見知らぬ場所
とりあえず、ある程度は頑張って今日投稿すべきだと思ったんです。
「お、おいおい! 待てよ! 何だよそれは!」
ビシッと少年は少女の胸元へ向かって指を指す。
「え、何って……何ですかこれ?!」
慌てた様に少女は言う。
「何でお前に胸が有るんだよ!」
「何でボクの胸元に宝石があるんですか!」
一拍の空気を置いてお互いに顔を見合わせる二人。
「え?」
「え?」
どうにも会話が噛み合わない様である二人は、どうにか落ち着こうと深呼吸する。
「待て、まず確認だ……お前は誰だ」
先に落ち着いた少年が分かり切った事ではあるんだが、と言いたげな顔で問う。
「白雪 蛍です」
何を当たり前な、と馬鹿にする様な顔で少女は答える。
「性別は?」
ジトリとした視線を投げながらその問いに。
「男です」
怪訝な顔で答える蛍。
「その胸は?」
こいつは……と呆れたような顔で少年は溜息を吐いた。
「…………あれ? ……えっ!?」
蛍と名乗った少女はいきなり自分の胸元に手を当てて激しく揉みしだき、大きめのそれはムニムニと形を変え痴態を晒す。目の前で唐突に行われたその行為は少年の目を楽しませ、普段から明け透けな少年も流石に喉を鳴らした。
「……そんな場合じゃないな、蛍……俺達が何故こうなったかは全くもって判らないが、まず他の皆と合流すべきだと思う」
「ボク的には、自分の性別もかなり重要なんですけど……」
じっくりと観察した後にハッとした少年に文句を言いながらも二人は簡素な部屋を出る。どうせここで文句を言っていても何も始まらないのであれば、少しでも行動を起こした方が良いはずだ。
「やっぱり静かだな……夏休み中だったし、誰かが居ればいいんだが何が起きるかも判らないしな……」
夏休み中に寂れた学生寮に滞在していた人間は少ない、元々特定の関係者のみが使っていた寮であるのでそれは当然なのだが。
「怖いこと言わないでくださいなのです……」
物騒な事を言う少年に蛍は不安気な顔を向ける。
「口調も変わってるけど大丈夫なのかお前」
幼いと言うべきだろうか、『くださいなのです』なんて、丁寧に話そうとして失敗した童女の様だ、見た目が縮んだ彼女に合っていると言えば合っているのかもしれないが、少年が疑問に思うのも無理はなかった。
「ボクは普通に喋ってるつもりなんですけど…」
自分の変化が恐ろしいのか、でもそれを受け入れているような、よく分からない現状に困惑したのか、落ち着かない様子で呟いた。
「ん?」
少しの間無言で歩いていると、少年は唐突に引っ張られる間隔を覚えて蛍の方を振り向く、視線の先に居る蛍は何が起きたか判らない不安からか瞳を潤ませて、少年が身に着けている黒いマントをキュッと握る。背の小さい彼女から行われるその仕草は必然的に上目遣いになり、抜群の破壊力だ。
恐らくは、無言によって訪れる静寂、静寂の中に無駄に響く足音、それらが不安や恐怖を増長させたのであろう。
「ッ! こ、怖がるな、俺が居るだろ……?」
「だって、虚……ボク……」
「俺は誰だ? 黒月 虚だぜ? お前くらい、守ってやる」
虚と名乗った少年は胸の鼓動を抑えつつも、蛍を落ち着かせるために嘯く。心から虚を信じ切っているのか、蛍は少し頬を赤らめて微笑んだ。
「……ありがとです」
「気にすんな」
目線を合わせないようにぶっきらぼうに言うそれが、虚の照れ隠しであるという事は一目瞭然であり、クスリと蛍は笑みを漏らす。
不機嫌そうな少年と、先程まで不安を抱えて泣きそうになっていたはずの微笑む少女は出口を目指して進んで行った。
音を出来るだけ立てないように移動すること十分、二人の目の前に見慣れた筈の出口だ。しかし、それはどこか異質に見える。
「おっと、もう出口だな、とりあえず俺が外に出る」
軽く言うその顔は極めて真剣であり、何かがあると察していたのかもしれない。覚悟を決めて建物から出た虚の目に映ったものは。
「なん、だ……これ」
見知らぬ城らしき建造物と、恐らくは虚と蛍以外にも居たであろう、この建物に居たと思われる人達。
「虚……どうし……」
固まった虚に近寄ってきた蛍も言葉を失う。見覚えの有る人しか居ないが、明らかに変わっているのだ。姿形、服装、どう考えても今まで生活してきた場所のそれではない。
そもそもの問題として一体どうなっているのか。寮の違う部屋に居た筈だった見知った二人が目の前に居る。その二人と同様に立ち尽くす。
足元がふらつく。
「……ぁ……え?」
目の前が歪む。
「ここ、どこです……?」
色々と限界だったのか、蛍は意識を途切れさせる。
――どうしてこうなったんでしょう……。
――辛くて、逃げ出したいと思ったからです?
――それだったら、皆に申し訳ないです。
――目が覚めたときには……。
――夢が醒めていれば、いいのに。
晩御飯はお刺身★