表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/13

月の姫

初お気に入り登録されたんですよ!

やったねLaimさん、読者g(ry

「呆れるぐらいに異常な特性よこれ……」

「ま、俺もそう思うよ……でも恐らくだけど、多分蛍の方が凄いと思うんだよな」

二人とも、虚の特性についてちょっとした問題があるな、と考えて顔を顰めているが。そこに虚がちょっとした予感を告げる。


「えっ?」

「なんで疑問系なんだよ、蛍の方が色々ついてるじゃないか」

そう言われればそうではあるが、数千年に一度の特性持ちの虚より凄い特性がそう出るのだろうか、と怪訝な蛍は半ば諦めつつもミーシャに声をかける。


「じゃ、じゃあボクもお願いしますです」

「うん、じゃあ水晶球に手を触れて?」

「普通がいいですぅ……」

目をギュッと瞑って念じているが、そもそも召喚された時点で『普通』ではないという事実を覆せないのだが、こういう期待は総じて裏切られるものである。


「……もう手に負えないわ……どうしようかしら」

ミーシャの言葉を聞き、狐耳がヘニャッと項垂れる。


「え、えーと、虚とどっちが……」

「間違いなくホタルちゃんね、比べること自体間違ってるわ」

その言葉を聞き、さらにヘニャッとなる狐耳。

「うぅ……ボクは平穏にメイドさんしてたいです……」

「随分とハイスペックなメイドさんね……はい、これがホタルちゃんのカードよ」

渡されたカードの記載内容は、とても酷い物だった。


名前:シラユキ ホタル

年齢:16

レベル:1

属性:火・水・土・風・闇・光・雷・氷・自然・血・守護・召喚

魔力量:神級

種族:妖精・精霊・吸血鬼・獣人:狐種・天使・ハイエルフ


【固有特性】

『真月の姫』

『六姫』

『浄化』

『狐火』

『霊化』

『妖精化』

『天使化』

『獣化』

『影血の支配』

『自然の恩恵』

『千里眼』

『ソウルスティール』

『マナドレイン』

『造血』

『透過』


【特性】

『恐怖×』

『快感×』

『孤独×』

『不安×』

『料理○』

『清掃○』

『奉仕○』

『折れない心』

『シックスセンス』

『五感強化』

『アイドル』

『想いの声』


【武技:7枠】


【術技:15枠】


「あ、あの……もしかしなくても六姫って」

「女性に出る時は王じゃなくて姫になるのよ」

目を逸らしたい事実を確認する蛍。


「……数字が大きい方がいいんですか?」

「ええ、そもそも歴史上数字は三までしか確認されてないのよね、数千年前にあった聖魔戦争の時に召喚された召喚者が、二王と三姫の特性持ちだったらしいわ」

さらに逃げたくなる気持ちを抑え聞いてみるが、返ってくるのは無残な結果である。


「つまり、伝説級どころか、確認されている特性の何段も上の特性ってことか」

「……そうなるわね、正直話が大きすぎて静かな暮らしはできないかもしれないわ」

虚は勘弁してくれという様な顔をしている、元々虚は目立つのが好きではないし、この世界に来てからは蛍の精神面も割と不安定な部分が強いので、注目されるのは避けたいというのが大きいところである。


「え……静かに暮らしたいんですけど……」

「でも……正直難しいと思うわよ? 協力できる事も限りがあるし……」

その虚の顔を見て何かに思い至ったのか、少し暗い雰囲気で言う蛍。ミーシャも流石に伝説上の存在を超えるかもしれない存在を野放しにはできない。


「静かに……暮らしたいんですけど……?」

「ホタルちゃんの気持ちも判らなくはな――」

唐突に悪寒を感じた。


 蛍と目が合う。透き通った昏い瞳がそこにはあり、見据えられているという事実に足が震えた。ミーシャは後にこう語っていたという、あんな綺麗な目は初めて見た、あんな綺麗に透き通った悪感情が詰まった目は見たことがなかった、と。


 透き通っているのに澱んでいる、濁っている。純粋過ぎる黒。自分たちにとっての悪であり、敵であり、害になるモノなのかと。

 ミーシャ一人を殺すとか、壊すとか、邪魔をするなら力を揮うとか、そういうことでもなく。邪魔になるならどんな手を使っても全て消そうとする、一の為なら百でも千でも万でも切る暴論を秘めた瞳。


「目立つの、御主人様あんまり好きじゃないんですよね」

「……え?」

目を伏せてポツリと、蛍が零す。


「そもそも、ボクたちはここに無理矢理に召喚されたわけですよね、別に力を揮う、揮わないなんて関係ないですし」

「それは、そうね」

先程までの雰囲気と違い、勢いも早く、蛍は続ける。


「面倒事嫌いなんですよ、ボクも皆も、実際のところボクがどうなろうと個人的にはどうでもいいんですけどね? ボクが原因で周りに迷惑がかかるとか最悪じゃないですか、虚くらいの特性ならなんとか出来るって言うなら、ボクの特性は難しいっていうのも理解できます、が!」

