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異世界移転者の凡常  作者: 北澤
第1話 異世界移転者の物語
5/49

下 の した

 お仕置きプレイ大好きよ! 寧ろ任せろッ、散々お前の親父たちにされたしな!!

 ――とか思ったが、ちょっと待て。一寸おちけつ!


 馬上で抱擁したオフィーリアごと自分のローブで包むのは、まぁいい。馬を走らせると風が寒いし、今のオフィーリアが獲物モードで、旅装束も軽装の極みを地で行く恰好だからだ。


 ブラウスと帽子のついたケープのパンツルックで、靴は脹脛までのブーツ。普段なら腰にはウエストポーチ、背中には質素なショルダーリュック……ただし今は別の馬に括り付けられているが。装飾品らしき物と言えば、髪を結いあげる組紐と魔力効果増幅の為の指輪が1つだけ。

 ゲーム時代から華美な恰好は避けてきたが、今この異世界では人目のない処に行く時は殊更気を付けている。釣り上げるのは狙った犯罪者だけでいいからだ。不用意に目立って、優柔不断なだけの一般人を暗黒面に堕としたくはない。誰にでも魔が差すことはあるが、俺は、それを好んで谷底に蹴り落すような趣味はない。


 ――趣味はないが、この坊ちゃんなら谷底どころか今すぐ馬から蹴り落としたい。


 今宵はお仕置きプレイでレッツウェルカモンっ! とか思ったが、まさか今からだとは思わなかった。

 ローブで隠れているのをいいことに、現在よりによって馬上でプレイ開始ですよ。抜かったわ。まさかの乗馬プレイ。こんなシチュエーション見たこと無いよ!? どこのエロゲーだよ? ちょっと俺に監修させろよ、安全性の意味で!

 そしてポジショニング的には、距離を取ってはいるが部下達が坊ちゃんを取り囲みながら街へと帰還している、いわゆるひとつの嬉し恥ずかし羞恥プレイ、でありますよ。難易度高ぇな、馬術的な意味で!


 最初は、如何にオフィーリアを探し出したかを。次に、どれだけオフィーリアに会いたかったかを。さらに、会えない間どれほどオフィーリアを想っていたとか、オフィーリアとの思い出を大切にしていたかとか、オフィーリアのことを考えたとかとかとか。もうリア充あっちいって死ね! 的な事を延々語られた。

 正直俺はネカマでロールプレイヤーの変態であって、男との恋愛なぞ興味がない。むしろ御免だ。だから語られるお前の愛のメモリーなんぞ馬耳東風なんだよ! 馬の上だけにな、HAHAHAHAHA!

 とにかく野郎とイチャイチャする気はねぇ! エロ。エロエロだけを寄越しやがれ! ――と言う俺の魂の叫びを聞き届けたのか、それは始まった。


 最初からオフィーリアの耳を思惑があってはみはみしていたのは理解してたし、耳に息吹き込んでエロ~く囁いたり、首筋に口付たり、話しながらなんとなーく腰やらお腹やらを撫でてるのは気付いてました――あれ結構色々されてね?――ましたが、しかし。


 ゆっくりと体を撫でていた奴の指先がブラウスの合わせ目を掻き分けて入り込んできた。動揺するオフィーリアの耳の裏を舐め、そして嘲った。

 ――って、ちょ! 手綱は!? スプラッタ的な意味では、余興や遊びで命や体を張ったりできるもんか! のんびりとしたスピードだけど、うっかり落ちて首の骨折ったら人生オワタ式だっつーの!

  焦って顔を見ると例によってきらきらしい笑顔で微笑まれた。ただし、目が完全に獲物を嬲る補食者の眼差しだったが……。


「どうしました?」


 先生、大変! 手綱はどこなの!? 操馬してない!

 必至なオフィーリアにやはり笑って答える。


「大丈夫、ちゃんと左手に手綱を持っていますから」


 なるほど、確かに今は太股の付け根の内側に手綱を押しつけつつ、撫で上げてる感触がします――じゃなくて、色んな意味で馴れてんなコイツ。プロか? 乗馬プレイの玄人なのか!?


