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斬る  作者: 東 洋
11/13

斬る11


 グリオンと長官の息子はビルを出ていた。長官の息子は初めのほうこそ暴れて抵抗していたが、グリオンに担がれてビルを出ているうちに諦めたのか、もう泣き止んで静かにしている。ビルを出てみると、途方にくれたような子供兵たちが入り口付近に大勢いた。

「もういいでしょ、下ろしてください」

 そうぼそりと呟いた声は、かすれていた。グリオンは黙って長官の息子をおろした。

「……これからどうするんですか」

 そう促されて、グリオンはしばし考えた。これから自分たちはどうするべきなのか。ここまで勢いで来たようなものなので、この後のことはまったく考えていなかった。

 状況を整理してみる。

 長官の手紙による彼の手はずはこういうものだった。長官はハイダムと分かれた後、まず自分の妻に会いに行った。これからの二人のとるべき行動を説得するためだった。自分たちは死を持ってハイダムに報いるのである、と。長官はハイダムが彼に変な英雄心を取らせまいとする考えを、ちゃんと妻を説き伏せるということで逆手に取った。

 さらに、長官は大人の兵隊に嘘の指令を出した。ハイダムに嘘をついたというべきか。彼はハイダムに大人兵はビルに残すように手配すると告げたが、実際は大人兵全員を外に出して陸たちの捜索にあてがったのだ。さらに、一番陸たちと会う可能性がある、スパイと最後に連絡が付いた場所に派遣する先遣隊に彼の息子を子供兵に扮して送り込み、手紙を託す。そうして、大人兵がいない間に陸たちをビルに入れる、これが長官にできることであった。

 しかし、さすがに捜索しても発見できないとなると、もうそろそろ大人兵たちも戻ってくるころであろう。一番まずいのは農民たちと大人兵が鉢合わせになることだ。

 今のグリオンには農民たちを引き連れているほかの隊員が早く帰ってくることを祈ることしかできない。大人兵たちよりも先に農民たちが帰ってくれば、子供兵を農民の元に返し、そこからいくらでも大人兵たちに対抗する策を練ることができるであろう。

「とりあえず、仲間を待とう」

 グリオンは長官の息子にそう言うしかできなかった。





 

 陸の言葉にゴスロリ少年はびくつき、わなわなと顔を上げた。 

 陸がサルージャにそう訴えると、彼は多少驚いたものの、だからどうした、と陸に返した。

「いや、どうしたって……あいつ男だったんだよ!」

「まあ、それは確かにすごい発見だけど、今はそれどころじゃないよ」 

 ため息混じりにサルージャは答えた。しかし陸はめげない。

「いや今はそれどころだよ。だってあいつ男の癖にあんなかっこしてんだぜ?て、え?あいつ変態――」

 陸が言い終わらないうちにサルージャは陸を横に押した。ゴスロリ少年が陸めがけて突っ込み、殴りかかってきたからである。後数瞬遅かったら彼の頭はひしゃげていたことだろう。サルージャが応戦しようとナイフで切りつけるも、楽に交わされ、代わりに鳩尾に膝蹴りを食らう。サルージャは思わずしゃがみこむ。そのうちに反応できていない陸に再び少年は殴りかかる。が、とっさにサルージャがゴスロリ少年の足を払ったので事なきを得た。そこで陸はサルージャを抱えてはゴスロリ少年と距離をとる。

「悪い、大丈夫か」

「ほら、それどころじゃないだろう」

「確かに……」

「また来たぞ、下がってな」

 またぞろ向かってきた少年をサルージャは再び迎え撃った。しかし、ゴスロリ少年の猛攻に防戦一方で、次第にジリ貧になっていく。陸はまずいと思い、何とか加勢しようとするも、二人の戦いが別次元で何もすることができない。どころか返ってサルージャの邪魔にすらなっている気がする。

「くそが……」

 ならばと陸は向こうでただ呆然と三人を見ているだけのハイダムをと、彼に向かっていった。

「ひいっ」

 ハイダムは銃を構えて放とうとしたが、しかし今までの無駄遣いで銃は弾切れであり、引き金を引いてもただカチカチとなるだけであった。陸は占めたといわんばかりに咆哮をあげながらハイダムに向かっていく。

