敬愛する王女殿下が地雷メイク始めました。
化学の授業中に思いついたんです。
王女さまに地雷メイクしたいなって。
浸透圧、聞き逃したなぁ。
「無能のくせにふざけないでよ!」
わたくし第一王女殿下の専属侍女をしております、クロエ・ホワイトと申します。
はい。お察しの通り、わたくしの敬愛するアリアドネ第一王女殿下がお怒りでございます。
もちろん普段は穏やかでお優しく、ご自身より他者を慮る素晴らしいお方なのですよ。
しかし今は、下町で言うブチギレの状態でいらっしゃいます。
侍女であるわたくしに対して?
いえいえ。
兄である王太子殿下に対して。
「なんで?なんで?なんで、お兄様ごときと婚約してくださる聖女のように清らかでお美しいお義姉さまと、婚約破棄だなんていう穢れた思想になるの?!やっぱあの男爵家の売女?あれが唆したの?あんなのに唆される王太子ってどう?ありえないありえない。本当に屑!いや、屑に申し訳ないわ!」
「誠におっしゃる通りでございます。」
わたくしの敬愛する王女殿下がブチギレの理由は、王太子殿下が婚約者であるセラフィーナ公爵令嬢に婚約破棄を叩きつけたからでございます。
それも、何も正当な理由なしに。
王太子殿下がどこぞの男爵令嬢と真実の愛に目覚めたとかなんとかで。
王太子with真実の愛
しかも、この王太子、政にご興味があまりないようで。
4つ下の王女殿下のほうがずっとずっと優秀でいらっしゃいます。
おかげで王女殿下は毎日毎日、ご自身の公務と王太子殿下の放り出した公務で一杯一杯なのです。
本当にあのぼんく……出来損な……のんびり!した王太子は。
そのくせ、あの王太子、狡賢く頭が回りますのよ。
今回、王太子が婚約破棄をしたと、王女宮に知らせが届きましたのは、ことが起こった2日後でございました。
王太子が王太子宮で片腕に男爵令嬢をぶら下げながら、公爵令嬢に婚約破棄を行ったそうで、それを公爵令嬢が嘆く手紙が王女殿下に届いたことがきっかけです。
王太子はあさましいことに、王太子宮の者に口止めをし、陛下や公爵閣下らに婚約破棄がバレないようにしていたのです。
そのため、王女宮に知らせが届いた時点では、両陛下の元にまだ届いておらず。
王女殿下が慌てて両陛下に上奏し、ご存知のところとなりました。
そして、公爵家から正式な抗議文が届いたのはこの次の日、つまり今日のことでございます。
先ほど、陛下が王太子殿下を引き摺って謝罪に向かわれました。
少し胸がすきましたわ。
「あーもうっ!お義姉さまが嫁いでこられたら、お義姉さまに毎日笑いかけていただけるかもって、一緒にお茶できるかもって、妄想してたのにっ!あいつのせいで!」
妄想していらしたんですね。
かわいらしい。
「御二方のご婚約当初から楽しみにしておられましたものね。」
セラフィーナ公爵令嬢と王太子殿下のご婚約が決まったおよそ10年前から、王女殿下は公爵令嬢をお義姉さまと呼んで慕っていらっしゃいました。
あの頃の舌足らずな王女殿下のかわいさたるや………!
もちろん今も最高にかわいらしいのですが、仕え始めたてのあの頃のかわいさも最高です。
「えぇそうよ!それなのに!もう、ストレスすごすぎて禿げそう!公務放り出したい!遊びたい!下町行きたい!寝たい!スイーツ食べたい!ドレス見に行きたい!新作のコスメも欲しい!」
王女殿下は公務用の机に突っ伏して、手足をばたばたとさせていらっしゃいます。
よほどストレスが溜まっているのですね。
おいたわしい。
「では王女殿下。新しく下町のメイク雑誌とファッション雑誌のご用意します。」
「それだけ?」
「では、下町で最近流行っているコスメや新作のコスメも「わかったわ。公務を進めます。」
「かしこまりました。」
王女殿下は13才。
ご自身なりのおしゃれを、思いっきり楽しんでみたいお年頃です。
たまに、結婚せずに下町でドレスでも作ろうかしらとおっしゃっているくらいですから。
そんな王女殿下は下町のファッション雑誌やメイク雑誌という単語に目を爛々と光らせていらっしゃいます。
かわいらしい。
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王太子殿下の婚約破棄騒動から約1ヶ月後。
王女殿下が王太子殿下を10発ほど殴ったので、公爵令嬢の気分が晴れ、婚約継続という運びになったそうです。
王太子殿下は、王女殿下と公爵令嬢に頭が上がらなくなってしまわれたようでございます。
ところで、本日は王女殿下6ヶ月半ぶりのお休みです。
まぁお休みと言っても午後のみで、その午後も城下のお忍び視察ですので、お休みかというと怪しいですが。
「ねぇ、クロエ。今日はお忍びなのよね。」
準備を今から始めようかと言うタイミングで王女殿下がそうおっしゃっいました。
「はい。おっしゃる通りでございます。」
「なら、わたくしは服装、髪型、メイク、全てで城下に馴染まなくてはならないのよね?」
要領を得ない質問が続けられます。
あら、これは何かを企んでいらっしゃるときのお顔ですわ。
何をお考えになっているのかしら。
「はい。可能な限りそうされた方がよろしいかと。」
「そういえば、下町の方達はご自身で服装、髪型、メイクをなさるのでしょう?」
「はい。侍女などはおりませんから、普段はご自身でなさるようですよ。」
とはいいつつ、わたくしも貴族の端くれなので、聞いたことがあるだけですが。
「ねぇ、クロエ。わたくし、自分で用意したいわ。」
ね、いいでしょう?と王女殿下が上目遣いで……!
