四章(5)
「でやあ!」
おれは屋上の鉄柵を足場に踏み切り、ジートへ殴りかかった。みぞおちを狙ったんだけど、あっさり防がれた。
(けど、驚かねえぞ! むしろこのくらいはしてもらわねえと!)
ジートが何か動きを見せる前に、空いていた左手で顎を狙う。そのままこめかみ、鼻、肋骨……。師匠に習った急所を攻めていくけど、全部防がれるか、躱されるかの二択。
(コイツ……なんて滞空力だよ。生身のくせに……!)
ジートの顔から一瞬笑みが消えた。
チャンスと思って繰り出したおれの蹴りもあっさりと空を切り、逆に体勢が崩れたところをやられた。
「がはっ!」
背中を強打され、おれはそのまま勢いに乗ってビルのショーウインドウに頭からつっこんだ。ガッシャーン! という大きな音が、人影のない静かな通りに響いた。
「狙いは悪くない……っていうか、どこを狙ってくるか分かりやすすぎて、防ぐのも超簡単」
そう言いながら、ジートは両手を握ったり開いたりした。
(とはいえ、アタシに反撃するヒマをそうそう与えないとは驚きだ。それに、この手のジンジンと疼く痺れ……)
知らず、ジートのこめかみを汗が伝う。
「前とはずいぶん違うな、相川奉助」
「そうだろ? これでも普通の二階建ての家ぐらいなら一発で壊せるようになったんだぜ!」
おれはジャリジャリと音を立てながら道路へ出る。
「なのにお前はびくともしねえし。くっそ、せっかくの制服が埃まみれじゃねえかー」
(切り傷一つない?)
ジートの眉がピクリ、と動いた。どうやら、単純な力自慢の少年ではないようだ。
「普通の二階建ての家ってのが、どの程度のものかは知らないけどね。アタシだって害獣の爪ぐらいじゃ何ともないぐらいの自負はあったんだけど……なっ!」
今度は向こうから仕掛けてきた。つまり、おれのカウンターのチャンス!
(こいつはグーパンでおれを……おれの顔面を狙ってる。どれくらいの威力があるか分からない。避けた場合、足を地面につけてたらアスファルトが割られたとき、その衝撃でバランスを失うかも。そしたら今度はそこを狙われるか。いや、半径十メートルとかの穴をあけられたら、このビルが倒れるほうが先か?)
この間、約一秒。
たったそれだけの間で、ジートはおれの目の前に迫ってきていた。だからおれは、ジートの拳が振り下ろされる直前に、こいつとぶつからないように真上へジャンプした。
「⁉」
ジートの目が少しだけ見開かれた。体重を前にかけてる状態のこいつが反転する前に、こいつの〝羽〟をぶっ壊す!
右手に光を集中させて、全力で飛行体へ叩き込む。
そのとき、
「残念♪」
飛行体から竜巻なみの風、それもかなり熱を持った風がおれめがけて発射された。
「あっつう⁉」
あまりの熱さに、反射的に手を引っ込めてしまう。同時に、当然かもしれないけど、風に煽られて遠くのほうまで飛ばされそうになる。
「う、わ、ああ!」
どれだけ力を込めても、足が地面についていないから踏ん張りが利かない。
さらに、最悪のタイミングでジートの拳が地面を直撃し、円形にアスファルトがくぼんだ。なんだっけ、クレーターか。それみたいに。あと、その地面の上に乗っていたビルが崩れ落ちてきてるのも、音で分かった。
「くっそ!」
「諦めるんだな、相川! 終わりだ!」
ジートの勝ち誇った顔がものすごく腹立つ! 今! ここで! なんとしても一矢報いてやんなきゃ、気が収まらねえ!
「できるか、んなことー!」
風の勢いにあえて逆らわず、一回宙返りして勢いをつけ、飛行体の右翼を下から蹴り上げた。
「はっ⁉」
ジートは焦ったような声を出したけど、風に体が流されておれの本来の力は発揮されず、完全に破壊することができなかった。とっさに見上げれば、倒れてくるビルがすごい勢いで迫ってくる。さらに、向かい側のビルも巻き込まれて崩れてくるのが見えた。
歯ぎしりを交えながら、おれは叫んだ。
「ちくしょーーっ‼」
視界の下のほうで、ジートが半壊した飛行体を稼働させて、安全圏へと逃れていくのが見えた。マジ腹立つ! 絶対倒してやるからな!
