第9話 メロンパンとコーヒー牛乳
時刻は深夜。俺は今、自分の部屋で携帯電話と睨めっこしている。さらに詳しく言えば、画面に映る伯父さんの電話情報。コールボタンを押せば、すぐに伯父さんとつながる。逆に、コールを押さなければ伯父さんにはつながらない。
深夜に電話をかけるのは迷惑だろう。やっぱやめた方がいいよね・・・・でも、伯父さんは会社の社長なんだぞ?電話をかけてもいい時間帯はあるのだろうか?少なくとも俺は知らない。
そして、俺は伯父さんの携帯に電話をかけたことがない。電話帳には一番最初に登録したものの、それ以来この画面でコールを押した覚えはない。メールなら何度か送ったことある。でも、これは電話で直接聞きたい。
「・・・・・・・・」
しばらく携帯の画面を見つめる。
深夜だから迷惑?そんなの知るか。俺は伯父さんに感謝はしていても嫌いなんだ。迷惑だってならザマアミロだ。
俺は自分にそう言い聞かせてコールボタンを押した。
耳に響く呼び出し音。そして・・・・・
「もしもしーーーーーー」
「秋人さん!秋人さん!」
「うぅにゃ゛ぁぁぁ・・・・もうちょっと・・・」
「秋人さん!いい加減起きてください!・・・・・・・起きろ!」
「はうっ!・・・・っ!」
腹に重たい衝撃を感じて俺は起きた。一瞬ぼうっとしたが、次の瞬間には凄まじいスピードで目覚まし時計を手に掴んだ。そこにある時刻は8時30分。ちなみに、俺の学校で朝のSTが始まるのは8時50分。学校までは20分かかる。・・・・・・遅刻だな。諦めよう。
・・・・ん?俺は誰に起こされた?自分で起きたわけではない。そうなると、俺を起こせる人物はただ一人。凪沙だ。
「・・・・な、凪沙?学校はどうしたの?・・・い、行かなくていいの?」
「遅刻です」
「ごめんなさい!」
俺は一瞬でベットの上で土下座の体勢とった。ちらっと顔を上げてみたけど、凪沙は全然怒ってる様子はない。
凪沙に事情を聴くと、何度か俺を起こしに来てくれたが全然起きてくれなかった。このままでは完全に俺が遅刻すると思い、自分は遅刻覚悟で俺を何度も起こそうとしてくれたらしい。朝食は食パンで済ませたらしい。洗濯物は洗濯機の動かし方が分からず、動かしてないとのこと。洗濯物についてはしょうがない。起きなかった俺が悪い。
俺は速攻で歯磨き、着替えなどを済ませた。
「凪沙。学校まで送るよ」
俺と凪沙は一緒に家を出た。凪沙の小学校は、俺の高校への通り道にあるから、遠回りになるなんてことはない。
当然のことだが、凪沙はランドセルを背負っている。赤色のランドセルだ。その姿を見ていると、やっぱり凪沙も小学生なんだなって実感する。いつもはちょっと大人びていて、中学生くらいに見えるからな。そこら辺のアホ中学生よりは精神年齢高いんじゃないか?
小学校について、手を振って凪沙を見送った。学校の先生には連絡入れてあるし、そんなに怒られないだろ。怒られるべきは俺なんだし。
俺が学校に到着した時、すでに一時間目の授業が始まっていた。クラスの中でも目立たず学校生活を送ろうとしていた俺としては、初日からいきなり遅刻という悪い目立ち方をしてしまったのであまりいい気分はしない。
席に座ったら、前の席に座っている彦摩呂に話しかけられた。
「初日からいきなり遅刻とは。もしかして、秋人君って不良?」
「んなわけあるか。単なる寝坊だよ」
彦摩呂と軽く会話をかわしていると、机の上に折りたたまれた紙が飛んできた。open!と書いてある。飛んできた方向を見ると、右前方にニヤニヤ笑っている総司がいた。なるほど、あいつからか。
総司とは、まだ昨日の30分だけの付き合いだが、あいつは分かりやすい性格をしてる。どうせ、俺への嫌味でも書いてあるのだろう。初めて話しかけてきた時も、俺たちのことを陰キャラ扱いしやがった。本当の事だから言い返せなかったが。だが総司よ。俺は嫌味程度で腹を立てるような人間ではない。お前がどんな嫌味をこの紙に書いていようが、後で俺がそれを上回る嫌味を貴様に送ってやろう。
そんなことを考えながら、紙を広げると・・・・
なにも書いてなかった。
「白紙かよ!」
紙を机に叩きつけ、盛大に声を出してツッコんだ俺は、当然クラス中の注目を浴びてしまった。とりあえず「す、すいません」と言っておいた。
最悪だ。本当に最悪だ。初日から遅刻。さらには授業中に急にツッコみをいれる。絶対に変な奴って思われた。
終わった。俺の高校生活。
ふと、再び総司の方をみると、腹を押さえて机に顔面こすり付けて必死に笑いをこらえていた。・・・・・総司、後でぜってーぶっ殺す!