くっ抗えるわけがございませんでした……!
「か、かしこまりました!ですが、下町に馴染むようなものでお願いします。隣のお部屋におりますから、いつでもお声がけくださいね。」
初めてご自身でなさる外出用の準備。
きっと、わたくしはそばにいない方が良いでしょう。
人に見られてると思い切りよくできませんからね。
「わかっているわ!」
ふふんと王女殿下が胸を張られました。
かわいらしい。
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「クロエ、出来たわ!」
ベルがチリンと鳴ったので王女殿下のお部屋へ伺うと、こちらへ背を向けて何やら楽しそうな王女殿下がいらっしゃいました。
「ジャジャーン!クロエ、どう?!」
…………………。
「王女殿下。下町で馴染むようなものを、と申し上げたはずですが……。」
「少し前にクロエからもらった雑誌で、これが今1番流行っていると書いてあったわ!」
「流行ってはいますが、メジャーではございません!一部の方々の間で少々といったレベルです!」
「そうなの……?上手くできたと思ったのに。メイクを落として、服と髪型を変えなければならない?」
王女殿下は小さな肩を落とされます。
ダメなのね、とお召し物のリボンに指をくるくると巻きつけられています。
王女殿下が落ち込んでいらっしゃる……。
そうよね。
初めてご自身でなさったご自身のためのおしゃれ。
きっと、否定されてしまって悲しいお気持ちなのだわ。
「………王女殿下は気に入っていらっしゃるのですよね?」
「えぇ気に入っているわ。地雷メイク。」
「気に入られましたか。地雷メイク。」
「えぇ。上手くもできたの。地雷メイク。」
「上手くもできちゃいましたか。地雷メイク。」
気に入っちゃったかー。地雷メイク………。
しかも結構様になっていらっしゃいます。
たしかに王女殿下の美しく毛穴ひとつもない陶器のような真っ白なお肌に、目元の真っ赤なアイシャドウはよく映えていますし、リップもピッタリです。
アイラインも普段のメイクよりはやや長いですが、このメイクをするにあたっては馴染んでいます。
涙袋も王女殿下のもともとの物よりも、より大きく見せられています。
さらに普段はハーフアップや巻き下ろし、アップになさることが多いそのプラチナブロンドの御髪が、高いツインテールに纏められています。
要するに、とびきりかわいい。
わたくしが微笑んだのにお気付きになったのか、ふふんと胸を張って、出来ているでしょう!と得意げです。
「王女殿下、今日はこれで行きましょうか。」
そうわたくしが口にすると、王女殿下は一瞬でキラキラとしたお顔になられました。
「いいの?!……あ、よろしいの?」
言葉遣いが乱れたのを気まずそうに直すのもかわいい。
きっと言葉遣いが乱れるほど嬉しかったのですね。
それでしたら、クロエも嬉しゅうございます。
「王女殿下、参りましょうか。」
「ええ!」
王女殿下は久しぶりの下町が楽しみなのか、おしゃれに気分が上がっているのか、隣で見ていても、本当に楽しそうであることが伝わってきます。
王女殿下はまだ13才ですもの。
これからもきっといろんなメイクやお洋服にチャレンジなさるはずです。
王女殿下がチャレンジしたいと思われたジャンルの知識を溜めておくことも、専属侍女の勤めですわ。
準備しておかなくては!
「次はヤマンバギャルメイクをしてみようかしら!」
「王女殿下、次は控えめで……。」




