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二章(3)

 奉助が持ってきたアイスはバニラとチョコチップで、二番目のお姉さんが作ったやつらしい。おいしくいただきましたっと。

 「そういえば、図書室に本を返さなくてはいけないんでした。ちょっと行ってきます」

 「いってらっしゃーい」

 桐生を待っている間に、他にも残っていた生徒たちは帰ってしまった。奉助がトイレに出て行って教室にいるのがオレたち三人になったとき、突然の轟音が学校中に響いた。

 ドッカァーーンっ‼

 「わあっ⁉」

 「なんや、どないした、何が起こった⁉」

 「地震雷火事親父⁉」

 「意味わかんねーよ!」

 アワアワと目を回してるラッキーに思わずつっこむと、とたんに正気に戻ったラッキーに言われてしまった。

 「あれ、和泉くん知らない? 『地震雷火事親父』って言うのはね、世界で怖いものを語呂よく並べたものなんだよ」

 「いや、違う。そういう意味を聞いてんじゃねえよ」

 「なんや、和泉はそんなことも知らんのか」

 「違えっつーの! それは知ってるって。オレは、なんでこの場面でそんな言葉が……」

 「あ! ねえ、あれ見て!」

 「どれだよ」

 ……。

 「なんや、あれ」

 ラッキーが窓を開けて指差していた先は、特別棟だった。それも、黒煙を上げている特別棟、だ。

 「ほら、やっぱり当たってたじゃん! 世の中で三番目に怖い火事だよ!」

 ここで、ようやくけたたましく非常ベルが鳴り始め、オレたちが避難訓練で習ったことを思い出そうとしたとき、また別の大きな音に思考が遮られた。

 「大変だあああああ!」

 バーンッと、ドアを破壊せん勢いで奉助が教室へ戻ってきた。

 「なんや、まだなんかあったんか⁉」

 「大変なんだよ、ほら、アレだって! どれだ⁉」

 「落ち着け、奉助! 何が言いたいのか分かんねえよ!」

 「そう! プロペラ弾が爆撃したんだ! さっき廊下で先生が騒いでたんだよ!」

 「はあ?」

 いつにも増して奉助の言いたいことが分からない。

 「プロペラ? ヘリでも落ちてきたの?」

 「なんや、爆撃って。なにがしアジア国家かどっかが攻めてきたんかいな」

 「いやいや。そんなことになってたら、もっと大変なことになってるだろ」

 前言撤回だ。オレたちは、全員誰も正気に戻れてない。だって、あまりに非日常すぎるじゃないか。こんな状況は。

 「! そうか。分かったで、奉助! 『プロパンガスが爆発した』んやな⁉」

 「そー!」

 「プロしかあってないよ!」

 「気にすんな!」

 この脱力感。さすがと言うかなんと言うか……。

 「って、のんびり喋ってる場合じゃねえよ! 早く避難しようぜ!」

 実は、さっきから繰り返し避難放送が流れていた。気づいたのは、たった今だけど。

 オレたちは慌てて鞄を引っ掴み、そして気づいた。

 「なあ、桐生は?」

 「あ、そうだ! でも、連ちゃんだって今の爆発聞いただろうし、放送も流れてるから、ちゃんと避難してるんじゃ……」

 「いや、待て。奉助、プロパンが爆発したんはどこや言うとった?」

 「え? えっと、確か……理科室の……二番目?」

 自信なさげな奉助だったが、窓から身を乗り出して煙の発生場所を確認した嵐は、確信を得たようだった。

 「やっぱり……。そこの上は図書室や!」

 嵐のその言葉に全身の血が冷えた。そして、オレの身体は自分でも気づかないうちに、教室を飛び出していた。


         *         *         *


 「和泉⁉ どこ行くんだよ!」

 「図書室しかないやろ! でも、無茶すぎるわ。一人で何ができんねん!」

 「だったら私たちも行ったほうがいいんじゃない?」

 「だよな。四人で行けばなんとかなるかもしれねえし!」

 「いや、あかん!」

 和泉の後を追おうとする二人を引き止める。

 「なんでだよ! 急がねえと桐生や和泉が死んじゃうかもしれねえだろ!」 

 「落ち着け! それはオレらが行っても同じことや。大勢で行ったら、むしろ消防とかの手間を増やすだけや!」

 「じゃあこのままおれらは手くわえて待ってろって言うのかよ!」

 「それを言うなら指やけどな。誰もそうは言うてへん。オレらはオレらでできることがないか考えるんや」

 「そんなもの、あるかよ!」

 「ろくに考えてもいーひんくせに言うなや! それを考えよう言うてんねんやから」

 「いーや、絶対今みんなで行ったほうがいいに決まってんだろ!」

 「よう考えてみい! プロパンガスが爆発したんやろ⁉ 校舎がどれくらい破壊された⁉ 火の勢いは⁉ オレらは何も分からんやろ⁉」

 「だからって!」

 奉助との会話が平行線のまま続こうとしたとき、ラッキーが思わぬ発言をした。

 「ねえ、図書室って四階だよね?」

 「? そうやな」

 「じゃあ簡単には脱出できないよね?」

 「階段も使えねえだろうし……。あれ、じゃあ和泉はどうやって行く気だったんだ?」

 あの様子やとたぶん何も考えとらんのやろうな。オレがさっき言うたような火の勢いとかも。

 「まあ、そのへんはもう置いといてもいいと思うんだけど。だったら私たちにできるのって、下で救助マットを張ることぐらいじゃないかな」

 「ラッキーまでそんなこと言うのかよ。今すぐ和泉たちのほうに行こうぜ!」

 「ダメだよ。確かに連ちゃんたちのことは心配だけど、今行ったって和泉くんと合流できるとはかぎらないじゃん。だったら、救助対象を増やすだけになっちゃう。それなら、二人の逃げ道を用意してあげるのが、私たちにできるベストだと思う」

 ラッキーの言葉で自分を納得させるのに数秒必要やったみたいやけど、すぐに奉助は頷いた。

 「……分かった。じゃあ、早く行こうぜ!」

 「確かそのへんの設備は、正門横の用務員室やったな」

 和泉たちの荷物も一緒に抱えて、オレたちは走り出した。


         *         *         *


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