(八)-1
ミズルを自転車の後ろに乗せて、国道を突っ走った。そこで俺はまた思い知る。俺の足の筋力は人間の限界を軽く超えていたんだ。どれだけペダルを漕いでも疲れを感じない。それどころか力を入れ過ぎると自転車が壊れそうで加減をしなきゃならないほどだった。
「これも悪魔の力か?」
「そうだ。貴様は気づいてはおらんようだが、今、貴様の額には契約の証しとしてアシュタロス家の紋章が輝いておる。それは魔力に反応して現れるのだ」
「なるほど。だったら使えば使うほど減っていくってわけ?」
「そうだ。だが、結構な魔力をくれてやったからな。簡単には底を尽くまい」
「そっか、悪いな。で、俺にヴァゴスを倒す事は出来るか?」
「さぁ、どうかの。あれを見てみろ」
脇の下から伸びたミズルの細い指が差す方には巨大な山……。山? 違う、動いてる! 空に渦巻く魂をバクバクと食う黒い巨大な影。
「あれがヴァゴス……」
「どうだ? やれるか?」
まったく、悪魔には恐怖心がないのか? 淡々と訊いてきやがる。
「自信はねぇ。でもやるしかないだろ」
「はっはははは。貴様は面白いな。魔界の本で読んだ人間の象をことごとく打ち破る」
覚悟は出来てる。俺は人の気配が消えた国道を猛烈な速度で突っ走った。
トンネルを抜けると空を埋め尽くす魂の虹色の輝きに照らされて海が見えた。その海からも大小様々な魂が現れては空へ昇った。深夜一時の海のこの幻想的な光景は異世界に迷い込んだような変な錯覚をよこす。
光の流れを追っていくと、数キロ先に見える山のような影、ヴァゴスだ。
「オォォォォォ」
ヴァゴスは低く鳴いて巨体を動かす。ズズズと地響きがした。
「立派に育ちおったわ」
「感心してる場合じゃねぇ!」
どんどんとデカくなってやがる! 生き物の魂ってのは集まるとあんなに凄いのか?
歯を食いしばって自転車を漕いだ。もう壊れようが構わない! 一秒でも早く奴のもとへ!