初日の授業は全部先生と俺たち生徒の自己紹介みたいなものだった。授業らしい授業は一向に始まらない。
1~3限目の休み時間はというと・・・
「総司いいい!貴様ああああ!」
「ご、ごめんって!許して~~!」
まだ地図を把握してない校舎を追いかけっこし続けていた。たぶんこのせいで自分のクラスだけじゃなくて、他のクラスにまで悪印象を与えてしまったと思う。それに気づいたのは3限目の授業中。だから俺は総司にお灸をすえるのを諦めることにした。正直に言えば納得いかないが、自分の平穏な高校生活を守るためだ。しょうがない。
3限目の休み時間。総司は授業が終わった瞬間に席を立って逃げようとしたが、俺が追いかけてこないことに疑問も持ったらしく、俺のところに来た。
「どうした秋人。もう追ってこないのか?」
「なんだよ追ってほしいのか?これ以上騒ぎを起こすと、俺の平穏な高校生活が脅かされると判断した。それだけだ」
総司は納得したようだが、その顔には「なんだ、つまんねーの」と書いてあるかのようだ。コイツさっきのやり取り楽しんでたのか。・・・・・もしかして、かまってほしいだけだったり?
喧嘩したわけではないが、仲直りの印だ!とか言ってトイレに連行された。言っておくが、カツアゲされるわけではない。単なる連れション。
昼になれば、購買組と弁当組で行動が分かれる。俺は弁当組に属する予定だったのだが、今日は寝坊したため弁当を作ってない。朝飯も食べてないからかなり腹が減ってる。
弁当組は、すでに出来上がった仲良しグループで机を合わせて食べている。
購買組は、そのまま購買へ直行。
「秋人、ヒーロー、購買行こうぜ」
またお前か、総司。俺たち陰キャラにかかわるとは、物好きな奴だ。そのせいで俺たちが女子から怖い視線を受けているということに気づいているのか。
だが俺はさっきも言ったように、まだこの学校の構図を把握してない。購買の場所が分からない以上、総司についていくしかないだろう。
「ごめんね、僕は弁当なんだ」
と言うことで、俺と総司だけで購買へ直行。
ついたところは、購買と言うよりは食堂だった。ラーメンとか定食が食券で売ってる。ここで食べている弁当組もいるようだ。
「おいイケメン、違う制服の生徒がいるがどういうことだ?」
「イケメン言うな。お前知らないのか?この私立学校は中等部高等部と別れてて、あれは中等部の生徒だよ」
そういえば、パンフレットにはそう書かれてたような気がする。まあどうでもいいけど。
「お前は何にするんだ?」
「俺は購買でパンでいいよ。ヒーローが一人寂しく弁当食ってるだろうし」
「じゃあ、俺もそれでいっかな~」
妥当なところで、メロンパンとコーヒー牛乳を買って教室に戻った。すると、やっぱり彦摩呂が一人寂しく弁当を食べていた。
「ヒーロー、机ちょっと借りるぞ」
俺は彦摩呂の前の席の椅子に座って、彦摩呂と机を半々に使った。それに続いて総司も
「俺も俺も」
「たわけ。3人で一つの机は狭いだろうが」
ということで、彦摩呂の前の席の机を彦摩呂の机と合わせて使うことになった。ここら辺の説明めんどくさいな。
「・・・・・・・」
「どうした、ヒーロー」
俺がゆっくりとメロンパンを咀嚼していると、彦摩呂が俺の方を見ていることに気付いた。総司も彦摩呂の視線に気づいてこっちを見てきた。んだよ、俺の顔に何かついてんのかよ。
「秋人君って、友達思いな人なんだね」