「心配なら、貴女も一緒に手綱を握ってください」


 鞍を掴んでいたオフィーリアの手に手綱を握らせ、代わりにその両手首を纏めて捕える。


「――あとは、安心して身体を委ねてくださいね」


 その体、多分俺が思ってるのと文字違うよね。異世界語が日本語変換されてるけどニュアンスがエロい方の肢体だよね? 安心できるかこのボケステッ!


「ああ、あまり身動ぎするとローブが肌蹴ますから。気を付けて」


 わざわざ忠告すると、挿し込んでいた指で1つずつゆっくりとブラウスのボタンを外した。


 ――そのあとはもう無茶苦茶だった。

 もともとオフィーリアの体は、ほんのつい先程まで盗賊たち総出で苛まれていた。ゲーム的な体力値が回復しても、限界まで過敏になった触覚器官が完全に落ち着いたわけではない。"ストックされてもステータスは保存されたままの法則"である。それをこの玄人は、知らないとだろうとはいえ、自分の部下に囲ませて羞恥プレイ上乗せで追い詰めてきた。

 そうして奴は、俯いて恥かしさに首筋まで赤く染めるオフィーリアを嗤い、唇を噛み締め堪えるさまに囁いて挑発した。


 ちょっと待て。ほんと待て! なんなんだこのプロフェッショナルは。はい負けた。はい、俺今負けましたッ!! ……だからちょっと待て!

 抵抗することも制止させることも、もうどうすることも出来ずにただ耐えるオフィーリアを、奴は思う存分ローブの下で弄り倒した。


 結局帰還中ずっとオフィーリアを堪能されて、ワープゲートを経由しつつ街に着いた2時間後には、既に歩く体力どころか馬から降りるだけの気力すら残ってなかった。


 結論。坊ちゃん舐めてました。飽きずに延々とよくやるよ。若ぇな、畜生! そして俺は耳年増的な単なる初心者でした! やっぱ実地は想像と違ぇ、ハードすぐる。俺この域まではまだ到達できんわ。

 え? ヌルい? いやだってさ生殺しだぜ。寸止め2時間コース。俺に死ねと? 正直アホかとバナナかと。むしろイイから馬から降りて、今すぐお前のバナナくれよと! そんな感じですよ、マジで……。

 流石に懲りた。昨日も徹夜で頑張ったし、当分お腹いっぱい。今日はもう寝ようよ。俺、もう休んでもいいよね……?


 馬を降ろされ横抱きにかかえられる。口も利けず力の入らない身を預けたオフィーリアを抱えて、自室のベッドへと運ぶ。疲労と自身の熱で潤んだ瞳を向けるオフィーリに微笑むと、奴は静かに宣告した。


「さて、逃げたお仕置きを始めましょうか」



 ――――ですよねぇーッツ!!





 そして俺は死んだ。スイーツ(笑)





 いわゆる感覚の頂点グラフが存在するなら、男のそれは急速に駆け上がった天井から一気に落下し、地を這いながら終わる。俗称賢者モードへの移行だ。一方女性はと言うと、頂点のち多少は下降するが、そのまましばし高度を維持して、あとは緩やかに落ちるのだそうだ。その上、その頂点は男のそれより遙か高みに在るとされる。

 また同姓愛者の女性友人曰く、体力が尽きなければグラフ線を一定以下に下降させることなく、延々と続けることが可能なんだそうだ。


 けしからん! なんて羨ましい!

 当時その話を聞かせられた俺は――ようはノロケとテクニック自慢だった訳だが――俺は血の涙が出そうになるほど嫉妬した。男がクソ程面倒臭い手順を踏んでようやく束の間の到達を許される領域に、こいつと来たらずっと居続けられるなんて……!

 泣いた。男泣きした。そんなかつて世界の思い出がある。


 だがしかし、異世界に来た今の俺は希代の美女オフィーリアだ。


 本来なら決して訪れることの出来ない、前人未踏の領域に訪れることが出来るのだ。これに挑戦せずに何が異世界だ、ナニが男だ!! HENTAIの神様見ていてください。俺は未知の領域に今、足を踏み入れます……!