派手な音と粉塵をまき散らしながら、二つのビルは倒壊した。
ジートはバチバチと怪しい音を立てている飛行体にチラッと目線を送った。
「まったく、驚かしてくれるよな。あの状態からこいつに一撃入れるとか」
目を凝らしても、眼下の粉塵の中で立ち上がるような人影はない。
「ま、あの状況じゃ当然か」
そして体の向きを変えたとき、ゴウッという風を切る音がして、右翼のヒビに何かが当たった。
「なにっ⁉」
バキンッという音を立てて右翼が割れ、破片が落下していく。途端にバランスが悪くなり、しかも断面から火花が散っているのが見えた。
「くそ!」
ジートは素早く右翼を切り離し、下を睨みつけた。他の推進部をフル稼働にして、ようやく浮かんでいる状態だ。
(油断した。まさか、アタシが装備を壊されるようなヘマをするなんて……!)
唇を噛みすぎたせいで、薄く血が滲んだ。粉塵の向こう側では、まだ動きがない。
学校でただ二人の一等訓練士としてのプライドが、このままで済ますことを許さなかった。我慢強く、待ち続ける。
すると、一つコンクリートの破片が飛んできた。変色した腕で弾き返す。
また一つ、今度は別の場所から飛んできた。弾き返す。
(狙い、威力、共に乱れなし。どうやったかは知らないが、あいつはほぼ無傷か)
今度は三つ飛んできた。焦ることなく弾き返す。
だんだん、粉塵が収まっていくのと比例するように、飛んでくる数が増え、その間隔も狭まってきた。
しばらく観察した後、ジートは結論を出した。
(倒壊したビルの真ん中、崩れ残った壁を盾に、手近の破片を投げている。さっきまではあっちの壁、こっちの壁と移動していたようだが、粉塵が薄れて自分の動きが知られることを危惧してか、三つ飛んできたあたりから同じ場所に留まっているな)
そして、ベルトにつけていた小さな爆弾のようなものを取り出した。
(さっきと同じヘマはしない。まずは動きを止めてから、確実に仕留める!)
ジートの手から投げられたそれは、弾丸に似た勢いで、ジートが見極めた相川の居場所めがけて正確に飛んでいった。そして、彼に当たる前に、凄まじい光と音を発して爆発した。
「これはどんな大型の害獣でも一時的に動きを麻痺させる! 今度こそ終わりだっ‼」
音の反響が収まらないうちからジートは特攻を開始し、
「残念だったな!」
光と薄まった粉塵を切って現れた相川によって、背中の飛行体を破壊された。
「そ、そんなばかな……!」
頭から瓦礫の中に落ちたジートだったが、素早く体を起こすと、信じられない思いで自分より数メートル高い瓦礫の上に立つ相川を見上げた。
相川は得意そうに鼻の頭をこすり、耳から小石を取り出した。
『ガガッ……! イノウエ君⁉ 返事を……イノウエ君⁉』
『おい! ほうす……! 大丈……か⁉』
耳につけた通信機から、ノイズ混じりで二人の声が聞こえてくる。
「いてて……。大丈夫だよ。生きてる生きてる。……ゲホッ、ゲホッ!」
『おい?』
「平気だって……。うぇ、口ん中ジャリジャリする……」
いったんツバを吐き出してから、改めて周りを見る。いまだにぐらぐらと揺れて安定していないビルの壁、全体的に散らばるガラスの破片、あっちこっちに転がる瓦礫。砂やら埃やらで、視界は灰色だ。
次に、自分の状態。皮膚が赤いのは、あいつの熱風のせいだな。あと、腕とか足が地味に痛むけど、屈伸しても何ともないから、せいぜいあざができるぐらいだろ。
『何が起こったのですか? ひどい音がしましたが』
「いやー。ビルが道路を挟んで向かい側の建物と一緒に倒れただけ。なあ、これって道路が直るまで何ヶ月ぐらいかかると思う?」
『そんなのんきなこと言ってる場合か! ……っとお!』
すかさず和泉のツッコミが鼓膜に響いた。けど、すぐに通信機の向こうでドンパチやり始めたみたいで、こちらにはもう話しかけてこなかった。
『とにかく、無事なんですね?』
「おう! この不知火の炎のおかげでな!」
最初は両手足にあったオレンジの光が、今は身体中を覆っている。これがおれ固有の能力で、師匠たちは『不知火の炎』って呼んでた。これは、両手足に展開させておれの攻撃力を上げるのが主な使い方だけど、同時にバリアにもなる。バズーカみたいなのは無理だけど、ガラス片くらいなら全然余裕!
