグナブリアの前足で押さえつけられ動けなくなっていた。


 だが、誰も助けには行かずただ見ているだけだった。


 ***


「くそっ、この野郎! 毎度毎度ふざけやがって! わかりやすい手の抜き方しやがって!」


 俺は拘束する竜レブナグリアの足の下で、喚きながら足掻いていた。

 持っていた剣は既に手元に無く、離れた地面の上に横になっている。


「このっ、この、どんどん勝てる気がしなくなってる――」


 こいつは俺の事をおちょくっているのか、それとも俺がもっと成長して対等に戦える敵になってから殺したいのか――?

 まあ、こいつは戦い好きなところがあるので恐らく後者だろう。


 しかし何にせよ、毎度のことながら屈辱的だ。

 もう何度見逃されている。


「今回で九回目か――ちくしょうめ」


 レブナグリアは乗っけていた足をどけ、俺を解放した。


 俺は体が自由になると。すぐさま起き上がりレグナブリアと距離をとる。

 そして、奴を視界に入れようとして――体が硬直した。


 拘束する竜レブナグリアの能力。

 本当に僅かな時間になるが自由を奪う。


「おまえ、何がしたいんだよ」


 その一瞬の時間でレブナグリアは接近していた。

 奴の顔が俺の目の前にまで迫っていた。


 レブナグリアは残っている右目で俺をじっと見つめる。

 心の底まで覗こうするかのように竜の瞳が凝視する。


 俺はレブナグリアを――。

 レブナグリアは俺を――。


 探り合うように視界を交じらせる。


 こいつ何がしたい?

 何を求めている?

 一体何を俺に求めている?


 すると、レブナグリアは俺から視線を反らし――遠くを見た。

 俺も釣られてそちらを見ると――。


「なっ、あいつ――!」


 そこに空からやってきたのか、一体の竜が降り立った。


 大まかな見かけはレブナグリアと同じような、オーソドックスな竜の姿をしている。

 ただ、レブナグリアより少しばかり体が大きく体格ががっしりしている印象だ。

 体表は基本オレンジ色っぽく中々目立つ体色をしている。


 そして、一番注目するべきところは頭から生えている一本の角になる。

 神話生物で有名なユニコーンを想像させるような角が、その竜には備わっていた。


 こいつも、レブナと同じぐらい強くて有名な竜――。


「光壁の竜グランティーラレンツ。ついにこいつまで来やがった」


 グランティーラレンツはレブナグリアほどでは無いにせよ苦汁を飲ませられている存在だ。

 情けない話だが、こいつにも数回戦いを挑んでは負け――見逃されている。


 ただ、どういう訳かこいつは人間を守ろうとする節があるので、俺はもうこいつに攻撃を仕掛けることはもうなくなった。


「パープリーアテントに挑みに行くのか?」


 グランティーラレンツは俺とレブナグリアを一瞥すると、すぐに興味を失ったように目を反らしゆっくりと歩きだしていた。

 その向かう先は明らかに竜同士が戦っている戦場だ。


 もしかして、グランティーはあのままパープリーアテントに喧嘩を売るつもりか?


 確かにパープリーアテントと真っ正面から殴り合える奴は、俺の中でもグランティーラレンツぐらいしか思い浮かばない。


 光壁の竜と呼ばれるあの竜はそれぐらい強力なのは確かなのだが――やはり、先ほど見た瞳の竜が相手だと確実に分が悪い。


「あいつ、このままだと死ぬんじゃ――んんっ?」


 俺が考えながらグランティーラレンツの背中を見ていると、強い風に当てられた。

 いや、どうやらレブナグリアが俺に息を吹きかけたようだ。


「一体何だって――」


 そしてレブナグリアは俺を見ながら顔を二回ほどクイッ、クイッ、と動かした。

 そっちに行けと、まるで指示でもするかのような仕草だ。

 まるで戦場に行けと、瞳の竜と戦えと言うかのように――。


 はっ! ――まさか、こいつ。


 そこで俺は奴の、拘束する竜の伝えたかった意図を理解した。

 すると俺の顔を見て察したのか、レブナグリアはどこか満足げな顔をしていた。


 青い隻眼の竜は上空へと飛翔する。

 巨大な翼を羽ばたかせ、周辺の空気を巻き上げる。


 そして、一度上空で体勢を変えると、レバンたちのいる方をじっと見つめた。

 だが、しばらく上空で留まり続けながら人の集団を見つめていたが、急に思い立ったように体を反転させると――竜は物凄い飛んで行った。


 拘束する竜レブナグリアもまた、瞳の竜パープリーアテントに挑みに行ったのだ。


 さて、俺はどうする?

 まさか、レブナの奴から、竜からこんな提案をされるとは思いもしなかったから。

 一度レバンたちに話してみるつもりだが、正直言って受け入れてもられるかわからない。


「あー竜と共闘するとか、前代未聞じゃないのか?」


 俺はとりあえず、みんなのところに戻ることにした。


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