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異世界移転者の凡常  作者: 北澤
第1話 異世界移転者の物語
4/49

下 の うえ

 盗賊たちのねぐらは廃鉱山の一角にある、狭い坑道のひとつだ。

 現実ならば迷路のように入り組んだ坑道が山を侵しているんだろうが、そこはゲームの設定らしく、斜面に6個しかない坑道の内のひとつで、中も狭い。え? これだけ? と拍子抜けするぐらいだ。この辺の配慮は初心者用のお手軽クエストだからだろう。まぁあんなクリア条件ですし、御大層なダンジョン作られたところでトライしようとする奴自体が居なくなるわな。

 

 場所自体は街――公国王都からほど遠い、ジュラ山脈の中間地点にある低い山だ。

 公国王都を中心としたフィールドを山脈が囲ってるのだが、イメージ的には視力検査の記号、あれの上に隙間が空いたものと同様に、北側に狭い抜け道が存在している。そこを抜ければ次のフィールドだ。

 ちなみに、山脈自体を真っ直ぐ抜けて次のフィールドに行くことも可能だが、時間が掛かる。その上、ログアウト時における位置情報の登録ポイントになる最寄りの村が、遥か遠い。また、初心者こと1stキャラの初期限界区域も兼ねていて、山脈の丁度中央付近でループする。抜けられると勘違いしてマップを見ずに進んでいくと、延々同じ場所を廻る羽目になるので注意しよう。初期限界区域とは言えアホ程広いので、要所を巡り旅し続けたとしても1stキャラカンストまで飽きることはない。寧ろ半分も行かずに終るのではないだろうか? 広すぎて、旅の道中で自分以外のプレイヤーとすれ違わなかった、なんて事もよくある話だ。


 公称で"フィールド"とされてしまっているので狭いイメージを受けるが、フィールド1つひとつが他の下手なオフラインRPGのマップと同等ぐらいある。今のところではMMORPGでダントツの広さだ。マジ正気じゃない。ただ現代のMMOの基本原理である、"ひとつのサーバーに全ての人間がアクセスする"ことを考えると、運営の判断もまぁ妥当なのかもしれない。誤算があるとすれば、MMORPGの人気が芳しくないことだろうか。現代の花形ジャンルはなんといってもMMOFPSだし。


 えっちらおっちら歩いて坑道を出る。後ろを振り返ると、背の低い鉱山の遥か向こうにジュラ山脈が見えた。徹夜エロエロ明けの朝日が眩しい。かくも素晴らしき不健全!

 ぼんやりした頭にも沁み入る山紫水明にしばし目を奪われるが、聞き覚えのあるような声が耳に入り我に返った。


「オフィーリア!!」


 騎士団だ。その小隊を引き連れるように、先頭には金髪の男が馬を駆っている。

 思わず踵を返すオフィーリアに、金髪の男が叫んだ。


「逃げないでください! オフィーリア! 決して貴女を逃がしたりしない!」

 

 ストーカー宣言キターッ! マジ本当に来やがったのか、あの自称恋人の坊ちゃん。まさかとは思っていたが、そこまでテンプレキャラだったとは抜かったぜ、畜生! よくまぁここまで追って来やがった。しかも見てたようにタイミング良いじゃないですか。胡散臭ぇ。


 遠目で見ても華やかな容姿が目を刺す。馬を操る男の恰好良さに思わず殺意が沸いた。直視したら確実に悪化を招くだろう。――俺のSAN値のな!

 馬から逃げ切れる距離でもなく、逃亡は素直に諦めた。無駄骨は折りたくない。できるなら今すぐ逃げ出したい。が、あのイケメソ坊ちゃんのしつこさは不本意ながら実証ずみなのだ。かったりぃーな、畜生ッ!


 イケメソは手を振って引き連れた部下に合図をすると、俺の前で黒馬から颯爽と飛び降りた。そして感動の面持ちでオフィーリアを抱きしめる。


「ああ、オフィーリア! 貴女が無事で本当に良かった!」


 オフィーリアの華奢な体をかき抱き、髪に手を差し入れて撫でる。そして額と瞼に唇を落とした。

 欧米かッ! そしてイケメンは汗かいてても全身フローラルか! 厠で芳香剤代わりに突っ立ってろや、無条件でタヒね!!

 頭の中を罵倒雑言が渦巻く。だって仕方がない、この坊ちゃんがイケメソなんだもの。目に悪そうな豪奢な容姿にげっぷが出そうになるんだもの。なにより自称婚約者のストーカーなんだもの!

