第3話 ピザの残り
7月22日。第2話の部屋の構造を変更しました。
・・・・・眠い・・・・・。現在は朝7時。窓から差し込んだ朝日がベットの隣の床を明るく照らしている。
俺は寝ぼけた意識を覚ますために洗面所に向かうのだが・・・・・
(・・・・・洗面所どこだっけ・・・・)
だって昨日引っ越してきたばっかだし。しょうがないじゃん。
自分の部屋の前でぼおっとしてると、隣の部屋のドアが開いて凪沙が出てきた。俺と同じく寝ぼけた顔で目をこすっている。
「洗面所ってどこだっけ~」
あくびまじりの声で聞いてみると、凪沙は「こっち」と言って歩き始めた。その後をついていったらちゃんと洗面所に到着した。・・・・・・凪沙は記憶力がいいのかな?・・・・・
その後は二人で昨日かっておいた朝食を食べた。次に歯を磨くべく再び洗面所に向かうのだが・・・
「・・・・・歯ブラシがありません」
凪沙がそう言った。
「前の家で使ってたのは?」
と聞き返すと凪沙は首を横に振った。そういえば、俺の歯ブラシもないんだっけか・・・・・・・我が家にはないものが多すぎる。ということで今日は生活必需品を買いに行くことにしよう。歯磨きは仕方ないからこれでもかというくらいに水ですすぐだけになった。・・・・・・口の中が気持ち悪い・・・・・
まずは我が家に無いものを探すことになった。昨日に続き、2度目の探索だ。その結果、結構いろんなものがなかった。凪沙用の皿、コップの数、歯ブラシ、洗剤、その他もろもろ。とにかくないものが多すぎた。こんなんじゃ何もできねぇよ。・・・・だって引っ越してきたばっかだし、大まかな家具しか買わなかったんだもん・・・・
なんにせよ、これはもはや緊急事態といっても過言ではないだろう。幸いな事に、俺も凪沙も自転車は持ってたので店まではそう時間をかけずに到着することができた。といっても、また凪沙の案内だけど・・・
まずは薬局だな。ここで洗剤とか歯ブラシとかその他生理用品とかを購入。買い忘れはないか確かめていると・・・・
「これ」
・・・・・・・・。凪沙、お前気が利くな。
次はホームセンター。と、いきたいとこだけど残念ながらすでにバックがたくさん。これ以上増えたら自転車で運ぶのはちょっときついかなってくらいの量を薬局で購入したから、いったんマンションに帰ることに。家に帰ったついでに歯磨きも忘れない。実はこれのために帰ってきた・・・・
気を取り直してホームセンターへ直行。皿とコップと・・・・・いや、これだけか。俺の分はすでにあるし、買うのは凪沙の分だけだからな。
さて、これで大抵のものは買い終わったわけだが、まだ足りないものがある。もう一度買い物に行きたいんだけど・・・・・・・・凪沙がどう見てもお疲れの様子でダイニングでテーブルに突っ伏してる。
「凪沙、昼飯食うか?」
もし寝ていたら悪いので小さな声で聞いてきた。すると凪沙は突っ伏した状態のまま「食べる」と小さく答えた。買い物で結構時間使ったから今はもう1時になろうとしている時間帯だ。まぁ腹へってるからって食べ過ぎても夕飯が食えなくなるし、インスタントラーメンを二人で分けるかな。
ラーメンは薬局で買っといた豚骨味だ。やっぱラーメンは豚骨味だと思うだよね。もちろん味噌とか醤油が嫌いなわけじゃないよ。なんというかさ、豚骨にはだな・・・・・・・な~んて深い意味があるわけじゃないんだけどね、とにかく豚骨が好きなわけよ。なんとなく好きってやつだよ。
そんなこんなで完成した豚骨ラーメン。二つの器に分けて、テーブルにコトって音を立てながらおくと凪沙が顔を上げた。そのまま箸を目の前に置くと眠たそうな顔をしながらラーメンを食べ始めた。・・・・・・今寝ると夜寝れなくなるぞ・・・・・・
昼食を取った後、結局凪沙は寝てしまった。一方で俺はというと、洗濯物を干しております。洗剤がなくて朝洗濯機を回せなかったんだよね。でもまあ、今日はいい天気だしすぐ乾くだろ。
その後、凪沙は1時間くらいで起きた。だか、基本的に俺も凪沙も互いの行動には不干渉だ。それぞれが自由に行動して時刻は夕飯時になっていた。夕飯どうしよう。またコンビニってのも芸がないしなぁ・・・・ピザでも頼むか・・・・
昨日と同じく、テレビに映ってる芸能人の声だけが聞こえる無言の食卓でした。
で、今俺は風呂に浸かってるわけなんだけど・・・・凪沙が伯父さんに引き取られたわけとか、前の家族の事とか、ちょっと入り込んだ事聞いてもいいのかな?心の傷を広げる事になるかもしれない。でも、いろいろと確かめておきたいこともある。
リビングには凪沙がソファーの上で膝を抱えてテレビを見ている。俺はその隣に自然に座ったわけだが、あることに気づく。
「ちゃんと髪の毛をふけ」
俺は凪沙の肩にかかっていたタオルでこの子の髪をふきはじめた。はっきり言って嫌がられると思ってたけど、凪沙はそんな素振りは見せなかった。
でも結局、その後はまた無言の時間が続いてしまった・・・・・・そこで俺は意を決して聞いてみる事にした。
「凪沙、いろいろ聞いていいか?」
凪沙の方を向かずにテレビを見たままの俺に対して、凪沙は頭に?を浮かべた様な顔をこちらに向けてきた。俺は質問を続ける。