 そうして俺は願いを叶え、より更なる高みを目指し、そして――後悔していた。



 "体力が続けば"。と言う注釈、完全に忘れてたわ……。


 この場合の体力値は、ゲージで表されるものではない。ステータスとして数値に表れず、しかし同じように存在しているもの。人間として当たり前に在るもの。

 走り続けて体力が尽きたら回復アイテムを使用すればいい。けれどいつかは歩くことすらできなくなる。その時必要なのは、睡眠と休息。ただ人として当たり前の休みを取るしかないのだ。

 つまり未だに、"ストックされてもステータスは保存されたままの法則"にオフィーリアは苛まれていた。



 ――お前普段の王子様然とした仮面どこやった!?

 変貌激しい坊ちゃんに、オフィーリアはあの後2日ほど完全に寝台に縫い止められた。

 若さってすげぇわ。から、アレ? こいつの体力値ってどうなってんの?――てか、ステータスNPCとしておかしくない、ねぇおかしくない!? もうお前のこと眉タンヒーローって呼んでいい? 少女系ヒーロー絶倫パねぇッ! つか、流石はあの伯爵の息子だけのことはありますなッ!!――まで、俺の思考が変化した。

 正直、運営が18禁的な隠しスキルのパッチを隠密に導入したかと思ったほどだ。VRゲームで一番売れるジャンル、エロだし。


 そして2日経って、ようやく日常に戻ったオフィーリアを待っていたのは、例の伯爵以下略、変態トリオだった。

 朝は医者が、その後から昼過ぎまでは執事が、夕方は伯爵が。以前の通りの過密スケジュールでオフィーリアを"教育"すると、夜には坊ちゃんが待っていた。

 我慢して我慢して、1週間経って、そして俺はキレた。

 もうね、無理! 無理無理無理ッ! こちとら各種多重デバフくらったまま回復魔法かけられて、それでもクエストボスとの戦闘強制されてる状態だっつーの!! マジあり得ない。効率悪すぎんぞ!


 オフィーリアは坊ちゃんに泣きついて現状の改善を訴えた。変態トリオには何を言っても無駄だったのだ。あとは坊ちゃんをどうにかするしかない。とうとう前回とは真逆の頼み――お前、たまには娼館行ってこいや! と、大変不本意ながら懇願したのだった……。



「オフィーリア。もう私は貴女しか見ないと言ったでしょう?」


 だから駄目です。と、困った顔で、それでもオフィーリアを抱き寄せ撫でながら言った。

 そう言う問題じゃねぇ! もう体力持たないんだって、辛いんだって。気持ちはイイけどな! せめてお前だけなら何とかなるけど、毎日4人は無理! だってお前の親父どもが――……。

 言いかけたオフィーリアの唇にそっと指を当てると、坊ちゃんは微笑んだ。


「ああ、そうそう。日中は淑女の為の訓練を受けているのでしたね。では、それを1日置きに午後だけの日を貰えるよう、父に伝えましょう」



 ――ああやはり、こいつもこちら側か。



 頭の奥にあった疑惑が解消される。

 親子だけあって同類か。流石だ。そんで何をされているかも了承済みだと。道理であれだけ手を出しながら最後までは至らないと思ったが、成る程ね。坊ちゃんがそれを許さなかったのか、あるいは――……。


 オフィーリアが自分から堕ちるのを待っていたか。


 笑い宥める目の奥にじっとオフィーリアを観察する冷えた色が見える。しかし、それに気付かないかのようにオフィーリアもただはにかんで、そして礼を述べた。





 無言で机に伏して眠る男たちに背を向ける。

 扉を開けると大部屋に作った食堂からの喧噪が聞こえた。今日も客が大入りだ。異世界用にアレンジしただけあって、かつての世界の料理はこちらでも好評らしい。

 個室の扉を閉めて、ロックする。念のためだ。

 2階への階段を登る。上へ行くための階段からはギルメンと、あちらの世界からの友人達、つまりプレイヤーしか入ることはできない。そもそも入室権限がないので、それ以外の人間は階段すら見ることが出来ないのだ。