「実は突風に吹っ飛ばされてよー。たぶんここってビルの三階ぐらいだと思うんだけど、とりあえず窓割って中入ったら机やら棚やら、最終天井まで落ちてきたんだからな⁉ 全部砕くの大変だったんだぞ! いくつか砕き損ねて当たったし! あー、疲れた!」
『……イノウエ君にしかできない芸当ですね。……それで、どうするんですか?』
「ん? もっぺん跳んでって戦うけど」
『何の策もなく、ですか?』
うっとつまる。
『まだ、あなたと敵は対等の立場にないのではありませんか?』
「? ああ、おれは空を飛べないけど、向こうは飛んでるってことか?」
一瞬何のことか分かんなかったけど、そう言えば桐生は「はい」と返してきた。
「たしかにそうだけど……おれ、もう〝羽〟の片方ほとんど壊したし……」
『しかし、相手はあなたよりも経験のある兵士。慢心せず、ある程度の策を弄する……頭を使うべきです』
「メンドくせっ!」
思わず素直な気持ちが口から飛び出た。桐生が無表情でおれをじっと見ているのが眼に浮かぶ気がする……。
『……修行中も同じことを言われたのではないですか?』
そして、ハッと師匠たちが口をそろえて言ったことを思い出した。
曰く、『お前はまだまだ未熟だから、真っ向勝負にこだわりすぎると死ぬぞ』って。
「うぅ〜。そういやそうだった。でも、おれそういうの考えるの苦手なんだよなー」
頭を抱えていると、桐生からありがたい申し出があった。
『分かりました。私も一緒に考えましょう』
「え、マジで⁉ やった、ちょー助かる!」
『それが私の役目ですから。……ところで、先ほど敵の〝羽〟の片方をほとんど壊したと言いましたか?』
「おう。あともう一撃入れられたら、確実に壊せるぜ」
『そうですか。とにもかくにも、〝羽〟を壊すことは先決ですからね』
「よし、じゃあ今からちょっと跳んで『待って下さい』
助走を開始しようとした瞬間、見計らったように桐生がストップを賭けてきた。
『ですから、それでは先ほどの二の舞ですよ』
「うー。でも、じゃあどうすればいいんだよ? あいつ、まだそこに飛んでるけど、いつそっちへ行くか分かんねえぞ?」
『そうですね……。ビルが倒壊したということは、近くに握り拳大ぐらいの大きさの瓦礫ぐらいありませんか?』
「おー。そんなもんいーっぱいあるぜー。そうか! この砂埃を目隠しに、瓦礫を投げようってことか! オッケー、分かった!」
『え?』
「えっ?」
あれ、なんでおれ『え?』なんて言われたんだ?
