世界が変わった日
六姫と二王の単語を早く出せるよう頑張ります。
本当はあるべき世界―――
ふわふわとした意識の中で見える。
「蛍は宿題終わったか?」
虚が問いかけてくる。
「初日に終わってますよ」
僕は答える。
「はっや、俺まだ半分も手を付けてな――」
「見せませんからね」
「やだなぁ、俺と蛍の仲じゃないか……御主人様の言うことはちゃんと聞こうぜ?」
執事である僕にこういう要求を突きつけるのは職権濫用じゃないのかと思う。
「それに、本来は虚様が私の部屋に来るのは良くないかと」
僕は、突き放す。
「チッ、何だよそれ、誰が決めたんだよ」
不機嫌そうな貴方が愛しい。
「周りと、それと……私でございます」
「馬鹿馬鹿しい、俺が決める」
嬉しいけど、それは許されない。
「私は、周囲には受け入れ難いモノなのです」
理解されているでしょう? そう暗に問いかける。
「……ただ、少しちぐはぐなだけじゃないか」
「その少しが、許されない事もあるのです」
貴方がそう言ってくれれば、僕は大丈夫です。
「外見が男で、中身が女だって、何に支障があるって言うんだ」
「普通、ではないからです」
歪な僕の世界、僕はただちょっと特殊で。それでも、普通ではないから弾かれて。いつも、在るだけで迷惑をかけてしまう。
「俺の家族も皆……そんなこと思ってない」
「感謝しております」
微笑んで、誤魔化す。
「……学園で『苛め』があるらしいな」
「さて、私は聞いたことはありませんが」
ギリッと歯を食いしばる貴方は。
「……我慢しないでくれよ」
とても優しい。
「私は我慢してませんよ、ご心配は無用です」
縋ってしまいそうですから。
「今度、蒼黄たちを誘って、遊びに行こう」
「……はい」
これ以上、優しくしないでください。壊れてしまいそうですから。
「……泣くなよ」
「……泣いて、ません」
人でいることが、辛いです。逃げ出してしまいたいです。
実らない愛も、ちぐはぐな身体も。
ずっと優しい貴方も。欲張りな僕も。何もかもが辛いです。
せめて、ちゃんとした女の子だったら。
――想いを抱えることくらいは許されたんですか。
「世界は、理不尽だ」
「そういうものですよ」
だって。
「大切なものばかり、傷つく」
「そういう、ものですよ」
人も、想いも。
「簡単に、壊れる」
「そういう、もの、ですよ」
こんなに歪んでいるから。
「だって、お前は……!」
「もう、なんとも、思わなくなってきましたから」
「此処に居たいだけなのに……!」
だから世界は理不尽です。
「……? なんだ? 地震!?」
光が……。
「眩し……」
――視界が真っ白になるような光が……。
「あれ……ここ、どこ、でしょう」
目を覚ましたボクの目に映るのは、天蓋付きのベッド? でしょうか。実物を見たのは初めてなので、判らないです。
「誰か来るまで、待ってればいいですね」
きっと、こんなベッドで寝かせてくれたのですから、良い人に違いないのです。
それに今は、何も、考えたく、ないですし……。
「っ……っく……」
夢見も最悪ですし……。
独り、ですし……。
「……虚ぉ…………」
この身体になってから、上手く感情を制御できていない気がします。寂しい、辛い、怖い、そんなネガティブな感情を強く感じます。耐えられそうに、ないのです……。
一時間くらい泣いていたでしょうか。バンッと強く扉を開ける音がして。
「蛍! 起きたのか!」
虚と、その他にも見知った顔が数人訪れました。
「虚……独りが怖い……なんでです……? ボク、こんなの我慢できたはず、ですのに……」
泣いているボクをぎゅっと抱きしめてくれる身体は暖かくて。涙が止まらないのです。
「我慢なんて、しないでくれ……!」
苦しいくらいの抱擁が嬉しくて、ボクもつい、ぎゅっと抱きしめ返してしまって。怒られるかもしれないけど、少し役得かな……なんて思っちゃいました。
「わかるっちゃわかるんだけど、アンタたちって本当にマイペースよね」
「まあ、仕方ないだろう蒼華……特に白雪はな」
「ハハハッ!ちゃんとこの五人が揃っただけでも良かったではないか!」
自分で言うのもあれですが、ボクの少ない友人も居たみたいで少し安心して。けれど、こんな状況が良いとは思えないので、罪悪感を覚えてしまいます。
「落ち着いたら状況について話し合おう」
「それがいいかな、はっきり言って俺もまだ混乱してるし」
「ウム!信じ難い状況である事は確かだしな!」
「アタシはなんだか諦めもついているけどね」
それでも、皆が一緒だから、なんとかやっていけそうな気がしました。
頑張れ私、超頑張れ。