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00.前世ということは

 『転生』―― そんなものを信じたことはなかった。たとえ、魔法が在る世でも、証明などされているはずもなかった。最初の自分も、『転生』や『前世』などというものは、空想の産物であり、ただの夢追い人の世迷い事のようなものだと嘲っていた。


 そのときの自分……リュシー・ライアスは、わがままな子どもだった。


 自分で言うのもなんだが、見目が良く、才能にあふれ、良い家柄であったため、わがままができるように育てられていた。だからわがままな子どものまま、大人になってしまった。


 女の身であっても、自分なら何でもできる、と。自分の耳に入ってくる言葉は甘くなければならなくて、自分に甘くない言葉は全て耳から遠ざけ、排除した。

 自分に甘い世界が当然であり、そうでない世界など、決して許されないとすら考えていた。


 そんな自分であったから、友人と呼べる人なんているわけもなく、傍に居るのは取り巻きだけだった。

 大切なものなんて何もなくて、ただ大きすぎるプライドと、身勝手な誇りに左右され、生きていた。


 人を見下す事によって感じる悦楽と、侮蔑、憎しみ、屈辱……生きているときに感じたほとんどの感情は、ひどく歪んでいるように、今となっては思う。そして穴に入りたいほどに恥ずかしい思考だとも思う。どこで精神年齢の成長が止まってしまったのだろうか。


 そして、リュシー・ライアスの享年は23歳。

 ただ一人、愛した男によって、その生涯を終えた。



 わがままな子どもは、わがままなまま。




 次に起きたときは、思うように動かない幼児が自分の体になっていた。そして、自分の性別が男である事に戸惑った。

 自分の当然が当然ではない、自分の理が通じない世界で生まれた。

 本当にこれが『転生』というものなのかはわからなかったが、一番自分にしっくり来たのが『転生』という表現であったために、『転生』『前世』と言う表現を受け入れる事となった。



 前世の思考を引き継いだ自我を持ったのは、恐らく五歳頃のはずだ。それまでの自分がどう思って今まで生きてきたのか、全く解らない。

 母に聞くには、失礼にも五歳頃から急に可愛いげが無くなったと言っていたので、それまでは子どもらしい子どもだったのだろう。


 最初の人生ではあった、魔法や身分階級なんてない、『日本』という島国。それが二度目の自分の世界だった。


 自我を持ってからは毎日が苦痛だった。母親しかいない片親で、母の仕事の関係上、幼稚園ではなく保育園に通っていた。

 常識、文化、それらの違い一つ一つが世界の違いを表していて、何もかもが不快だった。そして、分け隔てのない職員の対応、子ども扱い、どれをとっても不満で、高すぎるプライドを持つ自分には耐え難い屈辱だった。


 だが、自分が特別となれるほどの力も、能力も家柄も、当時五歳の自分にあるわけもなく、毎日の生活を受け入れるしかなかった。



 見事にそれからはケンカばかりだった。同い年では相手にならず、年長組とケンカし、やはり相手にならなかった。

 ここで大人げがないと言ってはいけない。当時は年齢ひとつでかなり発育に差があったのだ。……精神的には大人げがないどころの話ではないが。


 年が上のやつらを、しかも多人数を一人で倒した時に感じることができる優越感と侮蔑感。それでやっと自分を保つことが出来たのだ。精神年齢二十台越え。いっそ社会の害になりそうなほどの思考回路だ。



 自分の歪んだ考えが変わるきっかけは、ただの、どこにでもいそうな幼児だった。最初に話したのはただの偶然で、ただの気まぐれだった。

 気がつけば前世で近くに居たような取り巻きとは違う形でずっと傍に居て、自分にとって、初めて自覚した大切なものになった。


 それからは、どこにでもいそうな幼児……喜一と同じ道をたどる事を選び、世界を受け入れて、目が覚めるような思いを沢山した。

 親からの愛情も、他人からの愛情も、そんな、それまで知らなかったものばかりが世界にあふれていた。


 ここで、止まっていた精神年齢の成長がやっと進んだのだと思う。前世の事を思い出すと……ちょっと恥ずかしくて死ねそうな思いになるようになった。前世が見事な黒歴史と化した。



 負の感情よりも、正の感情がはるかに多く感じられるようになった世界が終わったのは、19歳大学生のの夏休み前、通りがかりで銀行強盗に刺された。後ろに居たのは喜一。


 自分のエゴだとしても、これから喜一に自分を背負わせる事になっても、生きていてほしい。


 とっさに動いた事だったが、考えても、考える間がなくとも、答えは決まっていた。



 黒く塗りつぶされていく思考の中で、後悔の無い人生だったと思う事ができた自分は、幸せすぎるな、とすら思った。謝りたい人は多くいるが、それでも、後悔はなかった。





 じゃあ、最初の人生は―― ?


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