 

「貴女が屋敷を飛び出したと知ってから、ずっと探していました。

冒険者とは言え、貴女は回復魔法しか使えない。貴女らしき人物が拐かされたと聞いて、本当に心配しましたよ」


 やはり、"フィリプの盗賊たち"発生イベントとして目撃されていたらしい。ほんと面倒臭ぇな。しかし今の俺は清楚なオフィーリアなので、おくびに出さず適当な言い訳をした。つまり、浚われそうになったけど、途中で親切な冒険者に助けてもらいました。坑道では野営しただけで、盗賊は冒険者が退治してくれたからもう居ないよ。やったねイケメソ仕事が減ったよ! てな感じだ。

 俺のどう考えても無理のある言い訳を頷きつつ聞いていた坊ちゃんは、話の途中にも関わらずいきなりオフィーリアの体をすくい上げ、自分の黒馬に乗せる。あああ畜生やられた。


「今、部下達がこの近辺と坑道を捜索しています。安全が確認でき次第、街に戻りましょう」


 これで隙を見て逃げることもできなくなった。この馬盗んで逃走するか? 手綱を握られてはいても、ナイフで切れば逃げれるだろうが……まぁ駄目だろう。騎士の愛馬盗んだ日には、牢屋にぶち込まれて強制奴隷ルートに突入してしまう。いや、それもちょっとやってみたいが、牢屋プレイとかもの凄くやってみたいがッ! でももう少し自由でいたいのよ、俺。だってまだまだ遊び足りないんだもの!

 結婚しない男の言い訳の如く考えながら、仕方なく馬上で辺りを観察する。


 ……この坊ちゃん仕事が嫌になるほど出来るらしい。本当にイケメソです。ありがとうございました!


 とにかく公道を使わずまきに巻いた俺を追って来れた事もそうだが、部下の采配も見事な感じだ。オフィーリアとの運命の再会シーンを繰り広げている間、部下達は周囲を警戒しながら捜索している上、森から新しい部隊が沸いて出てきた。事前配置してやがりましたか。マジ逃げる隙無ぇな。まんどくさ!


 「愛しいオフィーリア、どうか許してください。私は貴女を大切に思うばかり、貴女の気持ちを蔑ろにしていた」


 皮の手袋をはずして青鹿毛の馬に乗るオフィーリアの手をそっと取ると、イケメソ坊ちゃんは真剣な顔でそう謝罪した。

 あ? いきなり何の話よ? ああ、屋敷を飛び出した原因か。すでにどうでもいいから忘れてたわ。つうか、あそこに軟禁したのはそもそもお前だし、今現在も逃げたい俺の気持ち、完全に無視してるじゃねーかよ、クソが!


「オフィーリア、これから私は貴女だけを見ます。どうか永久とこしえに私と共に在ってください」


 1歩間違えれば猟奇的な台詞をイケメンは告げた。怖いわ! ガチで! ちょっと頭を冷やして考え直してくれまいか? あとまだまだ放蕩の旅に出たいし、坊ちゃん、お前とはもうおさらばだ!

 と言う俺の希望をごく自然に聞き流して、部下の報告を受ける。てめぇ……。


「やはり貴女の言う通り、既にここに盗賊は居ないようです。さぁ、共に帰りましょう」


 俺の希望は無視か、無視なんだな! 反省したんじゃなかったのか、この野郎……! って、ああ違った。謝ったから水に流せよ、な! ってことか。糞がッ!

 さあ、これからコイツを殴りに行こうか! と思った瞬間、オフィーリアの後ろ――馬に奴は乗ってきた。すかさず腕をまわして、オフィーリアの細い肢体を引き寄せる。腰骨をじわりと撫で上げて、耳を食みながら低い声で囁いた。


「覚悟してください。――2度と、逃げようだなんて思わないようにして差し上げましょう」



 ――つまりお仕置きプレイですね!? もちろんいいですともッ!!


 縄とか道具とかもオプション追加していいのよ? 1晩中ゆっくりお仕置きしていってね!

 天恵に目をかっ開き、胸が高鳴る。めくるめくお仕置きプレイに想いを馳せ、結局俺はただ大人しく馬に揺られることにした。

 そしてふと考える。その強引さは単に性格なのか、或いは立場的なものからくるのか、それとも。コイツほんとはどっちなんだろ……?