 2階の扉を開けると丁度ギルマスが席を立とうとしていた。


「やぁマドモワゼルオー、久しぶり。元気そうで何よりだ」

「ああ、無事に生きてるよ」


 思わず苦笑して答える。

 2階は宴会用の大部屋だけだ。中央に丸い大きなテーブルが3つある。部屋の隅にアイテムボックスが設置されていて、ゲーム時代ではここでログアウトして現在位置として記録された。

 広い部屋の片隅、右端のテーブルで2人だけで先に始めていたのだろう。結構な数の空き瓶がそのまま乗っていた。座り直したギルマスと同じテーブルに着いていたギルメンの狂戦士にも挨拶すると、その向かいに座る。置かれていたグラスを勝手に取り酒を注ぐ。


「首尾良く行ってる?」


 グラスに入った酒を啜りながら狂戦士が聞いてきた。もちろん俺の特殊性癖に関してのことだ。


 ギルメン達は狩りに行く時と就寝する前に、必ずメンバー全員にメッセージを送ることを義務づけられた。何かあった時対処出来るようにするためだ。

 もちろん俺も日々メッセージはギルメン全員に送っている。ただ状況を詳細に報告しているわけではないので、現状どうなっているのかはお互いに解らないのだ。まぁ、細かく報告されてもウザいだけだと思うが。

 だたし、それなりの頻度でギルマスにだけは別途連絡を入れていた。オフィーリアにはギルマスの魔法が必要だからだ。


「順調に趣味を満喫してるようだけど、どうなのかな?」

「鉄の指輪をはめたとこ。まぁ満喫はしてるな」


 無論、本当に鉄の指輪をしているわけではない。ギルマスの言葉を受けた単なる比喩だ。今でもって尚、オフィーリアは魔力増幅用の白金の指輪しか付けてはいない。


「ただ絶賛軟禁中でね、ここに来るのも護衛付きだ」

「護衛?」


 笑って聞いてきたギルマスは、護衛という部分に反応して片眉を上げる。狂戦士もいかつい顔をしかめた。


「酒が不味くなりそうな話題?」

「いや? 今は下の個室でいい夢見てる。店の場所ごと忘れてくれると便利なんだがな」

「流石にそれは難しいだろうが……仕方ないな」


 1階の奥にある個室には、夢見草というスリープ状態を誘発するアイテムが花瓶に活けた花に混じっていた。そうしてくれと、この食堂を経営するギルメンに俺がメッセージで頼んだからだ。おかげでスリープ耐性のスキルがなかった護衛2人は眠っている。

 万が一夢見草で眠らなかったら、また別のアイテムを使う手はずだった。もっとも多少エグいことになるので避けたくはあったが……。


「護衛付きって、何したのアンタ」

「愛されちゃってんのよ、俺」


 おどけて答える。いや、事実そうなのかもしれない。再び逃げられるのを恐れたのか、単に独占欲が激しいのか……。はたまたそう言うプレイなのか。

 以前一緒に冒険していた仲間に会いに行きたい。そう懇願したオフィーリアに、坊ちゃんは難色を示した。だが結局は折れて、条件付きで外出を許した。いわく、必ず護衛と一緒に行動すること、夜までには帰ってくること。


 ――貴女を愛しているから。美しい貴女が危険な目に遭わないように。


 そう散々オフィーリアに、もといオフィーリアの体に言い聞かせたのだった。

 おかげで今日も体がダルい。正直歩くのがやっとだ。


「――美しさって罪なのね」

「アホだ。アンタほんとアホだわ。この変態」

「そんな事実、改めて言われましても」


 両手を可愛らしく自分の胸に置いて、小首を傾げて答えると、吐くような仕草で狂戦士が唸る。

 ほんと失敬な。俺は自覚のある正しい変態です。

 ギルメンの前ではオフィーリアとして演技はしない。したところで中身が単なるおっさんなのを知られている――かつて開催したオフ会で面識がある――ので、非常にぞんざいな扱いを受ける。また場合によっては押しの強くないオフィーリアでは話が進まなくなるので、効率が悪過ぎるのだ。そんな訳でロールプレイを慣行するのは、狩りの最中や衆目がある場所のみだ。


