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絶望的魔人奇譚  作者: 星六
8/24

(四)-1

 昨夜、昨日の異常事態が全て夢で、明日にはいつもの日常がいつものように始まることを願って眠ったのだが、こうして目を覚ましてみれば異常という現実が俺の身体にしがみついている。


「これはいったい……どういうことでしょう……」


 昨日、現れた大悪魔ミズル・バルメオ・アシュタロスが両手で俺の体をがっしりとホールドしながら、俺の胸元で静かな寝息を立てていた。昨夜は確かミズルがベッドを使うってんで俺は床で寝ていたはずだが……。しかし、こうやって眺めてると、とてもじゃないがミズルは悪魔に見えない。頭に生えている角以外は、どこをどう見ても人間だった。


 どれだけの時間が経ったか、ミズルの鼻がむずむずと動いて、次に眉がピクッと反応して、長いまつげがビビっと震えるとゆっくりと瞼が半分ほど開く。


「お、おう。おはよう」


「なんだ、貴様か……」


 ミズルは重たそうな瞼をまた閉じると尖った牙を見せて小さなあくびを一つ。


「貴様とはなんだ。それよりこれはどう言った状況だ?」


「私は何かしら弾力のある物にしがみつかないと寝むれんのだ。貴族たるもの恥ずかしい癖だがこればかりは治らん。だから夜中にお前をベッドへ運びこんだのだ。ちなみに魔界ではヴァゴスを抱いて寝ておってな、奴がこちらの世界へ逃げてからは寝不足で寝不足で……」


 そこでミズルはまたあくびをして目尻に涙の粒を付けたまま俺の胸に沈む。


「人をペット扱いすんじゃねぇ」


「ははははは。貴様はペット以下じゃ」


「はいはい。そうですか。それより下りてくんね?」


「私がまだ寝ておるだろう」


「朝食の準備をしたいんだよ」


「朝食!」


 ミズルの目がパチリと開いて期待に鼻が膨らんでいる。


「朝も複数の食材を組み合わせて複雑な味の食べ物を作り出すのか?」


「うーん。複雑ではないけど簡単な組み合わせはする」


「そうか、そうか。ならば放そう。朝食が楽しみでゆっくりと眠っていられそうにないからのう」


 そこでミズルは立ちあがった。おいおいおいおいおいっ!


「お、お前、貸してやったTシャツはどうした!」


「邪魔だから脱いだ」


「脱ぐんじゃねぇーっ!」


 俺の純潔が、どんどんと汚されていく。色んな意味でこいつは悪魔だ。




 ただのベーコンを下地にした目玉焼きに悶絶するミズルは正直可愛かったが、その後が可愛くなかった。せっかくの土曜日で今日は家でゲームでもしてのんびり過ごそうと思っていたのに、魔力が回復しないから魔法で探せないと言う理由で俺までがヴァゴスとか言うわけのわからん生き物の捜索に付き合わされることになったんだ。そりゃあ全力で拒否したかったけど、こいつはモノホンの悪魔だし、機嫌を損ねちまったら、魔力が回復した後が怖いからなぁ。


「ああああああぁぁぁっ!」


 ミズルは天を仰いで「舌をチクチクと刺してくる程よい刺激! そして喉ごし! しゅわしゅわーっ!」炭酸飲料を飲んで興奮している。


「目的を忘れんなよ。俺たちはお前のペットを探すためにこうやって街を歩いてんだからな」


「わかっておる。おい、人間。あれは? あれはなんだ?」


 ミズルの指す方にはたこ焼き屋だ。ひょっとして、こいつは魔界から食い倒れツアーにでも来たんじゃないだろうか。


「たこ焼きと言う食べ物だ」


「持って来い」


「金がねーよ」


「まったく人間は不便だな。力で奪ってこれば良いだろう?」


「人間は平和的に社会が機能するようなシステムを作り上げたの」


「そのくせには、卑怯な武器を使って戦争ばかりしていると耳にするが?」


「うっ、お前はなかなかに痛いところを突いてくるな」


「ええい。今はそんなくだらん討論を始める場合ではない。ようはたこ焼きとやらが私の口の中へ入れば良いのだ! 手段は任せるから持って来い!」


 ヤバイ。このままじゃまた余計な出費が!


「よ、夜にでも家で作ってやるよ」


「何? 私は今食べたいんだ」


「でも店で買っても少ししか食べられないぞ。家で作ればたーくさん食べられる」


「たーくさん?」


 ミズルはよだれを垂らしながら両手を高く大きく広げた。


「そう。たーくさん」


 俺も倣って両手を高く大きく広げると、ミズルは黙って目を閉じ、腕を組みながら思案を巡らせ始めた。そして「……仕方ない。今回はお前の案に乗ってやろう」


 やったぜ。なんとか切り抜けた!


「約束だぞ、人間」


「おう。俺は嘘つかない」


 さっさとヴァゴスとやらを見つければ魔界へすぐに帰るだろうし、そうでなくても食わせてやるよ。たこ抜きのたこ焼き、つまり小麦粉ボールをたっぷりとな! ひひひひひひ。



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