 坊ちゃんこと豪奢なイケメソは、ルーエン=以下略(母親姓領地名王国的役職名父親性)、という長い名前の持ち主だ。

 次期伯爵であるこいつは、実に端整な容姿の持ち主で、かつての俺なら出会い頭に親指を首元に掻き下ろし「リア充は地獄に堕ちろッ!」と叫んだくらいのルックスだ。よくぶん殴られたものだ。

 そして以前、俺の処女を――アーッ! と失礼、オフィーリアの初めてを捧げた相手でもある。実にめくるめく素晴らしい体験だった。


 こいつを選んだ理由はいくつかある。

 まず何より生理的嫌悪を感じないこと。容姿が良いこと。そして社会的評価があり、人々からの支持を受け、評判も良いこと。立場上女慣れしていて、後腐れなさそうな所。最悪、愛人にと迫られても気に入ったら受ければいいし、面倒臭いならキャラチェンジしてバックレれば良い。

 最重要ポイントであるテクニックに関しては娼館で確認した。いやぁ、お貴族様となると馴染みの高級娼婦の1人や2人居るもんですね! いい男には娼婦と言えどベタボレですか? そうですか。勝手に心を読んだとは言え俺と比べられたわ。ほんと死ね。

 いずれにせよ、思い出は美しいに越したことはない。厳選し選抜するのは当然だった。

 あれ? これ自分を高めに見せたいクソ女の理論か? わぉ。でもオフェーリアは客観的に見ても高根の花だから! こまけぇことは気にすんな! まさに自分を棚に上げろッ!

 とにかく、そうしてオフィーリアは坊ちゃんに哀願し、そして無事叶えてもらった。




 貴族とその他有象無象など、隔絶された存在だ。決して相入れない深くて広い溝がある。つまり名誉とか血筋だとか何の腹の足しにもならないやつだ。誇りに至っては光の中で輝くだけで、有り難がって降り積もらせ過ぎれば、病むだけの毒に成り得る。

 そんなお貴族様であるこの坊ちゃんと、何故婚約者などという立場になったのか、実は未だに分からない。


 無事性人の通過儀礼が済んだ後、さらに念を入れて2度ほど致した。それで、よし前哨戦は済んだ、今度は不特定多数との経験を積もう! と思った俺は娼館への身売りを試み、そしてこいつに止められた。

 立派な黒馬を駆け、端正な顔は歪み息を乱し、娼館へと売られる美女オフィーリアを助け出すその必至な姿は、物語ならば間違いなく盛り上がるだろう見せ場だ。

 だが生憎とセルフ身売りを目論み、喜んで人狩りに身を任せていた俺には迷惑なだけだった。勿論、この人浚い達もばっちり調査済みだ。身売りが無理と分かった俺は、仕方なく、お断りします。AA略ッ! という感じで撤退した。――だのに、それでも奴は追って来た。


 おぃぃぃい! てめぇ今までどんな美女でも追躡することなかっただろうがッ! 知ってるぞ、女性遍歴余さず調べたんだからな!


 ――結局、お貴族相手に無茶することができなかった俺は、捕獲――保護され、憧れの娼館の代わりにこの坊ちゃんの家に住むことになったのだった。


 家といってもそこはお貴族様だ、屋敷だ、立派な館だ。その敷地内の別棟――結婚してない男女が同じ館に住むのは外聞が悪いらしい――に、オフィーリアは保護と言う名の軟禁を受けた。



「街周辺の人浚いを組織ごと戦滅しました。もうあの男たちはいません。どうか御安心ください」


 水辺から上がったばかりの女神の如きオフィーリアの前に、王子様よろしく膝を着き、白魚の手を取って奴は告げた。


 ようやく顔を見せたと思ったら、俺に協力してくれたあの気のいいおっさん達に何してくれちゃってんの!? こいつ!

 ぶっちゃけ、当時そうオフィーリアに報告してきたこのボンボンの顔を、形が変わるまでぶん殴ったら気が晴れるかしらん? と思い詰めるほど、俺は欲求不満だった。

 それまで毎日両手のお世話になって来たというのに、軟禁されて以来、始終侍女やらメイドやらが側にいるこの屋敷で自家発電することが出来なかったのだ。やることと言ったら綺麗な絹のドレスを着て、侍女と茶ぁシバいてお上品に笑うだけ。ほんとストレス溜まるわぁ……。

 あと俺は心の底から変態だけど、1人遊びの跡を発見されたオフィーリアが、プレイ以外で後ろ指さされるのは耐え難いと思ってるからね。念のため。

 しかし照れた調子で奴が続けた言葉が、晴れない俺の境遇を180度変えた。


「それで、父に会ってもらいたいのです。色々処理も終わりましたし……貴女を父に紹介したい」


 そうして紹介され、挨拶したこいつの父親は典型的なお貴族様であり――変態だった。


 正に晴天の霹靂。どうしてこうなった?