 軽口を叩き合う俺と狂戦士のやり取りを、穏やかな笑みを浮かべてギルマスが見ているのに気付く。俺も2人に聞いた。


「そっちは?」

「こっちも順調かな? 最近はギルマスと一緒に狩りに行ったりもする」

「ソロの検証終わったし、また連携を一通り試したくてね」


 ギルマスはこちらにきた当初、別でログインして移転に巻き込まれた身内の面倒を見ていた。その為ギルドホームも不在がちで、こちらでの戦闘経験もあまりなかった。そのせいか、最近やたらと狩りに出かけているらしい。

 狂戦士の方も、こちらに来てから俺とは別種の特殊嗜好が開花したらしく、そちらに精を出しているらしい。残念なことに俺とはある意味真逆な趣味なので、語り合うことが出来ずにいる。ほんと残念だ。

 取り敢えず念のため、今更な注意を狂戦士に促す。


「ま、2人とも気を付けて頑張ってくれや。特に、趣味を満喫したいのなら細心の注意を払っとけよ」

「アンタ、人のこと言えないんじゃないの?」


 失礼な! 俺は目撃者ごと余さず綺麗に処理してるわ!


「あのねぇ、俺は正当防衛の言い訳が出来るの。可愛くて可哀想な被害者なの。物騒な殺人衝動なんて無いのよ?」


 狂戦士はとても人に同情を寄せられるような容姿ではない。ごつい筋肉がかろうじてチャームポイントになるかもな、マッチョマン。強面の狂戦士だ。

 狂戦士は鼻を鳴らすと、居丈高に言い放つ。


「最近は賞金首だけですぅっ! 腐るほどあるクエスト関連のNPCとか片っ端から潰してるの!」

「それなら良いんだけどね。前みたいに一般人の場合は、十分気を付けて欲しい」

「あ~……」


 すみません。もうしないんで。

 ギルマスにまで言われて決まり悪げに目を逸らすと、口の中で呟くように謝ってきた。その狂戦士の様子にギルマスと2人、視線を交わして苦笑する。

 意外にお子さまなんだよなコイツ。いい年こいてまぁ……。


「しかし、クエストNPCが居なくなるってことは、この世界のその手の犯罪も少なくなるのかな?」

「ん~……。その、面白くてですね、また増えるんですよ、NPC」

「増えるって? 補充されるってことか?」

「そ、時間かかる奴も居るけどね。また似た様な奴が同じポジションに着いて、クエストNPCとしてせっせと犯罪を犯してた」


 狂戦士の言葉を受けて、難しい顔でギルマスが考え込む。


「ステータスやレベルの変化は?」

「……体感ですが、多少上下の変化はあるみたいです。だけど戦闘の仕方が変わるような、大幅な変更はされたことないですね」

「それは是非、検証したいね」


 俺はただ酒を飲んだ。ここが"Annals of Netzach baroque"と言う名の異世界ならば、構築された世界が崩壊しないよう、多少の補正がかかるのは必然といえる。