 それを察知したゴスロリ少年はサルージャの攻撃をかわし、一本背負いの要領で彼を担ぎ、投げ飛ばした。サルージャはそのまま陸にぶつかり、二人は派手に転がった。

「ってえ……」

 陸はそううめきながら体を起こそうとした。と、途端にまたぞろサルージャに突き飛ばされる。再びゴスロリ少年が向かってきたのだ。ゴスロリ少女の腕は陸が先ほどまで寝転がっていた部分を陥没させている。陸は改めて彼女のパンチの威力の恐ろしさを知り、鳥肌が立った。サルージャは仰向けの体制のままナイフをゴスロリ少年へ突き立てる。が、それは彼のもう片方の腕で押さえられた。

 ボキン、と何かが折れる音を陸は聞いた。と、途端にサルージャが呻きだす。彼は右手首をゴスロリ少年のすさまじい握力で潰されたのであった。さらに少年はサルージャの手から零れ落ちた彼の神器であるナイフを拾いあげる。サルージャは身の危険を感じて身を翻した。

「サルージャ!!」

 と、途端に陸が叫んだ。サルージャは怪訝に思った。自分はちゃんとゴスロリ少年の攻撃をかわしたはずである。何をそんなに叫ぶことがあるのか。いや、少年の更なる攻撃が自分を襲おうとしているのかもしれない。そう思い、サルージャは身を起こそうと両手を突きたてようとする。右手首が折れているので余りそちらには体重をかけないように、などと考えていた。すると、右腕に強烈な痛みが走った。今しがたそれに考慮したばかりであるのに、予想よりもかなり痛い。一瞬気を失ってしまうほどであった。何事かと思い、サルージャは右手に視線を向けた。が、何もない。右手首より少し手前側から先が何もないのである。その先にあるはずの手の変わりに、ドバドバと血が滴っている。

 ふと膝を立てた姿勢のゴスロリ少年が、いきなりサルージャの顔めがけて何かを投げた。顔にべちゃりと当たって下に落ちたそれをサルージャは見つめた。自分の右手である。自分の右手が、なぜか取れて、下に落ちている。サルージャはゴスロリ少年を見上げた。彼の手には自分の神器、ナイフが握られていた。サルージャはようやく理解した。つまり、彼は自分の神器を使い、自分の右手を切り落としたのである。

 理解すると、身を焼くような激痛が走り出した。サルージャはあまりの痛みに叫びだす。






 グリオンと長官の息子がしばらく佇んでいると、遠くのほうから人影のようなものがポツリポツリと見え始めた。まさかと思いグリオンは持っていた双眼鏡を使った。農民たちである。どうやら賭けに勝ったようだ。はやる気持ちを抑えようとして、もう少し双眼鏡をのぞいてみた。するとどうも様子がおかしい気がする。彼らはひたすらに走っていた。中には老人もいるのに何をそんなに急かしているのか。

 すると、また奥のほうから、今度は車が見えてきた。グリオンは舌打ちをした。あれは大人兵が乗ってきた物と同じである。つまり、農民たちは帰りがけの大人へいたちと鉢合わせてしまったのだ。

 長官の息子が矢庭に叫びだした。

「みんな、迎えが来たぞ!お父さんとお母さんを助けるんだ!」

 状況が見えないグリオンを尻目に長官の息子は叫び続けた。すると、子供兵たちは各々目を細めたりして、自分で農民たちが追い掛け回されていることを確認した後、おもむろにそれぞれ銃を構えて走り出した。しばらくすると、彼らは農民たちのほうへ着き、大人兵の車を止めたりしている。さすがの大人兵も250人にも及ぶ子供兵の前には多勢に無勢というものだ。子供兵たちはそのまま農民たちの解放に成功し、それぞれの両親との再会を喜んでいるようだ。

「すごいですね」

 そう言って、グリオンは子供兵たちに発破をかけた功労者である長官の息子のほうへ振り向いた。しかし、そこに彼の姿は見えなかった。あたりを見渡しても見つからない。そこでグリオンの頭にある予感が走った。彼は再びビルの中へと足を向けた。


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