『砂埃を目隠しに? イノウエ君は大きな瓦礫の陰に隠れるなどして様子をうかがっているのではないのですか?』
「へ? いや、違えぞ。おれ、わりと普通に立ってるし、歩き回れるし。とにかく砂埃がすごくてよ。たぶん上からこれ見えてねえよ。というか、見えてたらとっくにアイツつっこんできてると思う」
理解できたのかできてないのか、桐生は黙って、不思議そうに訊いてきた。
『では、なぜイノウエ君には敵がどこにいるか見えてるんですか?』
あ、そっか。そりゃ意味分かんねえよなー。相手から自分は見えないって言ってんのに、自分には相手が見えるってのは。
「和泉はどうか知らねえけど、不知火でいる間おれは、普通の人間とは違った〈目〉を持ってるんだ」
おれの『不知火の炎』は、攻撃力も上げてくれるし、バリアにもなる超優れもの。だけど、師匠たちはみんなそれぞれ言い方は違ってたけど、同じようなことを言っていた。
戦士と言えど、その能力が格闘系であるかぎり、近接戦闘が多くなるだろう。その時は五感が最も狙われやすい。五感を奪えば、容易く、確実に、息の根を止められるからな。
まとめるとこんな感じ。まあたしかに、殴ったり蹴ったりするときに、目が見えなかったり耳が聞こえなかったりしたらなあ。うん、無理だろ、色々。
そんな時に役に立つのが、この新しい〈目〉。この〈目〉っていうのは、おれの身体にもとからくっついてるやつじゃなくて、おれという意識が持つ〈目〉だから、視覚が奪われても機能する。んで、通常目に見えないような特殊なもの(オバケ? って聞いたら師匠の一人に殴られた)も見える。
まだまだ修行が足りないから、そんなにたいしたものは見えないけど、ジートの胸から手足に向かって伸びている青い光は見える。たぶん、コア・コルーンとしての力の流れだと思う。
「……だから、ぼんやりとだけどアイツがどこにいるかは分かるぞ」
長々とした説明をそう締めくくった時、灰色の閉ざされた視界の向こうで光っていた青い光が離れていこうとした。
「あ、ちょ、ま……!」
桐生に針を刺されたから、おれが自分で飛び出していくわけにもいかず、とっさに近くにあったコンクリートの破片を掴んで投げた。一応、壊れかけの右翼を狙って。
あーっと、これは驚きの時速百九十キロ! 球界最速! 新記録です!
とかなんとか、エセ野球解説が頭の中で流れた。
『どうしました?』
「あ、悪い、桐生。アイツがどっかに行こうとしたから、ついコンクリ投げちまった……。お前に言われた通りにしなきゃなんねえのにな」
そのとき、おれから少し離れたところで小さな爆発音がした。思わずガッツポーズをしかけたとき、おれは体中の毛がチリリッと焼けるような感覚を味わった。特殊な〈目〉なんかがなくても分かる。これが殺気——
『現場判断が最優先ですので、私のことはそれほど気にしないで下さい』
「お、おう⁉」
思わず声が裏返った。そして、急いで報告する。
「そうだ! 今、たぶん片方の〝羽〟壊せた! あと、それでジートがキレたっぽい!」
『……分かりました。では、今すぐ砂埃の中を移動しつつ、またコンクリート片を投げて下さい。相手に姿を見つけられないようにですよ』
「え、あ、了解!」
急にしっかりした指示がとんできて、慌てて返事をした。どうしたいきなり……って、よくよく考えたら、のんびりしてる余裕なんてないんだった。
灰色の世界から出ないように気をつけて移動して、もう一球!
『〝羽〟の片方を壊すことはできました。ではいよいよ、相手を自分の土俵に引きずり降ろしましょう』
「えーっと、つまり、今度こそアイツの背中のやつをぶっ壊すってことだよな?」
次は向こうのビルのほうまで行ってみるか。慎重に上を見上げながら進む。
『はい。今、イノウエ君に動き回ってコンクリート片で攻撃してもらっているのは、相手にイノウエ君がまだ無事であることを知らせるためです。また、どこにいるか確定できなければ、無闇に突っ込んでくることもないでしょう』
「おりゃっ! ……なるほどなー。ところで、なんか砂埃が収まってきてるような気がするんだけど」
『そうですか。では、大きな瓦礫の陰にでも隠れて、そこからコンクリート片を投げて下さい』
ものすごくあっさりと、桐生は作戦を切り替えた。逆におれが慌てたぐらいだ。
「え、いいのか⁉ おれの居場所分かっちゃうじゃん!」
『砂埃が晴れれば、同じです』
それもそうだ。適当な壁の裏に隠れて、コンクリートを投げ続ける。うーん、さっきのほうが気持ちよく投げれたな。