「両親の葬式にはちゃんと出たか?」
これは疑問と言うより心配だが、もしかしたら俺と同じで捨てられた可能性だってある。でも凪沙は俺の質問に頷いた。とりあえずは一つ安心。
「なんで伯父さんに引き取られたんだ?もっといい人いなかったのか?」
「お父さんとお母さんのお葬式の後で大人の人たちと一緒に相談したんです。その時に、伯父さんが一番お金持ちたがらって」
凪沙の声には元気が無かった。やっぱ両親の話はまずかったかな。でも、なるほどだ。金さえあれば生きていけるし、皆この子を養うにはちょっときつかったんだろう。もちろん、凪沙の両親が残した遺産も含めてだ。その点、伯父さんは金持ちだから金に困ることはない。それに、凪沙の面倒を俺にみさせれば伯父さんは何もしなくてすむ。そう考えるのが妥当かな。
「・・・・あの・・・・私も、質問していいですか?」
俺が考えをまとめていると、不意に凪沙がそう言った。断る理由もないし承諾した。
「桜井さんと伯父さんの苗字って違いますよね?なんでですか?」
「・・・・・・・・」
凪沙の質問に俺は黙り込んでしまった。やっぱあまりいい思い出じゃないし。でも似たような質問を俺も凪沙にしたんだよな・・・・うわ〜、ちょっとどころじゃなく無神経だった。反省しないとだな。
「あの、嫌だったらいいです。すいませんでした」
「いや、話すよ。お前には知っておいてほしい」
凪沙と俺は同じ境遇にあるんだ。それに、聞きっぱなしってのもダメだろう。天井を見上げて、あの頃を思い出しながら話し始めた。
「俺もさ、両親がいないんだよ。お前と同じで、12歳の時に家族みんな死んじまったし。父さんと母さんと俺と弟の4人家族。幸せな家庭だったよ。苗字を変えてないのは、それが俺に残された家族との唯一の繋がりだから。だからさ、お前の気持ち結構わかるんだよ」
俺は本当は捨てられたんじゃないか、ということは伏せといた。まぁこれは確証があるわけじゃない俺の勝手な思い込みだし。今まで確かめるようなこともしてないし。
俺は自分のことを話しながら思った。俺は捨てられたってのに、家族のことが憎いはずなのに、あの時の幸せな家庭を俺は忘れることができない。だから俺は家族との唯一の繋がりを保とうとしているんだろう。それともう一つ。俺の家族はまだ生きてるかもしれない。だから和解という手も残されている。でも凪沙はどうだ?俺は両親が死ぬよりも、両親に捨てられる方が残酷だと思っていた。でもこの子は、もう一生両親に会うことができないんだ。もしかしたら、俺よりも残酷なんじゃないか?
「凪沙だって伯父さんと苗字が違うだろ?俺と同じ理由なんじゃないか?」
「・・・・桜井さんも・・・・私と同じだったんですね」
「そう、同じなんだ。でも凪沙はすごいよ。両親が亡くなったってのに、あまり落ち込んでる感じがしない。俺なんて数日間は放心状態・・・・えっと、何も考えられない状態だったんだぜ?・・・・・・・凪沙、もう一度言うが、俺はお前の気持ちがわかる。家族を亡くした辛さ、悲しみ、苦しさ。全部わかる。だからさ、強がんなよ。お前はまだ小学生なんだ。泣きたいときは泣け。誰もお前のことを笑わないし、迷惑だとも思わない。だからさ、もっと自分に正直に生きてみろ。凪沙のお父さんとお母さんも、それを望んでるはずだ」
凪沙は泣き始めた。大きな声を出して、いままで溜め込んでいた苦しみを全部吐き出すかの如く。俺は凪沙を両手で優しく包み込んだ。その後数分間、俺の腕の中で歳相応の子どもらしく凪沙は泣き続けた。
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リビングのソファーに座っている俺の膝を枕にして、凪沙はぐっすりと眠っている。小学生らしい、落ち着いた寝顔だ。凪沙の髪をそっとなでる。
俺は昨日の夜のことを思い出していた。凪沙の部屋の前を通りかかった時に聞こえた声を。あれは泣き声だった。時折、お母さん、お父さん、と呟く声も聞こえた。人前では決して泣かず、迷惑をかけまいと必死に涙をこらえて、自分の心を殺してきたんだ。凪沙はまだ小学生だぞ。そんなことをする必要はないし、そのまま続けてれば凪沙の心は確実に崩壊する。それは絶対にダメだ。俺と同じ苦しみを味わっているからこそ、この子を助けてあげたい。凪沙にはこの先ずっと元気に生きてほしい。
亡くなった両親の代わりに、俺が保護者になってやらないとだな。
それにしても、昼寝したくせにほんとにぐっすり寝てるな。まぁ今まで自分の中にいろんな感情を溜め込んでたんだ。相当疲れが溜まってただろう。今日くらいぐっすり寝るといい。
ぐっすり眠っている凪沙を抱きかかえて、凪沙の部屋まで連れて行く。そのままベットに寝かして毛布を掛ける。
「お休み、凪沙」
・・・・・・・・俺もなんか疲れたな。寝るとしよう。
作者の文才では泣くときの声とかがうまく表現できないので、ちょっとどころじゃなく急に泣き始めてしまいましたが、そこらへんは皆さんの脳内でうまく変換してください。
感想とか待ってます。