 父親に紹介など、いよいよ抜き差しならん状態じゃないか。俺はベッドの上で抜き刺しヤらかしたいんであって、平常でもってギシギシ場を揺らしたいわけじゃねんだよ。いっそ屋敷から逃げ出そうか、いや、出来るならあの坊ちゃんを言葉で丸め込んで穏便に退出したい。しかしそれが駄目なら、少々手荒な方法を使用するしかないな。


 などと物騒な方向に思考が傾き始めた頃、件の父親に呼び出された。本館の方だ。呼び出された部屋に居たのは父親である現伯爵と、屋敷を取り仕切る寡黙な執事だけだった。

 そもそも坊ちゃんは日中お仕事で家に居ない。人浚いを戦滅するような騎士団の団長をやってる。ほんとお約束ですこと!

 その坊ちゃんが不在の間の呼び出しだ。もしや、家を出て行けと言われるのか? それなら有り難い。今直ぐにでも出ていきます、はい! 喜んで! そう思っていた俺の期待はあっさりと裏切られた。悪い方向に。


「どうやって誑かしたのかは知らんが、冒険者が息子の婚約者になるなど、家の恥だ。せめて形だけでも取り繕える様、行儀作法の訓練をしろ。解かったな」


 さっぱり解らなかった。と言うか、この伯爵、市井の人間を蛇蝎の如く嫌ってなかったか? なのに何で婚約者? 何故追い出さぬ!?


「訓練はセバスが直々に行う。反抗は許さん。黙って従え」


 言い放った伯爵の言葉に、流石の俺もあっけに取られた。もっとも今の俺はオフィーリアなので、動揺し、頼りなく体を震わせただけの儚い妖精のような風情だろう。

 いやいや、俺もう出ていきますんで。寧ろ出て行かせてください! そう言いかけた俺――オフィーリアの細い腰を、執事が叩いた。

 うぉ!? 何だビリッとした! 鞭ですか? それ乗馬鞭ですか!?

 驚くオフィーリアに、執事は無表情で告げた。


「なにをしていらっしゃるのです。言うべきことがあるでしょう?」


 お断りします。しか思いつかなかった。

 何も言わないオフィーリアを見て取って、執事はもう1度、今度は先ほどより少し下――いや、ぎりぎり尻か――を叩く。


「はい、解りました旦那様。そう答えるのです」


 動揺を脳内に吹き乱した俺ことオフィーリアに、再び鞭を浴びせる。もう完全に尻だ。お尻叩いてますね、貴方。


「どうしました。早く言いなさい」


 言うしかなかった。

 というか、この後どんな展開になるだろうかと、たじろぐオフィーリアの振りで内心大変な期待をかましていた。


「よろしい。これからは何か言われたら、直ぐにそう答えなさい」


 頷くオフィーリアにさらに鞭が飛ぶ。ぁあん! いいわぁ……。


 「返事はどうしました?」


 再び、無表情の執事が震えるオフィーリアに告げる。

 けぶる睫を涙で濡らしか細い声で返答するオフィーリアを、伯爵は粘ついた視線で観察していた。そうして訓練という名のセクハラ――調教が始まったのだった。



 オフィーリアの制作コンセプトは儚げな美女だ。触れるのを躊躇うような、たおやかな雰囲気を醸し出す女神の如き美貌、溢れんばかりの清楚さ。柔らかい言葉遣いに、控えめに周囲を立てる品のある所作。見る者から最大限の庇護欲を煽る、そんな存在。

 だがそれは、ある種の性的倒錯を持つ者から抑えきれないほどの嗜好を引き出す。


 ゲームの中は、一種閉鎖されたコミュニティだ。下手なことをすれば即日ネットに動画が上がり、晒される。公式・非公式の掲示板でズラリと並んだ要注意リスト入りし、本人の意志とは裏腹に、笑い者にされ、嫌悪され、村八分を受ける。最悪垢停止、もしくはBANが待っている。だがそうなるのだと解っていても、馬鹿な行為を辞められない人間はどこにでも居る。

