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ルールの抜け道

セーフ!日付け変わってないからセーフ!

 窓から朝の光が差し込み、小鳥の囀りが耳に届く爽やかな朝。そんな朝に似合わない憂鬱なオーラを纏った虚がいた。

「俺は、なんてことを……」

昨晩の事は思い出したいけれど思い出したくない。流された挙句、更に自分からも要求してしまっているから言い訳のしようがないのだから、虚の心の中で「やってしまった」の一言が飛び交っているのも当然だ。

「……でも」

――蛍からしてくれたのを、好意的に受け取っていいものか……依存されてるのはわかっているけど、それってそもそも好意なのか確認したことなんてないし、もしかしたら不安を隠したり、変わったことによって俺に捨てられるかも、なんて考えた結果の捨て身のような行為だったらどうすれば……。

衆人環視の中で傍に居てくれ発言をしたくせに、あれを恋愛的な要素でお互いに解釈しない二人だが、蛍は女の子だからともかくとしても、男の子がうじうじすると途端に見苦しい。

 横をちらりと見ると、そこには黒のネグリジェを着てすやすやと眠る蛍が視界に入る。昨晩はのぼせ上がった頭で深く気にしてはいなかったようだが、改めて眺めると裸より逆に卑猥である。


「そこのうだつの上がらない青少年、何をお悩みかな? 僕、いや、この魔王様に聞かせてごらんよ」

「帰れクソ兄貴」

いつから居たのか、にこやか……いや、ゲスやかな笑みを浮かべた鋼に虚は悪態をつく。

「いやはや、翔も似たような反応だったよ、本当は王と姫の所にだけ仕掛けるつもりだったんだけど、つい……悪戯心がね」

王と姫、『黒王雪姫の楽園』にはそれが七人居る。複数重なっているのは蛍と虚だけだが、実質十二人中七人となると半分より多いのでありがたみというのが薄いと感じてしまうのも仕方がない。

「翔はとばっちりってことか、で、種明かしは? 王と姫だけってことに合わせて昨日の感じからして、バッドステータスの無効化に関係してるんだろうけど」

「その通りです、この魔王様が解説してあげるよ……そもそも、バッドステータスってなんだろうねっていう話になるんだよね、まあ結論を言うならばお湯に浮かんでた黒薔薇みたいな花があったでしょ? あれは『リーヴェ』っていう花でね、お湯をかけると生殖本能に働きかける香りを撒き散らすのさ」

「つまり、生殖本能が活性化されることは悪影響ではないから、バッドステータスの無効化は効かないってことか」

「そう、だから媚薬の類とかも効いちゃうんだよね、魔王様の実体験からくる忠告なんだよ?」

それを教え込むために今回の罠を仕掛けたということだろう、やり方が悪辣だとは思うがこれは知っておいた方が勿論良いことだし、痛い目を一度見ておいた方が注意するようになるのも確かではあるので、虚はあまり強くは言えなかった。

「……次からはもうちょっとやり方を考えてくれ」

「良い思いをしたくせに、押しが弱いよねえ我が弟は……」

十から先は数えていないが、あそこまでたっぷりと味わえば押しが弱いとはちょっとは言えないと思うが、流された自覚がある虚は苦い表情を浮かべて鋼を睨む。

「放っておいてくれ、俺には俺のペースがある」

「本当にまあ、昔みたいに遠回しに囲わなくても捕まえちゃえばいいのにさ」

呆れた、と言わんばかりの苦笑を浮かべた鋼は手をひらひらとさせて部屋から出て行く。

「朝食、出来てるから食堂までおいでね」

「……わかった」


朝から無駄に疲れたのであろう虚は、蛍を見て考えた。

――まあ、あんなに夢中になってしまうとは思わなかったしな、今後はもっと気を付けることにしよう。

艶やかな銀糸のような髪に指を通すとサラサラと心地好い感触が返ってくる。余程疲れたのか少し触れたくらいでは起きる気配がないが、もうすぐ朝食だとの知らせも受けたし起こさなければいけない。

「なんか、こういう穏やかな朝は凄く良いな、朝チュン万歳」

寝ている蛍の頬に口付けをした後、蛍を少し揺さぶると「んぅ……」と、悩ましい吐息が返ってくるが、虚は心を鬼にして起こしにかかる。

「蛍、起きろ、朝飯の時間だぞ」

「ん、朝です……?」

「そう、朝だぞ、起きろ」

「あと、五年だけ……」

「ベタだな!」

「冗談です、起きますよぅ……」

起き上がった蛍は、ネグリジェの肩紐が片方下がりかけていて非常に際どい恰好だったが、虚は極力暴力的な胸元に視線を送らないように気を付けながら声をかけた。

「ほら、身支度して行くぞ」

その言葉に自分の状態を確認した蛍は一度頷き、トテトテと洗面所へ向かう。洗面所に続く戸を開けて、閉じかけてから思い出したかのように顔をこちらへと覗かせると。

「虚、朝からえっちです、視線わかりやすいのです」

そう言ってクスクス笑いながら、今度こそ戸を閉めた。

「はは、バレてたか……」

昨日の事をあまり気にしてないようで良かったなと思い、虚は身体を伸ばしてほぐした。

「さて、俺も用意するか」

少し気が楽になった虚は、晴れやかな空を眺めて目を細めた。

――ゆっくり、進めればいいや。


 まだまだ、時間はあるのだから。

ほのぼの過ごしたいお二人でした。

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