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悲劇。そして、転機。

 そしてマキルが倒れてから98日が過ぎたある朝、彼は病床にて静かに息を引き取りました。

 四人が受けたショックたるや凄まじく、床に突っ伏して泣きじゃくったテムジュやラゴは部屋に籠もって寝込んでしまい、絶句したメサはショックから拒食症に陥り、ヨリトに至っては自責の念から幾度と無く自殺を図ったほどです(幸いなことに悉く失敗しましたが)。


 彼が何故倒れ死んでいったのか、その理由を知る者は居ません。ただ、テムジュやヨリト曰く『少年時代の冒険で起こった何らかの出来事が原因なのでは』との事でした。

 その後マキルの葬儀が盛大に執り行われたり、遺言状に従い太陽劇場の運営はヨリトが、領主としての立場はマキルの姉ジーズィが引き継ぐ事になったりと、国の中では色々なことが起こりました。

 ジーズィの秘書として働いていたラゴは、戦地で負傷した流れ者の傭兵・トルチと恋に落ち、彼と結ばれ幸せな家庭を築いていくことでしょう。


―そんな中―


 マキル亡き後も座付き作家として太陽劇場に原稿を寄稿しながら本なども出していたメサは、日に日に今の自分自身を不安に思うようになっていました。

 収入が不安定なわけではないのですが、どうにも自分の書く物語に自信が持てないのです。

 自分の書く物語は観客に受け入れられなくなってしまうのではないか、それが原因で人気が落ち込んで劇場が潰れてしまうのではないか、職を失った劇場の関係者達が失敗と貧困を苦に自殺してしまうのではないか……有りもしない、起こり得るかどうかもわからないイメージに苛まれる日々が続きました。

 不安が限界に達したメサは、共にマキルの最期を見届けた三人を呼び寄せ、泣きながら胸中を打ち明けました。

 先のことが不安で仕方なく心細い、その所為で原稿を書く気力さえ失せたと語るメサに、三人はやさしい言葉をかけてくれました。

 戦場でのトラウマから悪夢に苦しめられる夫を支えるラゴは『気に病むことはない。先生の作品は何時だって最高だから。それは私が保証します』と言いました。

 異能や魔術の力によりヒトの持つ心に深く精通するテムジュは『働きすぎて精神を摩耗しただけだ』と言って、暫くの休業を薦めました。

 マキル同様メサの力を高く買っているヨリトも『無茶はするな。休みをやるから、お前の思うように過ごせ。答えを出すのはそれからでも遅くない』と、静かに語りかけました。


 三人の言葉に元気を貰ったメサは熟考の末、座付き作家という立場からの引退と、故郷からの旅立ちを決意します。

 元より休日を利用して小旅行に出掛ける事のあった彼は、新たなる生き方を探すため海を越えて他の大陸へ渡ろうと決意したのです。

 事情を聞いた多くの人々はひどく悲しみメサとの別れを惜しみましたが、彼の決意を否定する者は誰一人として居ませんでした。


 かくして流浪の旅に出たメサは、文明のあるあらゆる大陸を練り歩きました。

 故郷ノモシアの主要国家を巡りながら、海路でラビーレマへ向かい優れた学術の叡智について学び、ヤムタの絶景や独自の文化に感動する一方で貴族政治の喰らい現実を知り、イスキュロンでは巨大な砂上船で軍人達の冒険譚に耳を傾け、アクサノでは巨大な毒蜘蛛に怯えたり(メサは蜘蛛が何より苦手でした)熾烈な宗教抗争の現実を目の当たりにしました。