そう告げた後に目を見開きミーシャに向かって悍ましい瞳を向けながら続ける。


「そんなの知ったことではないのです、ボクたちには関係ないです、一切関係ないです、ボクは有象無象……つまりは他の環境が! 国が! 生命が! どうなろうが全く興味ないのです、ですが御主人様ひいてはボクの友人に迷惑がかかるなら話は別なのですよ、御主人様やボクは歴史上から見ても非常に価値のある能力を持っているみたいですね? この世界に来たばかりのボクではどこまで殺せる(できる)かなんてわからないですけど、今ここで全ての自由を望めなくなると言うのならば、周りの一般人をいくら殺したって構わないですし、この身に溜まっている力を制御しないで周囲に吐き散らかす程度なら今のボクにもできるのです、それとも問答無用に殺します? ただでは死んであげないですが、それでも構わないです、異常なのは理解してるのですが、ボクが死んで、ボク以外に迷惑がかからなくなるのならそれでもいいですし」

魔力という物だろうか、身体の中を巡る力があるのには蛍も虚も気付いていた。ただそれを十全に扱えるわけもないのだから、それを戦闘行為に使えるわけはない。ただ武器にはなる、殺意を乗せることが可能な物であるとの理解は漠然とだがしていた。

 だから言っているのだ、飼い殺しにしようとするならば、民衆を虐殺してでも逃げてやり、その挙句飼い殺しから逃げ切るのが無理そうなら超規模の自爆テロをかましてやる、と。


「……」

ミーシャは驚愕していた、目の前の少女から漏れ出ているオーラは間違いなく可視化するまで濃縮された魔力だった。

 本来魔力は可視化するまで濃縮されることなど一般的には余りない、にも関わらずこの世界に来たばかりの少女が、教わってもいないのにその身体から魔力を立ち昇らせている。

 心の在り方やその日のコンディションなどで魔力の状態も変わると言われているが、目の前の魔力から伝わってくるのは純然とした殺意だった。ミーシャ自体が幾度も死線を超えてきた、言うならばプロである。が、それでも目の前の殺意より研ぎ澄まされた思念を感じたこと、ましてや目にしたことなど皆無だった。


「言ってしまえば短いのですが、ギルドはボクたちの敵ですか? 味方ですか?」

シンプルだけれど、今ここではっきりとさせるのは不可能だ、ミーシャ一人でそれが決められるわけがない。


「……味方でありたいと、思ってるわ」

いつの間にか乾いた口内から、小さく声を絞り出すミーシャ。


「じゃあ、ミーシャさんは(・・・・・・・)味方ですね」

「……そうね」

目の前の魔力が、形を成していた殺意が消えていく。ミーシャは生きた心地がしなかった。


「良かったよ、何かしようとするなら殺さなきゃいけない所だった」

「!?」

いつの間にかミーシャの背後から、ミーシャの腰にあった短剣を背中に当てている虚が居た。


「元々、静かに行動するのも持ち物盗るのも得意なんだ、手首のスナップが重要なんだぜ?……正直、今のところはまともにやっても俺には(・・・)勝ち目なんてないだろうし、敵対したくないんだよ」

