穏やかな日常
のんびり更新中です。
いつになったら異世界にいけるやら…
のんびりお付き合いいただければ幸いです。
「おー起きたか、おとーと」
階段から降りてくると、姉である冴島 縁がソファから仰け反ってこちらを見ていた。
「おはよ、姉さん。……髪、汚れるよ?」
縁の腰まで届く髪は、今ソファから落とされ床についてしまっている。
「んふっ、これからシャワー浴びるなら、一緒に入ろうかなぁ~」
「なっ、ダメ、それは絶対ダメだっ!」
「な~んでぇ~?」
姉は最初の体勢のまま、動いていない。動いていないが、その目。大きく深い黒の瞳を流し目にされるだけで、落ち着かなくなる!
「は、早くしないと遅刻するからっ!」
慌てて浴室へと向かう。その背後から「まだ一時間もあるじゃない…」という縁の声は聞こえないフリをした。
「ふぅ」
多少苦労しながら、汗に濡れた寝巻きを洗濯籠に放り込む。
洗面台の鏡に映った自分の顔を見てみる。
冴島 悠人17歳。
適当に切り揃えた真っ黒の髪、黒い瞳。多少童顔っぽくはあるが比較的整った容貌。全体的に引き締まった体つきをしつつも、その線は細い。
「もうちょっと、身長が欲しいなぁ…」
今、悠人の身長は165cm。男性の平均身長からすれば、やや低めである。
「早くしないと、間に合わなくなるな…」
ふと、急いでシャワーを浴びてしまう。
―――――ン
「ん?」
何か音がしたような気がして顔をあげるが、見えるのは鏡に写った自分の顔………
(気のせい、か?)
「おーい、おとーとー?」
「ダメだからな、姉弟で混浴なんて」
「………チッ」
舌打ちしやがった。
「ま、それはそのうちとして、時間だぞ~」
「え?」
浴室の時計を見てみると、時間は7時20分。
「やべっ」
※ ※ ※
「おっはようぅ~、冴島悠人君」
「はよ~、悠人」
「おはようございます。冴島さん」
高校二年に進級して、はや3ヶ月。
様々な県から、または地元の出身地から集まってきた同世代の生徒達。
クラス替えで新たな友人達は、かなりの変わり者ぞろいだった。
「おはよ。なぁ、高瀬。フルネームはそろそろいいんじゃないのか?」
その期間で、俺にできた友人はこの3人。
「そ~んなこといってもさぁ~、なじんちゃったわよ?」
独特のイントネーションで喋る女の子。高瀬唯。今時珍しいポニーテールをした熱血属性である。女性の中でも小柄であり、まぁ、そのあれだ。一部の男性にはど真ん中の体型をしている。比喩表現としては草原。
ちなみに、入学早々野球部にマネージャーとして入部。しかし、あまりのやる気のない部員達及び監督にぶち切れ、事を起こしたらしい。今では『女王』のあだ名で呼ばれ、部員たちばかりか監督をもしごきあげている小柄な姿は、我が校の名物となりつつある。
「あきらめれ、あきらめれ。お前さん、直す気がないのは目に見えているだろう?それよりも、ほら今日は風が強い」
たしかに、梅雨もすぎた。やや日差しが強く少し湿気もあるが、心地いい風が吹いている。
こいつが言うと、ドラマのワンシーンのようにキマル。
「あ、あぁ、それが?」
「それが?じゃぁないぞっ兄弟!そこいく女性の後ろを歩いていれば、風が吹いてスカート――ガッ!」
「そこまでです、桂司。往来でセクハラ発言しないでください」
「・・・・・こ、後頭部はやめて、くれ」
が、一転してコントとなる。
相変わらずな2人である。
俺を兄弟と呼ぶこの男。名を 湯川桂司といい、無類の女好きである。整った顔立ち、さわやかな笑顔、そして運動神経抜群。
いわゆるモテ系である。
―――あるのだが。
友人として、『女好きなのもいいが、少しは自制したらどうだ?』と提案すれば。
『ば、馬鹿なっ!女性とは全ての男性において、神秘であり至宝だぞっ!!そして、それを求めるのはロマン!!何人たりともそれを侵すことはできないのだ!!それを忘れてしまったというのか、兄弟ぃい!!?ならばっ、思い出しにいくぞ、今ならば更衣室(以下略)』
と、とてつもない力で引っ張られていくのだ。
だが、
「生きてる、よな?」
「ええ、大丈夫です。今しばらくすれば気がつきますから。………冴島君、くれぐれもこんな風にはならないでください、ね?」
桂司の企てのことごとくが彼女、柊楓の手によって物理的に潰されている。
「あ、あぁ」
彼女の笑顔に『同じことをすれば、あなたも同じ末路が・・・』という暗い迫力を感じ取り、コクコクと頷くしかない。
い、いやまぁ、健全な男子としては--ハッ!ゲフンゲフン
肩口で切りそろえられた髪の毛、清楚な雰囲気と優しい口調。地元地域の大地主であり、まさに良家のお嬢様なのである。さらに柊流格闘術という武術の使い手でもあるらしい。
「ゆっちーもぉ姫もぉつくづく、あきないねぇ?おもしろいからぁ、いいけど?」
「俺は、心臓に悪い」
「おやおやぁ?いつもの持病?」
「驚く」
「・・・・・・・にゃはははははは!」
「・・・・・そんなに笑うほどか?」
「い、いやぁ、そうじゃぁあなくて、冴島悠人君が驚くって言ったことが、にゃふぅ~」
「言ってろ」
高瀬が何故か笑い始め、それを合図に桂司が復活し、柊が歩き出す。
それがいつもの朝の日常だ。
では、また次回で~