 異形めいた外見に反して人柄の良いメサはどんな土地でも受け入れられ、その土地にある程度定住しましたが、永住には至りませんでした。

 詳しい理由はわかりません。何処も心地好いことは確かなのですが、どういうわけか住み続ける気にはなれないのです。


 各地を点々とするメサの人間関係は多くがその場限りな儚いもので、殆どは旅立ちの日で終わってしまいます。

 しかしそれでも完全に一人ぼっちなわけではなく、ある時を境に旅へ同行したいという人々が現れはじめ、メサの旅はどんどん賑やかになっていきました。

 特に最古参のメンバーであったペンギン系羽毛種の少女・エリーザはあらゆる場面で健気にメサを助け、一途に支え続けました。


―五年後―


 放浪の旅に出て五年が経った頃、メサは決心しました。


「(私は結局、どこの国にも馴染めないままこうして旅を続けている……いっそどこか誰も寄り付かない適当な無人島でも見付けて住み着くべきかもしれないな……)」


 そう思ったメサは、ひとまずその旨を仲間達に伝えました。

 新天地を求めて海の旅に出ることにした。強制はしない。その気がある者だけついてこい。

 突然の告知に皆は驚きましたが、しかしそれを否定する者は居らず、それどころか全員がメサについていくことを誓うほどでした。既に彼らとメサの絆は、実の家族と呼ぶべき程に強まっていたのです。


 かくしてメサは大型船の免許を取り、自腹で当時最新モデルの大型船を買い、仲間達と共に新天地を求めて海図無き旅へ繰り出しました。それは言うなれば彼らにとって、第二或いは第三の人生の始まりと言えました。


 旅は過酷を極めました。最初の七日間は仲間の多くが船酔いに悩まされ、続いて変動しやすい気候、不規則な生活習慣、品質の劣化した食材、食事による栄養バランスの崩壊、生の魚介類を経由し体内に入り込んだ寄生虫等により体調を崩す者が続出。予めそれらについての知識を身につけていたエリーザの活躍もあり事態はどうにか収束しましたが、彼女の存在が無ければメサ達の旅は新天地を見つけるより前に終わっていたことでしょう。後日これらの事態を重く見たメサは、対策としてこれらに関する知識を学ぶ勉強会を開催しました。


―それから―


 その後、メサ達は様々な危機を乗り越えながら新天地を探し船旅を続けました。

 嵐に見舞われ、鮫に襲われ、海賊に攻め込まれ、時に船のエンジンが故障したりもしましたが、それでも船は諦めず前に進み続けます。

 そして航海開始より二年半が過ぎたある日、一行に転機が訪れます。


 見張り台に立っていた夜鷹系羽毛種の男が、陸地らしきものを発見したのです。

 知らせを受けた仲間達は歓喜し、適当な陸地に船を近付け嬉々とした面持ちで上陸していきます。


―陸地にて―


 メサ達が降り立った陸地は五月頃だというのにかなり寒く、地面には細長い草がまばらに生えており、遠くには針葉樹の森が見えました。どうやら寒冷地、それも南半球のようです。

 熟考の末、メサはこの陸地を自分達の降り立つべき『新天地』として定め、仲間達との話し合いの末上陸三日目で調査を兼ねての開拓を開始し、何もなかった広大な大地に自分達の集落を造り上げていきます。家が建ち並び、田畑ができ、森に住む獣を食べ、時に飼い慣らし、漂流者達を受け入れ、集落はどんどん大きくなっていきました。

 親から子へ、子から孫へ、孫から曾孫へと受け継がれる集落はやがて地へ、街は国へとどんどん脹れ上がっていき、何がどうなったのかメサ達の上陸から僅か500年ほどで一つの文明を持つ大陸として機能するようになっていました。

 住民達はその大地を、嘗てこの地に訪れた偉大なる指導者・メサの姓にちなみエレモスと名付け、外部からの侵入者を寄せ付けないため大陸を取り囲む空と海との一定範囲に術を張り巡らせ、そこを天然の要塞に仕立て上げました。

 かくして南半球に属する大地エレモスは、幸運な探検家等が命辛々持ち帰った僅かな情報を除き殆どを外部に知られていません。故に既存五大陸の間で『謎の大陸』と呼ばれるようになったのです。


 今や独自の政府によって管理されるこの大地にかけられた術は更なる強化と改変を受け、外部からの侵入者を無差別に拒むという排他的な大陸から一転、苦境や迫害により追い詰められた人々を受け入れるある種の楽園へと姿を変えたのでした。

(一周年記念企画は)まだまだ続くよ!

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