 ――中の人が男と公言してなお、ロールプレイだと宣言してそれでも、オフィーリアは信奉者と、変態ホイホイとして有名だった。



 暇を持て余した貴族達は娯楽として性的技術を高めた――そうして倒錯した性行為が発達した。

 なんて歴史書に書いてあるわけではないが、まぁそんな感じだろうと勝手に妄想している。魔女狩りの拷問だって、お前よくもまぁそんなの考えましたね、って代物だ。うっかり暇に飽かせて嗜虐の情熱を突き詰めたら出来ちゃいました、そんな結果だろうと思うわけですよ。


 そして今オフィーリアは、"暇を持て余したお貴族方の遊び"を思う存分味わっている。



 最初はまともなマナーの訓練だった。ひたすら難癖を付けられ、罰という名の性的なお仕置きがあるのを除けば。

 身を飾るだけの繊細な紗のドレスの上から思う存分"教育"され、少しでも抵抗――ぶっちゃけ反応してたんです、ええ――すれば、さらに追加でじっくりたっぷりねっとりと教え込まれた。

 執事から与えられる些細な指示に余さず応答する様になった頃、オフィーリアは地下室に連れ込まれた。

 創作の深淵でしか見たことのない道具の数々が其処にあった。


 過激ってもんじゃねーぞ! 初心者なんですから! 散っ々、初くて何をされてるのか解りません。困惑してます。って演技してただろうがッ!

 内心どころかリアルに泣きそうになっていた俺に、オフィーリアに、執事は告げた。


「貴女がルーエン様に相応しいか、検査致します」


 登場したのは伯爵と第3の男。伯爵お抱えの、やっぱりドが付く変態な医者だった。

 伯爵は相も変わらず爬虫類の様な目つきで舐める様にオフィーリアを視姦し、医者は怯えるオフィーリアに簡素なベッドの上に寝るよう、冷たく命令した。

 医者が検査、という名目がある以上従わざるを得ない。こわごわと身を横たえたオフィーリアの手足を医者と執事が手早く拘束する。そして医療用だろうナイフを取り出した。


 はいっ!? つか、この世界回復魔法あるじゃん、ナイフいらないじゃん! せめて取り繕えよ! 医者ェッ!

 幸い拘束具は力で壊すことができる。地下室の入り口も破壊できるだろう。いざとなったら、ギルメンにメッセージ飛ばして助けてもらおう。そうしよう、俺! 情けねぇな、俺ッ!

 すわ、スプラッタかリョナか!? と怯える俺に、だが引き裂かれたのは服だった。――ですよねぇ……。


 そんなわけで、これはあくまで医療行為だと宣言した変態3人がかりで、思う存分まさぐられ、色んな意味で開発されていったのだった。

 何というか――ねっとりじっくり観察されるのは、たまらなく好かったです。むしろ清楚なオフィーリアのイメージが崩れないよう演技するのが大変でした。ごっつぁんです。ああ、明日も楽しみだわぁ……!



 それ以降は別棟でも、部屋の外に侍女を待機させての"朝の体調検査と言う名のアレ"とか、本邸での"マナー訓練と称したコレ"とか、坊ちゃんが帰宅するぎりぎりまでやり続ける"旦那様へのご報告と成果発表であるソレ"が行われた。もう最高!

 一応訓練と取り繕った手前もあるのか、あるいは世間的な貞淑に合わせたのか、最後の一線を越えることは無かった。

 まぁびっくり。そのボーダー越えていいのよ? っていうか越えて来いや、微妙にモノが足りないんだよっ。いろんな隙間が埋まらなくて不足してるんだよ! とっととヤルことやってくれやッ!


 その頃坊ちゃんはなんと、婚約者などと世間的な名称が着いてこの方、オフィーリアに手を出さなくなっていたのだ。

 いや、そこはしろよ。どうせ避妊魔法あるんだしさ、大手を振ってしようよ。ねぇん貴方ぁ、今夜どぉ……? つか、娼館行ってんじゃねぇよッ!! むしろ俺が金払うからしようよ! それとももうあたしに飽きたの? 釣った魚に餌はヤらないの? この浮気者ッ! ……え? 君を大事にしたい?



 ――稼働しない奉仕棒に要はねぇ。


 俺はとうとう屋敷を飛び出した。さらなる天国、めくるめく多人数プレイを目指し、オフィーリアに逞しくも熱いモノをくれるだろう無法者の生息する地へ旅立ったのだった。



 そして冒頭にもどる。


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