「狙ってんの高ステータスNPCだろ? クエスト重要度のクソ高いやつ。スキル解放用に必要な」

「それが?」


 訝しげな目で俺を見る狂戦士に、俺は両腕を広げ笑って答えた。


「ようこそ"Annals of Netzach baroque"の世界へ!」


 一瞬いかつい顔が惚けて間抜け面になる。ひでぇ顔。


「あ?」

「だからココはゲームの中なんだろよ。

世界観設定と言う名の歴史と、システムではなく物理法則となった世界」

「文字通り、人の創りし世界か」


 極めて穏やかに――あるいは冷静に自分を律しているのか――柔らかい口調でギルマスが言った。酔いではなく、怒りに顔を赤らめて狂戦士が吼える。


「何でこんな世界あんだよッ!?」

「さぁ? 栓の無いこと、考えるだけ無駄さ。確かめようがない」


 苦笑しただけのギルマスとは対照的に、狂戦士は頭を抱えて唸り続ける。


「最悪だ……」


 はて? こいつ実に生き生きと楽しんでるみたいだったが、不満だったのだろうか? この異世界が。


「あれ? 楽しんでんじゃないの? 異世界と殺人を、さ」

「それはそれ。帰りたいことは帰りたい。と言うか、行き来したいの!」

「今まで通り、ゲームと現実として?」

「異世界とかつての世界を!」


 それは贅沢な悩みだなぁ。

 思わずギルマスと顔を見合わせて苦笑し合う。

 異世界移転するよりも、遙かに難しそうだ。出来るとしたら人外の範疇になるだろう。

 俺はわざとらしく十字を切ると言った。


「それはアレだ。神様にでも祈るしかないねぇ」

「――神がいるならば」


 冷静にギルマスが返す。狂戦士は今度こそ絶叫した。


「設定で! 神々が! 去った後! ってあるじゃないですかッ!!」



「じゃぁ居ないねぇ」

「そうだね」


 今にも憤死しそうな勢いで机を叩く。乗っていたグラスや酒瓶が倒れそうになり、慌ててギルマスと2人で持ち上げた。


「ほんと死ね! 全部死ねッ!!」

「パンピー殺さんといてね」

「頼むよ」


 そう言って退避させたグラスを隣のテーブルに置くと、ギルマスは席を立つ。去り際に俺に向かって微笑みながら言う。


「梟の仮面は付けないでくれよ」


 あんまりなギルマスのセリフに、俺は笑って手を振った。


「もちろん。御免だね」


 背中を向けて立ち去るギルマスを見ながら、俺はグラスの酒を飲み干す。

 ――けれど。

 あの坊ちゃんを思い出す。

 独占欲が強そうな割に、他の男の参戦を許している。それ以外の第4、第5の人間が現れわれるのもそう遠くないだろう。なにせオフィーリアは婚約者で、近々社交の場で"披露"される為に、淑女の訓練を受けているのだ。どんな社交の場なのかはお察しだが。


 俺は狂戦士の様な殺人衝動は一切無い。とは言え、オイタの跡を消すのは必須だ。ギルマスとの約束でもある。

 さて、伯爵家が、あるいは同じ趣味の他の貴族のいくつかが丸ごと消え去ったとして、この世界の補正はどう作用するのか。


 ――それはそれで、検証する時が来るのを俺はとても楽しみにしている。



「ゲームの攻略に検証は付き物だからな……」


 異世界転移の謎を終え!

 クエスト名を付けるならそんなものか。あの日、この異世界に来た時から、このクエストは始まっていた。そして4ヶ月経った今でも続いている。決して解決されることのないだろうクエスト。


 やけ酒をひたすら飲む狂戦士にかまう事なく、俺も自分のグラスに酒を注いだ。

 外から賑やかな声が聞こえる。ギルメンが来たのだろう。階段を登り段々と声が近づいて来た。あの声は特効隊の2人組こと、お祭りコンビか。


「だからぁ! アレは俺が食べたい芋餅じゃないのッ!」

「でもどうみても芋餅じゃん」

「俺が食べたいのは、外側に甘い衣が付いていて揚げてある――」


 お馴染みのやり取りが聞こえて、俺はただおかしくて笑う。昔からあの2人はあんな感じのままだ。そう言えば、オフ会でも居酒屋の芋餅に文句を付けていたっけ。


「まだ喰えてないのか? 理想の芋餅」


 扉を開けて顔を覗かせた2人が驚いたように俺を見て、そして破顔した。


 ゲームは面白い。のめり込んでは自分を飾り、あるいは曝け出し、時には真面目に、あるいは馬鹿をやる。友人が出来て、仲間が居て、恋人や結婚相手すら出来る。そしてこの世界が最高だと、この世界が全てだと。そう俺たち廃人は思い続けるのだ。

 けれど。

 夢は醒めるから反芻できるのだ、あの夢は楽しかったと。そしてゲームは、いずれ終わりが来ると解っているからこそ、離れ難いのだ。


 ――終わらない夢は、ただの現実なのだから。





 そうして、俺は楽しい異世界の為に、オフィーリアであり続ける。


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