私が全く気付かないなんて! と言わんばかりの驚愕を顔に張り付けたミーシャに対して虚は飄々と告げた。


「……肝に銘じておくわ、お姫様は怖いってこと」

「ま、ギルドと国が別の組織だからこそ俺は強気に出たんだけどね、俺と蛍は特別重要に扱う様言われてるはずだし」

「なんでウツロ君がそれを……」

「ちょっと魔王様に伝手がね」

虚はともかく、蛍に関しては素があれだという事を強調しつつ、爆弾を投下する虚。


「……来たばかりの貴方達にどうして伝手があるのかしら、不思議でならないわ」

「秘密だよ、おねーさん」

ケラケラと笑う虚。今は情報を教えるつもりはないらしい。


「蛍、情報見せ合いっこしよう、ミーシャさんも見るよね?」

「はい! カードを合わせて『登録』って言えばいいんですよね」

ただの綺麗な瞳に戻った蛍が言う。


「そう、ね……マスターに報告しなきゃいけないし」

ミーシャは今日知った、純心とは白だけではないということを。ミーシャは思う、綺麗で歪んだこの子たちはどうなるのかと。


「貴方達の世界って平和だったんでしょう?」

ある程度の情報は世間一般にも開放されている、どういう世界から来たのかというのは知られているのだ。


「ええ、世界は(・・・)平和でした」

「とても、とても平和だったよ」

笑顔で二人は言う、目は、笑っていない。


「この世界って人を殺すことも多々あるけれど……」

召喚された人は殺人など命を奪うことを忌避する者が多いらしい。


「特に問題ないのです」

「むしろ楽になったと言えるね?」

二人は笑みを強めた。


「いえ、何でもないわ、それで壊れちゃう人も居たから」

それに対して二人は笑顔で声を揃えて言う、やっぱり綺麗に澱んだ瞳で言うのだ『今更』と。


「私は貴方達を守りたいわ……放っておけないもの」

言葉だけでは届かない、そう感じながらもミーシャは伝えずにいられなかったのだ。

 平和なはずの世界でそうなって。せめて、呼び出されたこの世界では優しく包まれるべきだと。少しでも守ってあげたいと、思うことは間違いではないはずだ。

 だって、透き通った黒の先には虚が居るのだ、ただ一つの存在の為に命すら天秤に乗らない、倫理すら考慮に値しない。それはきっと純粋な愛だ。


「私はミーシャ、ミーシャ・キリシアよ、今後も宜しく」

純粋な黒《愛》に触れたミーシャから自然と微笑みが零れる。


「……よろしくな」

「よろしくです」

ニヤリと笑う虚と、ふわりと微笑む蛍がとても愛しく思えたから。


――きっと私は、それでいい。

ミーシャは、心の底からそう思えたのだ。


 そんな挨拶を部屋の中で交わしている時に、その部屋の出口の横の壁に背を預けている二人が居た。


「物騒な話だったわね」

「白雪のスイッチを踏んだからな」

中の澱んだ殺気に二人は少し不安を覚えていたが、収まっていくのも感じ、ホッとしていた。


 他の召喚者は既に鑑定を終えたようで一つのテーブルに集まり寛いでいる。

蒼華と蒼黄だけは二人が入った部屋のすぐ横で壁に背を預け耳を澄ませていたのだ。

 テーブルでは他の召喚者が談笑しており、何故か奏士だけはホールの中央でポーズを変えながらその肉体を披露しているし、何故かギャラリーまで集まり大騒ぎしている、一体何をしているのか。


「まぁ、あの二人が放っておけないのは判るわよ、アタシも」

「壊してでも守る白雪と、壊さないと守れなかった黒月、この世界ではその枷も無いだろう」

世間というものは身勝手だから、前の世界では受け入れるという選択肢をどちらも選ぶという可能性は無かっただろう。

 受け入れれば、まともな生活をしていくのは困難だから、蛍は歪んだ自分を受け入れさせることに拒絶するだろうし、虚は受け入れた結果起きる辛い出来事を蛍に背負わせることを良しとはしない。

 ただ、蛍は緩やかに壊れていった、深すぎる愛に壊されていったのだ。結果出来上がったのが、『敵』を壊して守る蛍と、受け入れることはできずに環境を整え続けて守る虚だった。


「一途な献身と不器用な庇護、大変よね」

「確かにな……それに考えてみれば肉体が再構築されているから、俺らの枷も無いな」

そんな二人を傍で見続けてきたのだ、思い入れも深い。

 加えて、蒼黄は今思いついたことを蒼華に告げた。


「……え?」

「蒼華と家庭が持てる、子を成すに至っての問題も無くなったはずだ」

肉体が再構築され別物になった今、向こうの世界での枷は外れている。実の兄妹だがこの世界に召喚された今、何の問題も残されてはいなかった。


「な、ななな……何を……」

「何、今すぐというわけでもない、まずは強くなる方が先だろう」

慌てる蒼華が面白いのか、口元は緩やかな弧を描き、暖かな雰囲気を醸し出す。


「……うん、楽しみにしてるわ」

「フッ、嗚呼、楽しみだ」

揶揄われた様に感じたのか、頬を少し朱に染めながらも顔を背ける蒼華だが、嬉しさは隠し通せてはいなかった。


 もしかしたら、召喚されるべくして召喚されたのかもしれない、殺意が消えた部屋と喧騒を撒き散らすホールに挟まれて蒼黄はそう思った。

 俺も蒼華も、白雪も黒月も、この世界でこそ幸せになれるのではないだろうか、そう思った。

主人公パーティーは基本的に病んでいます。

果たして蛍ちゃんは普通のメイドになれるのか? なれません!

筋肉は既に暴走気味ですね、手に負えません。

そしてなんと次回、蒼黄君が……


ちなみにここで敵対した場合、蛍と虚以外は死ぬ可能性が高く、虚も死ぬ可能性があり、蛍ちゃんは生き残ります。

なお、世界は滅ぶ模様。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