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絶望的魔人奇譚  作者: 星六
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(三)-2


 そっからは一緒にカレー作りだ。ハッキリ言って俺が一人で作るのよりもかなり下手くそなカレーになったけど、そこは良くも悪くもカレーだ。スパイスから作る本格的なカレーじゃないから、ルゥの中に入るものが入っていれば味なんてそうそう変わるもんじゃないさ。


「ねぇねぇねぇねぇねぇ」


「何だよ?」


「このとめどなく食欲を刺激してくる匂いを発するドロドロの液体は何なんだ?」


「さっき言ったろ。カレーだよ、カレー」


「カレー……。ああ、早く飲みたい。もう出来たんだろう? 飲んで良いか?」


「それは飲み物じゃないんだよ」


「何? だったら観賞用か? そんな惨い話があるのか!」


「いいから落ちつけ。今、持ってくからテーブルの横に座ってろよ」


「本当だな。すぐに持って来るんだぞ!」


 少女はトタトタ走ってすでにサラダの入ったボウルが置かれているテーブルの横で正座して待つ。魔界にも正座の習慣があるのかよ。俺は棚から出した二つのカレー皿にご飯を盛って、熱々のカレールゥをかけると一緒にテーブルの上へ運んだ。


「な、なんだ? この白い粒粒は? 虫か? ウジ虫か?」


「んな気持ち悪いもん食うか。ご飯に決まってんだろうが」


「いや、この際そんなことはどうでもいい! 私は早くこのカレーなる食べ物を食したい! もう食べても良いのだな?」


 なんつーテンションだよ。こいつは本当に筋金入りの○○だ。


「食って良いぞ。ほら、スプーン」


 差し出したスプーンを奪うように取った少女は猛烈な勢いでカレーライスをすくうと数秒宙に掲げて大きな口を開くとパクついた。


「んんんんんんっ!」


 目を大きく見開いた少女はそのまま後ろへぶっ倒れる!


「お、おいっ! 大丈夫か? 辛すぎたか?」


 駆け寄ると少女は「お……おいしい」つぶやきと共にむくっと起き上がって、一心不乱にカレーを食べ始めた。その食いっぷりと言ったらもう……。


「おかわり頂戴!」


「あ、ああ」


 迫力に圧されてカレーライスをよそって戻って来ると俺のカレーライスが食われ

てしまっている。口の周りに泥棒ひげのようにカレーを付けた少女はリズミカルに


「早くっ、早くっ」と口ずさむというウキウキモード突入中だった。


 結局、少女が六杯のカレーライスを平らげたところでカレーが無くなった。ああ、余ったカレーでカレーうどんやキーマカレーやカレー餃子などを作り一週間を乗り切る計画がパーだ……。……だけど、腹を満たして幸せそうに床で寝転ぶ少女を見れば少しでも人の役に立てたようでそんなに悪い気もしない。


「おい。プリン食うか? 安い奴だけど」


「プリン? プリンとはなんだ?」


 当然、そう来るよな。


「食後のデザート」


 言って冷蔵庫からプリンを二つ持って来る。三個で百円もしない安物。


「ほら、食え」


 テーブルに置くと少女はピョンと飛び起きてプリンをマジマジと見つめる。


「これも食べ物?」


「ああ」


 ふたを剥がしてスプーンですくうと俺に倣って少女もプリンにスプーンを入れた。そしてすくってまた眺める。


「これってスライムの一種?」


「違うよ」


 冷たく答えて食べると少女も口へ運んだ。


「んんんんんんんんっ!」


 少女が体をビクンビクンと震わせて天井を見上げた。俺もそれに驚いて体をビクつかせたわけだけど、本当心臓に悪い奴だ。


「な、な、なななな何これ! おいひいっ!」


 少女は桜色に染めた両頬を手で押さえると夢見心地の目を宙に泳がせる。


「こんな複雑ながらも突出した甘味を醸し出す食べ物を人間ごときが作れるとは信じられない! あっ! そ、そうか。私たち魔族は姿形も多種多様で、よって味覚や食べ物にも大きい隔たりがある。それに対して人間は虫の如く個体数が多いのに関わらず同じ姿で同じ味覚だから同じ食べ物をいかにして美味しく食べるかを追求する文化も生まれるのだ! なんてこと! 我ら魔族が優秀すぎるが故の弊害、個体差の弊害がこんなところに現れるとはっ!」


「うっせーな。大人しく食べやがれ!」


 騒がしいったらありゃしない。こいつカレーとプリンでどんだけテンション上げてんだよ。でもこれを食ったらお別れだ。どこのどなたか存じ上げませんが、これからはあなたの人生を歩んでいって下さいな。


「おい人間」


「なんだ人間」


「食べないんだったら私が食べてやろう」


「あっ、俺のプリン返せ!」


「もう遅い!」


 マジ最悪。早く帰れこの野郎。




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