・・・・は?またまた、こいつは何を言い出すのやら。総司も腕を組んでうんうんと頷いてるし。こいつらは人間観察力が低いようだな。だが、一応そう思った理由を聞いておこう。
「だって「天道総司はいるか!」・・・」
彦摩呂の説明を聞こうと思ったところで、なんか知らん男子生徒が教室に入ってきた。ネクタイの色を見る限り、3年生だな。俺を含めて教室にいる全員がその先輩の方を見ている。
総司は席を立って先輩の方へ向かった。ハッキリ言っていい予感は皆無だな。悪い予感しかねぇ。
「お前、俺の妹の告白を断ったな」
なんだ、ただのシスコンか。まぁ今の言葉で大体のことは予想できたし、俺は向こうのやり取りを無視して再びメロンパンをかじり始めた。
しばらくすると、総司がこっちに戻ってきた。先輩に絡まれたというのに、その顔はいつもと全く変わらない、ムカつくほどさわやかなイケメンだ。とりあえず心の中で舌打ちを送っておく。
「あの先輩とバスケの試合をすることになった」
「唐突だな。バスケで負けたら、あのシスコン兄の妹と付き合うか土下座か?」
「付き合うの方だな」
「じゃあ付き合って来い」
「5ゴール先取だ。協力してくれ。今度何か奢るからさ」
「奢る」という言葉に釣られました。
もう3人は、彦摩呂とモブABに決定した。
体育館へ向かう途中でいくつか総司に質問した。
告白は今日の朝受けて、理由が一目ぼれ。断った理由は一目ぼれだから、というのと、見た目があれだから。
試合の拒否権はあったけど、断ると後々面倒なことになるから受けたらしい。
運動神経には自信があり、俺一人でも勝てるんじゃね?とのこと。
そして、体育館へ到着した俺が見た者は、たくさんのギャラリーと戦隊ヒーロー風に並ぶ先輩5人。さっきのシスコン兄の隣に立ってる不細工な女。なるほど。あの女に告白されたら、そりゃ断るわな。
試合が始まる前に、もう一度総司とシスコン兄が会話を交わしていた。俺たち巻き込まれ組は4人で愚痴ってる。
試合開始直前に追加情報。シスコン兄を筆頭にしたあの戦隊5人はバスケ部。しかもシスコン兄はバスケ部キャプテン。ハンデでボールはこっちから。その情報をきいて、モブABはテンションダウン。彦摩呂は「僕も頑張るよ」。総司は「なんとかなるだろ」。俺は「負けたって俺には関係ないし?」。やる気を出してるのは2人だけだ。勝てるとは思えない、というか別に勝つ気はない。だからと言って負ける気もない。
総司とモブABはそれらしいところに配置。相手5人はセンターラインより向こうに全員いる。
試合は、反対側のラインからスタート。彦摩呂からのパスで試合開始だ。
「ヒーロー。こっちパス」
とりあえず、俺は彦摩呂からパスをもらった。俺の今いる位置はセンターラインよりこっち側だ。
俺は足を大きく開き、ボールの横を両手で持って下からのロングシュートを試みた。リリースと同時に前へ大きくジャンプ。ボールは大きな弧を描いてゴールへ一直線。体育館にいる全員が、そのボールを目で追い、ゴールに入る瞬間まで目を離さなかった。パスッという気の抜けるような音と共にゴールをくぐり抜け、バンッという音と共に地面に落ち、その音はボールが跳ねるたびに小さくなっていった。
周りが静寂に包まれる中、俺だけが声を発した。
「ワンゴーール」
「白紙かよ!」って突っ込み、なんも面白くありませんね。なんで書いたんだろ?