『イノウエ君に〝羽〟を壊されて怒ったというのは、よほどプライドを傷つけられたからではないでしょうか。実力は向こうの方が圧倒的上だと双方分かっていますから、敵としては格下の相手にしてやられた、という気持ちなのでしょう』
「うわっ、ムカつく!」
『落ち着いて下さい。ですから、イノウエ君が今も無事であると分かれば、無視などせず今度こそ仕留めようとするでしょう。そしてその方法ですが……」
桐生は一瞬言いよどんだ。おれもいったん深呼吸をして、額の汗を拭った。真冬だってのに、超暑ぃ。
『その前に確認しておきたいのですが、イノウエ君が相手をしているのは、文化祭前日に閃光弾を使った女性ですね?』
「それは知らねえけど、女だぞ」
『彼女は同じ轍を踏まないように、あなたの動きを止めてから攻撃してくるでしょう。もしも彼女が銃や弓矢など、遠・中距離武器を持っていれば話は変わってきますが……』
「そんなの持ってなかったぞ。殴る蹴るばっかだったし。だいたい、そんなの持ってるんだったらとっくに使ってるだろ」
う〜。投げるのは全然構わないんだけど、ことごとく弾き返されちゃってるよなー。
『ええ、その通りだと思います。彼女がイノウエ君と同じ格闘タイプなら、銃器などは動きを阻害するだけですからね。しかし、スタングレネードのような小型の爆弾ならば、使用も考えられます』
「す、すたんはいどれーど? なんだそれ?」
『スタングレネードです。爆音と閃光を用いる非致死性兵器です』
「で、それがどうなんだ?」
つい早口で訊いてしまった。どうも、ジートの目線がおれのいる場所に固定されてる気がするんだよな。
おれの焦りを感じ取ったのか、桐生も早口で説明してきた。
『彼女はそれに似たものを使って、あなたの動きを麻痺させようとするはずです。スタングレネードを使用すると、使われた人間は一時的に失明したり、耳の奥の三半規管がパニックを起こして平衡感覚が狂うそうです。なので、イノウエ君は耳にハンカチでもティッシュでも、なんなら小石でも詰めて下さい。視覚は奪われても大丈夫だとさっき言いましたね?』
「ああ、そこは問題ねえ! いけるぜ!」
耳に入るぐらいにコンクリートを砕きながら、叫ぶように返事をする。
『では大丈夫でしょう。あなたが回復する前に仕留めようとするでしょうから、スタングレネードを投げてすぐに彼女の攻撃がくるはずです。そこで彼女の〝羽〟を全て奪って下さい』
「オッケー!」
桐生の言う通り、ジートがこっちへ向けて小さい何かを投げてきた。グッと目をつぶって耳をふさぐ。だってほら、大丈夫だって分かってても、やっぱ眩しいとかうるせえのってイヤじゃん?
その瞬間、すたんはいぐれねーどは爆発した。
でもおれの視界はクリアだったし、足を踏み出してもまったくぐらつかない。
「残念だったな!」
無防備に突っ込んでくるもんだから、背中の飛行体を狙うのは簡単だった。
「いやー。さすがは桐生。ばっちりの読みだな!」
ゆらりと立ち上がったジートの顔は笑っていたけど、目だけは完全に座っていた。
「……なるほど。アタシが後手に回るくらい頭が回っていると思ったが、そのキリュウってやつの指示だったのか」
「そうだ。すっげーだろ!」
自分のことのように胸を張るおれを、ジートは軽く笑った。
「クック。安心したよ。アンタ自身に知恵がついたんだったら厄介だったけど、そうじゃないなら、全然怖くないね」
ムカッ! そりゃおれは頭悪いけどよ!
腹立ったから、ふふんと笑って挑発してやった。
「これで同じ土俵だな、オラクル・ジート。お互い、そろそろ本気でやろうぜ」
ピキッとジートのこめかみに青筋が走った。
「……今までのは遊びだったって言いたいのか? アタシをなめんじゃねえぞ!」
怒号とともにジートは殴りかかってきた。残像で腕が何本にも見えるぐらい速い。それを受けてはいなして受けてはいなす。
桐生の父ちゃんの話だと、こいつの変色した手足ってのは、体内の有機物を肌に集約して固い炭素体に変換していて(という小難しい理屈があった)とりあえず固いらしい。それがすごい勢いで繰り出されるもんだから、バリアはあまり期待しないほうがいいって桐生がさっき教えてくれた。
「いっでえ!」
またぶっ飛ばされてビルに突っ込んだ。でも、もう止まることも休むこともできない。
素早く立ち上がる。どれだけ吹っ飛ばされても、瞬間移動かっていうぐらいの早さでジートが迫ってくるからな。常に攻撃しとかないと、あっという間にやられる。
けど、頭を使わないでいいぶん、すっげえ楽。ようやくおれらしく戦える気がするぜ!
『攻撃は最大の防御である』ってな!
さあ、何がなんでも勝つぞぉ!




